血圧220を4、5年間放置…そんな和田秀樹さんでも「血圧を下げる薬を飲もう」と決心した主治医の言葉
2025年2月28日(金)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/digicomphoto
※本稿は、和田秀樹『60歳からの「手抜き」の極意』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
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■検査数値を気楽にとらえる
健康診断や人間ドックを、真面目な日本人は毎年きちんと受けます。そして、まるでテストの結果を知る時のようにドキドキしながらその検査結果を受け取ります。
そして、正常値を外れてしまった場合、大変だとばかりに慌てる人が多いのです。けれども、健診の結果はたとえて言うなら模試の結果のようなもの。そこで大騒ぎをする必要はないのです。
昔は脳卒中で死ぬ人が多かったこともあってか、血圧にはとても敏感な人が多いようです。病院には自動血圧計が設置されていることも多く、通院のたびに律儀に計っては、計測結果をいちいち気にします。
そして「先生、血圧が141だったんですがどうしましょう」と悲壮感たっぷりに訴える患者さんもいます。
正常値血圧は、医療機関で測定した診察室血圧で120/80mmHg以下、高血圧は140/90mmHg以上とされています。
141ならわずか1超えただけのことなのですが、数字を目にするとどうしても気になってしまうのでしょうか。
意外に知られていないことかもしれませんが、血圧にしても血糖値にしても、1日のうちにかなり変動するものです。141mmHgはたまたまその時の数値であって、およそ160mmHgくらいまでは誤差の範囲だと思っています。
検査データについても、血圧や血糖値はかなり変動があるものです。頻繁に測ってはその時の数値に一喜一憂するのではなく、明らかに高くなった時に注意するという程度でかまわないのです。検査数値をもっと気楽にとらえてもいいのではないでしょうか。
■賢い医者の数値の考え方
かつて、私の中性脂肪の値は600mg/dlほどでした。正常値は30〜149mg/dlとなっています。それでも体調に問題がないためにしばらくなんの治療もせずにいたのですが、それがある時測った健診の際にとうとう1000mg/dlを超えてしまったのです。
それまでとくに何も言わなかった私の主治医からも「さすがにこの数値は問題です」と言われてしまいました。中性脂肪の値が1000mg/dlを超えると、急性膵炎のリスクが高まると言われています。
今は問題ないとしてもこれは治療すべきだと私も判断し、以来、投薬治療を続けています。
ここで注目していただきたいのが、中性脂肪の正常値は30〜149mg/dlであって、150mg/dlからは異常値になるということです。
けれども、本当の本当にリスクが高いと主治医も私も納得したラインは1000mg/dl、かなりの差があります。通常の異常ラインはかなり低く見積もっているということです。
世の中には、異常なほど正常値にこだわる多くの医者がいます。けれども、賢い医者は「さすがにこれ以上はまずい」というラインを心得ています。
私の主治医も600mg/dlの時はとくに何も言わずにいてくれたのですが、1000mg/dlを超えてはじめて「急性膵炎になるリスクが高いので治療すべきだ」と教えてくれたのです。
写真=iStock.com/RRice1981
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このように、本当に危なくなった時に適切に教えてくれる医者は信頼できます。あまりにも厳格にとらわれすぎず、ゆるい考え方で検査数値を考えた方が、本当のリスクを正しく回避できると考えています。
■220mmHgまで上がってしまった血圧を4、5年放置
私がかつて勤務していた浴風会という老人医療専門病院では、老人の正常値を知るために併設する老人ホームでいろいろと追跡調査をやっていました。
その結果、血圧130mmHgと150mmHgでは20年後の死亡率に差が認められませんでしたが、180mmHgになると明らかに死亡率が高まることがわかったのです。ですから、血圧は180mmHgになったらなんらかの対処をすべきだと考えるようになりました。
そう考えていたにもかかわらず、220mmHgまで上がってしまった血圧を、4、5年間そのまま放っておいた私です。
計測するたびに200mmHgを超える数字を目にしながら、「昔の人と違って血管が強くなっているからこのくらいでも破れることはないよね」と自分に都合よく考えてしまっていました。実際に体調もよく、なんの不調も感じていなかったのです。
ところが、心臓ドックを受けた際に心エコーで異常が見つかってしまいました。
血圧が高いということは、心臓が激しく運動をしているということです。つまり、心臓の筋肉が分厚くなります。
心臓に限らず、どの部位の筋肉でも運動をすれば鍛えられます。心臓の筋肉の場合は鍛えられて分厚くなる際、外側ではなく内側が分厚くなってしまうのが普通です。そのため、心臓の中で血液を循環させるポンプの部分が小さくなってしまうのです。
■問題は検査数値ではなく体調が悪くなること
信頼する主治医から「このまま放っておくと心不全になる」と宣告を受けて、さすがにこれはリスクが高いと判断した私は、仕方なく血圧を下げる薬を飲むことにしたのです。
和田秀樹『60歳からの「手抜き」の極意』(河出書房新社)
ところが、服薬で正常値である140mmHgまで下げると頭が働かず仕事にもなりません。とはいえ、180mmHgになると死亡率が高まるというデータは信頼性が高いと思っていたので、自分の体に負担の少ない170mmHgを目安にしています。
検査数値は数値そのものが問題なのではなく、そのまま放っておくと体調が悪くなることが問題なのです。
数年前に私は血糖値も600mg/dlほどで、確かに喉が渇いて仕方がない、いつも体が若干だるいという自覚がありました。
そこでスクワットなどの運動を日課にしたところ300mg/dlにまで低下し、確実に体調がよくなったのです。以来、自己判断で(通常医師は賛成してくれません)300mg/dlを目安にしてそれを超えたら服薬治療を考えようという方針にしています。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)