40歳以上の人は年1回受けたほうがいい…将来の失明を予防し全身の健康チェックにもつながる"検査の名前"

2025年4月14日(月)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/phasinphoto

健康診断のオプションで追加するといい項目は何か。産業医の池井佑丞さんは「40歳以上の人で、定期健康診断に『眼底検査』が含まれていない人は、ぜひ追加してほしい。この検査では、目の健康状態に加えて、全身の病気の兆候も捉えることができる」という——。
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■視力検査とは違う「眼底検査」


朝、スマートフォンを手に取ると、片目の視界がぼやけている。最近、パソコンの画面の文字がかすんで見えにくい。運転中、信号が見えづらくなった……そんな違和感を覚えたことはないでしょうか。


「視力検査は毎年受けているし、普段の生活で見えているから大丈夫」と思っている方も多いかもしれません。しかし、健康診断で実施される視力検査だけでは、目の奥にひそむ病気を見逃してしまうことがあります。


そこで知ってほしいのが、「眼底検査」です。実はこの検査、目の健康状態だけでなく、全身の病気の兆候を捉える“窓”でもあるのです。


実際、眼底検査で異常が見つかるケースは決して少なくありません。


近畿健康管理センターの調査によれば、健康診断で眼底検査を受けた人のうち、およそ10人に1人(9.7%)が「要精密検査」と判定されています。2021年に実施された調査では、企業や自治体で働く1360名を対象に、視力・眼圧・眼底・OCT(光干渉断層計)などを組み合わせた精密眼科検診を行った結果、12.4%に緑内障、5.7%に白内障、1.2%に加齢黄斑変性症、さらに糖尿病性網膜症などの重大な眼疾患が見つかったと報告されています(山田昌和ほか,2021)。


これは、10人に1人以上が、視力低下や失明につながる病気をすでに抱えている可能性があることを示しており、普段の生活で「見えているから問題ない」と考えていても、目の奥では病気が進行している可能性があることを示唆しています。


■緑内障の初期はほとんど自覚症状がない


日本では、緑内障の推定患者数は465万人にのぼり、40歳以上の20人に1人、60歳以上では10人に1人が発症するとされています(日本緑内障学会,2021鈴木康之ほか,2008)。この数字は、緑内障が決して高齢者だけの病気ではなく、働き盛りの世代にも無関係ではないことを示しています。


緑内障は、視神経が少しずつダメージを受けることで視野が狭くなっていく病気ですが、初期にはほとんど自覚症状がありません。そのため、気づかないうちに進行し、気づいたときには視野障害がかなり進んでいることも少なくありません。実際、日本における視覚障害の原因疾患の第1位は緑内障であり、2015年には28%、2019年には41%を占めています(的場亮ほか,2023)。


■早期発見と治療で失明を防げる病気


しかし一方で、緑内障は早期に発見し、適切な治療を継続することで、視力や視野を一生保ち続けることができる病気でもあります。治療法としては、点眼薬による眼圧のコントロールを中心に、病状に応じてレーザーや手術などが選択されます。つまり、緑内障は「見つけてさえいれば、失明を防ぐことができる病気」なのです。


「まだ見えているから大丈夫」「少しくらいの見えづらさは年齢のせい」と感じていても、仕事中にモニターの文字がかすんで見えにくい、運転中に信号が見づらい、といった違和感は、視野の異常が始まっているサインかもしれません。日常生活や仕事のパフォーマンスを守るためにも、違和感を放置せず、早めの検査と対策が大切です。


写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■眼底検査は「目の検査」であり「全身の健康チェック」


視力検査では「見えているかどうか」はわかっても、「なぜ見えにくくなるのか」「これから見えにくくなる兆しがあるか」といった、目の奥に潜む異常までは分かりません。その兆候をとらえるのが、「眼底検査」です。


眼底検査とは、目の奥にある網膜や視神経、血管の状態を専用のカメラで観察する検査です。特に視神経の状態や網膜の血管の変化は、自覚症状が出る前から異常が現れることがあるため、病気の“前触れ”をとらえることができます。


たとえば、眼底の中央にある「黄斑(おうはん)」は、物を見るために最も重要な部分。ここに異常があると視力に大きく影響します。また、「視神経乳頭」という部位では、緑内障のサインである“くぼみの拡大(陥凹拡大)”や、視神経の損傷の兆候をとらえることができます。


さらに、眼底は、体内で数少ない「血管や神経の状態を直接観察できる部位」です。網膜には細かい血管が広がっており、糖尿病や高血圧による血管の変化がいち早く現れることも。つまり、眼底検査は「目の検査」であると同時に、「全身の健康チェック」にもつながる検査なのです。


