大阪を東京・汐留のようにするわけにはいかない…大阪駅前の超一等地に「世界最大級の公園」ができたワケ
2025年3月31日(月)7時15分 プレジデント社
撮影=プレジデントオンライン編集部
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■大阪の巨大再開発エリアのど真ん中にある意外な施設
いま日本で最も注目を集める再開発地区はJR大阪駅北側の「うめきた」だろう。もともと旧国鉄の貨物駅で、「関西最後の一等地」と呼ばれていた。
2期に分かれて開発が進んでおり、2013年に1期「グランフロント大阪」がオープン。2期として「グラングリーン大阪」が開発中(2027年全面開業予定)だ。その南街区に今年3月21日、「グラングリーン南館」がオープンした。開業3日間の来場者は約70万人にのぼったという。
今回オープンした南街区には地上18〜39階のビル3棟が連なる。ホテルチェーン・ヒルトンの最上級ブランド「ウォルドーフ・アストリア」(4月3日開業)や1泊20万円を超す部屋もある阪急阪神ホテルズの「ホテル阪急グランレスパイア大阪」がある。
また南館には、アジア初上陸となるフードコート「タイムアウトマーケット大阪」もできた。約3000平方メートルにレストランやバー、イベントスペースがあり、関西屈指の名店があつまったことで比較的高価格帯のラインアップとなっている。
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おしゃれな雰囲気のタイムアウトマーケット大阪 - 撮影=プレジデントオンライン編集部
■なぜお金をうまない公園を作ったのか
こうして列挙すると「お金持ちのインバウンド向け施設でしょ」と思われるかもしれない。
しかしながら、グラングリーン大阪は富裕層やインバウンドだけでなく、広く多くの人に開かれている。というのもグラングリーン大阪の南街区、工事中の北街区などすべてのエリアを合計した敷地面積約9.1ヘクタールのうち、およそ半分の4.5ヘクタールを「うめきた公園」が占めるのだ。
近年の再開発では「緑」や「自然」を謳うのがトレンドだ。とはいえ「緑はもうからない」とされ、あくまで一部の緑化に限られているケースも多い。対して、グラングリーン大阪のそれは、従来の再開発とは一線を画するレベルの規模である。ちなみに、ターミナル駅と直結する都市型公園としては、世界でも最大級規模という。
なぜ、こんなことが実現できたのか。うめきた再開発におけるキーマンである、関西経済同友会の篠﨑由紀子さんに話を聞いた。
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今年3月に開業したグラングリーン大阪南館にはプールもある - 撮影=プレジデントオンライン編集部
■公園ができた理由① 反面教師・汐留
幼少期から大阪市内で育ち、生粋の大阪っ子であるという篠﨑さんはもともと大学を卒業後に竹中工務店開発計画本部で4年間勤務。その後フリーを経て、1979年に街づくりにかんするシンクタンク・都市生活研究所を立ち上げている。関西経済同友会には1987年から加入しており、大阪の都市活性化に長らく取り組んできた。
篠﨑さんによると、関西経済同友会がうめきた開発に向けて動き出したのは2001年だ。この年は小泉内閣が経済対策として都市再生を掲げていた。チャンスと考えた。
篠﨑さんは当時を振り返り、「大阪の再活性化に向けて、駅前一等地に24ヘクタールもの未利用地がある点が大きな課題でした」と話す。後に「うめきた」と呼ばれるわけだが、ここは「梅田北ヤード」と呼ばれる旧国鉄の貨物駅だった。
写真=時事通信フォト
JR大阪駅北側にある貨物駅跡地「うめきた」の2期区域(約17ヘクタール)=2014年4月15日、大阪市北区 - 写真=時事通信フォト
1987年の国鉄民営化を機に、貨物駅機能を吹田へ移転して、跡地は売却し旧国鉄の長期債務の償還にあてるとする計画が動き出していたが、吹田市側の住民の反対運動で頓挫。さらに、バブル崩壊もあって旧国鉄から土地を継承した当時の土地保有者(日本鉄道建設公団国鉄精算事業本部)は買い手探しに難航するなど課題が続出していた。
処分期限が徐々に近づく中で解決案もなく、地元ではうめきたの土地は切り売りされるのではとの懸念が膨らんでいった。
そこに待ったをかけたのが、関西経済同友会だった。同じ旧国鉄貨物駅跡地で再開発に「失敗」した汐留が念頭にあった。
