「配属先ガチャ」で腐る若手がバリバリの仕事人間に…優秀な上司が「まずは下働きを」と言わずにかける言葉

2025年3月24日(月)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

部下のやる気を引き出すためにはどうすればいいのか。公認心理師で産業カウンセラーの大野萌子さんは「仕事内容が希望に沿わないと『面接のときに言われたことと違う』と不満を漏らす若い人が増えている」という——。

※本稿は、大野萌子『Z世代をモンスターにしない言葉』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。


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■「やりがい」は給料だけでは生まれない


部下のモチベーションを高めたい、仕事をするからには気持ちよく働いてほしいし、それによって成果を出してほしい。上司が一番やきもきするところでしょうし、職場での永遠のテーマといえるかもしれません。


たとえば、とりあえず言われた仕事はやるけれど、なんとなくこなしているだけで、やらされているような印象が伝わってくる場合があります。


そこで何が必要なのかというと、抽象的な精神論だけでは効果がないですし、だからといってむりやり押しつけるわけにもいきません。


上司のギモン①


お金のために働いているという感じがアリアリで、こちらもあまり気持ちがよくありません。お金のために働くのは当然のことなので、これでいいのでしょうか。仕事のおもしろさはお金以外のところにもあると思うのですが、それをうまく伝えられません。


この問題は、Z世代に限らないかもしれませんが、生活のために働かないといけないから、100%納得はしていないけれどもやっている、というところでしょうか。


仕事だからやっている、そんな姿勢が感じられてしまうと、職場の雰囲気にも影響しますし、それは当然ながら業績にもつながってしまうものです。


■「有意味感」が部下のモチベーションを変える


もちろんお金のために働くという側面はあるのですから、給料が上がれば当然やる気も上がるのでしょうが、お金とやりがいと、両方があったほうが仕事のパフォーマンスも上がるものです。


では、どうしたらいいかというと、一つには「有意味感」を持ってもらうということが大事です。自分の仕事に「どんな意味があるのか」ということです。


そして、自分が関わった仕事がどのように実を結ぶか、その結果が見えないとやりがいにはつながりません。


どんな仕事でも、意欲をもって関われるかどうかはその人次第ですが、内容や目的もよくわからないまま、数字の計算や入力ばかりさせられたりして、これは何の意味があるんだろうなどと思ってしまうと、当然それは「やらされ仕事」になってしまいます。


興味の持てないことや負担の大きいことを強いられれば、それがストレスに感じられるのは当然です。


そうならないためには関わっている物事の大枠を伝え、どんな仕組みになっていて、最終的にはこうなるという全体像がつかめると、やっていることがどんなに単純作業であっても、「意味のあることだ」と思えるでしょう。


■「あなたの仕事が役立っている」と言葉にする


そして、きちんと役割を果たしたことで、助かっていることを伝えることも欠かせません。


「○○さんがきちんと計算してくれたおかげで、無事に納品できたよ」


当たり前のことだと思うかもしれませんが、納期や決まり事を守って達成したことで最終的な商品やサービスにつながっていること、自分の働きがそこに役立っていることを、しっかりイメージできるように伝えるのです。


成果や実績だけでなく、プロセスを積み上げることはとても大事ですし、関わりのある人の名前を挙げて、「◯◯さんが助かってると言ってたよ」と伝えることでもいいでしょう。


会議や打ち合わせの際にきちんと発言ができたなら、「君の発言したあの一言がヒントになったよ」とか「重苦しい緊張が和らいだよ」ということでもよいのです。「あなたのしたことには意味があった」と伝え、理解してもらうことが重要です。


誰でもそうした声がけをされたら嬉しいものですが、社会人になって日の浅いZ世代には、視野を広げてもらうことにつながります。


所属する部署だけでなく会社全体、そして取引先も含め、自分の関わったことが大きな流れにつながっていて、そこには自分の役割がきちんとあることをわかってもらうのです。


そうすれば仕事の楽しさに気づくこともできますし、上司はそれを伝えるための声かけが大事になります。


■失敗したときこそサポートする姿勢を明確に


中には頑なな人やネガティブな人もいるでしょう。仕事がうまくいったときにも、「たまたまですよ」とか、「運がよかっただけです」などの反応が返ってきたり、ほめたり評価していることを伝えても、斜に構えた態度が返ってきたりすることもあります。それでも、上司の側がそこで引いたりせず、態度を変えないことも大切です。