■眼底検査で見つかる主な異常


眼底検査では、以下のような所見が見つかることがあります。それぞれの状態に応じて、経過観察でよいものもあれば、早めの眼科受診が推奨されるものもあります。


【経過観察が望ましい所見】
・硬性白斑:網膜の毛細血管から漏れ出た脂質やタンパク質の沈着。高血圧や糖尿病の兆候になることも。
・ドルーゼン:加齢に伴う沈着物で、加齢黄斑変性のリスクと関連。
・白内障(疑い):水晶体の濁りによる見えづらさ。加齢による変化が多い。
・網膜変性・網膜前膜:視界の歪みや見えにくさの原因になりうる。


【受診が推奨される所見】
・乳頭陥凹拡大・緑内障(疑い):視神経乳頭のくぼみの広がりは、緑内障の初期サイン。
・網膜出血(疑い):糖尿病や高血圧などによって網膜の血管が損傷し、出血が起こることがある。
・黄斑部所見・黄斑変性(疑い):網膜の中心である黄斑部に異常がある場合、視力の中心が見えづらくなるなど、日常生活に支障が出る可能性がある。特に加齢黄斑変性は失明原因の一つ。
・乳頭部所見(視神経異常):視神経乳頭の腫脹(視神経乳頭浮腫)や萎縮などが見られた場合、視神経炎や頭蓋内疾患、緑内障などの可能性がある。


※参考資料
・日本予防医学協会「眼底検査」2023
・日本人間ドック学会「眼底健診判定マニュアル」2023


■気づかぬうちに病気が進行しているケースも


眼底検査で異常が見つかっても、「まだ見えているから大丈夫」「症状がないから気にしない」と受診を後回しにしてしまう方は少なくありません。しかし、その“油断”が、将来的な視力の低下や失明につながることがあります。


写真=iStock.com/kieferpix
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失明の原因となる代表的な疾患には、前述の緑内障のほか、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などがあります。これらはいずれも、進行するまで自覚症状が乏しいことが特徴で、気づかぬうちに病気が進行しているケースも少なくありません。特に緑内障は、日本人の中途失明原因の第1位でありながら、自覚されにくい“(目の)サイレントキラー”とも呼ばれる病気です。糖尿病網膜症も、血糖コントロールや眼科受診を怠ると、ある日突然、視力が大きく落ちてしまうことがあります。


視覚に異常があると、日常生活はもちろん、仕事や人生の質にも大きな影響を及ぼします。例えば、緑内障がある人は転倒リスクが約4倍、重度の視野障害があると交通事故のリスクが2倍以上に上がると報告されています(Lamoureux et al., 2008Kwon et al., 2016)また、視覚障害のある人は、幸福感が低下し、うつ病の有病率も高いことがわかっています(Yamanishi et al., 2024Mabuchi et al., 2008)。


「見えにくさ」は、単なる不便さでは済まず、職場でのミス、運転への不安、転倒・事故のリスクといった形で、生活の質に深く影響します。眼底検査で異常を指摘されたら、たとえ症状がなくても放置せず、早めに眼科を受診すること。それが、視力を守るだけでなく、自分の仕事や暮らし、人生そのものを守ることにもつながるでしょう。


■健康診断のオプションで追加するのが手軽な方法


現在の日本の定期健康診断では、視力検査は法定項目に含まれていますが、眼底検査は義務ではなく、オプション扱いとなっているのが実情です。企業健診で眼底検査が実施されていない場合、自ら追加申し込みをしなければ受けられないことが多いのです。


写真=iStock.com/Junichi Yamada
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そのため、「眼科を受診するのはハードルが高い」と感じている方には、職場の健康診断にオプションとして追加するのが最も手軽な方法です。検査は数分で終わり、特別な準備も不要。実施している健診機関も多く、費用も比較的リーズナブルです。


眼科疾患の多くは、加齢とともにリスクが上昇します。とくに緑内障は、40歳を過ぎたあたりから発症リスクが高まることが明らかになっているため、40歳を過ぎたら年1回の眼底検査を習慣化することをお勧めします。さらに、糖尿病や高血圧などの持病がある方、近視が強い方、家族に眼疾患のある方は、より若い年齢からの定期的な眼科受診が望ましいとされています。


■違和感がある場合は早めの眼科受診を


一方で、「眼底検査で異常を指摘された」「見えにくさや視界の異変を感じる」といった場合は、次の健診を待たず、できるだけ早めに眼科を受診し、必要に応じて視野検査やOCT(光干渉断層計)検査などの精密検査を受けることが大切です。特に緑内障や糖尿病網膜症などは、早期治療で進行を食い止められる病気です。違和感があるのに放置するのは避けましょう。


視力は、仕事・生活のパフォーマンスに直結します。


パソコンやスマートフォンに頼る現代のビジネスパーソンにとって、「目が見えること」はまさに“インフラ”です。


だからこそ、「異常が出る前」に眼底検査を受けることが、将来の失明リスクを下げ、健康寿命を延ばす一歩となります。


健診で手軽に追加できる今こそ、次回の健康診断で眼底検査をオプションに加えてみませんか。


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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。
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(産業医 池井 佑丞)

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