「フードコートは安くて便利だけど満足度は低い」の常識を壊した…大阪に爆誕した日本初上陸の「飲食街」の斬新【2025年3月BEST5】
2025年4月18日(金)18時15分 プレジデント社
撮影=プレジデントオンライン編集部
2025年3月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお送りします。ビジネス部門の第5位は——。
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▼第5位 「フードコートは安くて便利だけど満足度は低い」の常識を壊した…大阪に爆誕した日本初上陸の「飲食街」の斬新
なぜ日本のフードコートは同じチェーン店ばかり入っているのか。経営コンサルタントの岩崎剛幸さんは「そこには構造的な要因がある。ただ、海外のフードコートと比較するとまだまだ成長できる余地はあるはずだ」という——。
撮影=プレジデントオンライン編集部
■日本のフードコートは限界といえる3つの理由
日本各地にあるフードコート。「気軽に」「安価で」利用できるフードコートですが、心から満足している利用者はそう多くはないのではないでしょうか。なぜフードコートはこんな「金太郎あめ」のように同じ店舗ばかりなのか、まずはその要因を探っていきたいと思います。
記事後半では、今月21日にオープンした、JR大阪駅北口「グラングリーン大阪」南館内にある「タイムアウトマーケット大阪」について触れます。世界各地で事業を展開するシティガイド「タイムアウト」の編集者がキュレーションするフードマーケットで、日本初上陸となります。
筆者はこの施設が、これからのフードコートのゲームチェンジャーになるのではと思っています。その理由を、既存の日本のフードコートとの違いなどから解説します。
まずは今までのフードコートが抱える3つの限界についてです。
1980年代から日本に建設され始めたショッピングセンターの出店と共に日本にはたくさんのフードコートが登場しました。
日本には3092のSC(ショッピングセンター)があります(2023年度日本SC協会調べ)。この数とほぼ同数のフードコートが日本には存在すると推測できます。これ以外にも百貨店や駅、テーマパークや観光施設などにあるフードコートも含めれば、日本には4000店舗ほどのフードコートがあると見ていいでしょう。かなりの数です。
ある意味、日本のフードコートは飽和状態です。そこにフードコートの限界点がでてきています。
■決して今のフードコートに満足していない
限界① 満足度は上限値
マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した調査「フードコートに関する調査2024」に興味深い結果が紹介されています。
フードコートの魅力について、安く食事ができる、気軽に入れるというポジティブな意見が多い一方で、ネガティブなものとしては「席の取り合い」「騒がしさ」などがあがっていました。みなさんも同じような意見なのではないでしょうか。
行ってみたいフードコートのアンケートを見ると、清潔感や落ち着いた雰囲気、「無料Wi-Fi」「その土地ならではの料理や食材が楽しめる」「おしゃれな雰囲気のお店がある」ようなフードコートを望んでいる意見が目立ちます。
フードコートには多くの人が訪れた経験があり、かつ愛着を感じてはいるものの、もっといいフードコートがないかを探している消費者の欲求が見え隠れしています。
クロス・マーケティング「フードコートに関する調査2024」より
■なぜ同じようなフードコートばかりなのか
限界② 失敗したくないデベロッパー
日本SC協会のSC白書によると、日本のショッピングセンターの業種別構成のうち飲食テナント割合は2割程度となっています。物販テナントが2015年度→2023年度で64.5%→61.3%と割合を下げる中で、飲食テナントの数字は同期間で18.1%と変わっていません。
飲食テナントはSC全体の集客に貢献してくれるので、デベロッパー側としては、フードコートやレストランを強化します。とはいえ何でもいいわけではなく、確実に集客できそうなテナントで固めたくなるのは開発担当の心情です。
結果的に大手や多店舗チェーンなど、どこにでも見かけるブランドに頼らざるを得なくなっているのです。
限界③ 高い賃料
続いて2022年のSC出店テナントの平均月額坪あたり賃料(家賃+共益費含む)を見てみましょう。物販で2万5594円/月坪に対して飲食は2万8874円/月坪と、物販に比べて3000円以上高くなっています。
飲食は物販に比べて粗利が高いことから賃料が高い設定になっていることが多いのですが、坪あたり家賃が高くなると、当然、売り上げも高くなければ家賃を吸収できません。
また、飲食は「固定家賃+歩合」で契約するケースも多いため、売り上げが上がればさらに家賃が高くなるというジレンマもあります。こうなると個人経営の小さな店舗や地元の店舗は出店したくてもなかなかできません。
さらに飲食業態は出店時には厨房含めて内装費用もかさみます。
このようなことから、一般的なフードコートは「いつかどこかで見たことがある店ばかり」という代わり映えのしないフードコートになっていく。それゆえ、消費者に飽きられ始めているというのが実態です。
■だから名店に入ってもらえた
先述したように、今月日本のフードコートがこのような状況の中、タイムアウトマーケット大阪がオープンしました。総面積3000平方メートル(約1000坪)で800席強という席数を持ちます。1フロアに17店舗と2つのバーが集まっていて朝11時から夜11時までの比較的長い営業時間です。
