この人に任せればコメ価格は下げられる…農政の専門家が名前をあげるJA農協にメスを入れられる唯一の人物

2025年3月28日(金)18時15分 プレジデント社

岡山県産のコメが並ぶスーパー。今月から店頭価格が過去最高値をつけている=2025年3月4日、岡山県岡山市中区 - 写真提供=山陽新聞/共同通信イメージズ

石破茂首相が「強力な物価対策を行う」意向を示した。コメ価格は下がるのか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「市場を独占して価格を操作しているJA農協がある限り、コメの値段は下がらない。本気で物価高対策を行うなら、ここにメスを入れるべきだ」という——。
写真提供=山陽新聞/共同通信イメージズ
岡山県産のコメが並ぶスーパー。今月から店頭価格が過去最高値をつけている=2025年3月4日、岡山県岡山市中区 - 写真提供=山陽新聞/共同通信イメージズ

■「コメ価格を下げる」と言及した石破首相


3月25日、石破茂総理は「予算成立後、コメやガソリンを念頭に強力な物価高対策を実施する」旨述べたと報道された。


予算成立に向けて協議している最中に飛び出した発言に、参議院の与野党の国対委員長は怒り心頭だが、コメ対策は早急に行わなければならないことは事実だ。問題は、何をやるかである。効果のない対策を講じても意味はない。


コメのような食料・農産物については、価格は需要と供給で決まる。


需要が増えれば、または供給が減れば、価格は上昇する。逆の場合には、低下する。豊作になればキャベツの価格は暴落し、長雨などで不作になれば急騰する。中学校で習う経済原則である。


昨年の夏以降、農水省は新米(24年産米)が供給されるようになると米価は下がると言ってきた。しかし、逆に米価は高騰した。これは23年産米が猛暑等によって供給が40万トンほど減少し、この分を本来24年10月から消費するはずの24年産米から先食いしたからである。“消えたコメ”などはない。そもそも供給が端から40万トン減少していたから、需要と供給の経済学で米価は上昇したのである。


■備蓄米放出も価格が下がらないワケ


新米が出回っても、それは年間消費されることを前提に供給される。年間の供給が40万トン不足していれば、価格が上がるに決まっている。残念ながら、農水省はこの基本的な経済学を理解してなかった。さらに、24年産米が供給される予定の10月から半年たった中間時点の3月になっても、民間の在庫量は前年同月比で40万トン減少していると思われる(24年10月から25年1月まで前年同月比44万トン減少)。同じ40万トンの不足でも、500万トンのコメの供給が必要な昨年10月時点より、250万トンのコメの供給が必要な今年3月時点の方がより供給不足は深刻である。だから、コメの値段は昨年9月から上昇していったのだ。


では、備蓄米の放出量を増やせばよいのかというとそうではない。


備蓄米が放出されても、コメの値段が下がる兆しが見えない。それは、農産物の中でもコメについては、JA農協という独占的な組織が存在するからである。


うま農業協同組合 本店(写真=地方の田舎もの/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

■コメ市場を独占して価格を操作


JA農協の由来と力を説明しよう。


戦後日本は大変な食糧難に見舞われた。浮浪者がたむろした上野駅では毎日数名の餓死者がでた。戦時中から食糧が不足していたため、政府は1942年の食糧管理法によって国民に平等にコメを供給する配給制度を実施していた。それに加え、1945年産米が大不作でヤミ値が高騰した。農家は政府に売らずにヤミ市場にコメを売った。それでは配給制度を運用する農林省にコメが集まらなくなるので、戦前の統制団体を改組してコメの集荷にあたらせようとして農林省が作ったのがJA農協である。


酪農にはJA農協以外に酪農業協同組合(専門農協という)が存在し、生乳の集荷・販売にあたっている。しかし、コメについてはJA農協以外に農協はない。独占的な市場支配力を行使したいJA農協は、コメについては専門農協を作ることを許さなかった。食糧管理制度が存在していたころ、生産者からのJA農協の集荷率は95%に達していた(残りの5%は全集連という商人系)。


