「減税を謳っても選挙に勝てない」は歴史が証明している…立憲幹部が頭を痛める「減税議員」の残念な思考回路
2025年3月25日(火)17時15分 プレジデント社
国会内で開かれた立憲民主党有志議員による勉強会の設立総会で、あいさつする末松義規衆院議員(中央奥)=2025年3月12日午後 - 写真提供=共同通信社
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国会内で開かれた立憲民主党有志議員による勉強会の設立総会で、あいさつする末松義規衆院議員(中央奥)=2025年3月12日午後 - 写真提供=共同通信社
■立憲内に「消費減税」公約化を求める動き
立憲民主党内でまたぞろ「消費税減税」を迫る動きが目立ってきた。単なる政策論ならいざ知らず、夏の参院選の公約化を求める声もある。
加えて、今夏の参院選へ無所属で出馬することを表明した元明石市長で「減税派」の泉房穂氏について、立憲民主党が国民民主党などと共に「支援する方向で調整」と報じられている。
政権の選択肢となるべき野党第1党が、いつまでも「消費減税の誘惑」に振り回されるさまを見るのは、本当に頭が痛い。
立憲民主党は昨秋の衆院選で約50議席を増やし、自民党に対峙する「政権の選択肢」の立場を確立した。自民、公明両党が「少数与党」と化し、立憲は過去の野党第1党とは比較にならないほど、政治を動かすことへの重い責任を負っている。石破内閣の支持率が急落するなか、今や立憲は「政権を取って代われる政党」として有権者の信頼を得ることが求められている。
にもかかわらず、立憲の党内に①政権選択選挙で勝てるテーマではない、②党の「目指す社会像」にも逆行する、③しかも昨秋の代表選で退けられている——「消費減税」という施策にとらわれる政治家が、少なからず存在するのが残念だ。
立憲が「消費減税の誘惑に負けてはいけない」理由を、上記3点の観点から説明したい。
■30年以上前の「成功体験」が忘れられない
①政権を目指す政党は「消費減税」で選挙に勝てない
野党勢力の間で「消費減税」を叫ぶ声が強いのは、30年以上前の「成功体験」の影響が尾を引いているのだと思う。消費税が導入されたのは1989年4月、自民党の竹下政権時代。3カ月後の参院選で、当時の野党第1党・日本社会党が大勝し、自民党の宇野宗佑首相を退陣に追い込んだ。社会党の土井たか子委員長が「山が動いた」と語ったことは有名だ。
しかしこれ以降「野党第1党が消費税に反対の立場を掲げて選挙で成果を上げた」選挙は思いつかない。1989年参院選にしても、当時の自民党はリクルート事件という、現在の状況に勝るとも劣らない「政治とカネ」問題で国民の大きな批判を受けていた。消費税「だけ」で野党が勝利したと断言するのは難しい。
■消費増税でも選挙に勝つことはできる
逆に、野党第1党が「消費増税」を掲げて選挙に勝った例は記憶にある。年金改革が大きなテーマとなった2004年参院選だ。
当時の野党第1党は、岡田克也代表(現立憲民主党)率いる民主党。年金目的消費税を導入して、全額税金による「最低保障年金」を創設することなどをうたい、小泉純一郎首相率いる自民党を改選議席で上回った。当時筆者は新聞記者として民主党を担当していたが「増税を掲げたのに選挙に勝てた」と、党内から驚きの声が漏れていたのを覚えている。
「山が動いた」1989年当時は、55年体制下で政権交代の可能性がなく、野党第1党(社会党)の存在意義は「自民党政権への抵抗」だった。だが2004年になると、小選挙区比例代表並立制の導入を受け「政権交代可能な2大政党」が求められるようになっていた。
民主党は「近い将来に政権を担う」ことに耐え得る公約策定に力を入れるなかで「安心できる年金制度を構築するためには増税も辞さない」方針を打ち出し、選挙に勝利した。
■「減税を言わなきゃ負ける」という強迫観念
立憲議員の一部が現在「消費減税」に縛られているのは「減税を言えば選挙に勝てる」というより「言わなければ負ける」ことへの恐怖なのだろう。その源流は、民主党の菅直人政権だった2010年参院選で、菅首相が前年の衆院選の政権公約になかった消費増税に言及し、大敗したことにあると思う。
