廃棄ロス3、4割でも儲かる「花屋」、原価率高めでも儲かる「立ち飲み屋」…ガッポリ稼げる商売のカラクリ

2024年3月27日(水)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Безгодов

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広い敷地ではなくても効率的に稼げる商売がある。例えば、花屋や立ち飲み屋。経営コンサルタントの平野薫さんは「花屋さんは仕入れた花の3〜4割を大量廃棄し、立ち飲み屋さんのフードやドリンクは価格が安く、その分、原価率が高くなることが多い。それでも黒字を出している店が多いのは、しっかり稼ぐ仕組みを確立しているからです」という——。

※本稿は、平野薫『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。


■花屋さんは仕入れた花の3〜4割を廃棄している


駅の改札を出ると花屋さんが色とりどりの花を並べており、都会の喧騒の中でひと時の癒やしを与えてくれます。それほど花に造詣が深くない私でも季節に応じて変化する花を眺めていると、たまには妻に花でも買って帰ろうかと豊かな心が芽生えます。


しかし、そんな美しいものにうっとりする間もなく考えてしまうのは、花屋さんの経営状況です。実もの、葉もの、枝もの、球根類を除けば花屋さんで売っている花は短命です。しっかり前処理をし、低温輸送して管理しても切り花の寿命は10日程度。産地から市場経由で花屋さんに入るのに1日、鮮度や商品価値を保つための水揚げ作業をして店頭に並ぶまでが1日とすると、店頭に並んだ時点で残った寿命は8日程度。更にお客さんが花を買ってすぐに萎(しお)れてしまっては花を楽しめないので、花屋さんとしては店頭に並べてから3〜4日で販売する必要があります。


売れ残った分は花束やブーケとして販売することもありますが、大部分は廃棄されます。花屋さんの廃棄は仕入の3〜4割にもなり、フードロスならぬフラワーロスといわれ、SDGsの視点からも問題になるほどの量となっています。


写真=iStock.com/Безгодов
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Безгодов

■店頭の品揃えが売れ行きを左右する


それにしても、花屋さんはどうしてそれほどの廃棄を覚悟で大量に仕入をするのでしょうか?


その理由は2つあります。


1つは、品揃えが売れ行きに影響を及ぼすからです。大抵の場合、花を買いに行く際には花屋さんの店頭にある在庫から商品を選びそのまま持ち帰ります。当然ですが、店頭の品揃えが豊富な方が選択肢も増えるためお客さんに購入してもらえる可能性が高まります。


また花屋さんの品揃えの良さは集客という観点でも重要です。在庫が少なく、種類も少ない貧相な花屋さんを見ても購買意欲は高まりませんし、足を止めることもありません。一方で色とりどりの花が並んでいる花屋さんの前ではお客さんとしても足を止める可能性が高く、ちょっと花でも買っていこうかなという気になってくれます。花屋さんにとって、店頭の品揃えこそがショールームであり、プロモーションになっているわけです。


■2つ廃棄が増えても1つ多く売れれば利益は増える


もう一つの理由は花の原価が安いため、多少のロスが出てもその分、数が売れれば利益が増えるからです。花屋さんの原価は販売単価の30〜40%とかなり低く抑えられています。この原価率の低さが、多少のロスが出てもやっていける理由です。具体的に数字で考えてみます。


売上高−売上原価=売上総利益になりますが、売上原価は元々あった在庫に仕入れた在庫を加えて、残った在庫を差し引くことで算出できます。花屋さんのように日常的に廃棄が出る業種の場合、売上原価には販売した分の在庫だけでなく廃棄した分の在庫も含まれます。仕入れた商品の6割が販売され、4割が廃棄されると仮定します。


一般的に仕入れた商品の4割も廃棄したら商売が成り立たないのでは? と思われるかもしれませんが、原価率が30%であれば廃棄損を含めても十分に利益が出ます。これが一般的な卸売業のような原価率80%程度のビジネスモデルであれば、大赤字です(図表1)。


出所=『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?

原価率30%で設定すれば、2つ廃棄が増えても1つ多く売れれば利益は増加します。まさしく損して得取れの世界ですね(図表2)。


出所=『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?

このように花屋さんは、品揃えを良くすることで売上を上げることができること、そして多少の廃棄が出てもその廃棄損をペイできるだけの高い利益率があるからこそ、廃棄覚悟で品揃えを充実させるわけです。廃棄損失よりも売れなかった際の機会損失の方が利益に及ぼす影響が大きいビジネスモデルといえますね。


出所=『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?

■なぜあの立ち飲み屋の社長は高級外車に乗っているのか?