左=汐留シティセンター(写真=Wing1990hk/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)、右=汐留シオサイト5区 イタリア街(写真=Kakidai/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
■大阪駅前を汐留のようにしてはいけない
篠﨑さんは汐留の再開発について、それぞれの建物は魅力的としつつ、街全体を見渡したときに「あまりにもったいない」と話す。
「32ヘクタールもの広大な敷地を持つ汐留は投資の過熱をおさえるために売却がしばらく見送られ、実際に売却したのはバブル崩壊後です。各社が不動産投資に後ろ向きになったタイミングで、売り急いだため、切り売りになってしまいました。それによって、一体感に乏しいバラバラの開発が進んでしまった。大阪駅前を汐留のようにしてはいけないと感じました」(篠﨑さん、以下すべて同)
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うめきた公園誕生のキーパーソンである篠﨑さん。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部
そこで関西経済同友会は国や大阪市、吹田市、土地保有者などへ働きかけを行い、経済界も支援する約束で、大阪市に一体な開発を求めた。これを受けて大阪市は再開発に着手することになる。
以降は大阪市が経済界や大学も巻き込んで、グランドデザインの国際コンペも実施しながら2004年に「まちづくり基本計画」を策定。
「世界に誇るゲートウェイづくり」「知的創造活動の拠点(ナレッジ・キャピタル)づくり」といったほか、グラングリーン大阪につながる「水と緑あふれる環境づくり」というコンセプトも、このとき登場している。
■公園ができた理由② 緑の少ない大阪
その後再開発は1期(グランフロント大阪)と2期(グラングリーン大阪)にわけて進めることとなるが、1期開発の実施計画ではみどりのオープンスペースは乏しいことが明らかになってくる。
これに危機感を抱いた関西経済同友会は2008年に「2期はグリーンパークに」との提言を出し、独自に描いた2期のみどりの街のイメージ図を公表し、市民向けの連続講演会を開くなどして世論に訴えかけていった。
このグリーンパーク提言の背景には、大阪に緑が乏しかったことがある。
市内に大阪城公園や鶴見緑地、長居公園などがあるものの、国土交通省によると2022年度末で大阪市の「1人当たり都市公園面積」は国内でワースト2位だ。
「大阪駅前を緑あふれる空間にすれば、住む人働く人にも観光にも大きな影響を与えうる」(同)との思いがあった。
■公園ができた理由③ 1期の反省
現在の姿を見るとよくわかるが、同じ「うめきた」とはいえ1期のグランフロント大阪と2期のグラングリーン大阪では、印象が異なる。前者は一般的な再開発のイメージをぬぐい切れないが、後者は広大な緑地が特徴的だ。
なぜ同じエリアの開発で違いがあるのか。端的に言えば、グランフロント大阪は民間主導だった。
グランフロント大阪(写真=Mc681/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
篠﨑さんは1期の事業方式への反省を挙げる。グランフロント大阪では、商業施設やオフィスとは別に、「交流から新たな産業を生み出す」というテーマを掲げて国内外の産官学の「知」の交流を目指す知的創造拠点を設けることになっていた。
しかしながら、それを体現するような施設はどうしても採算性に乏しい。
そこでデベロッパー側から床面積を増やす提案があり、「仕方のないこととはいえ、結果的にオープンスペースの乏しい街」(同)となった。
「水と緑あふれる環境づくり」を実現するためは、民間だけではなく行政が再開発に積極的に介入することが必要だと篠﨑さんらは痛感した。これを、2期への課題とし、より強力に大阪市に緑豊かな再開発を訴えた。
とはいえ、再開発では一定程度の収益性も必要だ。
実際、計画を検討している際にデベロッパーから「緑をメインにしては、採算が取れない」「緑は金を生まない」といった声が何度も出たという。
しかし、世界を見渡せば「緑の経済効果」はあなどれないようだ。篠﨑さんが例として出したのが、韓国の清渓川(チョンゲチョン)だ。
■「緑はもうからない」の間違い
ソウル市内を流れ、川沿いは「都会のオアシス」として知られる。このチョンゲチョン、過去には暗渠化し、上には高架道路が通っていた。しかし2000年代前半に「復元事業」が実施され、完成初年度に3000万人が訪れるなど観光名所と化し周辺の地価は上昇、経済効果は約1兆6000億円と算出されている。