しかし、あの大敗の理由が、本当に「消費増税への言及」そのものだったのかは疑問が残る。「菅氏が公約にない政策に触れたことが批判された」説に一定の理はあるが、むしろ発言をめぐり党内が政局含みの激しい対立状態に陥り、そんな党の状況に有権者があきれ果てたことのほうが、本質的な敗因だったのではないか。
写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide
消費税をめぐる対立の末、民主党はその後、消費増税に反対した勢力が離党。2012年衆院選で政権から転落した。この選挙で分裂後の民主党はギリギリで野党第1党に踏みとどまったのに対し、離党組は新党「日本未来の党」を結党したものの惨敗し、党も消滅した。
■「減税」で議席を伸ばせるのは中小野党だけ
消費減税を求める声は政治的に大きい。選挙基盤の弱い立憲議員があおられる気持ちも理解できないわけではない。だが、過去の選挙を振り返っても、消費減税で獲得できる票は限られている。それらの票は、従来減税を叫び続けてきた中小野党に向かう。個々の立憲議員の選挙対策という点でも、この層を狙う選挙戦術は得策とは言えない。
党全体の選挙対策という意味でも同様だ。消費減税は中小野党の議席を数議席程度増やす効果はあるだろうが、政権を目指す政党が獲得すべき議席を得るにはまったく足りない。
「政権の選択肢」たる立憲が耳を澄ますべきは、減税や国債発行を繰り返すことで将来世代にしわ寄せが及ぶことを恐れる、声なき有権者の声だと思う。
写真=iStock.com/kudou
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■消費減税で得をするのは低所得者か、お金持ちか
②「消費減税」は立憲民主党の「目指す社会像」に逆行する
ざっくり言えば、減税とは基本的に「国の税収を減らす=小さな政府=自己責任の社会」を目指す政策であることは押さえておきたい。
立憲民主党が掲げる社会像とは「所得再分配による格差是正を図り、自己責任社会を終わらせる」こと。そのためには「公(おおやけ)」の役割を再構築する必要があるし、一定の税収が必要だ。政治不信が蔓延している現在、増税を簡単に言える環境にはないが、少なくとも積極的に減税を叫ぶことは、立憲の「目指す社会像」が何なのかをわかりにくくしてしまう。
そもそも、同じ「消費減税」を唱えていても、実は政党や政治家によって「目指す社会像」が真逆であることが少なくない。
立憲の一部を含む野党勢力は、消費税の逆進性に着目し「低所得者政策」の観点から減税を訴える。一方で日本維新の会など新自由主義的な勢力が消費減税を言う時は「高額の消費を行う富裕層がより大きな恩恵を得る」ことが意識されている、とみるべきだ。
低所得者の生活を支えるつもりで消費減税を実現しても、結果として富裕層が大きく減税されて国の税収が減り、結果として高額療養費制度の負担上限額引き上げのように、国民の命を直接脅かす事態を生む可能性がある。そういうことにも思いを致すべきだ。
■「この道しかない」と不安を煽るのは思考停止
だいたい、低所得者対策といえば「消費減税以外に方法がない!」と言わんばかりの硬直した発想はいかがなものか。
物価高対策なら消費減税のほかにも、例えば物価そのものが下がるよう仕向けるとか(備蓄米の放出もその一つだ)、賃上げなどで文字通り「手取りを増やす」とか、保育や教育、介護などの公的分野で利用者の自己負担額を抑えるとか、さまざまな方法があるはずだ。立憲民主党もすでに「給付付き税額控除」(ざっくり言えば、消費税の一部を低所得者に還付する)という政策を掲げている。
政権与党の政策に対し「本当にこの道しかないのか?」と問いかけ、新たな選択肢を提示するのが、野党第1党たる立憲民主党の役割だ。立憲は与党に対してだけでなく、伝統的に野党が掲げてきた政策についても、同様に「本当にこの道しかないのか?」を問いかけ、積極的なアップデートを図ることに尽力すべきだと思う。
