イオンが攻め込んでもびくともしない…滋賀のローカルスーパー「平和堂」の尋常ではないサービス内容

2025年4月17日(木)17時15分 プレジデント社

滋賀県甲賀市の平和堂アル・プラザ水口=2019年7月23日 - 写真=日刊工業新聞/共同通信イメージズ

イオンリテールやヨーカドーなどナショナルチェーンの経営が厳しい一方で、地元密着戦略をとるスーパーが経営好調だ。流通科学大学の白鳥和生教授は「きめ細かい地域のニーズをとらえた企業の取り組みが地元のファンを惹きつけている」という——。

■平和堂、アークス、ゆめタウンが元気な理由


イオンリテールやイトーヨーカ堂などナショナルチェーンの苦戦が続くなか、地方密着のローカルスーパーが業績好調だ。全国一律のスキームでは対応しきれない消費者ニーズの変化や地域事情に、地元を知る企業が対応力を見せている。北海道のアークス、中国・九州のイズミ(ゆめタウン)などと並び、滋賀県発の平和堂もその代表格だ。株価は年初来高値を更新、堅調な業績を背景に投資家の注目も集めている。ナショナルチェーンがひしめく関西圏でなぜ平和堂は揺るがないのか? その秘密は「滋賀モデル」ともいえる独自の地域密着戦略にあった。


写真=日刊工業新聞/共同通信イメージズ
滋賀県甲賀市の平和堂アル・プラザ水口=2019年7月23日 - 写真=日刊工業新聞/共同通信イメージズ

滋賀県内のスーパー市場ではおよそ3割のシェアを握るとされ、地元では「平和堂のない街はない」とまで言われるほど、暮らしに根づいた存在となっている。本社は彦根市。かの「ひこにゃん」で知られる城下町に拠点を置き、まさに地域とともに育ち、地域に支えられてきた企業だ。


■滋賀県民の冷蔵庫、クローゼットとして


平和堂は1957年、創業者・夏原平次郎氏が「靴とカバンの店」として出発し、地域の人々の暮らしを支える存在として成長してきた。長男に「平和」と名づけ、店名も「平和堂」としたほど、“平和”と“地域への貢献”を願った人物だった。


現在は滋賀県を中心に、京都、福井、岐阜、愛知、大阪、さらには兵庫、石川、富山にまで店舗網を広げる。人口約140万人の滋賀県内には75店舗(うちアル・プラザ17店舗)を構え、まさに“県民の冷蔵庫・クローゼット”として暮らしの中心に根づいている。2024年現在、全体の店舗数は159。地域密着型チェーンとしては異例の規模を誇る。


ロピアやオーケー、コスモス薬品といった企業が次々と関西圏に進出し、マイカルやダイエーを飲み込んだイオンの存在感が高まるなか、平和堂は「密度」で勝負する。つまり、拡大よりも“信頼の蓄積”を重視し、ドミナント戦略により地域の生活圏を丁寧に囲い込んでいく。滋賀県内では圧倒的なドミナント戦略を敷き、地域住民との信頼関係を積み上げることで、“選ばれ続ける”ポジションを確立している。


■イオン、ロピアなどの侵攻を食い止める


2025年2月期の連結業績も堅調だった。営業収益は4449億円(前期比4.6%増)、営業利益133億円(同0.8%増)、経常利益146億円(同1.1%増)、当期純利益は107億円(同58.1%増)と、物価高騰や人件費上昇の逆風のなかでも増収増益を確保。衣料品や住居関連商品の売上回復に加え、直営の食品販売が堅調に推移したことが、利益を押し上げた。


イオンをはじめ2025年2月期の有力小売企業の決算は、消費環境や人手不足を反映して厳しい。その中で平和堂の踏ん張りが目立つ。


好調な勢いは今期も続く。2026年2月期の業績は営業収益4560億円(+2.5%)、営業利益145億円(前期比8.5%)、経常利益156億円(同6.6%)と、過去最高の売上高と最終利益を見込む。配当も年66円(前期63円)への増配を予定。また、資本コストや株価を意識した経営に取り組む姿勢を鮮明にした「ROE8%」を目標とする新たな中期経営ビジョンも市場で好感され、株価は連日で年初来高値を更新。4月初旬には一時2588円をつけた。


第5次中期経営計画(2024〜2026年度)において、「子育て世代ニーズ対応による顧客支持の獲得」「ドミナント戦略をベースとしたHOP経済圏の拡大」「生産性改善も含むコスト構造改革の推進」という3つの重点戦略を掲げる。平松正嗣社長は決算発表で、「コロナ後の生活変化に適応するには、地域のくらしをよく見つめ直す必要がある。店は“暮らしの相談窓口”のような存在であるべき」と語った。


■アル・プラザは百貨店的機能も持つ


この姿勢を具現化しているのが、平和堂の二本柱の業態だ。ひとつは近年主流となっているスーパーマーケット業態「フレンドマート」。そしてもうひとつが、総合スーパー業態「アル・プラザ」だ。


アル・プラザ草津(平和堂HPより)

食品から衣料、住居関連商品までを揃える「アル・プラザ」は、地方都市において百貨店的な機能も果たしており、ファミリー層や高齢者にとっては“ここに来れば何でも揃う”存在だ。近年ではLOFTや無印良品、ゴンチャといった人気テナントを導入する改装も進めており、若年層の新規顧客獲得にも力を入れる。


こうした取り組みにより、実際に若い世代の来店数や売上の伸びが確認されるなど、成果が現れ始めている。外食、イベント、カルチャースクールも併設し、「地域のにぎわいの核」として機能する。コロナ禍を経て「近場で、安心して、すべて済む」拠点として、改めて価値を高めている。