これまでもJA農協はコメの値段を操作してきた。豊作で米価が下がりそうなのに、在庫操作によって、逆に上がったときもあった。


2011年まで公正なコメ取引のセンター(「全国米穀取引・価格形成センター」)が存在した。しかし、圧倒的な市場支配力を背景に卸売業者と直接交渉(相対取引という)して値決めした方が有利だと判断したJA農協は、このセンターの利用を拒否するようになったため、同センターの利用は激減し廃止に追い込まれた


■コメの先物取引もJA農協に潰された


先物取引は、農家にとって経営を安定させるリスクヘッジの機能を果たす。


戦時中統制経済に移行するまで、コメの価格形成は1730年創設の大阪堂島のコメ先物市場で行われてきた。大阪堂島のコメ市場は世界最初の先物取引の市場だった。ところが統制経済に移行すると自由な取引は否定され、1939年に堂島市場は閉鎖された。コメの統制を完成したのが1942年の食糧管理法だった。同法が1995年に廃止されて以降、先物取引の申請が商品取引所から度々行われたが、コメ価格の操作が困難となると判断したJA農協の反対により潰されてきた。現在指数取引がやっと認められたに過ぎない。


佐々木吉光作の堂島米取引所の浮世絵(写真=大阪府立中之島図書館提供/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

コメは保存が利くので、独占力を持つJA農協は在庫操作による価格操作を行いやすい。同じく政治力を発揮する酪農については、生産物は保存が利かない生乳である。農業団体が需給操作をしようとすると、生乳を川に投棄するなどで廃棄処分するしかない。このため、生乳の供給管理は、それをバターと脱脂粉乳に加工して行うしかない。その在庫を管理するのは乳業メーカーであって、酪農業協同組合ではない。


■JA農協が絶対にコメ価格を下げない理由


今回JA農協がコメの値段を下げようとしない二つの特別の理由がある。


一つは、JA農協は、24年産の集荷量が落ちたため、25年産米については、24年産の179万トンから48万トン上積みし227万トンにするという目標を掲げている。そのために、農家に高い概算金(後に実際の売買代金で調整される仮渡金)を提示しようとしている。既にJA全農にいがたは農家への概算金を昨年の60キログラム当たり1万7000円に対し35%増の2万3000円とした。しかも、これは最低保証価格だという。概算金はあくまでも仮渡金だが、後に米価が下がり農家から過剰に支払った価格分を取り戻そうとすると、農家は次から農協に出荷しなくなる。JA農協としては、高く提示した概算金の水準を維持しようとするしかない。


次に、備蓄米について、農水省は1年後の買い戻し特約を付けて農協に販売した。買い戻すことは一年後に同量を市場から引き上げることなので、その時点での米価を上昇させる。さらに、JA農協としては買ったコメと同量のコメを一年後政府に売らなければならない。高く買って安く売ると損をする。今回農協の買い付け価格は60キログラム当たり2万1000円となった。現在の2万6000円の相対価格(卸売業者への農協販売価格)よりも安いが、平常年の1万5000円に比べると高い水準である。JA農協としては、備蓄米の売買で損失が出ないようにするためには、米価を2万1000円以上に維持する必要がある。


つまり、備蓄米放出に抵抗してきた農水省は、備蓄米が放出されても市場への供給量が増えずコメの値段が下がらない仕組みを組み込んだのである。これを正さないで石破総理が備蓄米の追加放出を決めてもコメの値段は下がらない。


■対策1「コメ政策を官房長官直轄とする」


では、石破総理は何をなすべきだろうか?


