「考える必要は1ミリもない」人間関係で消耗し体調を崩した医師が見つけた"嫌な人"への究極の対処法
2025年3月24日(月)7時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki
※本稿は、中山祐次郎『医者の父が息子に綴る 人生の扉をひらく鍵』(あさま社)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/kokoroyuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki
■「嫌な人からはすぐに離れる、いい人とだけ仕事する」
人と一緒に仕事をするようになると、今度はその人との関係に悩むようになる。「この世の悩みはすべて人間関係である」という言葉があるように、他の人との関係は本当に難しい。ひとりぼっちで仕事ができたらなんと楽なことか、と思う。
僕は、幸いこれまで人に恵まれてきた。一人だけ、意地悪の塊みたいな人がいたが、その人を除けばみんな僕が少しでも良くなるようにと思って精一杯尽くしてくれる人ばかりだった。
それは偶然じゃなく、ちゃんと理由がある。それを、君に教えたい。
「嫌な人からはすぐに離れる、いい人とだけ仕事する」ということだ。
なんだ、当たり前じゃないか、と思っただろうか。
でも、これはとっても大切なことで、ちゃんとやれている人は全然いない。ちょっと解説すると、すぐに離れるというのは物理的に離れることが大切だ。1年に一度も会わなければ、嫌な人から受ける害はゼロになる。そして忘れられる。いい人を見つけたら、とことんその人と一緒にやる。人生の大きな転機で、僕はいつもそうしてきた。
■離れられないときは「接点を少なくする」
ただ、すぐに離れられない状況のことは残念だけれどある。学校では嫌な人が担任の教師だったら、なかなか離れられない。部活や塾の先生であっても離れられない。
そういう時は、なるべくその中でも壁を作って接点を少なくする。そして、辞められるものだったらさっさと辞めてしまう。どうしても難しかったら、心を閉ざしてその人をいないことにする。それでもつらかったら、やっぱり辞めてしまうことだ。
心が壊れてからでは遅い。君はそのために生まれてきたのでも、生きているのでもない。お金やキャリアなど、どうにでもなるからね。
嫌なトレーニングとか嫌な勉強に歯を食いしばって頑張ることには忍耐力をつける意味があるが、嫌な人と無理して近くにいてもただ消耗するだけだ。そして多くの場合、その嫌な人も君といることでダメージを負う。だからお互い不幸なだけである。
■「この人いいな」と思ったらとことんついていく
その代わり、この人いいな、好きだな、と思ったらとことんついていく。
僕には、医者になって1、2年の間にとても親切にしてくれた外科医の先輩がいた。年齢にして2、3歳上の、お兄さんのようなものだ。その人が、「縁もゆかりもない土地、福島に行って新しい仕事を立ち上げた。来て一緒にやろう」と言ってくれたので、やはり僕も縁もゆかりもなかったが行った。4年くらい一緒に仕事をして、本当に多くのものを授けていただいた。そして、やさしい人たちの町だった。
でも実は、そこで人生最大に苦手な人に出会い、仕事の関係でどうしても距離を置けなくて、僕は相当に消耗した。僕が悪かったのもある。でもそのお兄さん外科医がいたし、誘ってくれたんだから途中で辞めてはダメだと思い、なんとかギリギリ耐えた。逃げ出しはしなかったけれど、何かを得たり成長した気にはまったくなっていない。ただ自分をすり減らしただけであった。
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix
最終的に僕は体調を崩した。思い返してもよく逃げなかったと思うけど、お兄さん外科医に義理を果たせたのでまあ満足はしている。
■変えられるのは自分の思考と行動だけ
人間関係にうまくいかないことは君にも山ほどあるだろう。今もあるだろうし、残念ながらこれからもきっとそういうことはある。僕もたくさんの人との関係に悩んだけど、年齢を重ねるにつれ少しずつ上手になっていった。そのコツを伝えたい。万が一の時のために君に覚えておいてほしい、お守りのようなコツだ。
一つ目は、「変えられるのは自分の思考と行動だけ」ということだ。「他人は何も変えられない」と言ってもいい。
自分以外のすべての人、つまり他人がどう思い、どう行動するか。自分に不愉快なことがあっても、基本的には一つも変えられないと思っておいたほうがいい(もちろん暴力やいじめなどは「やめろ」とやめさせる必要があるし、やめさせられる)。
この事実に気づいた時、僕はまるで深い海の底に沈んでいるように感じた。隣にいる人に話しかけても、海の中なので向こうには聞こえない。逆に友達が話しかけてきても、何一つ聞こえないのだ。もちろん「今日の昼飯、何食べる?」みたいな話は聞こえるけど、大切な話は絶対に聞こえない。
■人生というのは思ったより不自由なもの
