これは吉野家にはまねできない…「すき家」「食べ放題店」が牛肉ラブな客でしこたま儲ける賢い技

2024年3月28日(木)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

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ハンバーガー、牛丼、焼き肉、しゃぶしゃぶ……日本人の食生活に欠かせない食材・牛肉。それを客に提供する店はどのように儲けを出しているのか。経営コンサルタントの平野薫さんは「チェーン店では、経営の多角化やメニュー設定、オペレーションなどできっちり利益を出すための仕組みを確立している」という——。

※本稿は、平野薫『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/winhorse
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■なぜすき家を経営するゼンショーは多角化を進めるのか?


すき家を運営するゼンショーが2023年4月にハンバーガーチェーンのロッテリアを買収しました。かつては往年のレジェンドメニューであるエビバーガーやロッテシェーキを武器に業界2位に君臨し、絶対王者マクドナルド相手に健闘していました。


しかし、ライバルの次から次へと展開されるマーケティングに押され、マクドナルドはおろかかつて業界3位だったモスバーガーにも大きく水をあけられています。コロナ禍においてもマクドナルドとモスバーガーがデリバリーとテイクアウトで業績を伸ばしている中でロッテリアは赤字に転落し、苦戦を強いられていました。


買収した側のゼンショーは今回のロッテリアに限らず、これまでもココスジャパン、ジョリー・パスタ、華屋与兵衛、なか卯などを次々に買収し業容を拡大。日本で最大の外食チェーンとなりました。近年はスーパーマーケットや海外のすしチェーンなども買収し多角化を進めています。


■なぜゼンショーは次々と企業を買収し多角化を進めるのか?


理由は大きく2つあります。


出所=『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?

一つは食材調達力の強化です。ボリュームがあれば仕入先に対する発言力が増し、コスト面だけでなく需要逼迫(ひっぱく)時の優先的な仕入交渉も有利になります。すき家と吉野家の国内店舗数を比較すると2023年3月時点ではすき家1941店舗に対して吉野家1196店舗と約1.6倍となっています。メインの牛丼業態だけで考えても多少すき家の方に分があります。しかし、他の業態も含めたグループ全体の売上で見ると、4.6倍とかなり大きな差があります。


ゼンショーは積極的なM&Aで日本最大の外食チェーンに成長しており、グループ全体の売上高で見ると2位のマクドナルドの倍以上の規模となっています。圧倒的な仕入ボリュームにより強力な食材調達力を維持しているわけですね。


もう一つの理由は、食材の効率的な活用です。


■吉野家が豪州産牛肉を使いたくても使うことができなかった理由


かつて牛丼屋から牛丼が消えたことを覚えていますでしょうか? 2003年12月24日、アメリカでBSEが発生し、米国から牛肉の輸入が全面停止となりました。翌年2月には牛丼チェーン各社で牛丼の販売を中止しメインメニューが豚丼に切り替わるという予想だにしていない事態に陥りました。


吉野家では全店舗で24時間牛丼を提供できるようになったのは2008年3月と牛丼の販売を休止してから4年1カ月後のことでした。一方のすき家はというと、休止してから7カ月後の2004年9月には早々に牛丼を復活させています。


なぜすき家と吉野家の牛丼復活のタイミングにここまで差ができたのか? その理由はグループが抱えている業態の違いにあります。


下記の有価証券報告書とHPの資料を見ると、吉野家HDは売上の67.1%が牛丼の吉野家となっています。


出所=『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?

海外の吉野家を含めると実に約80%が吉野家業態。牛丼一本足打法と言っていいくらいの牛丼比率です。


一方のゼンショーはというと、決算説明資料によるとなか卯を含めた牛丼業態の売上比率は2023年3月期で33.6%と約3分の1となっており、ファストフードやレストランなど幅広い業態を抱えています。


出所=『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?

BSE問題が発生した当時、すき家はオーストラリア産牛肉を使用し、牛丼を再開させましたが吉野家はそれをしませんでした。もちろん、アメリカ産牛肉を使うことで吉野家の味を守りたいという意向はあったと思いますが、吉野家はオーストラリア産牛肉を使いたくても使うことができなかったのです。


その背景にはアメリカ産牛肉とオーストラリア産牛肉では取引条件の違いがあります。アメリカ産牛肉は部位ごとのパーツ売りをしてもらえますが、オーストラリア産牛肉は基本的に一頭丸ごとのセット販売です。


牛丼はショートプレートという脂身の多い安価なバラ肉の一部しか使用しません。そのため、パーツ売りのアメリカ産牛肉はとても使いやすいのです。しかしオーストラリア産牛肉の場合は、ショートプレート以外の部位もついてくるのでそれを使う必要があります。


当時からココスやビッグボーイなど幅広い業態を抱えていたゼンショーは他の部位も問題なく使えますが、牛丼一本足打法の吉野家にはそれができません。そこが牛丼復活までの期間の差に繋がったわけです。