17店舗は、イタリアン、バーガー、メキシカンからうどん、ラーメン、焼鳥など。同じジャンルの被りはないそうです。それだけなら一般的なフードコートと同じです。
ここの最大の特徴は、どこも関西各地の名店や人気店、行列店、いわゆるビブグルマン的な店なのです。なぜ、チェーン店ではない、多種多様な超人気の繁盛店を集めることができたのでしょうか。
まずは店舗の統一感です。
同店の小林太郎GMが語ってくれました。
「大阪には阪急三番街をはじめ、本当にたくさんのグルメスポットがあります。いろんな物が同時に楽しめるというフードコートはキタにもミナミにも郊外にもたくさんあります。そのような中で周辺との違いをだすには、ある種の統一感が必要だと思っています。
店としての統一感だけでなく、グラングリーン大阪という施設全体との調和、大阪の街との融合が必要です。さらに、そこにはタイムアウトならではのデザイン性、イベントやショーなどの体験など、従来の施設では経験できなかったような提案が必要だと感じています」
撮影=プレジデントオンライン編集部
タイムアウトマーケットの小林GM。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部
■いい店が集まると人も集まる
フロア全体の雰囲気は「大人の雰囲気」であり、しゃれた店内。これまでのフードコートにはない、「落ち着き」があります。出店者のほとんどは一流のお店ですから、自身のお店のブランドを毀損しない雰囲気に引かれた方も多いでしょう。
さらにタイムアウトマーケットでは事前に基本的な厨房設備を設えて店舗内装を整えた上で、各店に出店してもらっています。基本的な厨房設備が整っているという点で、出店費用を抑えることが可能になります。
こうした点がタイムアウトマーケットが質の高い店を誘致できる理由になっています。
また、2025年でもっとも注目を集めるグラングリーン大阪にあることで、スタッフの採用もすすめやすいといった利点も見逃せません。
撮影=プレジデントオンライン編集部
グラングリーン大阪南館は世界最大級の巨大な都市公園「うめきた公園」に併設する。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部
従来は路面でしか経営してこなかった有名店が「ここならば!」とインショップ出店を決めたのもうなずけます。
実際、奈良の大和八木で話題の和牛専門の肉割烹、「#肉といえば松田」の代表・増田真志さんは「出店したのは、やはりクオリティの高い店が一堂に会している中で一緒に店をやってみたかったこと。他のフードコートとは、ハード面のデザイン性も含めて、かなり違うと感じました」と話します。
筆者撮影
「#肉といえば松田」の店舗。 - 筆者撮影
結果、名店で集客力を持っている店を集めることができ、それらが17店舗集まったことで、相乗効果が生まれ、集客を期待できるのではないでしょうか。
■食べたお皿はそのままでいい
記事冒頭では、フードコートへの要望として「清潔さ」をあげる声がありました。この点ではどうでしょうか。
タイムアウトマーケット大阪は、食べたお皿を片付ける必要がありません。
通常、フードコートは片づける場所があり、食べた後にトレーを持っていく形式です。ここには片付け専門のスタッフが巡回していて、お客がテーブルにおいていったトレーやお皿を片付けてくれますので、片付ける場所を探す必要がありません。
共通のタイムアウトマーケットのロゴ付きのお皿を全店で利用するようにするといった細かいサービスも導入しています。お客の負担がなく各社もお皿などをすべて用意する必要がないなどのメリットがあります。これも出店側としては魅力のひとつでしょう。
画像提供=グラングリーン大阪南館グランドオープン広報事務局
京都の甘味処「ぎおん徳屋」店主の山内さんは「有名店ばかりが出店するし、大阪という立地で商売したことがないので、どんな風に商売が広がるのかを見てみたい」と出店理由を語った。画像は同店の「特上抹茶 宇治金時」。 - 画像提供=グラングリーン大阪南館グランドオープン広報事務局
また従来のフードコートでは店が料理を提供するだけにとどまり、付加価値提案力がないのに対して、フロアにはDJやライブパフォーマンスのできるステージも常設されています。アート展示やワークショップなども継続的に実施される予定です。
上限を迎えたように見えるフードコートの満足度もまだまだ上がる余地がありそうです。
撮影=プレジデントオンライン編集部
日本の他のフードコートにはないオシャレな雰囲気。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部
■デベロッパーの収益性が高い
既存のフードコートに出店する場合、飲食は家賃比率が高くなるので、「高い家賃を支払えるような飲食店は大手に限定される」という限界点がありました。
一方のタイムアウトマーケットの場合、家賃はそれなりの設定と思われますが、タイムアウト社本体の事業採算性が良いため、出店者にとってさまざまなメリットがあると考えられます。
タイムアウトマーケットの事業性はどうか。タイムアウトマーケット全体の損益は次のようになっています。総収益の127億円という金額は同社全体収益195億円(24年度同社決算数値)の65%を占めます。タイムアウトマーケットはタイムアウト社にとっても基幹事業になってきています。