平和堂ホーム・サポートサービス(平和堂HPより)

生活支援型の取り組みとして注目されるのが「ホーム・サポートサービス」だ。高齢者や子育て世帯に向けて、商品配達や見守り、重たい品物の買物代行などを行うサービスで、単なる“宅配”ではない。「電球を交換してほしい」といったちょっとした生活の困りごとにも対応しており、「顔の見える支援」が地域住民からの信頼につながっており、“日常の困りごとをまかせられる存在”として定着している。


■PBブランドは「E-WA(イーワ)」


商品政策にも「平和堂らしさ」はにじむ。プライベートブランド(PB)として展開する「E-WA(イーワ)」は、「イイワ、というおいしさ。」をキャッチコピーに掲げ、品質と価格のバランスを追求したアイテム群。食品を中心に約500商品を展開し、手頃な価格と確かな品質を兼ね備え、着実にファンを増やしている。


平和堂PB商品(平和堂HPより)

代表的な商品には、素材本来の風味を生かした「E-WA 国産大豆の絹ごし豆腐」、コクのある味わいとコスパで人気の「E-WA ビーフカレー」、お弁当にも重宝される「E-WA 冷凍からあげ」など。これらは「手頃なのに、ちょっと良いものが食べたい」という生活者の“今”の気分に応える商品群だ。


デジタル戦略では、「HOPカード」をベースにした電子マネー「HOPマネー」やアプリ型プリペイド決済「HOP WALLET」を展開。滋賀銀行・ゆうちょ銀行との連携によるチャージ機能を持ち、地域金融との協働も進める。また、アプリ内でのクーポン配信、レシピ提案、健康関連コンテンツなどを通じて、来店と購買の循環を強化する。


■「三方よし」近江商人が発想した「滋賀モデル」


それでも平和堂の原点は「人と地域」だ。滋賀県は「三方よし」で知られる近江商人を輩出した地。平和堂は出店開発では住民との対話を重ね、立地特性を読み解きながら、「この街に必要とされる店とは何か?」をゼロから考える。


2024年にリニューアルオープンした「フレンドマート長浜祇園店」はその象徴である。売場を1.3倍に拡張し、駐車場も拡充。30〜40代の子育て世代を狙った売場構成とサービスで、長浜市内の店舗シェアを28.5%から30%超へと押し上げる戦略だ。地域文化との連携も積極的だ。


■琵琶湖より愛をこめて


2020年代以降の地域ブームの流れも追い風だ。滋賀県が舞台になった映画『翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて』が象徴するように、これまで“地味”とされてきた地方都市の独自性が再評価されるなか、「滋賀っていいよね」「地元をもっと大切にしたい」という生活者の地元志向に、平和堂は巧みに寄り添っている。ローカルアイデンティティと消費の融合こそ、「滋賀モデル」の真髄とも言える。


2023年には、彦根市・コクヨ工業滋賀との共同企画で「ひこにゃん野帳」を限定販売し、地元キャラクターとともに親しまれるブランドづくりを進めている。こうした取り組みの積み重ねが、「平和堂=地元の企業」という信頼を築いてきた。


一方で、平和堂の戦略は“守り”だけではない。滋賀というローカルで徹底的に磨き上げたこのモデルは、現在、大阪・愛知・岐阜といった周辺府県に“じわじわと”広がりつつある。滋賀以外への出店では、既存エリアとの物流や人材の連携が可能な範囲に絞り込み、既存ノウハウを生かせる立地に限定するという慎重な戦略を取る。


特に関西市場では、首都圏で台頭するディスカウント業態のオーケーやロピアが出店攻勢をかけており、さらにコスモス薬品やサンドラッグなどのドラッグストアも食品売場を強化し、競争が一段と激化する。


■「生活者の隣にいる企業」が勝つ


新規出店にあたっては、現地の生活者のニーズを徹底的に調査し、「平和堂に求められる役割」をゼロベースで検討する。急激な店舗拡大は避け、持続可能なドミナント形成を意識した広がりを重視。まるで“和紙に墨がしみ込む”ように、じわじわと信頼の輪を広げている。


平和堂はあくまでも「地域に必要とされるかどうか」を問う姿勢を貫く。ローカル企業だからこそできること、ローカル企業でなければできないこと。その両方を体現しながら、“地域の信頼”を最強の経営資源へと昇華させている。


全国に同じようなチェーンが並ぶいまだからこそ、「地元の暮らしから選ばれる店」がどれほど貴重な存在であるかを、私たちは見つめ直すべき時に来ている。“地域発”であることに誇りを持ち、過度な規模拡大を追わず、「生活者の隣にいる企業」として着実に進化を遂げる平和堂。日本各地で小売業の再編や撤退が続く中、こうした企業の存在こそが、地域社会の持続可能性にとって希望の光となる。


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白鳥 和生(しろとり・かずお)
流通科学大学商学部経営学科教授
1967年3月長野県生まれ。明治学院大学国際学部を卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。小売り、卸、外食、食品メーカー、流通政策などを長く取材し、『日経MJ』『日本経済新聞』のデスクを歴任。2024年2月まで編集総合編集センター調査グループ調査担当部長を務めた。その一方で、国學院大學経済学部と日本大学大学院総合社会情報研究科の非常勤講師として「マーケティング」「流通ビジネス論特講」の科目を担当。日本大学大学院で企業の社会的責任(CSR)を研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得する。2024年4月に流通科学大学商学部経営学科教授に着任。著書に『改訂版 ようこそ小売業の世界へ』(共編著、商業界)、『即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術』(CCCメディアハウス)、『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』『グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)などがある。最新刊に『フードサービスの世界を知る』(創成社刊)がある。
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(流通科学大学商学部経営学科教授 白鳥 和生)

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