アメリカ関税政策が二転三転、アジア諸国の相互連携必要…米ジョンズ・ホプキンス大のヘンリー・ファレル教授
2025年4月24日(木)5時0分 読売新聞
米ジョンズ・ホプキンス大のヘンリー・ファレル教授
[危機〜世界経済秩序]インタビュー<8>
トランプ米大統領は歴史的に見ても前例のない規模で、関税を他国に課している。他国との交渉でより良い条件を引き出すディール(取引)のためだけではなく、安全保障など様々な目的のために関税を利用している。いわば「関税中毒」のような状態だ。
一方で、一貫した関税体制を設計する意図がまったく見えず、政策は二転三転している。政権としての明確な共通戦略はなく、どのアドバイザーの発言がトランプ氏の耳に入るかによって政策が激変するという不安定な状況だ。共通原則があるとすれば「全ての国は米国に従え」という一点だろう。
これでは、米国の方針や考え方を他国が予測するのは極めて困難だ。たとえ米国のメリットになりそうな提案があっても、トランプ政権がそれを受け入れるのかどうか予測がつかず、交渉の見通しが立たない。
トランプ政権下で、既存の国際秩序は一変する恐れがある。
例えばベトナムは中国に隣接する位置にありながら、米国と親密な関係を築いてきた。それにもかかわらず、トランプ政権はベトナムに46%もの相互関税を課した。ベトナムからすれば、米国と中国のどちらと関係を改善するか選べと言われたら、政権の方針が予測可能な中国に接近する方が、合理的で混乱が少ないと考えてもおかしくない。
この点から見ても、一連の関税政策がアジア地域に与える影響について、トランプ政権内で十分に考慮されたとは思えない。
従来、アジア諸国は、米国を仲介役として外交関係を築く傾向にあった。これまで後ろ盾だった米国が信頼できなくなれば、アジア諸国はより積極的に相互連携する必要があるだろう。
たとえば日本は、韓国や台湾などと直接、協力体制を構築してはどうか。日韓台はハイテク産業に大きく依存する輸出国・地域という共通点があり、共通の利害を見いだせるだろう。欧州連合(EU)やカナダ、豪州など、従来の自由貿易体制を守ろうとする国々との関係強化も重要な課題となる。
日本は安全保障面で米国に根本的に依存しており、米国と距離を置くことは難しい。関税を巡る今後の日米交渉で、防衛に関するテーマが浮上してくれば、日本は厳しい立場に置かれる。一方で米国では今後、深刻な景気後退が起こる可能性が十分にあり、米国依存を続けることにもリスクがある。
米国との関係性が変化しつつある今、近隣諸国や他の先進国との関係をどう構築するか。日本の外交戦略は一層重要性を増しており、注目している。(聞き手・ニューヨーク 小林泰裕)
◆Henry Farrell=米ジョンズ・ホプキンス大教授。アイルランド出身で、国際政治経済学の専門家。共著に「武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか」。ニューヨーク・タイムズなど欧米メディアへの寄稿も多い。54歳。