昨年夏から、農水省はコメの値段を下げることに否定的な態度をとり続けてきた。23年産米が猛暑の影響を受けていたことは23年秋にわかっていた。生産が減少し供給が不足したのだ。


昨夏スーパーからコメがなくなった際、卸売業者等の在庫が40万トンも減少しているのに、卸売業者が売り惜しんでいるからだと卸売業者の責任にした。秋に新米が出始めると価格が落ち着くと誤った見通しを示した。しかし、最近に至るまで流通在庫が前年同月比で40万トン以上減少している状況からすれば、新米を先食いしていたことは明らかだった。供給が不足しているので、需要と供給の経済学通り、その後コメの値段は高騰した。


すると、農水省は得体のしれない業者がコメ流通に参入し投機目的で買い占めているからだと主張を切り替えた。農水相も繰り返し、流通段階でコメがスタックしているからコメの値段が下がらないと発言している。“消えたコメ”である。これが農協の集荷量の減少21万トンに見合うのだと言った。一貫して流通業者が悪いのだという主張である。


しかし、農水省は一度もこの“消えたコメ21万トン”の存在を明らかにしていない。どこかにあるはずなのに確認できない“幻のコメ”である。同省は、備蓄米の放出はこの流通の目詰まりを解消するためのもので、備蓄米を放出するとこのコメが市場に出てくると主張していた。そうであれば、市場の供給量が備蓄米の放出量の倍の42万トン増加し、米価は相当下がるはずだが、一向にその気配はない。遅ればせながら、騙されていたマスコミも、最近では“消えたコメ”はないのではないかと疑うようになってきた。また、既に述べたように、農水省は備蓄米を放出してもコメの値段が下がらない仕組みを組み込んでいる。


要するに、農水省はコメの値段を下げる気はさらさらないのだ。農水省が目を向けるのは、JA農協を中心とする農政トライアングルである。米価を高め零細な兼業農家を温存してそのサラリーマン収入をJAバンクの預金として活用したいJA農協、その関連組織に天下りしたい農水省、JA農協が組織する票に依存する自民党農林族議員。かれらには、国民や消費者の姿は映らない。このような組織に、コメについての“強力な物価高対策”を任せることは不適当である。


林官房長官は農水大臣の経験もあるし、農政トライアングルに染まっている議員でもない。官房長官の下で、コメ対策についての方針を決定し、それを農水大臣を通さずに直接農水省の業務担当に指示する体制を講ずるべきである。


林芳正内閣官房長官(自民党HPより)

■対策2「備蓄米は卸売業者や大手スーパーに直接販売に変更」


現在備蓄米は、ほぼ全量JA農協に販売されている。JA農協は米価低下を恐れて備蓄米の放出に反対してきた。備蓄米21万トンが卸売業者に流れても、JA農協が従来卸売業者に販売していた21万トンを販売しなければ、市場への流通量は増えず、コメの値段は下がらない。これまでも、JA農協は在庫を調整することでコメの値段を操作してきた。


食糧法(「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」)は備蓄米の放出先を農協などの集荷業者だけでなく、卸売業者やスーパーなどの流通業者にも認めている。農水省がその放出先を農協などに限定したのは、備蓄米を放出してもJA農協は市場への供給を増やさないという目論見があった。備蓄米は農協に販売することをやめ、消費者に近い卸売業者やスーパーなどに販売すべきである。


同時に、備蓄米の買い戻し特約という条件を廃止すべきである。これまで、このような特約を付けて放出することはなかった。米価を下げまいとする農水省の姑息(こそく)な手段である。


■農水省の不誠実さを示す「汚染米事件」


2001年のBSE発生に伴う混乱の際、農林水産省は“生産者重視の農政から消費者に軸足を置いた行政を展開する”と宣言し、出直しを表明した。


にもかかわらず、2008年には汚染米事件が政治問題化した。汚染米事件とは、農林水産省から工業用の糊として売却されたカビや農薬で汚染されたコメを、「三笠フーズ」などが、焼酎、あられ、せんべいなどの加工用途、保育園の給食用、弁当等に不正に横流しをした事件である。


