【ロシアの地政学】次の標的は北極海!? “静かな戦争”が世界を動かす!
2025年4月24日(木)7時10分 ダイヤモンドオンライン
【ロシアの地政学】次の標的は北極海!? “静かな戦争”が世界を動かす!
【ロシアの地政学】次の標的は北極海!? “静かな戦争”が世界を動かす!「経済とは、土地と資源の奪い合いである」ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。
Photo: Adobe Stock
ウクライナの次は北極海? ロシアの地政学
地球温暖化は多くの地域で深刻な被害をもたらすといわれていますが、北極海の氷が融解することで利を得る国があるかもしれないと考えられています。
とりわけ注目されるのが、北極海沿岸に広大な領域を持つロシアと、海洋資源やエネルギーの輸出国として存在感を示すノルウェーです。両国とも北極圏に近接し、今後の温暖化の進展次第では新たな海運ルートを確保できる可能性があるわけです。こうした動きは世界経済にも影響を与えると考えられます。
ロシアは埋蔵量を背景に原油や天然ガスなどの化石燃料を輸出することで経済を支えています。一方、ノルウェーは水力発電や風力発電を積極的に導入しているため、化石燃料の輸出余力が大きく、石油や天然ガスを輸出しています。両国の共通点は、北極海へのアクセスが比較的容易な地理的位置にあることです。
ロシアは国土の北側に北極海が広がり、ノルウェーは国土の北部が北緯70度近くに位置します。北極海の氷が融解すれば従来以上に海運や資源開発の恩恵を受けやすくなります。
スエズ運河ルートと北極海航路の違い
ヨーロッパとアジアを結ぶ海上輸送といえば、一般的には地中海からスエズ運河、インド洋、東南アジアを経由する航路が広く利用されています。
しかし、マラッカ海峡には海賊のリスクや水深が浅いといった問題があり、大型船はロンボク海峡を迂回する必要があります。また、南シナ海では中国と台湾の関係による政情不安定といった要素も含まれます。
もし北極海が凍結していない期間がさらに延びれば、ロシア北岸を回るルートが距離面で優位に立ち、ノルウェーをはじめとする欧州諸国とも結びつきやすくなる可能性があります。下図を見てください。
出典:『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』
もちろん砕氷船などの特殊船舶を用意しなければならない課題は残りますが、輸送時間とコスト削減のメリットを狙ってロシアは港湾インフラ整備を加速しています。
北極海航路の課題とは?
もっとも、こうした動きがいきなり世界規模のシーレーンとして定着するかどうかは不透明です。北極圏の気候変動は予測が難しく、氷の融解による航行可能期間がどれほど安定するかが定かではありません。加えて、沿岸国の思惑も絡むため国際的な協調がなければ実現は難しいでしょう。
ロシアは自国領海を通過する船舶から通行料を徴収しようとしているとされ、ノルウェーも自国の漁業資源やエネルギー輸出の保護に注力するとみられます。カナダやアメリカ合衆国を含む他の北極圏諸国も、北極海が“自国の庭”とみなされる領域について法整備を進めていくかもしれません。こうした外交・安全保障上の駆け引きが円滑に進まなければ、航行ルートの本格的な活用は遠のきます。
さらに、温暖化がもたらすメリットとデメリットを総合的に判断するのは容易ではありません。ノルウェーのように国内電力を再生可能エネルギーでまかなえる国であっても、北極圏の海氷が解けることで新たに資源開発が活発化すれば、環境破壊や海洋生態系への影響が懸念されます。ロシアが経済的に利を得られるとしても、海氷の減少が加速すれば、別の地域では海面上昇や異常気象の被害が深刻化する可能性があります。
(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)