濃口醤油と淡口醤油、塩分が高いのはどっち?…醤油の「色の濃さ」と「味の濃さ」の知られざる関係

2024年4月26日(金)8時15分 プレジデント社

ある時期まで醤油の歴史は味噌とほぼ同じ(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/mizoula

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醤油にはいろいろな種類があるが、もっとも塩分が高いのはどれだろうか。日本醸造協会理事の村井裕一郎さんの著書『ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵』(あさ出版)より、醤油の味の違いについて紹介する——。

■ある時期まで醤油の歴史は味噌とほぼ同じ


奈良時代に書かれた『大宝律令』に「醤・豉・未醤」が登場するところまでは、醤油の歴史は味噌とほぼ同じです。


実際のところ、これらが液体状だったものなのか、固体だったのか、ご飯に汁としてかけて食べたのか、塗って食べたのか、あるいは他の食べ方をしたのかは、正確にはわかりません。


ただ確かに言えることは、奈良時代には穀物と塩を混ぜて発酵させ、調味料的に使用した「醤」や「豉」「未醤」と呼ばれる調味料があったということです。


写真=iStock.com/mizoula
ある時期まで醤油の歴史は味噌とほぼ同じ(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/mizoula

■「醤油」の登場は室町時代後期


穀物(時には魚や肉や野菜なども)と塩と水を適度に混ぜてドロドロとしたものをつくっておき、その液体部分を調味液として使うこともあれば、固体部分をおかずやご飯のお供として食べる、あるいは固体部分を溶かして汁物にしたり、ドロドロしたものをそのまま食品として食べたり、様々な食べ方がされていく中で、段々と、今の味噌や醤油のような形態や使用法に近づいてきました。


「醤油」という言葉が文献に表れるのは室町時代後期、16世紀に入ってからです。


この頃には、醤油と味噌がそれぞれ別の製品として認識されるようになりました。


江戸時代の初期には、火入れと呼ばれる加熱殺菌方法が開発され、麹のつくり方の改良や、木桶などの装置の大規模化も進み、大都市向けの商品としての生産と流通が始まりました。


■ルイ14世も日本の醤油をたしなんだ


江戸や大坂など大消費地を背景に、千葉の野田や銚子、紀州の湯浅、播磨の龍野(現・たつの市)などにも大きな醤油製造の拠点が生まれました。


これらは、現在でも、日本を代表する醤油の生産地となっています。


特筆すべきは、江戸時代には日本だけでなく、すでに世界にも輸出されるようになっていたということです。


フランスのルイ14世も、日本の醤油をたしなんだという記録が残っています。


写真=iStock.com/pictore
ルイ14世も日本の醤油をたしなんだ(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/pictore

■醤油は大きくわけて5種類


醤油の種類は、大きく5つに分かれます。


濃口醤油、淡口醤油、溜醤油、白醤油、再仕込醤油です。


・濃口醤油

日本の8割を占めるのが濃口醤油、いわゆる一般的な醤油です。皆さんが頭に思い浮かべる醤油は大体この濃口醤油と思っていただいて間違いないでしょう。


・淡口醤油

続いて淡口醤油。「あわくち」ではなく「うすくち」と読みます。


醤油の色が薄く、素材の色を邪魔しないので、白身の魚の白さや、卵焼きなどの鮮やかな黄色の色味を活かしたい、野菜のそのままの色を活かしたいとき、煮物をつくるときなどに好まれます。特に関西方面で愛用されています。


製法上の特徴としては、淡い色味に仕上げるため、濃口醤油ほど濃い色まで発酵させず、調味料としての機能を果たすために塩分の濃度を高くし、さらに製造中に甘酒を加えることが挙げられます。


なお、「薄口醤油」という表記を見かけます。薄口という表現ですと、塩分が低かったり、味そのものが薄いという誤解を消費者に与えるため、醤油業界では色が淡いことを示す淡いという字を使って「淡口醤油」(ラベルの名称としては平仮名で“うすくちしょうゆ“)と表記しています。


■溜醤油は大豆由来の濃厚な味や香りが特徴


・溜醤油

濃口醤油も淡口醤油も、大豆と小麦を原料に使いますが、中でも溜醤油は、原料のほとんどが大豆です。


大豆を主原料としており色も濃く、大豆由来の濃厚な味や香りが特長です。


味や香りがしっかりしているので、刺身などの生魚と合わせると魚の生臭さをしっかりマスキングしてくれますし、焼き物などでも醤油の照りや色味がしっかり料理に反映されます。


