川勝知事の「反リニア」を妄信するイエスマン布陣に…全面開通がますます遠のく静岡県の「リニア妨害人事」

2024年3月25日(月)8時15分 プレジデント社

静岡市葵区追手町にある静岡県庁(画像=Akahito Yamabe/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

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リニア妨害を続ける静岡県の川勝知事は、県庁の新年度人事で「南アルプス担当部長」というポストを新設した。ジャーナリストの小林一哉さんは「川勝知事のリニア妨害のイエスマンを登用した人事だ。新人事で静岡県の『反リニア』はますます強固なものになるだろう」という——。
静岡市葵区追手町にある静岡県庁(画像=Akahito Yamabe/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

■「南アルプス担当部長」を新設


静岡県の組織体制は、反リニアを貫く川勝平太知事を支えるべく、4月1日の新年度スタートとともに大幅な人事異動で刷新する。


今回の刷新人事で反リニア色はさらに強まり、JR東海へのリニア妨害は激しさを増すことになるのは間違いない。


何よりも大きな注目を集めるのが、新たに設置される「南アルプス担当部長」である。


南アルプス担当部長は、リニア問題で議題となっている南アルプスの水資源や生態系の保全を担当するとしている。


なぜ南アルプス担当部長が誕生したのか?


■「大騒ぎ」が評価され部長ポストへ


昨年2月28日の記者会見で、川勝知事は「(静岡・山梨)県境付近の断層帯がつながっている。サイフォンの原理で静岡県の地下水が流出してしまう」として、「山梨県内の調査ボーリングを即刻、中止するよう求める」と息巻いた。


直後から、山梨県の長崎幸太郎知事はじめ多方面から批判の嵐が巻き起こったが、そんな批判などどこ吹く風で、川勝知事は現在でも「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」を唱え続けている。


この「サイフォンの原理」の難癖をつけるきっかけが、県境付近の断層帯のつながりをJR東海の文書で発見したと大騒ぎした、県地質構造・水資源専門部会を担当する渡邉光喜・県くらし環境部参事(南アルプス担当)である。


この大騒ぎの功績などが高く評価されて、渡邉氏はめでたく新設の「南アルプス担当部長」のポストを手に入れたようだ。


■リニア問題を担当する幹部クラスの顔ぶれ


リニア担当の新布陣は、渡邉氏のほか、県くらし・環境部理事(南アルプス環境保全担当)を務める池ヶ谷弘巳氏が県くらし・環境部長に昇格、知事側近で県知事戦略課長、秘書課長など務めた県知事戦略局長の鈴木利直氏が、池ヶ谷氏のあとを受けて、県くらし・環境部理事(南アルプス環境保全担当)に就く。


筆者撮影
山梨県と静岡県の断層がつながっていることを発見した渡邉氏が知事に代わって問題を指摘した - 筆者撮影

鈴木氏はこれまでとは全く畑違いのリニア問題を担当する。実際は、川勝知事との連絡調整役を担うのだろう。


また、リニア沿線都府県知事の建設促進期成同盟会と東海道新幹線静岡空港新駅を担当する県交通基盤部参事(局長級)の羽田充明氏は、仕事内容はそのままで部長級の交通基盤部理事に昇格する。


これで県リニア対策本部長の森貴志副知事、本部長代理の石川英寛・県政策推進担当部長を筆頭に、リニア専従の渡邉氏、鈴木氏らの新体制が4月1日からスタートする。


■川勝知事の「ゴールポスト動かし」問題


2018年夏、静岡県とJR東海との間で、リニアトンネル工事に伴う水環境への影響の議論が始まった。


当時は、副知事を筆頭に、環境局長、水利用課長、自然保護課長らがリニア問題を担当していた。リニア問題の専従者はいなかった。


何よりもその当時の主張は、現在よりももっとシンプルであり、川勝知事の「全量戻せ」の主張に集約されていた。


リニアトンネル工事で大井川の水が毎秒2トン県外流出する恐れに対して、川勝知事は「毎秒2トンは流域62万人の命の水だ。県民の生死に関わる。すべて大井川に返してもらう」と主張していた。


リニア問題の解決について、川勝知事は「全量戻してもらうことにつきる」と何度も繰り返した。


ところが、川勝知事の「全量戻せ」の強い求めに応じて、JR東海が「毎秒2トンすべてを大井川に返す方策を講じる」解決策を提示した。


このあとすぐに山梨県境付近の工事期間中に県外流出する湧水の「全量戻し」にゴールポストを動かしてしまう。


もともとJR東海は、作業員の安全確保を優先して、山梨県側から上り勾配で掘削するため、10カ月間の工事期間中、約500万トンの湧水流出することを静岡県に説明していた。


この流出量は、毎秒2トンをはるかに下回る毎秒0.1トン程度であり、大井川下流域の水資源環境に影響を与えるものではない。


ところが、川勝知事の「全量戻し」のゴールが変わったことで、作業員の生命を守る安全確保よりも静岡県の湧水一滴を優先させる対策を取ることがJR東海の重大使命となってしまう。


■地下水への影響を主張するオカルト


川勝知事は「大井川の流量減少問題が解決されれば、着工を認める」などとさまざまな場で話している。


このため、JR東海は2022年4月、東京電力リニューアブルパワー(東電RP)の内諾を得て、県境付近の工事中の県外流出を解決するための田代ダム取水抑制案を提案した。