BSE発生当時、すき家は店舗数で吉野家と圧倒的に差をつけられていましたが、2008年には逆転。現在では逆に大きな差をつけています。


このように多様な業態を抱えることで食材を効率的に活用することができるようになるわけですね。日本最大の外食チェーンとなったゼンショーがロッテリアを傘下に収め、今後ハンバーガーの絶対王者マクドナルドにどう立ち向かうのか注目です。


■食べ放題の店がたくさん食べられても儲かる仕組み


最近街を歩いていて増えてきたと感じるのが食べ放題です。


さすがに40代も半ばに差し掛かると以前のように何が何でも元を取ろうという闘志はなくなりましたが、好きなものを好きなだけ食べられるというのはワクワクします。


我が家の子供にもフレンチや和食のコースよりも間違いなく食べ放題の方が人気です。いくらでも食べていいとなるとやはり気になるのは経営状況です。あれだけ好きな物を好きなだけ食べられたらお店としても赤字になって、潰れてしまうんではないかと心配になる方もいるかもしれません。しかしご安心を! しっかり儲かるからこそ、店舗が増えているのです!


■なぜ食べ放題の店はあの価格でもやっていけるのか?


まず食べ放題はそもそもの価格設定がそれなりに高いです。焼肉業態のディナーであれば3000〜4000円はします。更に飲み放題をつけると1500〜2000円が加算されます。この価格設定は、単品で焼肉を好きな分だけ注文したと考えればお得かもしれません。


出所=『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?

しかしディナーで使う金額と考えれば実はそれなりの価格になります。お客さんからすると、たくさん食べる分、お得感はありますが、お店からすると多少たくさん食べられても価格設定がそれなりに高ければ控えめに単品を注文されるよりも実は儲かります。


図表4は通常オーダーの場合と飲み放題の場合のお店側の利益比較になります。


生ビールの販売単価500円、原価単価150円。酎ハイの販売単価400円、原価単価50円で計算してみます。


通常オーダーの場合、金額のことを気にしながら飲むので若干控えめな数量になりがちです(①1400円)。しかし時には思いっきり飲みたい夜もあり、その場合通常オーダーだと結構な金額になります(②2800円)。


お客さんからすると思いっきり飲みたい時は飲み放題の方がお得なので飲み放題をチョイスします。上記の場合、飲み放題にすることで②の2800円から③の2000円になるのでお得です。お店側の利益も②の通常オーダーで思いっきり飲んでもらった方が一番多くなります。



平野薫『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』(ダイヤモンド社)

しかし、通常オーダーで控えめに飲んだ場合①と飲み放題で思いっきり飲んだ場合③では、実は③の方がお店としては多くの利益がたくさん残ります(①1050円、③1300円)。これと同じようにある程度の価格設定にしておけば、たくさん食べるお客さんがいたとしてもそれなりに儲かる仕組みになっています。


飲食店の食材原価は一般的に30%ほどといわれており、食べ放題の場合は沢山食べる人がいればその分原価は上がりますが、元々の単価を考えれば原価割れするようなことはほとんどありません。ご飯物やサイドメニューは驚くほど原価が低いものも多いので、実際は思っているほど原価は高くないのです。


■食べ放題のお店はローコストオペレーションで人件費を抑制


また食べ放題の業態は焼き肉やしゃぶしゃぶなど、お客さんがセルフで調理するメニューが多く、お店側の調理の手間がかかりません。またお客さんが自分でメニューを取りにいくビュッフェ形式の場合は、オーダーを受ける手間もなく、まとめて大量に調理するため同じく調理の手間が少なく済みます。そのため通常の飲食店と比べて店員の人数を抑えて人件費を抑制することが可能です。


出所=『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?

ただ、食べ放題をする上で非常に重要なのが集客です。コストを抑える工夫をしていたとしてもやはり通常の飲食店よりは原価率が高くなりがちです。そのために、多くのお客さんに来店してもらう必要があります。小規模の個人店だとブランド力もなく広告宣伝費も掛けられないため、大手と比べて集客が難しいです。そのため、食べ放題を提供しているのは大手外食チェーンかそのフランチャイズ企業がほとんどです。また原価率が高い(利益率が低い)分、時間制限をつけ回転を上げる必要があります。


撮影=プレジデントオンライン編集部

このようにお得な食べ放題を実現する上で、一定以上の価格、人数を抑えたローコストオペレーション、集客という様々な仕組みがあるわけですね。


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平野 薫(ひらの・かおる)
小宮コンサルタンツ コンサルタントチームリーダー、エグゼクティブコンサルタント
1978年、宮城県大崎市生まれ。宇都宮大学農学部卒業後、キユーピー入社。業務用(現フードサービス)営業を担当。帝国データバンクを経て、2011年、小宮コンサルタンツ入社。数社の社外取締役も兼務。これまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施。現在も15社の企業の経営会議に定期的に参加して業績数字のチェックも行っている。特技は初めて訪問した街の人口を街並みから推測することで、ほとんどの場合±30%以内で当てることができる。趣味は年間100泊に及ぶ出張先で早朝にウォーキングをしながら、身近な疑問を発見し数字のネタを集めること。
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(小宮コンサルタンツ コンサルタントチームリーダー、エグゼクティブコンサルタント 平野 薫)

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