いよいよホワイトカラーが消滅する…「AIに仕事を奪われる」日本人の起死回生を担う"シン基幹産業"の名前

2025年2月21日(金)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/franckreporter

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは冨山和彦著『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』(NHK出版新書)——。
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■イントロダクション


日本は、明治以来の人口増加フェーズから人口減少フェーズに入り、「人手不足」が深刻化している。一方、社会で中心的な役割を担ってきた「ホワイトカラーサラリーマン階級」は、ロボットやAIによって単純作業が代替され、雇用が減る傾向が指摘されている。


これらの大きな変化に、どう対応していけばよいのだろうか。


本書は、ローカル経済圏の人手不足とグローバル経済圏の人余りが同時に起きる社会において、国、組織、個人のそれぞれに変化が必要であるとし、取るべき対策を提言する。


今後、人口減少が続くなかで成長と賃金上昇を実現しようとすれば、付加価値労働生産性を上げるしかない。それを実現するには、エッセンシャルワーカーを革新する必要があり、少ない時間でより高い付加価値を提供する「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」へと格上げすることが重要と説く。


著者は、IGPIグループ会長。日本共創プラットフォーム代表取締役社長。1960年生まれ。2003年、産業再生機構設立時に参画してCOOに就任。解散後、経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEOに就任。20年から現職。パナソニックホールディングス、メルカリで社外取締役を務める。


はじめに シン・学問のすゝめ
序.労働力消滅、ふたたび
1.グローバル企業は劇的に変わらざるを得ない
2.ローカル経済で確実に進む「人手不足クライシス」
3.エッセンシャルワーカーを「アドバンスト」にする
4.悩めるホワイトカラーとその予備軍への処方箋
5.日本再生への20の提言
おわりに 「ややこしさ」に強い「両利きの国」への大転換を急げ

■ローカル産業における深刻な人手不足


(*グローバル産業に対して、国内の地域経済圏を支える)ローカル産業における深刻な人手不足の状況は、2010年ごろから顕著になってきたと考えていい。2023年3月、リクルートワークス研究所が「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」という報告書を公表した。そこには、2040年に1100万人の働き手が不足するという衝撃的なデータが掲載された。


一方、三菱総合研究所の試算によると、2035年時点の労働供給市場において、約480万人の雇用減少が起きるという報告が出された。この最大の要因は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)などによる省力化・効率化や、生成AIによって人間が行っていた単純作業が代替されることである。この影響は、ローカル経済で販売やサービスを担う人材に及ぶ。もっともこれは、不足する労働供給を補うものとしてプラスに作用する。


むしろ、深刻な影響を受けるのはグローバル経済におけるホワイトカラーだ。同じ試算で三菱総合研究所は、2035年にホワイトカラー(事務担当)が180万人余剰になるとしているが、実際はすでに始まっている。


■ローカル経済における賃金上昇は緩やかなまま


今後、グローバル経済で勝負する企業が余剰人員を抱え続けると、人件費負担が重くのしかかる。あるいは余剰人員を抱え続けるためにDXの徹底が遅れる。これらは、グローバルにおける競争力の低下を招き、企業の稼ぐ力を停滞させる。すると、グローバル経済における過酷な競争に敗れ、日本の国力は低下の一途をたどる。


一方、人手不足が深刻化しているにもかかわらず、ローカル経済における賃金上昇のカーブは緩やかなままで停滞していて、急激に進行しつつある物価上昇に耐えられなくなる恐れが出てきた。


全体としての労働供給制約と、それを微分すると見えてくるグローバル経済圏の人余りとローカル経済圏の人手不足——。このような正反対の構造的不均衡を解消し、労働供給制約下の成長と実質賃金上昇を実現するためには、付加価値労働生産性を上げるしか道はない。


付加価値労働生産性は、次の式によって求められる。


付加価値労働生産性=
付加価値額(売り上げ−外部費用≒粗利)÷労働量(人数×労働時間)


付加価値労働生産性を上げるには、分子の粗利を増やす(売り上げを増やす・外部費用を削減する)か、分母の労働量を減らすしかない。


写真=iStock.com/hernan4429
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■ローカル産業のエッセンシャルワーカーへのシフト


では、グローバル産業で行き場を失ったホワイトカラーは、いったいどこへ向かえばいいのだろうか。次に起こるシフトは、グローバル産業のホワイトカラーから、ローカル産業のエッセンシャルワーカーへのシフトである。


ローカル産業における中堅・中小企業の付加価値労働生産性を上げ、ホワイトカラーをエッセンシャルワーカーに労働移動させて人手不足を解消するには、エッセンシャルワーカーを「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」に格上げする必要がある。アドバンストとは「高度化した」「進化した」という意味合いである。


今まで高生産性、高賃金とされていたホワイトカラーからのジョブシフトをスムーズに進めるためにも、エッセンシャルワーカー、ローカル産業のノンデスクワーカーがアドバンストになり、生産性と賃金が高くなる必要がある。


これまでのローカル企業とそこにある仕事は、雇用の受け皿にするために付加価値労働生産性が低くてもあまり問題がなかった。そのほうが労働需要は増え、頭数的にはより多くの雇用を吸収できるからだ。だが、もう雇用を吸収する役割は終わった。これからは、(*付加価値労働生産性を上げるために)どれだけ高賃金体質に変えられるか、どれだけホワイトな職場にできるかが勝負になる。質の高い働き手、したがって高賃金の労働者が必要になる。


