親は「わが子のため」と無意識に言ってしまう…灘中合格の予備校塾長が切実に訴える"やめてほしい声掛け"
2025年3月16日(日)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu
※本稿は、高梨裕介『合格したいなら「中学受験の常識」を捨てよ』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/takasuu
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■「こんな成績では、将来、大人になってから困るわよ」
×プレッシャーを与えるためにあえてネガティブな言葉をかける
○子どもが気持ちよく勉強できるようにポジティブな言葉をかける
言葉は使い方によって、人を喜ばせたり、傷つけたりします。お子さんに渡してあげたいのは、もちろん前者。褒め言葉だったり、労いの言葉だったり、励ましの言葉だったりといった愛情表現です。
お子さんが小さかった頃は、ニコッと笑ったり、寝返りが打てるようになったり、ハイハイができるようになったりと、ちょっとした成長でも嬉しくて、「上手にできたね」「頑張ったね」とポジティブな言葉をかけていたのではないでしょうか。
ところが、小学校に入学し(家庭によっては幼児期から)「勉強」が始まると、なぜか厳しめに見てしまう。それは、お子さんの将来がだんだんと見え始めてくるから生まれる、不安や焦りなのかもしれません。
私の母親は、いま振り返ってみても度を超すくらい教育熱心な人でした。幼少期の頃から、とにかく勉強には口うるさかったのです。もちろん、母親が教育に熱心だったおかげで、難関と言われる進学校に進学できたと思うし、将来の選択肢が広がったとは思っています。そこは感謝しています。
でも、「あそこまで厳しくする必要はあったのか? あれはやりすぎだっただろう?」といまでも思うことがあります。私の母親はよく、「こんな成績では、将来、大人になってから困るわよ」「ああいう人になってしまうわよ」という言い方をしていました。私はその言葉を聞くのがすごくイヤでした。
■入塾説明会で聞いた「脅し文句」
だけど、小学生の子どもに、将来のことなんて正直分かりません。「親がそう言っているのなら、本当に困ることになるのかもしれない。だから、やっておくか……」、そんな気持ちで、勉強をしていた時期もありました。
でも、これってずるくないですか? 大人であることを武器に、親の価値観を子どもに刷り込んでいるだけ、いまならそう思います。
先日、小2の娘が全国模試を受けたあとに、某大手塾で低学年コースの入塾説明会がありました。わが家では、いまのところ塾に入れる予定はありませんが、同じ教育者としてどんなことを話すのか関心があり、参加してみることにしたのです。
その講師はわざわざ保護者の前で難しい問題を解いてみせ、「これからはこういう思考力系の問題が解けないと、社会に出てから困りますよ」と、力説していました。その姿を見て、ここでも「脅し文句」を使っているんだな、と呆れました。
■プレッシャーを与えるよりも褒め、労い、応援する
保護者の方はみんな熱心に耳を傾けていました。そして、その保護者がまた、子どもに「こんな問題が解けないようでは、将来困るわよ」と脅すのでしょう。もちろん、本人たちは脅しだなんて、これっぽっちも思っていません。「わが子のため」を思って言ってあげている、くらいの気持ちだと思います。でも、それを受け取る子どもは、あまり気分がいいものではありません。少なくとも私はイヤでした。
「わが子の将来のために」と、あえてプレッシャーを与える言葉を渡すよりも、子どもが気持ちよく勉強に向かえるように、当たり前のことを褒め、労い、応援してあげる。このほうが、ずっとずっといいに決まっています。
塾の先生の言葉がすべて正しいわけではありません。だから、ときには「本当にそうなの?」と疑ってみることも大事。そして、いま一度、言葉が持つ重みを考えてみませんか。
写真=iStock.com/Hakase_
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■子どもが親の期待に応えるとは限らない
×短期の目標でプレッシャーをかける
○長期的でざっくりとした期待を持つ
お子さんに中学受験をさせたいと考える親御さんの共通点は、「わが子の将来の幸せのために」という思いを持っていることです。つまり、親としての愛情からくるもの、だということ。しかし、親御さんがいくら「お子さんのために」と思っていても、親御さんの期待通りにお子さんが応えてくれるとは限りません。むしろ、期待が高いため、応えられないことのほうが多い。
人間がストレスを感じるときというのは、どういう状態のときでしょう?