また、成果があったときだけでなく、うまくいかなかったときの声がけも欠かせません。日本人は「きっと本人が気にしているから、そのことには触れずにおこう」と考える場合もありますが、きちんと言葉にして、


「次はきっとうまくいくよ」
「もしわからないことがあったら、経験豊富な○○さんに相談するといいよ」


励ましや今後のためのアドバイスも一緒に伝えるとよいでしょう。仕事の全体像をつかみ、長いスパンを考えられるように導くとともに、「困ったときはきちんとサポートするよ」と明確に伝えるのです。


もうひとつ、単純なことにもかかわらず、意外とできていないのが、上司から部下に対して「ありがとう」の言葉を伝えることです。取引先には言えるのに、身近な部下には言えないのもおかしなことです。


■感謝の言葉が生み出す「一肌脱ごう」という気持ち


仕事なんだからやって当たり前だという思いもあるでしょうし、言おうと思っても、いざとなると抵抗を感じてしまうことかもしれませんが、


「いつも○○してくれてありがとう」
「がんばってくれて助かっているよ」


そんなことがさりげなく言えるようになると、部下も嬉しく思うでしょう。そして「この人のために頑張ろう」と思ってくれたり、やりがいやモチベーションを持てるようになると思います。そして、繁忙期の対応を求められたり、難しい課題につきあたっても、「上司を喜ばせたいから一肌脱ごう」という気持ちになってくれることもあるでしょう。


やりがいを感じられる要素には、給料や職種、仕事上のステータスだけでなく、最終的には人間関係も大きいのではないでしょうか。


ただし忘れてはいけないのは、感謝の言葉はただ言えばいいというものではなく、心がこもっていなければ、意味がありません。Z世代は本音で言っているかどうかに敏感です。


部下が働いてくれること、毎日会社に来てくれることを当たり前だと思わずに、感謝の言葉やねぎらいの言葉を照れずに伝えられるようにトライしてみてください。


写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

■「話が違う」と感じてしまう配属ガチャの問題


配属先や転勤の有無など、かつては希望通りにならないことも多かったですが、今はだいぶ変わってきています。しかし、必ず思い通りになるとは限りません。


配属先などに関しては、思い通りにならなかったりすると、拙著『Z世代をモンスターにしない言葉』(ビジネス社)の1章で紹介した「親ガチャ」ならぬ、「配属先ガチャ」という言葉があるほどです。


上司のギモン②


「面接のときに言われたことと違う」と、今の仕事に不満のようです。「まずは与えられた仕事をこなしましょう」と言っているのですが、どうも自分がやりたいことばかりに関心が向いてしまい、どのように説得したらよいか迷ってしまいます。


会社は必要な人員に対し、適性や経験値に応じて配置を決めるわけですが、たとえば最終に近い面接などの席で、会社が抱えているメインプロジェクトが話題にのぼり、「ぜひ力になってください」みたいな話があったりします。


そんなふうに言われたら、きっとその部署に配属されるのだろうと、その社員は期待するでしょう。でも、その後配属されたのはプロジェクトとはまったく関係がないところだったり、そうであっても新人は下働きをさせられたりします。あるいは、入社と同時に出向を命じられたり、しかも業種すら違う場合すらあるのは、実際にある話です。


■「華々しい仕事」への期待が失望を招く


しかし、部下のほうは「プロジェクトを一緒にやろうと言われたのにこんなことをさせられて……」と不満が募るばかり。どんな話だったのかにもよりますし、いきなり新入社員がそんな華々しい仕事ができるはずもないでしょうが、「話が違う」という思いになるのも無理もありません。


ボタンの掛け違いがあるなら話し合いが必要ですし、目の前にやらなければいけないことがあるなら、部下のほうも考えを改めるしかないのかもしれません。


配属の話はさておき、個人にとっての仕事とはどんなものであるかを分けると、3つのカテゴリーがあり、「好きなこと」「できること」「やるべきこと」に分けられます。


仕事を選ぶとき、どんな観点で選んでいるでしょうか。


自分で仕事を選ぶ場合、「好きなこと」=「やりたいこと」が、「できること」と重なっていればやりがいにもつながりますし、なるべくなら両者が交わる部分が多いものを選ぶのがよいでしょう。


