平均30歳で会社を立ち上げ、42歳で億万長者に…「令和時代に大金を稼いでいる日本人」の共通点

2025年4月3日(木)17時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oatawa

日本経済が復活する可能性はあるのか。ジャーナリストのリチャード・カッツさんは「縮小しつつある大企業を優遇するだけでなく、成長力と雇用創出力がある創業5年未満の企業を支援することが必要だ」という。著書『「失われた30年」に誰がした──日本経済の分岐点』(早川書房)の序章より、一部を紹介する。
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■いまの人には「選択肢」がある


よいニュースがある。一世代を経てようやく、日本はストーリーを書きかえる力を蓄えた。表面上は、経済はどうしようもなく停滞し、政治はがっかりするほど反応が鈍い。しかし水面下では、6つの大きな潮流が生まれ、さらに市民社会で地殻変動も起きていて、希望がもてる。


大きな潮流には、世代交代に伴う考え方の変化、既存企業と新規参入企業のパワーバランスを変えるテクノロジーの変化、ジェンダー関係の変化、人口構成の転換による影響、グローバル化から受ける効果、そして経済成長の停滞に起因する政治的な緊張がある。


「祖父の世代はとても貧しい子ども時代を送っていたので、大企業で安定した仕事につければ天国でした」と、日本産業推進機構(NSSK)の代表取締役社長の津坂純は語る(2018年6月のインタビュー)。同機構は、東京に本拠をおく株式未公開会社で、中小企業の事業承継と経営向上を手がける。


「父の世代になると、サラリーマンは退屈でストレスがたまる仕事でした。でも、安定した生活を願うなら、ほかに選択肢はなかった。いまの人たちは、有名な大企業を離れ、積極的に新しい会社で新しい仕事をして、もっと充実した人生を送ろうとしています」


■企業と社員のマッチングが課題に


最近億万長者(ビリオネア)(訳注/資産10億ドル以上)になった日本人、南壮一郎は、先にあげた大きな潮流の3つを体現している。世代の変化、テクノロジーの変化、グローバル化だ。


南は、インターネット通販の大手企業楽天の創設者である三木谷浩から、ビジネスは社会問題を解決する手段だと教え込まれた。そして、日本の終身雇用制度は成長を阻害すると考えた。


終身雇用制のもとでは、有名企業は中途採用をしない。そのため、大企業を退職して「新参者」の会社を立ち上げたり、そうした会社で仕事を見つけたりすることは、リスクが非常に大きくなる。新しい会社で失敗すると、前の仕事ほど実入りのよい仕事を新たに得られることはめったにない。これが、日本に革新的な新しい企業が少ないことの大きな理由だ。


それでも、能力が高い社員、とくに20代、30代の社員で進路変更を望む人が増えていて、中途採用に積極的な企業も増えている。問題は、そうした企業と人が知り合う機会をつくることだ。


■「ビズリーチ」創業者は億万長者に


そういうわけで、2009年、南は33歳のときに、マッチメーカーとなるべく、インターネットを活用した「ビズリーチ」という企業を立ち上げた(訳注/2020年よりビジョナル)。


年収600万円(約4万6000ドル)以上で新しい職を求める人は、ビジョナルが運営するビズリーチのウェブサイトに履歴書を送付する(訳注/同社ウェブサイトでは年収を登録の条件と明示しているわけではない)。すると、サイトに登録している1万7000社が直接コンタクトをとってくる。


2021年7月には、同サイトで140万人の求職者があった。2021年にビジョナルが株式市場に上場されると、南は億万長者になった。


日本の多くの起業家と同じく、南も国際的なバックグラウンドをもつ。子ども時代に家族でカナダで何年かを過ごした。アメリカのタフツ大学で学位をとり、モルガン・スタンレー証券(訳注/社名は当時)の東京支社に入社した。


■「市場のすき間」を埋めるビジネス


南だけではない。日本では2021年に55人の億万長者がいたが、そのうち11人が過去25年以内に会社を設立していた。ここ数十年で、成長が目ざましい新規企業がこれほど多く参入してきたのは初めてだ。