自分の思い通りにいかないとき、期待を裏切られたときに、ストレスを感じませんか。
例えば、今日はあなたの誕生日で、当然ダンナさんからプレゼントがもらえると思っていたのに、もらえなかった。めちゃくちゃ頭に来ますよね。子育ても同じ。期待が大きいほど、子どもがそれを達成できなかったときの落胆も大きくなるのです。
■わが子への期待は「ざっくり」と持つ
誤解しないでいただきたいのは、お子さんに無関心でいいと言っているわけではありません。長期的に見た期待は持ったほうがいいし、ぜひ持っていただきたいのです。
でも、それはざっくりとしたものでいい。
例えば、「あの子にはいつか将来、立派な大人になってほしいな」とか、そんなものでいいと思います。それが、「今度の組分けテストで絶対にαクラスに上がってほしい」「○○中に合格してほしい」など短期的な期待になってしまうと、どうなるか——?
お子さんに対するプレッシャーが強くなり、理想通りにいかなかったときにはストレスを感じるようになります。
だからこそ、わが子への期待はざっくりと持つ。これが親子にとっていちばん平和なのです。
■学習スケジュールを詳細に決めてはいけない
×学習スケジュールは事細かに決めておく
○学習スケジュールはゆるく決めておく
多くの親御さんが子どもの学習スケジュールを管理されています。このとき、あまり詳細に予定を決めるのはおすすめしません。例えば、「16時30分〜17時=算数ドリルP5〜7」「17時〜17時30分=漢字ドリルP8〜9」といった感じで、30分刻みで予定を組んでいるご家庭を見ることがあります。
医学部を目指している生徒さんが通う私の塾でもこのようなノルマ式のスケジュールを立てて、きちっとやろうとする生徒さんがいますが、「そういう予定の立て方は自分を苦しめるだけだから、やめたほうがいいよ」と伝えています。
なぜなら、予定通りにいきっこないからです。
写真=iStock.com/bee32
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大人でもそうですが、予定を立ててみたものの、上司から急な仕事を頼まれたなどの外的要因や、体調がすぐれないなどの内的要因で、予定通りに進まないことがありますよね。そういうときは、ノルマを早く終わらせなければと気持ちが焦り、仕事が雑になったり、作業にモレが出てしまったりしがち。
まして、小学生の子どもなんて、「放課後、友だちと遊んでいた」「学校の帰りに寄り道をした」など、予定通りにいかないことばかり。そのたびに、親御さんがガミガミ叱ったり、イライラをぶつけてきたりしては、家庭内の雰囲気は悪くなる一方です。
■「ある程度」の予定を立てるのがいい
また、予定にとらわれすぎてしまうと、「とりあえず、今日のノルマを片付けちゃえ」と付け焼き刃な勉強に走ってしまう可能性大。それでは勉強する意味がありません。
高梨裕介『合格したいなら「中学受験の常識」を捨てよ』(日本能率協会マネジメントセンター)
「でも、予定を立てておかなければ、ダラダラ過ごしてしまうのでは?」と心配になる親御さんもいるでしょう。そこで、ある程度の予定は立てておきます。でも、本当に「ある程度」でいいのです。
例えば、「今日は夕飯のあと、算数のドリルをやろうかな」くらいのざっくりとした予定で十分。そして、予定通りにいかなかったとしてもガミガミ言わないこと。
学習スケジュールは1週間を目安に、「今週はここまで進めよう」「今週はこの教科のこれを見ておこう」などおおまかな予定を立てておくくらいでいいのです。
その日の予定はクリアできなくても、1週間のなかで終えることができれば万々歳くらいの気持ちで進めたほうが、お子さんにとっても負担がないし、親御さんにとっても精神的なイライラがなくなります。
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高梨 裕介(たかなし・ゆうすけ)
医学部予備校エースアカデミー代表、医師
京都府出身。中学受験にて関西最難関の灘、東大寺学園、洛南、洛星中学に合格。高校時代は英数国にて全国模試10位以内。現役で大阪医科薬科大学に合格。「教育から医療をよくする」を理念として、初期研修修了後にエースアカデミーを創業。これまでに450名以上の医学部合格者を輩出。著書に『勉強法の大原則』『医学部受験バイブル 現役医大生からの贈り物』(幻冬舎)など。
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(医学部予備校エースアカデミー代表、医師 高梨 裕介)