■教育、社会、経営、労働…幅広い領域での変化が必要


アドバンスト・エッセンシャルワーカーを新しい中産階級の中心にしていくには、教育体系にはじまり社会に出てからの能力開発に至るまで、教育、社会、経営、労働など、幅広い領域で我が国のあり方に関する大きなモデルチェンジ、すなわちソーシャルトランスフォーメーションが問われる。


(*明治以来の)富国型の教育においては全国民に均質な初等教育を施して基礎学力(要は「読み書きそろばん」)を底上げしていった。高等教育の役割は、産業界へ優秀なサラリーマン候補を送り出すべく、日本型のカイシャ(終身雇用、年功制、ジェネラリスト、メンバーシップ雇用)の仕組みにフィットする白紙状態で試験勉強(あらかじめ存在する正解にたどり着く能力)のできる若者、できれば協調性や空気を読む能力が高い若者(体育会のキャプテンタイプが理想)を育むことになった。


写真=iStock.com/RomoloTavani
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■従来のホワイトカラーサラリーマン型のモデルとは違う世界


アドバンスト・エッセンシャルワーカーの世界は明らかに従来のホワイトカラーサラリーマン型のモデルとは違う。本質的に技能職的、プロフェッショナル的な世界であり、それゆえに雇用の流動性も高くなるし、技術進化が続く中でその技能、プロフェッショナリティも更新を続けなければならない。漫然と組織の中で目の前の仕事をこなしていてもアップデートはできない。


今言われているジョブ型へのシフトは、従来はホワイトカラーの仕事とされていた領域でも同じような変化が起きていることに起因している。


(*ホワイトカラーの生き残り策を)ざっくり言えば、管理職ではなく経営職まで駆け上がり、AIと競うのではなくAIを使う立場になるか(大企業で経営職になるか、中堅企業に転職して経営職に就くかを問わず)、アドバンストな現場人材としての技能を磨く方向に転じるか(大企業内であまり管理職的な出世はせずに現場のエキスパート系で勝負するのもこの一類型)、である。


■「複雑性」「ややこしさ」がポイントに


日本企業のものづくりの強みは、ややこしいことを確実に、迅速に、大量に製造できることだった。(*「すり合わせ力」の必要な)ブラウン管テレビが(*簡単に製造できる)液晶テレビに取って替わられると、その強みを発揮できなくなった。コスト競争力が高く、大胆な大規模投資を迅速にできる中国、韓国、台湾などにその地位を奪われ、日本企業は急速に競争力を失った。その失敗は、コンピューターや半導体でも繰り返された。


しかし、「複雑性」が問われ、「ややこしい」ことを実行できることが付加価値の源泉となる産業領域においては、我が国の産業競争力は昔も今も高いレベルを維持している。それは必ずしも製造業に限られない。例えば今でも世界の高速鉄道の基本モデルになっている新幹線のオペレーションも同じくだ。


今までの鉄鋼、電機、半導体、自動車などの「大玉」産業の成功の本質も、複雑性のあるオペレーションを実現する現場力であり、大量生産による規模の力ではなかった。そこを間違えてはいけない。個々の事業や企業のサイズは小さくても構わないので、複雑性が高く持続的に高い付加価値をとれる種目が大事になる。


■観光ツーリズム産業は持続可能なシン基幹産業となる


観光業も同様だ。日本の観光業が世界から評価されているのは、大量に顧客をさばく団体旅行の遂行力ではない。オペレーショナルに複雑でややこしいことを実現する能力なのだ。



冨山和彦『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』(NHK出版新書)

観光ツーリズム産業の裾野は広く、交通インフラ産業、農林水産業、道路やエネルギーや通信などの社会インフラとその上に宿泊、飲食、アクティビティサービスなどが重層的に重なり、旅行者がストレスなく美しい自然や歴史的文化財やおいしい食事を楽しもうと思うと、こうした要素(しかもその少なからずが労働集約的な業務)がそれぞれに複雑なオペレーションをこなし、なおかつ要素間もすり合わされていなくてはならない。


しかもこれからはネットとリアルのすり合わせも必須となる。こんな「ややこしい」ことを国全体でできるところは多くない。持ち前の現場オペレーション力を発揮し、それを高付加価値のビジネスモデルに昇華できれば、観光ツーリズム産業は持続可能なシン基幹産業となる。


※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの


■コメントby SERENDIP


著者は、「グローバルが一流で、ローカルは格下という見方は、インターネット以前の世界観」だと断言する。若年層ほどこうしたフラットな感覚は強く、実際に、グローバル経済圏のホワイトワーカーからローカル経済圏のアドバンスト・エッセンシャルワーカーへの移籍の例は増えているようだ。本書では、経済産業省の官僚から、千葉県の認可保育園運営企業の経営者へ転籍した若者の例などが紹介されている。政府や企業はリスキリング支援を強化しているが、今後、ホワイトカラー人材がアドバンスト・エッセンシャルワーカーとして活躍するための支援を手厚くしていくべきなのかもしれない。


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