最近の億万長者はどこが違うのだろうか? 若く国際感覚に富み、慣例にこだわらない考え方をする。平均すると30歳で自分の会社を立ち上げ、42歳には億万長者になっていた。多くが海外で暮らした経験があり、海外の大学で学び、また外国企業で働いた経験がある。


そして最も重要なことだが、彼らは独自の考え方で市場のすき間を見つけ、そこを埋める方法を思いついた。ここが、従来からある企業の幹部には見えていないところだ。


「常識を打ち破らなければ物事は成し遂げられない」とは、億万長者の一人、元榮太一郎の言葉だ。元榮はアメリカ生まれで、オンラインによる法律サービスを提供している。


新興の億万長者の多くは、フィンテックや人工知能(AI)の分野で新奇な発明をするというよりは、最新のテクノロジーを活用して、よくある既存の事業に革命を起こす。中小企業がこれまで取り込めなかった顧客にアクセスできるようになるeコマース、医師に対する医学情報のオンライン提供サービス、中小企業向け会計サービスなどだ。何より重要なのは、こうした事業は新規企業という氷山の一角にすぎないことだ。


■アメリカで急成長中の企業は5万社以上


もちろん、このような社会の変化は、経済の再生に必要なクリティカル・マス(臨界量)に達するにはまだほど遠い。上向きの傾向を促進するために政府が行動を起こさなければ、実現は難しい。それでも、一世代に1度のチャンスが来ているのだ。


「起業家」という言葉を口にすると、人は反射的に、シリコンバレーにいるオタク系の若い男性を思い浮かべる。ピザの空き箱とコークの缶が散乱したガレージに陣取って、百万長者になろう、ひょっとしたら世界的に有名な億万長者になれるかもしれない、と願っている。


じつを言うと、そんな強力エンジンで動くベンチャーは、アメリカの起業家のあいだでごくまれにしか生まれない。シリコンバレーにあるハイテク企業はせいぜい2000社ほどだ。いっぽう、アメリカ全土では急成長をしている企業が5万社以上ある。従業員を10人以上雇用し、3年連続で年間20パーセント以上成長している企業だ。


同様の企業が、韓国には1万6000社、イギリスには1万3000社、フランスには1万社ある。日本についてはわからない。政府がそのような企業の数のデータをとっていないからだ。


■わずか10年で売上高1100万ドルに成長


一般に、急成長する企業は従業員が10人から20人でスタートし、60人から200人くらいまで増える。ハイテク分野の企業数は少なく、たとえば、イギリスでは16パーセントだ。


多くの企業は、新しい製品をつくるか、既存の製品を改良するか、もしくは既存企業より効率的にサービスを提供する方法を見つけ出す。ケンタッキー州ルイビルのヴィジョン・ダイナミクス・ラボラトリーを見てみよう。


同社は、デジタル眼鏡レンズ、眼鏡レンズの表面加工および関連商品を提供する独立研究所だ。高い競争力を誇っているのは、低コスト、高精度、短納期といった基本的な面だけが要因ではなく、規模の大きいメーカーがもっと収益をあげられる分野に注力できるよう、大企業にかわって少量多品種の製品を生産するというニッチな市場を切り開いたことによる。


ヴィジョン・ダイナミクス・ラボラトリーは2007年に設立され、わずか10年で従業員75人、売上高1100万ドルにまで成長した。


写真=iStock.com/gilaxia
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■ひと握りの企業が生み出す「成果」


急速に拡大する企業はなかなか基準にはなりえない。圧倒的多数は、街角の青果店や理髪店のように、小さな事業を続けることにだいたい満足している。こうした事業者はなくてはならない存在だが、革新や成長の原動力になることはない。


これに対し、急成長する数少ない企業──先進国では一般に企業全体のわずか4〜6パーセント──が、その国の雇用と革新と生産性の拡大においてとくに大きな割合を占めている。


2009年から2011年にかけて、アメリカで急成長する企業10万社は、雇用主としての数では全体の2パーセントにすぎなかったが、国全体の実質的な雇用創出の3分の1以上にあたる420万の新規雇用を生み出した。


2011年から2017年の期間で、成長が著しいアメリカ企業1万4000社を平均すると、創業から8年、従業員が200人、年間売上高は3700万ドルだった。これらの企業で合計300万人近い従業員を雇用していた。