■立憲は減税消極派の野田氏を代表に選んだ
③公約化は昨秋の党代表選結果を踏まえていない
立憲民主党は昨年9月に代表選を行った。党員も投票に参加したフルスペックの選挙だった。政策面での最大の争点は、まさに消費減税の是非だった。
代表選には4人が立候補した。低所得者対策について、吉田晴美氏は「食料品にかかる消費税を『ゼロ税率』に」と訴えた。現職代表だった泉健太氏は、給付付き税額控除の方が減税に比べ「直接低所得者の懐を温める」と指摘しつつ「食料品消費税ゼロ」を訴える党内の声に一定の配慮をした。
元首相の野田佳彦氏は、消費減税の「富裕層ほど恩恵が大きい」点を指摘、党を創設した枝野幸男元代表も、物価高対策としては給付の方が早く実行できると指摘した。
都知事選に立候補した蓮舫の応援演説をする野田佳彦(=2024年7月6日、新宿駅前)(写真=Noukei314/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
代表選の結果、減税に最も消極的だった野田氏と枝野氏が決選投票に残り、最終的に野田氏が代表になった。野田氏は衆院選の選挙公約に給付型税額控除(消費税還付)を盛り込み、記者会見では「これまでの党の到達点」と言い切った。その衆院選で立憲は50議席を上回る議席増を実現。「少数与党」の国会で大きな存在感を発揮している。
投票の基準は一つではない。だが、代表選で示された党員の声も、衆院選における有権者全体の声も、立憲に「減税」を訴えることを求めていないとみるのが自然だ。
政党が大きくなれば、党内に主要政策とやや異なる考えを持つ議員も生まれるだろう。政権政党を目指すには、多様な考えをある程度包摂する必要もあるだろう。筆者も党内議論を全否定はしない。だが、少なくとも野田代表の任期中である夏の参院選で「公約に掲げよ」と迫るのは、代表選の意義を失わせ、コアな支持層の失望を招くことを忘れてはいけない。
■減税派・泉房穂氏と立憲の関係は
この原稿の執筆中の24日、元明石市長の泉房穂氏が夏の参院選に兵庫選挙区から無所属で立候補する考えを表明した。
立憲民主党有志議員による「食料品の消費税ゼロ%を実現する会」勉強会で講演したこともある泉氏は、この日の記者会見で「立憲民主党にもいわゆる(消費)減税を掲げる方も数多くいるし、あと(の野党)はほとんど減税派だと思う。選挙戦にとどまらず、その後のお付き合いも含めて大同団結することは可能だ」と述べ、「減税」の1点で野党の団結を図りたい考えをにじませた。
立憲民主党は国民民主党とともに、泉氏を「支援する方向で調整している」と報じられている。1人の候補の支援の有無で全体を判断するわけではないが、一定の発信力を持つ泉氏を支援することで、立憲が目指してきた「所得格差を是正し『ぶ厚い中間層』をつくる」社会像がぶれたと受け止められれば、野田氏を代表に選んだ党員の士気を大きく下げかねない。仮に兵庫県で議席を取れても、全国的には悪影響を及ぼす可能性もある。
声の大きな「固い票」に釣られて従来型の野党にとどまるのか、厳しくとも「政権政党の選択肢」となる道を歩むのか。それが問われる正念場である。野田氏ら立憲執行部の今後の発信を注視したい。
長々と書いてきたが、筆者が本当にうんざりしているのは、30年以上も「消費税」が与野党対立の最大テーマのように扱い続ける政界の空気だ。税制一つをとっても、所得、資産、消費を含め全体的な制度の見直しが必要なはずだ。争点を安易に単純化せず、複雑な問題と真剣に切り結ぶ胆力を、政界全体が持ってほしい。
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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)、『野党第1党 「保守2大政党」に抗した30年』(現代書館)。
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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)