つまり、みんなと生きているようで、結局のところ僕らはみんなひとりなのだ。ひとりが集まって五人とか十人になっているから、みんなで生きているように見えるけど、僕らはひとりぼっちなのだ。だから、他人に何か影響を与えて考え方を変えさせるなんてことはそもそも不可能なのだ。
だから、君の人生というのは思ったよりはるかに不自由だと思う。
「あれ、ほとんど決まっていて何も変えられないじゃん」と思うだろう。
だけど、「自分の思考と行動だけ」は自由自在に変えることができる。
学生のうちはそれほど自由じゃないと感じるかもしれないけど、大人になったらすべてが自由だ。どんな仕事をしてどこに住もうが、夕ご飯に何を食べようが、どんな服を着ようが、酒を飲もうが。
写真=iStock.com/mm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mm
だから、まずは自分の支配下にある「自分の思考と行動」を自由に動かして、人との関係をうまくやろう。
■離れる理由を考える必要は1ミリもない
どうやってやるのかって? これは人間関係のコツ、二つ目につながる。
二つ目は、(繰り返しになるが)「合わない人は必ずいる。離れよう」である。
君と相性が悪い人は必ずいる。なぜか君のことが嫌いだったり、君がその人をどうしても好きになれない。そこに理由なんてない。先祖の時代に殺し合ったのかもしれないし、ご飯と牛乳みたいに合わないのかもしれない。
理由を考える必要は1ミリもない。ただ、合わない、という事実だけで十分だ。合わない人と出会ってしまったら、解決策は一つだけである。「離れよう」だ。
理想は物理的に距離を置くこと、つまりなるべく会わないこと。できれば一生会わないのが一番である。小さい頃は、「誰とでも仲良くしなさい」と言われる。だが、それは無視して良い。それを言っている大人は、誰とでも仲良くしていない。大人こそ、嫌な人がいたら距離を置き、自分の快適さを保っているのだ。
でも、どうしても会わないわけにいかない人がいる。学校や塾のクラスが同じ人だったり、先生だったり、職場の同僚だったり。こういう時はまず接触する時間をなるべく短くする。その上で、精神的な距離として、その人のことを考える時間をなるべく短くすることだ。
■大学受験に失敗し、失恋もした時に1週間続けたこと
さらに三つ目の解決策として、「他の世界に逃げ込む」のもおすすめしたい。僕は、とんでもなくつらいことがあった時(大学受験の失敗や書いた小説のボツなど、数年かけたものが無駄になったレベルだ)、いつも他の世界に逃げ込んできた。
具体的には、大学受験に失敗し同時に失恋もした時には漫画『東京大学物語』全34巻を繰り返し読んだ。1週間くらいこれをし続け、つらすぎる現実世界から漫画の世界へ逃避したのだ。他にも、小説がボツになった時はドラゴンクエストというゲームに逃げ込み、やはり1週間くらいは失敗を考えないようにしていた。
中山祐次郎『医者の父が息子に綴る 人生の扉をひらく鍵』(あさま社)
人間というものは不思議な生き物で、時間が経つとそのショックは自然に和らいでいく。「時ぐすり」「時間薬」なんて言う人もいるが、本当にある。衝撃的なことがあったあとはゲームや小説、漫画など他の世界に逃げ込み、生傷が癒えてかさぶたができてきた頃に少しずつその痛みに目をやっていく。僕はそうやって生きてきた。
大切なことだからもう一度繰り返すよ。
嫌な人だなと思ったら、すぐに離れる。なるべく近づかない。どうしても離れられない関係の人だったら、心の中で壁を作る。そうしないと、心を壊されてしまうから。
こういうのは「逃げ」ではない、「戦略的撤退」と言うんだ。自分の心を守り、元気でなければプロを目指したり、人を癒したりすることは難しいのだから。
----------
中山 祐次郎(なかやま・ゆうじろう)
外科医・作家
1980年神奈川県生まれ。鹿児島大学医学部医学科卒業後、がん・感染症センター都立駒込病院外科初期・後期研修を修了、同院大腸外科医師として勤務。福島県高野病院院長、福島県の総合南東北病院外科医長を経て、神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院外科に勤務。2023年、福島県立医科大学で医学博士。2021年、京都大学大学院医学研究科で公衆衛生学修士。小説『泣くな研修医』(幻冬舎)はシリーズ57万部を超えるベストセラーに。著書に『医者の本音』(SBクリエイティブ)、『俺たちは神じゃない 麻布中央病院外科』(新潮文庫)、『幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと』(幻冬舎)、『医者の父が息子に綴る 人生の扉をひらく鍵』(あさま社)など。手術教科書『ラパS』『ダヴィンチ導入完全マニュアル』(共にメジカルビュー社)、若手医師向け教科書や看護学生向け教科書『ズボラな学生の看護実習本 ずぼかん』(照林社)など。二児の父。
----------
(外科医・作家 中山 祐次郎)