■日本には「ガゼル」のデータがない


こうした企業のなかでも、創業から5年未満のとくに新しい企業が非常に重要な役割を担っていて、公的統計で独自のニックネームを頂戴している。「ガゼル」と呼ばれる。地球上で最も敏捷ですばやく動く動物だ。


写真=iStock.com/KenCanning
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1980年代から1990年代にかけてアメリカでは、工場労働者一人あたり生産高の増加分のうち、なんと60パーセントが、創業から5年未満の企業によるものだった。


日本では他の地域と同様、ガゼル企業はまれだ。2009年から2013年にかけて、新規参入した企業による生産力拡大のうち半分を、わずか4パーセントの企業が生み出していた。これらのガゼル企業は設立から4年後に、平均して27人の従業員を雇用し、一人あたり売上高は5800万円(43万ドル)だった。


これに対し残りの新規企業の平均は、従業員数7人、一人あたり売上高は1450万円(11万1000ドル)にすぎなかった。


残念なことに、ほかの先進国とは異なり、日本では急成長する企業の記録を定期的にとっていない。政府は自分たちが重要だと考える事項の記録をとるものだとすると、日本が記録をとっていないという事実は示唆的である。


■トヨタは「エレファント」でいられるか


急成長する企業がガゼルなら、以前からある大企業は「エレファント(象)」と名づけられ、小規模なままでいる小企業は「ネズミ」になる。これらのニックネームは、アメリカの経営コンサルタントによる造語だ。


日本製鉄、(百貨店の)三越、三菱重工といった企業はゾウのように大きく強く、既存の道を行くのには長けているが、年をとるにつれ道筋を変える機敏さを失っていく。IBMは多額の利益をあげたが、いまはもうコンピューター技術を先導する立場ではない。


トヨタはハイブリッド車を開発したが、最高経営責任者(CEO)が完全電気自動車を「誇大宣伝」だと非難しつづけるなら、どれぐらい持ちこたえていけるだろうか。


ソニーは赤字が何年も続いたあと、映画、音楽、ゲームの分野での存在感が功を奏し、収益性が回復した。2021年にはスマートフォン用イメージセンサーの一部の製品で、150億ドル規模の世界市場で45パーセントのシェアを握った。


ただし、イメージセンサーは例外だ。世界のエレクトロニクス業界で、ソニーが革新的な製品を次々に生み出すことを期待されている分野がどれぐらいあるだろう? エレファントのなかでも、日立や富士フイルムなど少数の企業は会社を再構築できたが、どんな国でも再構築が成功するのはまれだ。


■大企業だけ大事にしてはいけない


日本のエレファントの多くは小さくなっている。2009年から2014年にかけて、1984年より前に設立された日本企業では合計250万人の従業員が削減されたが、2005年以降に設立された企業では250万人の雇用が創出された。



リチャード・カッツ『「失われた30年」に誰がした──日本経済の分岐点』(早川書房)

もちろん、どんな経済であっても、ガゼルだけでは繁栄できない。健全なエレファントやネズミも同じように不可欠である。重要なのは適正なバランスをとることだ。そのことを、かつての日本のリーダーは理解していた。


しかし、こんにちではエレファントを優遇する。死にかけたエレファントであっても大事にするので、ガゼルが希少種になってしまう。研究開発費に対する政府の補助金のうち、従業員250人未満の企業に支給されるのはわずか8パーセントと、先進国のなかで最低である。


日本政府が理解していないのは、昨日飛びはねていたガゼルが今日は足をひきずるエレファントになるということだ。経済には新しいガゼルが必要なのだ。


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リチャード・カッツ
ジャーナリスト
「週刊東洋経済」特約記者(在ニューヨーク)。ニューヨーク大学で経済学の修士号を取得。専門は日本経済および日米関係。日本に関する月刊ニュースレター「The Oriental Economist Report」を20年にわたり発行、現在はブログ「Japan Economy Watch」を運営。カーネギー国際問題倫理評議会の元シニアフェロー。著書に『腐りゆく日本というシステム』『不死鳥の日本経済』(東洋経済新報社)、『「失われた30年」に誰がした──日本経済の分岐点』(早川書房)がある。
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(ジャーナリスト リチャード・カッツ)

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