これに対して、川勝知事は河川法違反などを唱えて、田代ダム取水抑制案をつぶすことに躍起となった。


それどころか、田代ダム取水抑制案を議論している最中に、今度は山梨県内のリニア工事まで問題にしてしまう。


実際には、行政権限が及ばないのに、山梨県内の調査ボーリングが水抜きだとして静岡県の地下水に影響があると主張を拡大させた。


県境付近に限らず、地中深くの地下水は絶えず動き、地下水脈がどのように流れているのかわからない。県境付近の地下水の所有権を主張する静岡県の「地下水圏」など存在しない。


つまり、静岡県の地下水に影響があるという主張は、科学的な社会常識を超えた、「オカルト世界」の話である。


■JRへの言い掛かり「サイフォンの原理」を発見


この問題をさらに複雑にさせたのが、冒頭で紹介した渡邉氏だ。氏は、JR東海の「地質縦断図」を基に「静岡、山梨両県の断層がつながっていることを発見した」と主張したのである。


静岡県が問題にしている県境付近の地質縦断図。赤い斜線が断層であり、右の山梨県と左の静岡県の断層が地下深くで、つながる可能性がある(=JR東海の資料)

JR東海が提出した「地質縦断図」の断層を示す赤い斜線が、まるで管のように見えるから、つながっていると見えたようだ。


この発見を受けて、昨年2月28日の会見で、川勝知事は「山梨県内の調査ボーリングをするという差し迫った必要性は必ずしもない」と勝手に決めつけた上で、「山梨県側の断層および脆い区間が静岡県内の県境付近の断層とつながっている。それゆえ、いわゆる『サイフォンの原理』で、静岡県内の地下水が流出してしまう懸念がある」と主張した。


筆者撮影
「サイフォンの原理」で地下水が県外流出するから山梨県の調査ボーリングをやめるよう発言した川勝知事(=静岡県庁) - 筆者撮影

水などの液体を、高いところに上げてから、低いところに移すために用いる曲がった管を「サイフォン」と呼ぶ。管内を完全に真空状態にして、圧力差を利用して、吸い上げ、低いほうに移すことが「サイフォンの原理」だ。


家庭用ストーブの石油ポンプを使った移し替えをはじめ、ダム湖から発電所まで配管内を真空にしてダム湖の水を吸い上げる発電に応用される。


山梨県内の断層を掘削すると圧力が掛かり、静岡県内の地下水を山梨県内の断層に引っ張ると考えて、川勝知事は「サイフォンの原理」と呼んだのだ。


■「発見」は誤りだったがそれでも引き下がらない


赤いゾーンがすべて同じ断層に見えるが、大量の水を含む破砕帯はどこにあるのかわからない。実際は岩石片や砂礫、水分を多量に含む破砕帯などさまざまな地層が含まれる。破砕帯のゾーンの可能性を示すのが断層であり、全体を赤い斜線としているが、当然、細長い管状の空洞ではなく、サイフォンのように真空状態にはならない。


川勝知事は、「地質縦断図」を見ただけで、静岡県と山梨県の断層のゾーンがまるで理科実験のサイフォンと同じような曲がった管のように映り、それぞれの断層が管の役割を果たすと考えたことになる。


渡邉氏によると、JR東海が提出した2023年2月20日付文書の「地質縦断図」では静岡、山梨両県の断層はつながっていなかった。


ところが、2022年4月の専門部会に提出したJR東海の資料を調べたところ、両県の断層がつながっていることを発見したのだという。


渡邉氏の説明を受けて、川勝知事は「(JR東海は)断層がつながっているのに、つながっていない図を作って事実をねじ曲げた。つまり断層はつながっている」などと述べた。


両県の断層がつながっているという渡邉氏の懸念に対して、JR東海はこれまでの山梨工区の調査ボーリングの結果を踏まえて、「静岡県内の地下水が大量に山梨県内に流入することは想定しがたい」と説明している。


ほぼ1カ月後の3月28日の会見で、川勝知事は、「サイフォンの原理は間違っていた」と誤りをようやく認めた。


それでも「静岡県の地下水が抜ける恐れがある」を繰り返して、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」を取り下げることはなかった。


■リニア問題を複雑化させ、混乱を招くことが役割


ことし2月5日、森副知事は会見で、いまから4年以上前の2019年9月30日に、JR東海に示した「引き続き対話を要する事項」、いわゆる47項目のリニア協議事項を採点した結果を発表した。


筆者撮影
47項目の採点結果を発表した森副知事(=静岡県庁) - 筆者撮影

47項目のうち、30項目は「未了」、つまり解決していないとして「今後もJR東海と『対話』を続けていかなければならない」などとしている。


県発表資料の「対話を要する事項」を見ると、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」など最近の課題を47項目に入れてあるのだ。


これでは47項目とは言えない。今回の資料を作成したのが渡邉氏らである。つまり、リニア問題を複雑化させて、混乱を招くのが目的であり、これではリニア問題はいつまでたっても解決しない。それが渡邉氏らの役割なのだろう。


川勝知事は3月13日の会見で、「4月に水資源の県専門部会と生物多様性の専門部会を開催したい。そこで静岡県内の調査ボーリングの議論が出る」などと述べた。


4月に予定される県専門部会で、南アルプス担当部長の渡邉氏だけでなく、新布陣のリニア担当者が勢ぞろいする。


新ポストの南アルプス担当部長の役割も明らかになるだろう。


当日は、川勝知事に忠誠を誓い、反リニアを貫くことは決してやめない強い意思表示が発揮されることだけが、いまからでも、よく見える。


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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。
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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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