24年の純収益高は4%程度のマイナスですが、粗利益高とEBITDA(※1)は伸びています。特に調整後EBITDAは日本円換算で22億8600万円と、前年比186%と大きく伸びています。
(※1)EBITDA……国際的な企業の収益力を見る際に使用します。一般的には税引き前利益に減価償却費、支払利息を加えた利益、つまりキャッシュフローがあるかどうかを見る指標として使われます
これはリスボンのような直営店だけでなく、ドバイや南アフリカなどのその国の運営オペレーターとの協業がうまくいっているからだと思われます。(※2)
飲食部門の収益性が高いということは、タイムアウト社として、タイムアウトマーケットの開発にさらに投資できます。
施設環境を整えたり、全体のブランディングに投資してデザイン性をさらに高めたり、また、より質の高い、地域で人気のこだわりの専門店を誘致する際に好条件を提示できます。広告、SNSでの拡散などにもより投資できます。
デベロッパーの収益性が高いということは、よりレベルの高いフードコート開発をすることができるという点で、利用客にも、デベロッパーにも、そして入居する店舗にも大きなメリットがあるのです。
タイムアウトの発表では、2025年の大阪以降も、25年中にバンクーバー、ブダペスト、アブダビ、27年にプラハ、リヤドとさらに5店舗の出店が決定しています。他にも進行案件があるとのことなので、タイムアウトマーケットのビジネスモデルはさらに広がっていきそうです。
(※2)日本での展開は、グラングリーン大阪の商業ゾーン開発担当会社である阪急阪神不動産が、運営会社タイムアウトマーケット大阪(奥土恵代表取締役社長)を設立し、運営オペレーターとなり、日本での展開を進めていく形式。
■タイムアウトマーケットの死角
新しい体験と付加価値を提供するタイムアウトマーケット型のフードコートが広まれば、日本のフードコートはマンネリから脱せられるかもしれません。ただ、この斬新なビジネスモデルにも死角がないわけではありません。
今の日本のフードコートを図表3のようなポジショニングマップに落としてみました。日本のフードコートの大半は左下にポジショニングされます。最近少しずつ増えてきたフードホール(例:東京ドームのFood Stadium Tokyoなど)は従来のものに少しデザイン性が加わっていますが、出店しているテナントは従来と大きくは変わりません。
今回のタイムアウトマーケット大阪はこれまでのフードコートとは完全にポジションを変え、フードホールよりも確実に質の良い付加価値があり、さらにある程度の価格で勝負できる店を取り揃え、フードコートの空白地帯を狙って作っているという点で絶妙なポジションをとっています。
筆者作成
この点では、他の都市のタイムアウトマーケット同様、かなりのお客の支持を得るのではないかと思います。
ただし、出店した立地は大阪であるということを忘れてはいけません。日本一とも言っていい食の街であり、食にうるさいお客が多い街です。飲食店の競争ももっとも激しい街の一つです。
特に、コスパに対して一番うるさい街と言ってもいいのではないでしょうか。どんなに美味しくても価格が高すぎては長続きしないという価格分の価値を重視するカルチャーがあります。
■手羽先のから揚げ1本 1500円
プレミアムビフカツカリー3800円、手羽先のから揚げ1本1500円、生ビールMサイズ900円、肉たまきつねうどん2000円、牛骨ラーメン1500円……。
これらは出店されている各店のメニューをランダムに抜粋したものです。いずれも、とても高くて手がでないわけではありませんし、東京の感覚で言うとわりと普通の価格帯ですが、「大阪に食い倒れのフードコートができた」という感覚で行くと、高く感じる方もいるでしょう。
撮影=プレジデントオンライン編集部
撮影=プレジデントオンライン編集部
大阪でこの価格は高いか安いか……。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部
特に大阪の食い倒れの街で食べ歩いている方にリピートしてもらうためには、これから、さまざまな工夫が必要かもしれません。
出店しているテナントも意図的に期間を区切って、定期的に店舗の入れ替えをしていき、来店客の飽きがこないようにすることも必要でしょう。また、店舗ごとの連携や、コラボメニュー、コラボ企画などがあってもいいかもしれません。
質の高いテナントが同じ屋根の下に集まって、統一感のあるデザインで一体化された空間で食を提供するというのは、従来のフードコートとは明らかに異なる価値になっています。
しかしハード面は経年劣化していきます。デザイン面だけでなく、同社が得意としている新たな体験の提供が継続的にできるかどうか。それが来店客に刺さるかどうか。
これからのタイムアウトマーケット大阪の作る「新たな体験価値」に注目したいと思います。
(初公開日:2025年3月22日)
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岩崎 剛幸(いわさき・たけゆき)
経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、ムガマエ株式会社を創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングを得意とする。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
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(経営コンサルタント 岩崎 剛幸)