創造性発揮のためにアインシュタインが愚直に行ったことは?「トップ5%」の戦略コンサルだけが知る超一流の思考術
2025年4月10日(木)4時0分 JBpress
知的エリートである戦略コンサルタントの中でも、別格のパフォーマンスを発揮する超一流の人たちは「ものの見方」がそもそも違う。では、彼ら・彼女らは世の中をどのように見ているのか。ボストン コンサルティング グループ(BCG)出身のトップコンサルタントが30年間積み上げた知恵と経験の集大成として書いた『戦略コンサルのトップ5%だけに見えている世界』(金光隆志著/クロスメディア・パブリッシング)から内容の一部を抜粋・再編集。標準的なコンサルと超一流の違いの一つである「考えるという行為」について考える。
「創造性」はいかに生み出されるのか。天才物理学者アインシュタインによる「特殊相対性理論」の発見を例に考察する。
トップ5%の創造性を可能にする思考態度
戦略コンサルタントのトップ5%が持つ思考態度において重要なキーワードのひとつが「創造性」です。革新につながる創造性の発揮を可能にする思考態度こそが、一筋縄ではいかない、八方塞がりの状況などで如実に力の差を生み出します。
では、トップ5%の創造性を生み出す思考態度とはどのようなものでしょうか。それを明らかにするために、少々込み入った論理を展開します。
創造性とは何か、創造性の源は何か、創造性の敵は何かなど創造性をめぐる常識・定石について実例などを交えながら逆説を示します。それら自体が示唆的で興味深い話だと思いますが、創造的思考態度について、本当にお伝えしたいことはその先にあります。
これらの論理展開をメタから眺めたときに浮かび上がる、一貫して見られる思考態度こそが真に創造性の源泉たる思考態度です。最後に明かします。
この論理構成を念頭に、少し長い旅路になりますが、論理展開にお付き合いください。
さて、創造性とは一体何でしょうか。辞書的な意味としては「何かの真似ではない、独自の有用な案を生み出すこと」「現状を打破し、常に新しい状態に作り変えていくこと」「オリジナルなアイデア、異なった視点、問題への新たな見方」といったように定義されています。
もちろん、これらが間違っているわけではありません。ただ、「真似ではない独自の」「オリジナル、新たな見方」「現状を打破、新しい状態」というのは同義反復的で、「じゃあ、独自って何?」と言いたくなります。本書では創造性について、次のように定義しています。
創造性とは「人々のパーセプションを変えるモノ・コト」
パーセプションとは直訳すれば「認識」ですが、一般用語の認識よりも少し色のついた用語として、人々の認識上の定説、定石、常識、慣習などを指していると思ってください。広く人々が「〇〇は××だ(A≒B)」「〇〇ならば××だ(A⇒B)」と信じているモノ・コトです。
そして、パーセプションを変えるとは、こうした見方を覆し、「××と思われているが実は△△だ」といった、人々の認識を一瞬で揺るがすような、これまでと違う異質な見方やとらえ方を提示することです。それが創造性です。
では、この人々の認識を変える創造性はどこからやってくるのか。創造性の源は何か。
よく挙げられるのが、直感やひらめきです。そして、こうした直感やひらめきはいわば左脳ではなく右脳、非ロジックの領域にあると考え、論理性の対極に創造性を位置づけている人もいます。論理とまったく関わりのない感性領域からふいに直感が訪れ、「無から有を生み出す」ことだけが創造性の源であるならば、それはもはや天性の才能か偶然か、なんにせよ自分ではどうすることもできないことのようにも思えてきます。果たしてそれは本当でしょうか。
ここで誰もが認める稀代の天才たちに登場してもらい、彼らの偉業がどのようにして生まれたのか、確認してみましょう。
ロジックを愚直に積み上げてたどり着いた相対性理論
ここでは科学の分野から、アルベルト・アインシュタインと、その最大の業績のひとつである特殊相対性理論について見てみます。
相対性理論について、詳しくは知らなくても「時間と空間は伸び縮みするらしい」とか、「浦島太郎のようなことは光の速度で動くと実際起こるらしい」とか、日常の感覚とかけ離れた不思議な理論として聞いたことがあるかもしれません。そして、アインシュタインはこうした独創的な発想に空想力・想像力・直感でたどり着いたと言われたりもします。しかし、それはまったく違います。
不正確のそしりは免れないことを承知で、できるだけ簡単に、創造性に関わる範囲で要点をお伝えします。
特殊相対性理論の帰結のひとつを滅茶苦茶乱暴にまとめると、「時間・空間は絶対的なものじゃない、運動によって時間は遅れ・空間は縮んで観測される」ということです。
なぜ、そんな理論にたどり着いたのか。これも滅茶苦茶乱暴にまとめると、「光の速度の観測結果を巡る矛盾を矛盾じゃなく解釈することによって」です。どういうことか。
たとえば、時速100kmで動いている電車を駅で立っている人が見れば、時速100kmに見えますが、電車と同じ方向に時速100kmで進んでいる車から見たら、時速ゼロに見えますよね。でも、光の速さは、たとえば、いま地上から光線を放ったとして、それを静止している人が観測しても、どんな運動している人が観測しても同じになります。おかしいですよね。でも、これがおかしくないのだとしたら?
乱暴に言えば、アインシュタインは次のように考えました。「運動に拠らず光の速さが一定に観測されるなら、速さを規定する『時間』と『長さ』が運動によって変わるということ」、つまり、「運動している人の時間は静止している人から見てゆっくり進み、長さ(空間)が短くなって割り算(距離÷時間=速さ)が常に一定」ということです。乱暴ですが、これが特殊相対性理論の帰結のひとつです。
実はこう理解することで、初めて電磁気学も力学も慣性系で常に保存されます(相対性)。ちなみに、私たちが普段乗り物に乗ったところで、まったく時空の伸縮を感じないのは、その程度の速さでは伸縮が誤差でしかないからです。光に近い速さで動くほど、相対論効果が如実に現れます。
インチキにさえ見えるコロンブスの卵のような発想ですが、あらゆる先入観を排して、ただ愚直にロジックを追求した結果、それまでの常識的・日常的前提(時空は全方向に等質で独立・客観的に存在)を根底から覆すインサイトにたどり着いたのです。しかも、このロジックは、アインシュタインが唐突に思いついたのではありません。
実はローレンツらは、数式的にはほとんどアインシュタインと同じところまでたどり着いていました(ローレンツ変換)。両者の違いは、絶対時空や光=電磁波を伝える媒質として仮定されたエーテルを「それ、観測できなかったのだから実はないんじゃないのか?」と観測事実を素直に解釈した愚直な論理が導く非日常的結論を突き詰めたかどうかです。
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筆者:金光 隆志