佃煮など醤油の味や色をしっかり出したいときに向いています。


また、完全に大豆だけでつくる場合は小麦を含まないので、グルテンフリーの醤油になるという特徴があります。愛知県を中心に東海地方でつくられる醤油です。


■白醤油の原料のほとんどは小麦


・白醤油

溜醤油の原料がほとんど大豆であるのに対し、白醤油の原料は、そのほとんどが小麦です。名前の通り色が大変淡く、淡口醤油よりもさらに薄い色をしています。


また、大豆に比べて小麦のほうがデンプン質が多いため、糖分が比較的高い醤油であることも特徴です。


使い方としては、その色の淡さが利点となる料理によく使われます。関西風のうどん、煮物、お吸い物などです。愛知県、特に碧南市を主産地とします。


写真=iStock.com/IakovKalinin
白醤油の原料のほとんどは小麦(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/IakovKalinin

■西日本に多い「再仕込醤油」


・再仕込醤油

再仕込醤油は、醤油をつくるときに水の代わりに醤油を使うという独特の製法です。醤油で醤油をつくるので「再仕込み」と言われています。言わば醤油をもう1回発酵させるわけですから、溜醤油同様、こちらも大変濃厚で、独特の味や香りが特徴です。


主要産地は西日本に多く、また、しっかりと主張のある調味料なので、合わせる料理としては刺身など生臭さのマスキングはもちろん、洋風のフライや、あるいはカレーの隠し味に使っても、しっかり存在感を示し、料理を引き立ててくれます。


大変特徴的な醤油を使う地域として、九州が挙げられます。


九州の醤油は甘く、砂糖を混ぜていますが、これには様々な理由が考えられています。


■焼酎に合わせる食事として甘味が好まれた


九州は暑い気候で大量の汗をかくため、塩分、糖分ともに求められたこと、サトウキビの産地に近く砂糖が手に入りやすかったこと、また、醤油づくりが広まった江戸時代に、海外との貿易が許されていた長崎があり、貿易を通じて砂糖が入手しやすかったことなどが理由として考えられます。


他にも、九州では焼酎がよく飲まれるため、日本酒に比べると糖分が少ない焼酎に合わせる食事としては甘味が好まれたこと、九州でとれる魚はブリやサバなど油の多い魚が多く、これも甘い醤油と相性が良かったことなどが、理由として挙げられます。


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焼酎に合わせる食事として甘味が好まれた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/liebre

■色が薄い醤油ほどしょっぱい


先ほどご紹介した5種類の醤油を味の濃い順に並べると、溜醤油・再仕込醤油・濃口醤油・淡口醤油・白醤油の順になります。



村井裕一郎『ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵』(あさ出版)

醤油の紹介サイト「職人醤油」では、醤油をワインに喩(たと)えています。


濃い醤油は赤ワイン、薄い醤油は白ワインを想像すると、料理の合わせ方のイメージも湧きやすくなります。


薄い醤油ほどしょっぱさ、濃い醤油ほどうま味がそれぞれ強くなる傾向があり、例えば白醤油は野菜や白身魚のムニエル、だし巻き卵などによく合います。


一方、濃い醤油は、肉料理や生魚など味が濃かったり、香りの強いものと合わせると良いでしょう。


真ん中の濃口醤油は万能タイプと言えます。


詳しくは、「職人醤油」内の「醤油の説明シート」が、大変優れています。ぜひ参考にしてみてください。


写真=iStock.com/cosa4
薄い醤油ほどしょっぱさ、濃い醤油ほどうま味が強くなる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/cosa4

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村井 裕一郎(むらい・ゆういちろう)
糀屋三左衛門代表取締役社長、日本醸造協会理事
1979年、愛知県豊橋市生まれ。2002年に慶應義塾大学経済学部、2004年に慶應義塾大学環境情報学部卒業。2006年にアメリカのサンダーバードグローバル国際経営大学院にて国際経営学修士(MBA)取得。その後、室町時代の創業以来、種麹を作ってきた家業である株式会社糀屋三左衛門、またその研究開発企業である株式会社ビオックに入社。以来、得意先である味噌、醤油、清酒、焼酎などの醸造メーカーと関わり「発酵」のプロとして家業に携わる。2016年に家業を継ぎ第二十九代当主に就任。各種セミナーや執筆など、麹、発酵の魅力を発信する活動にも力を入れる。2022年には京都芸術大学大学院学際デザイン研究領域修了(芸術修士)。2023年より公益財団法人日本醸造協会理事。その他、2019年公益社団法人豊橋青年会議所理事長、豊橋市男女共同参画審議会委員など地域社会活動の役職も多数務める。
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(糀屋三左衛門代表取締役社長、日本醸造協会理事 村井 裕一郎)

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