11月11日は何の日だかご存じでしょうか? 「ポッキー&プリッツの日」が有名ですが、実は「立ち飲みの日」でもあります。1111の形が人が集まって立ち飲みしている姿に似ていることからきているそうです。


ちなみに日本記念日協会によると11月11日は記念日が3番目に多い日(2023年8月時点で59件)で、「チンアナゴの日」「スティックパンの日」「うまい棒の日」など、棒状のもの、直線のものの記念日になっているそうです。少し前までは一番記念日が多い日だったそうですが、最近8月8日と10月10日の申請が相次ぎ、ナンバー1の座を奪われたもようです。


立ち飲み屋の歴史は古く、江戸時代から営まれていました。酒屋でお酒とつまみを購入し、店に併設された一角(カウンター)で立ったまま飲食していたことが起源とされています。酒屋の店頭で飲むことを「角打ち」と言いますが、店の一角で飲むことが言葉の所以です。


写真=iStock.com/JianGang Wang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JianGang Wang

立ち飲み屋は、低価格で気軽にお酒を楽しむことができるため最近ではサラリーマンの憩いの場の一つになっています。お金も時間も節約志向の時代にはうってつけの業態とあって、以前と比べて店舗数も増加しています。



平野薫『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』(ダイヤモンド社)

私もせんべろ(「1000円でべろべろに酔っぱらえる」価格帯の酒場の俗称)の聖地である赤羽が帰宅途中にあるため、ついつい一杯と立ち寄り、その後何食わぬ顔で家族と夕飯を食べることがあります。


立ち飲み屋はドリンクが300〜400円、フードも100〜400円程度と普通の居酒屋と比べてそれぞれのメニューを2〜3割安く提供しています。それ自体は財布に優しく利用者としてはありがたいのですが、メニューを安く提供し滞在時間も短いことから一人当たりの客単価はかなり低くなっています。「安く手軽に飲めるのは良いことだが、サービス精神が旺盛すぎてお店が潰れたらどうしよう」と不安になる方もいるかもしれません。


■立ち飲み屋は原価率が高いのになぜ儲かるのか?


安心してください。あんなに安く提供している立ち飲み屋ですが、社長がニコニコしながら高級外車に乗るくらい儲かっている会社も多いのです。


確かに、それぞれのメニューの単価を安く設定している分、単品ごとの利益は少ないです。飲食店の原価率(販売単価に占める原価の割合)は一般的に30%程度といわれていますが、立ち飲み屋の場合、同じメニューでも2〜3割安いので原価率も高くなります。


出所=『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?

えっ、全然儲かってないじゃん! と思われるかもしれませんが、普通の居酒屋と異なるのは一日当たりのお客さんの数です。


普通の居酒屋の場合、一度入店するとゆっくり席に腰を下ろして飲みますので一般的に2〜3時間は滞在します。しかし立ち飲み屋の場合は、3時間も立ちっぱなしでは疲れるので、ある程度飲んだら早々に切り上げます。滞在時間は男性1時間、女性1時間半と言われています。


■30人と90人…広さは同じでも客数は3倍も違う


更に立ち飲みの場合は椅子が無いため普通の居酒屋と比べて入店できる人数が多く、一日当たりたくさんのお客さんを受け入れることが可能です。そして前述したようにリーズナブルな価格設定と一人でも気軽に入れる雰囲気から、集客力も高いわけです。


普通の居酒屋で20席あったとしても、グループの人数によっては4人掛けに3人ということもあるので、満席時で15人程度。それが2回転したとして一日当たりのお客さんは30人といったところでしょう。


出所=『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?

しかし、立ち飲み屋の場合、椅子が無い分同じスペースでも30人は入れますし、滞在時間が少ないため回転も速いです。3回転したとすると一日当たり90人のお客さんを受け入れることが可能です。


■利益は「一人当たり利益×お客さんの人数」


お客さん単価を普通の居酒屋4000円、立ち飲み屋2000円とし、原価率の差があっても人数が多い分、図表5のように立ち飲み屋の方が一日当たりの粗利額が大きくなります。


基本的なことですが、利益は「一人当たり利益×お客さんの人数」になります。立ち飲み屋の場合、一人当たりの利益を犠牲にしてでもお客さんの人数を増やす戦略ということですね。


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平野 薫(ひらの・かおる)
小宮コンサルタンツ コンサルタントチームリーダー、エグゼクティブコンサルタント
1978年、宮城県大崎市生まれ。宇都宮大学農学部卒業後、キユーピー入社。業務用(現フードサービス)営業を担当。帝国データバンクを経て、2011年、小宮コンサルタンツ入社。数社の社外取締役も兼務。これまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施。現在も15社の企業の経営会議に定期的に参加して業績数字のチェックも行っている。特技は初めて訪問した街の人口を街並みから推測することで、ほとんどの場合±30%以内で当てることができる。趣味は年間100泊に及ぶ出張先で早朝にウォーキングをしながら、身近な疑問を発見し数字のネタを集めること。
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(小宮コンサルタンツ コンサルタントチームリーダー、エグゼクティブコンサルタント 平野 薫)

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