「塾の宿題を全部やろうとする」よりずっといい…中学受験で"本番に強い子"を育てる「帰宅後のシンプルな習慣」
2025年3月18日(火)8時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo
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■中堅校の入試の難化が進んでいる
近年、首都圏の中学受験は偏差値50前後の中堅校に人気が集まっている。以前は「中学受験をするなら、できれば偏差値の高い難関校へ」と考える家庭が多かったが、受験者数が増えたことで学力のレベルが広がったこと、また、「中学受験でムリをさせたくない」と考える家庭が増えてきたことが大きい。
だが、中堅校だからといって甘く見てはいけない。なぜなら、近年の中堅校入試は、塾のテキストにあるような問題がそっくりそのまま出題されることはないからだ。一見、同じような問題に見えても、質問の仕方を変えていたり、条件を変えたりと、どの学校も巧妙にひとひねりしている。ただし、こうした問題は問題文を丁寧に読めば、解けることが多い。ここで50〜55点分くらい得点することで、合格に近い位置まで来ることは可能だ。
だが、それだけではあと一歩足りない。最終的な合否を分けるもの、それは塾のテキストにはない「初見の問題」をその場で解くことができるかどうかだ。以前から難関校・最難関校ではそのような問題が出題されていたが、25年度入試では中堅校でもそのような問題が多く見られた。つまり、中堅校の入試の難化が進んでいるということだ。
■暗記学習だけの子、面倒くさがり屋をふるい落とす難問
初見問題の特徴は、まず問題文が長い。2〜3人の登場人物による会話文で構成されているケースもある。また、グラフや表などの資料が用意され、そこから必要な情報を読み取り、情報を整理していくことが求められる。つまり、「その場で考える力」が必要になる。こうした問題が出たときに冷や汗をかくのは、公式の丸暗記やくり返しの大量学習をしてきた子供たちだ。塾では見たことのない問題の上に、やたらと問題文が長い。これを全部読んでいたら時間が足りなくなってしまうのではないか、そんな焦りが調子を狂わす。
偏差値60以上の難関校になると、さらに問題が複雑になり、その場の対応力が重要になってくる。今年の難関校の算数入試は立体の切断の問題を出す学校が多かった。こうした問題を解くには、塾で習った解法知識はもちろん不可欠。でも、それだけでは解くことはできない。条件を複雑にすることで、単に公式に当てはめるだけでは解けないよう、どの学校も予防線を張っているからだ。
では、どのようにして解き進めていけばいいのか——。これはもう地道に切断の様子を見取り図に書き出して考えていくしかない。つまり、作業力や粘り強さが重要になる。「これを面倒くさがるような子はうちの学校には来てほしくない。ちゃんと自分で考え、自分の手で解き抜いた子に来てほしい」、そんな学校のメッセージが読み取れる問題だ。
■受験のプロも困惑した「開成の算数入試の大問2」
偏差値65以上の最難関校になると、すべての問題で「その場で考える力」が求められる。つまり、小手先のテクニックだけでは太刀打ちできない問題のオンパレードとなる。首都圏の男子最難関校といえば開成中だが、今年の開成中の算数入試では番狂わせの難問が出題された。大問2の思考力を問う問題だ。縦4マス・横9マスの長方形をルールに従って分割し、その分割方法ごとにポイントを算出するという問題で、受験生はできるだけ多い区切り方を考え、そのポイントが大きいほど高得点がもらえるという構成になっている。
ここで重要なのは方向性の見極めだ。「こうしたらどうだろう?」「ああしたらどうだろう?」といくつかのパターンを試行錯誤した上で、「よし、このやり方で行こう!」と決断し、解き進めていくのだが、中学受験のプロ家庭教師である私でさえも、「本当にこのやり方でいいのだろうか?」「もっと大きな数を出す方法があるのではないか?」と最後まで迷いが生じた。答えを出した後も、自信が持てず、なんともモヤモヤ感が残る問題だった。
方向性を決めるまでに時間がかかる上、解き進めながらも半信半疑が続く。この問題に多くの時間を取られ、最後までたどりつけず涙を流した受験生は多いだろう。「開成絶対合格」と太鼓判を押されていた子たちが、ボロボロと不合格になってしまったという声を多く耳にした。
写真=iStock.com/IvanMikhaylov
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■「どのように勉強してきたか」を見る入試内容に
では、なぜ各学校では、このような「その場で考えさせる問題」を出すのか——。
一番の理由は、「これまでの学習履歴」を見るためだ。今の時代、中学受験の勉強を進めていく上で塾は不可欠だ。しかし、毎年新しいタイプの入試問題を出題する学校と、そのような問題を解くための対策を指導する塾の「いたちごっこの関係」が長年続いている。そして、子供たちはどんなタイプの問題が出ても対応できるように、大量の勉強を強いられてきた。
