「豊かな海と未来の食卓を守る」持続可能な挑戦とドッグフード誕生秘話に迫る
2025年4月24日(木)13時0分 PR TIMES STORY
日本の「海の幸」が消滅し始めている── 。
近年、地球温暖化や海藻を食べる草食魚の活性化が原因で、魚が暮らす藻場(もば)が減少する「磯焼け」が深刻化。これまで食卓に並んでいた魚介類のなかには、幻の存在になりつつある品種も見られます。
この磯焼け解決に向けた一歩として、私たちオーシャンリペアは、海藻を食べ尽くしてしまうイスズミやアイゴなどの白身魚からドッグフードを開発。2024年9月に「オーシャンハーベスト」として販売をスタートしました。
オーシャンリペアは立命館大学発、福岡県福岡市に本社を構えるスタートアップです。
長崎県五島列島で70年の歴史を持つ鮮魚店・金沢鮮魚と連携し、サステイナブルなドッグフード「オーシャンハーベスト」を開発、販売しています。
今回オーシャンリペア広報部は、「オーシャンリペア」プロジェクトが始まるきっかけとなった遠山貿易代表の遠山さんと弊社CEO・戸田の対談を企画。「オーシャンハーベスト」の誕生秘話や私たち30代が海の変化という壮大なテーマにどう向き合うべきかについて迫ります。
■プロフィール
株式会社オーシャンリペア 代表取締役CEO
戸田 耕介(とだ・こうすけ)
遠山貿易株式会社 代表取締役社長
遠山 一記(とおやま・いっき)氏
母の故郷・対馬で目の当たりにした"磯焼け"の衝撃
── まず遠山さんが「磯焼け」を知ったきっかけを教えてください。
遠山:2015年ごろ官僚のキャリアを目指して、シンガポール国立大学で公共政策を学んでいました。当時、地域活性化について考えるなかで久しぶりに対馬を訪れたんです。
母が対馬の漁師だったこともあり、幼いころから長期休暇には島に行って、漁師さんと漁に出たり、釣りをしたりしていました。
遠山貿易 代表取締役社長 遠山氏
対馬の漁師さんに「今、困っていることは何かありますか?」と聞いて回ると、みなさんが口々に磯焼けを挙げられ、そこで初めて知りました。
── 久しぶりに訪れた対馬は、磯焼けに大きなダメージを受けていたと?
遠山:約8年ぶりの対馬は様変わりしていました。対馬周辺の海は、海流がぶつかり、山からの栄養分が流れこむ最高の漁場です。
しかし、磯焼けのせいで藻場が減少し、以前はたくさん生息していた魚介類の一部がいなくなってしまったんです。
例えば、対馬にはヒジキで生計を立てていた漁師さんも多かったのですが、壊滅的な状況になっていました。それによって消滅した集落もあり、活気を失い、空き家がずらりと並んでいる場所も目の当たりにしました。
何よりショックだったのは、「子どもに漁業を継いでほしくない」という漁師さんの声でしたね。
── それで自ら磯焼けに立ち向かおうと決心されたのですね。
遠山:藻場が消えることで漁師さんの収入や当たり前に食べていた海の幸がなくなっている状況に直面し、「なんとかしなければ」という想いにかられました。
漁師さんたちに聞き込み調査をつづけると、磯焼けの元凶になる魚としてイスズミを教えてもらいました。イスズミをはじめとする植食性の魚が、藻場を食い尽くしてしまうんです。
しかし、人が食べる海産物としては市場価値がほとんどなく、漁師さんも積極的に獲らない。結果として植食性の魚が増えつづけ、藻場の破壊が進む悪循環に陥っているのが現状です。
そこで2016年に水産貿易の会社を起業し、イスズミの販路を必死に探すようになりました。
── 10年近く、イスズミの活用方法を模索されてきたのですね。
遠山:遠山貿易の理念は、世界中に日本の魚を広げると共に、海洋課題を解決することです。私たちがおいしく食べるアナゴやアカムツなどの肉食魚の販売とあわせて、イスズミやアイゴなど草食魚の販路を模索してきました。
人向けの食材として活用できないかと、塩漬けやフライなどイスズミの調理方法も試しました。知り合いの料理人と一緒にチャレンジしましたが、なかなかおいしい料理として受け入れられませんでした。
そんな二の足を踏む状況がつづくなか戸田さんと出会ったんです。
保険営業から人生をかけた磯焼け解決へ
── お2人の出会いを教えてください。
戸田:2020年ごろです。当時、保険の営業をしていた私が飲食店の物件を探していて、その内見で遠山さんと出会いました。
遠山さんが魚を扱っているということで、今後の仕入れ先にもなり得ると考えて一緒に飲みに行ったんです。その席で磯焼け問題の話を聞いて、大きな衝撃を受けました。
── なぜそんなに磯焼け問題に衝撃を受けたのでしょう?