農林水産省はこのような毒性の高い物質を横流し防止の着色・変形加工をしないまま、通常の主食用向けと同様の丸米と呼ばれる状態で三笠フーズに売却した。5年間に96回も実施したという売却後の横流れ防止の検査についても、農林水産省の担当者は三笠フーズの帳簿だけで売却先を確認し、帳簿上の売却先に出向いて確認しようとはしなかった。三笠フーズの担当者さえ、「商品の行き先をたどれば、簡単に虚偽を見抜けたはず」と話している。検査日を事前に三笠フーズに通告して検査していた点も国会で追及され、担当局長は検査の杜撰さを認めた。汚染米事件は2007年1月に不正な横流しが行われているという告発が残留農薬検査書付きで農林水産省になされたが、担当課長は農政事務所に告発書は示さず、三笠フーズに対する在庫確認を指示しただけで、真剣に調査しようとしなかった。


写真=iStock.com/Alex Potemkin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Alex Potemkin

この事件をきっかけに、農水省はコメのトレーサビリティ法(「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」)を作り、生産から販売・提供までの各段階を通じ、取引等の記録を作成・保存させることにした。これをキチンと運用していれば、“消えたコメ”などありえない。懲りないのだ。


■かつて農水省改革が掲げられたが…


このような中で、2008年9月に就任した石破農林水産大臣は、農林水産省の中堅職員に11月「農林水産省改革のための緊急提言」をまとめさせた。


この提言は極めて率直である。冒頭


今回の汚染米問題で農林水産省の信頼は完全に失墜した。(BSE問題の際)職員は消費者の視点、国民の健康を守る意識を最優先することを誓ったはずであった。にもかかわらず今回の問題が発生した。この時点で、省としての使命を果たせない以上、農林水産省は廃止されて然るべきとの審判が国民から下されたと、職員一人一人が自覚するべきである

と厳しい自己批判を行っている。


その上で、


① 国民のためにこそ存在するという使命感の欠如


② 事なかれ主義の調整型政策決定(直接的な利害関係者と調整すれば事足りるといった自己防衛的な政策決定がはびこる、政策の裏付けとなる事実を大切にして客観的・科学的な政策決定を行い、それを継続的に検証する意識も低下、特定の勢力の意向を強く反映した政策決定が行われる)


③ 攻めよりも守りを重視する消極的判断の横行(国民視点で果敢な政策を打ち出す人材が育ちにくい環境が形成されている。この結果、農林水産省においては今まで自分たちが行ってきた業務を守ることのみに力点が置かれ、自発的に改革に取り組む職員が阻害されることとなった)


と指摘している。


■もう農水省は解体するしかない


農林水産省で必要な能力とは、「特定の勢力の意向を聞く能力」「利害関係者と調整する能力」「いずれ自分がOBになることも考え、OBの天下り先の確保を含めた農林水産省の組織維持に貢献できる能力」「上司や自民党農林族にゴマすりを行う能力」であって、経済学等を応用して農業や農村の実態を客観的・科学的に分析し、国民のために適切な政策を企画・立案・実現する能力ではなかった。


何度も同じ不祥事が繰り返され、その都度反省や二度と問題を起さないという誓いがなされるが、すぐに元に戻ってしまう。また、今回のコメ不足の根本にある“減反政策”を廃止するためには、これを推進してきた農政トライアングルを消滅させなければならない。国民は本気で農水省の解体に着手しなければならないときが来たのかもしれない。


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山下 一仁(やました・かずひと)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1955年岡山県生まれ。77年東京大学法学部卒業後、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、同局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員、2010年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。著書に『バターが買えない不都合な真実』(幻冬舎新書)、『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』『国民のための「食と農」の授業』(ともに日本経済新聞出版社)、『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(幻冬舎新書)など多数。近刊に『食料安全保障の研究 襲い来る食料途絶にどう備える』(日本経済新聞出版)がある。
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(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 山下 一仁)

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