清渓川(写真=stari4ek/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)
昨今、こうした事例はアメリカ・シカゴのミレニアムパークやニューヨークのブライアントパーク、シンガポールなど世界的にうまれている。グラングリーン大阪でも経済効果もある自然を実現できると訴えた(※)。
こうしたアピールも影響し、2014年11月、うめきた2期について、地区全体8ヘクタールのおおむね4ヘクタールを市と府が整備する公園に、残りおおむね4ヘクタールを民間事業者が整備する「まちづくりの方針案」が固まった。篠﨑さんら「大阪に緑を」と訴えてきた人たちの努力が結実した。
※一部開業に先立って2024年8月に日本政策投資銀行と都市再生機構がグラングリーン大阪を対象に「みどりの多様な社会的効果を検証」している。報告書によれば、グラングリーン大阪によって周辺地価は最大で19.4%上昇(2023年比)、府への経済波及効果が年間で639億円とされる。
■開発した街を長期で育てる
グラングリーン大阪で目指すのは、長期的な街づくりだ。そのうち中核を担ううめきた公園の土地は、都市再生機構(UR)が整備した後に大阪市に引き渡されることになっている。
公園については、三菱地所などによるジョイントベンチャー(JV)が組成した「うめきたMMO」が指定管理者となり、50年にわたって運営管理を行う。
このうめきたMMOが中心となり、近隣住民や企業、そして自治体を巻き込みながら公園や街を「育てる」のがグラングリーン大阪のコンセプトだ。
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公園ができてから大阪駅前には子持ちの家族の姿が散見されるように - 撮影=プレジデントオンライン編集部
三菱地所のグラングリーン大阪室室長の神林祐一さんは「物理的に木が育つということもありますが、来ていただくお子さんとともに育つ、一人ひとりの思い出に刻まれるなど、共に過ごせる場となることを意識しました」と話す。
今後の課題はあるのか。
篠﨑さんは公園の誕生に満足しつつも「緑の経済効果はあるとはいえ、実際には2〜3年で大きな成果を生み出せるかというと、難しい。人口減少社会では短期スパンでスクラップ・アンド・ビルドを繰り返すのではなく、開発した街を長期で育てる観点が重要になってくるのでは」と言う。
■大阪をマネする時代に
この点、三菱地所の神林さんは「街をつくって終わりではない。そこがうめきたの大変なところでもあり、面白いところだと感じている」と話す。
「開発がきっかけとなって、テナントが入って、マンションも動いて、そこにお金が生まれる。そのお金が公園の維持管理などにも使われて、結果的にみんなが幸せになる。そういう関係性や経済の循環が、熱を持ってしっかり回っていくことが大切だと思います」(同)
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うめきたの「森」の中で談笑するサラリーマン - 撮影=プレジデントオンライン編集部
直近では国土交通省が「優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG認定)」を開始した。「気候変動への対応」「生物多様性の確保」「Well-beingの向上」などに貢献する緑地確保の取り組みを評価するもので、第1弾として東京都の「大手町タワー」、大阪市では「新梅田シティ」などが最高ランクの3つ星認定を受けている。
施設と緑を巡る制度の整備が進んでおり、今後はグラングリーン大阪のような再開発が増えていくかもしれない。
「緑はもうからない」時代は少しずつ変わり始めている。さまざまな反面教師を踏まえて生まれるグラングリーン大阪は、その大きなターニングポイントになりそうだ。
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鬼頭 勇大(きとう・ゆうだい)
フリーライター・編集者
広島カープの熱狂的ファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。
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(フリーライター・編集者 鬼頭 勇大)