戸田:小学生のころから植林や草刈り、枝打ちなど森林保全活動に関わってきました。
オーシャンリペア 代表取締役CEO 戸田
森を守ることは、水源を守ることにつながる。遠い山奥の自然のバランスが、私たちの都市生活に影響を与えるということを、幼いころから体感として学んできたんです。
そのため、対馬や五島など遠くの海で起きている海藻の問題が、私たちの食卓に直結していることもすぐに理解できました。
同時に、環境問題に関心のある自分ですら知らなかった磯焼けを、普通に暮らしている方々は知る機会もない。「まずは、磯焼けを知ってもらうことから取り組んでみよう」と思ったんです。
遠山:戸田さんが安泰だった保険の仕事を辞めて磯焼けの解決に人生をかける決断をしたときは本当に感動しました。私自身も初心に立ち返らせてもらうような気持ちで。
もう磯焼けを知って10年近くの月日が流れているのに、有効な解決策が見つけられていない。そのことが悔しく、一刻も早くなんとかしたいという想いが沸々と湧き上がってきました。
戸田さんとの出会いを機に、自分1人で取り組もうとするのではなく、外部の専門性やアイデアを持った協力者と組んでプロジェクトを進めよう、と決めるきっかけにもなりました。
「世界の海を守りたい」初心を忘れず、持続可能な活動に
── 磯焼け問題にチャレンジする方法にペットフードとしての商品化を選んだ背景を教えてください。
戸田:水産庁や大学の研究資料を調べると、過去にたくさんの人が磯焼け対策にチャレンジしてきたものの、なかなか継続的な取り組みになっていない現状が見えてきました。
行政機関からの補助金や寄付金を募ることも考えましたが、支援が終わるとそこで途切れてしまう。だからこそ、ビジネスとして成り立たせることで持続可能な活動にすることを第一に考えました。
遠山さんがこれまで苦戦してきた人用以外の活用を考えたときに、自分が飼っているネコを見てペットフードはどうだろうかと思いついたんです。
── 着手してみて、ペットフードの開発で一番難しかったことは何でしたか?
戸田:イスズミという原料が優秀だったおかげで、商品開発自体はそれほど苦労しなかったイメージです。
むしろ大変だったのは、複数のステークホルダーとの関係構築です。私自身、ペットフードの開発から流通まで、何もかもが未経験。
ペットフードの専門家、商社、倉庫、金融機関など、さまざまな協力者とつながり、1つの目標に向かって動き、プロジェクトを着実に進めていくのが大変でしたね。
幸いなことに、過去の仕事でのつながりもあり、8割くらいは身近なところで解決できました。残りの2割も、必要なときに素敵な方々とのご縁があり、なんとか販売に漕ぎつけられました。
── このプロジェクトを進めるうえで大切にしている想いはありますか?
遠山:このプロジェクトは、「藻場を再生したい」「世界の海を守りたい」という想いから始めました。お互い成長するにつれて盲目になることもあるかもしれませんが、常に初心に帰り、原点を忘れずに進めたいと感じています。
戸田:そうですね。イスズミは今、市場価値が低いため、せっかく網にかかっても漁師さんが市場に持ってきてくれないことが一番のボトルネックになっています。この状況を変えるために、まず私たちが適切な買取価格を設定しています。
それもあり、最終的に設定している価格は500gで3500円と、一般的なドッグフードと比べると高めです。
ただ、漁師さんへの還元は絶対に譲れない。私たちが商品の価値を皆さんに理解してもらい、適正な価格で販売する努力をすることこそ、この取り組みの持続可能性を支える土台になると考えています。
「オーシャンハーベスト」にちょっと化学薬品を使ってコストを下げることもできるかもしれません。でもそれは、イスズミを減らして磯焼けを解決することにはつながりません。
ビジネス化して活動を継続することはとても意義のあることですが、利益を追求するあまり本来の目的を見失わないように、というところは今後もこだわりたいです。
── 販売開始後に聞こえてきた反響はありますか?
戸田:全国の磯焼けに取り組む方々や環境問題に関心のある犬の飼い主の方々から反響をいただいています。
例えば、徳島県立小松島西高等学校では、アイゴの食害問題に取り組む生徒さんたちが「オーシャンハーベスト」の取り組みに感動して、今後の商品開発にぜひ協力したい、と連絡をくださいました。
また、行政の水産課から魚を卸したいというお話も多くいただきます。私たちの力だけではまだまだできることは限られています。私たちの取り組みに共感し、一緒に成長していける事業者さんとつながり、安定供給の体制を模索していきたいですね。
10年後の食卓を守る「真の持続可能性」を目指して
── 10年後の海のために、お2人が今後挑戦したいことをお聞かせください。
戸田:崩れてしまった生態系のバランスを回復させるサポートがしたいですね。そのためにまずはイスズミ、アイゴを有効活用し、海の生態系のバランスを戻したいと思っています。
遠山:私たちが実現したいのは、本当の意味での持続可能性です。そのためにまず「未利用魚」という言葉に対する理解を変えたいですね。
これは、多くの漁師さんが最も使ってほしくない言葉の1つなんです。
「未利用魚」と呼ばれている魚の多くは、適切に処理をすればおいしく食べられる魚がほとんど。それなのにこの言葉が先行することで、本来の価値が正しく伝わらないケースがあるように感じます。
戸田:このまま放置すれば、10年後には今当たり前に食べられている魚が食べられなくなるかもしれません。
一部の国では海藻を養殖しても、草食魚による食害でうまく育たないという課題を抱えています。私たちの取り組みを発信することで、まずは多くの人に問題を知ってもらうことから始めたいですね。
私たちの活動は、まだ小さな一歩かもしれません。でもこうした取り組みの積み重ねで、少しでも世界が良い方向に変わっていけば嬉しいですね。
遠山:そうですね。命ある魚のことを私たち人間と一緒だと考えてもらいたい、と食材を扱っていて強く思います。
藻場は、魚にとって住処です。意識を少しずつ変えてもらうことで10年後の海や漁業のあり方は変わっていくと思います。
そのためにも海や魚、漁業に関する正しい知識を世の中に広げ、節度を持って自然と接する循環型社会を作っていきたいです。
私たちは引き続き海から命をいただきながら生きていきますが、その過程で自然との共生の道を探っていきたい。それが、私たちの願いです。
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