仕事なのですから「やるべきこと」という観点も忘れてはいけません。


上司であれば部下に仕事を割り振るときに、与えられたミッションにふさわしいのは誰か、部下一人ひとりの個性や適性を考えるでしょう。もちろん仕事ですから、成果を出せること、経験を積ませることを考慮して決めることになるでしょう。


■「好き・できる・やるべき」の交点を探す


そうした判断をするには、日頃から部下と話す機会を持つ必要がありますし、部下が何を望んでいて、どんなことを得意としているのかリストアップしておくこと、あるいは部下本人と話し合って、すりあわせることが大事です。


写真=iStock.com/vm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vm

この3つは、アメリカの組織心理学の専門家であるマサチューセッツ工科大学のエドガー・シャインが提唱する理論の中で「3つの問い」と呼ばれます。仕事を選択する際に、最も大切にする価値観を「キャリアアンカー」と呼び、そのもとになるのがこれらの問いだというわけです。自分の好きなこと(WILL)、できること(CAN)、やるべきこと(MUST)はそれぞれどんなことか、というわけです。


この3つがたとえバラバラでも、どこか共通項を見出したり、あるいは近づけていくことが重要です。


私も仕事のお話をいただいたりすると、自分にとってどうかを考えます。そこで思うのは、自分がやりたいことというよりは、社会的にニーズがあって、提案をいただいたことが自分にできることであれば、求められたことをやるというのが正攻法なのではないかと考えます。


中には「好きなこと」でないとダメだというように、それを重要視する場合もあると思いますが、それでやっていけるなら、それに越したことはないと思うのですけれど、現実的にはそうはいかないこともあります。


■上司こそ「3つの要素」をすり合わせる役割を


好きなことやればいいんだよって。会社の中でも得意なことを伸ばせばいいんだよっていうのも一つの考え方ですが、それだけでよいとは言い切れません。


とくに会社や組織で働いているなら、自分が求められているものにもきちんと目配りをすることが必要です。


ですが、やるべきことではあっても、できないことを無理強いさせるのはいい結果にはつながらないでしょうし、できることの中でやるべきことというのを探していくことかもしれません。


あるいは、やっていくうちに得意になって、好きになることもあるでしょうし、あまりにも理想を追いすぎて「好きなこと」だけが前提になると自分を狭めてしまいます。


Z世代では、会社から求められている「やるべきこと」に考えが及ばないかもしれませんし、「自分ができること」を把握できていない場合もあるでしょうから、そこは上司が適切に指導する必要があるでしょう。


「できることの中で、やるべきことを探していこう。できることと好きなことが重なることは何かという観点も忘れずにね」


■部下に我慢を強いる時代ではない


気をつけたいのは、あまり理想論ばかりを掲げて「好きなこと」「できること」を追いかけてしまうと、「やるべきこと」を見失う危険性がある点です。


また、部下に「やるべきこと」ばかり追いかけさせすぎると、「やりたいことをまったくさせてくれない。この会社はダメだ」と思われてしまうかもしれませんので。



大野萌子『Z世代をモンスターにしない言葉』(ビジネス社)

「好きなこと」というと、勝手なこと、わがままなことだととられてしまうかもしれませんが、それを追いかけるのは悪いことではありません。


好きなことは前向きになれますし、エネルギーを注げたりしますから、好きなことを探すのは悪いことではありません。


上司世代には「仕事を好きかどうかなんて」と思う人もいるかもしれませんが、だからといって我慢を強いる時代ではありませんし、Z世代は社会貢献に関心を持つ人も多く、「やるべきこと」を魅力的に感じる人もいます。個人の考えはさまざまであるということに尽きるでしょう。


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大野 萌子(おおの・もえこ)
公認心理師、2級キャリアコンサルティング技能士
一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー。法政大学卒。企業内カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで講演・研修を行う。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)、『好かれる人の神対応 嫌われる人の塩対応』(幻冬舎)『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』(ディスカヴァー携書)、『電話恐怖症』(朝日新書)などがある。
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(公認心理師、2級キャリアコンサルティング技能士 大野 萌子)

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