伊藤園の北米法人CSOが明かす なぜ「お~いお茶」ではなく新ブランドで米国市場に進出したのか?
2025年2月28日(金)4時0分 JBpress
日本食ブームが世界で広がる中、米国進出を目指す日本企業は商習慣や規制など多くの課題に直面する。本連載では『日本企業が成功するための米国食農ビジネスのすべて 商流の構築からブランディングまで』(石塚弘記、關優作、田中健太郎著/翔泳社)から、内容の一部を抜粋・再編集。進出に成功した日本企業や参入を支援する企業へのインタビューを中心に、巨大市場攻略のポイントを明らかにする。
今回は、「今は日本企業にとって絶好の機会」と言い切る伊藤園の北米法人CSO(チーフセールスオフィサー)が、現地ブローカーとの付き合い方やディストリビューターの使い方、市場拡大の秘訣を語る。
ブローカー、ディストリビューター…
各チャネルを攻めるのになぜ必要か
今こそ日本ブランドが米国の消費者にリーチするチャンスだと説くITO EN(North America)のRob Smith氏。
ブローカーとのつき合い方やメリット、ディストリビューターの攻略などについて聞きました。
私は米国の食品・飲料分野で約30年の業界経験があります。かつては米国の大手多国籍飲料ブランドで、販売、マーケティング、分析の様々な役割を担当していました。
現在は、ITO EN(North America)のチーフセールスオフィサー(CSO)として、北米事業のすべてのチャネルを担当しています。
米国は市場として攻略するのが難しい広大な地です。まずは、特定地域でのテスト販売を通じてブランドコンセプトが正しいか確認する、というのは有効なアプローチかもしれません。
UNFIやKeHEという全国規模のディストリビューターは、融通が利きにくいことに加えて、多くのメーカーが苦労しているようにコスト(ディダクション)がかかります。しかし、小売の世界では、これらのディストリビューターとの連携なくしては、ナチュラル系・コンベンショナル系の多くの販路にアクセスすることができません。ですので、まずは彼らの特定のDC圏内でキーアカウントと連携したテスト販売を行い、成功体験を積み上げていくというのは有効な戦略と考えられます。
フードサービスについては、小売に比べてかなりの投資が必要となる場合が多いです。Sodexo、Aramark、Compassのような巨大事業者と取引するためには、彼らのカタログリストに掲載されるための全国的なリベート契約が必要です。
カタログリストに掲載されるためには、彼らの本社ではなくそれぞれのロケーションでフードサービスを運営するオペレーターとの取引(例えば、A大学のカフェテリアのオペレーターというように)を獲得する必要があります。そのため、社内の営業組織やブローカーネットワークへの戦略的な投資やリソースの投下が必要になります。
カタログリストへの掲載合意が得られたら、その地域において優先的に指定されるディストリビューターと協力して、商品を流通システムに登録します。
取引量が少ない場合は、Dot Foodsなどのリディストリビューターをサプライチェーンの中間ステップとして検討すると良いでしょう。
リディストリビューターは、複数の小規模ブランドを束ねてトラック1台分に仕立て、大手ディストリビューターが少量でブランドを購入できるようにします。コストはかかりますが、小規模ブランドがフードサービスチャネルを攻める際に効果的です。
こうしたプロセスのすべてのステップに共通することがあります。フードサービスが提供される地域で、フードサービス業者のシェフやスタッフが、日本食材を活用して日本食メニューを顧客にきちんと提供するという一連の実務ができているよう、メーカー側としても管理・監督していくことが非常に重要です。
■大手多国籍ブランドにもブローカーは必要
大規模な多国籍ブランドにとってでさえ、米国の小売やフードサービス業界でビジネスするうえではブローカーが重要な役割を果たしています。
優れたブローカーは、新規流通開拓または流通経路の拡大を目指すために必要な「キーアカウントとのミーティング機会を獲得」するのに役立ちます。
ITO ENでは、ブローカーはリテーラーやディストリビューターへの新商品の登録や各小売店に対するプロモーションスケジュールの企画・管理などのバックエンドサービスも担っています。
私たちITO ENの営業チームはブランドの専門家ですが、ブローカーは顧客の専門家として機能します。つまり、販売先(スーパーやフードサービス)そして消費者のニーズをつかむ専門家です。ITO EN内部で顧客の専門家の体制を整えることは、私たちが持つ多数の顧客を考えると非常に大きなコストになります。
ブローカーとの連携には費用がかかりますが、成長戦略への再投資を可能にするコスト削減をもたらすと考えています。
■まずは小さく成功する
米国市場に参入する際に陥りがちな最大の誤りの1つは、急成長を目指してサプライチェーンを急激に拡大しようとすることです。これは米系企業にも当てはまります。特定の地域で初期の成功を作り出し、その成功を市場拡大に活かすことで好循環を作る方がいい。
ブランディングとデザインの観点からは、米国のターゲット消費者を理解することが重要です。その消費者は日本由来の本物の体験を望んでいるのか、それとも日本で成功した商品をわずかに調整した方がより大きなチャンスが見込めるのか。その見極めが重要です。
例えばITO ENも米国でのローンチ時は、米国の消費者にとって「お〜いお茶」を体験するにはまだ早い、という事実に基づいて、「TEAS’ TEA Organic」の新ブランドを作りました。時間が経つにつれて、この状況は変わり、今では「お〜いお茶」が成長エンジンになっています。
世界は縮小しており、米国の若い消費者は食品・飲料において“本物”の経験を求めています。こうした文化的変化において、日本食は大きな部分を占めています。さらに、アニメなど日本のポップカルチャーの影響が北米で高まっています。
私の大学生の娘やその友人たちは、ダイソーで買い物し、日本のアニメを見て、外食する時はたいてい寿司やラーメンを選びます。若い北米の消費者は、日本の食文化に深い興味を持っていると強く感じます。日本のブランドにとって、今こそ米国の消費者にリーチする絶好の機会だと信じています。
<連載ラインアップ>
■第1回 オレゴン州政府も応援した「久世福商店」のサンクゼールは、いかに米国市場を開拓したか
■第2回 「米国人も大学芋が好きなんだ」サンクゼール副社長が飛び込み営業で体得した、無名の企業が泥臭くやるべきこととは
■第3回 米国での成否を握るアウトソースセールス 日系企業が頼るべき相手は「ブローカー」「セールスレップ」のどちらか?
■第4回 伊藤園の北米法人CSOが明かす なぜ「お〜いお茶」ではなく新ブランドで米国市場に進出したのか?(本稿)
■第5回 はくばくの乾麺はなぜ全米でヒットしたか? キーマンが明かす「ホワイトスペース」「パッケージデザイン」の重要性(3月10日公開)
■第6回 くら寿司、創味食品が米国で成功している秘訣とは? 海外進出支援のプロが語る日本企業に必要な3つのこと(3月17日公開)
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筆者:石塚 弘記,關 優作,田中 健太郎