その結果、早く終わらせることに気が向き、「ただ丸暗記する」「ただ公式に当てはめる」「自分で考えず、なんとなくそうかなと思いながら解く」といった間違った勉強のやり方を身に付けてしまった子を増産させた。こうした勉強を続けてしまった結果、「自分で納得して理解する」「自分の頭と手を動かしながら考える」という学びの本質が失われてしまったのだ。この状況に危機感を感じた学校は、「何を勉強したか」よりも「どのように勉強してきたか」を見る入試内容に大きく舵を切るようになった。それが近年の「その場で考えさせる問題」だ。
■納得感を持って概念を理解することが必要
以前であれば中堅校の入試問題は、塾のテキストにあるような典型的な問題が主流だった。そこにひとひねり加えたり、初見の問題を出したりするようになったのは、「あなたはこれまで自分なりに考え、工夫をしながら勉強をしてきましたか?」と、学校側が受験生の学びの姿勢を見極めるためだ。その場で試行錯誤しながらも自分なりに考えてみた、という形跡を確かめる問題。難関校になればなるほど、その傾向は顕著に表れてくる。
では、どのような勉強のやり方が望ましいのか——。最も重要なのは、初めてその問題に出会ったときに、「なるほど、そういうことか!」と納得感を持って概念を理解することだ。塾の先生が「この問題を解くときはこの公式で解くよ」と言ったから、その公式を使うのではなく、「なぜそうなのか?」「だったらどうなのか?」「他にやり方はないのか?」と自分なりに考え、「確かにこのやり方が一番いいな」と自分自身で腑に落ちて初めて「ちゃんと理解できた」という状態になる。
特に小学生の子供の場合は、「あのときのあの場面がそういうことだったんだな」「あの動きと同じことを言っているんだな」など、自分の経験や身体感覚と結びつくと理解がしやすい。そういう点では、これまでどんな遊びをしてきたか、どんな会話をしてきたかといった家庭での過ごし方も大切になってくる。
■塾が終わった後の「日常会話」で記憶を残す
塾の授業だけで理解させる場合は、講師の指導力が重要になる。もちろん、塾では公式の使い方は説明してくれるし、時には、なぜその公式を使うのかも説明してくれる。だが、子供たちが納得できるように説明するには、講師のパフォーマンス力も必要になる。その点は首都圏の塾よりも関西の塾の方が一歩上手に感じる。関西の難関塾である浜学園が、概念理解を中心としたファースト授業と応用練習のセカンド授業の2つに分けているのも、概念理解の重要性を知っているからだ。小学生の子供たちでも理解できるように、講師同士で模擬授業を行うなど、講師たちの話術が鍛えられている。
だが、一度授業を聞いただけで理解できたと思ってはいけない。人間は一晩寝ると記憶が薄れていく。そこで、授業が終わった後にもう一度思い出す作業をさせる「振り返りの場」が必要になる。とはいえ、塾のある日は帰りも遅く、復習する時間の確保が難しい。
そこで、日常の会話の中で振り返りをさせる。「今日は塾でどんなことを習ってきたの?」「それってどうやって解くの?」「なんでそのやり方がいいのだろう?」と親子の会話の中で質問を投げかけ、子供に説明をしてもらうのだ。その際、問いただすような聞き方をしてしまうと、子供は嫌がる。あくまでも、普段の会話の中でやりとりをするのがポイントだ。そうすることで、記憶が残っていく。
写真=iStock.com/Milatas
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■宿題は取捨選択してじっくり取り組む
そして、翌日には塾の宿題に取り組むことになる。その際に重要になってくるのが、宿題の取捨選択だ。特に5年生以降は宿題を絞っていかなければ、量で潰れてしまう。また、何とか全部終わらせなければと、雑な勉強に陥りやすい。こうした勉強のやり方が習慣化してしまうと、立て直しが難しくなるので注意が必要だ。
宿題は「今週はこれとこれをやる」「この問題はまだ難しすぎるのでやらない」など、ある程度目星を付けておき、1問あたりに対する時間をしっかり確保しておく。そうすることで、「なぜそうなのか?」と自分なりに考え、手を動かしながら最後まで粘り強く問題に向き合う姿勢が身に付く。これが、今の中学受験に必要な力、すなわち各学校が求めている「本来の学びの姿勢」であり、学校が求める人物像と言える。その素養を見るために、入試本番のその場で考えさせる問題を出しているのだ。
だが、これらの問題は、正しい勉強のやり方を身に付けてきたか否かに限定される話ではない。加えて、「最後まであきらめずに解いてみせるぞ」という意欲、さらにはその奥にある「僕なら解ける」という自信といったマインド面も要になる。特に難問だらけの最難関校入試は、「正しい学びの姿勢」「学習意欲」「メタ認知」の3つの力が求められる。マインド面については、今後の記事で詳しく解説していきたい。
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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。
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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)