繰り返されるアメリカの貿易圧力、「一方主義型」の政策再び…過去の日本は「自主規制」で摩擦回避

2025年4月30日(水)12時3分 読売新聞

「相互関税」の一覧表を示すトランプ米大統領(2日、ホワイトハウスで)=ロイター

[戦後80年 昭和百年]経済<上>

 日本経済は戦前から巨大なアメリカと向き合い、影響を受け続けてきた。米国の圧力に翻弄ほんろうされるのは、トランプ政権が初めてではない。戦後はそれを何度も乗り越え、共栄の道を探ってきた。歴史を顧みつつ、日米貿易そして消費や雇用の現状と未来を問う。

 トランプ米大統領が、米国が第2次世界大戦後から構築してきた自由貿易の枠組みを、根本から破壊しようとしている。貿易赤字を減らす名目で一方的に「相互関税」を課し、相手国から譲歩を引き出そうとする強引な手法に、日本も狙われている。

 日本にトランプ政権が突きつけた相互関税率は計24%。主要産業である自動車に課された25%はすでに発動済みだ。第一生命経済研究所によると、両者を合わせると年5兆円程度の関税負担が発生する。

 「自由貿易体制が維持できるか、岐路に立っている」(経団連の十倉雅和会長)

 財界の中枢から公然と批判が飛び出すほど、米国への不満は高まっている。対米関係を重視する日本政府は、トランプ氏を逆なでするような対抗措置は取らず、交渉で関税の減免を勝ち取る考えだ。

 貿易を巡る圧力で、日本が米国に振り回されるのは、これが初めてではない。

 米国は戦後、共産陣営と対抗する思惑から、敗戦国の日本を国際貿易の枠組みに引き込んだ。だが朝鮮戦争をきっかけに生産力を急速に回復した日本の輸出攻勢が始まると、貿易赤字を減らすよう日本にプレッシャーをかける。

 日本は米国を刺激しないよう、輸出量を自らコントロールする「自主規制」という手法で、貿易摩擦を回避してきた。自主規制は1969年に鉄鋼、77年にカラーテレビ、81年には自動車にも広がった。

 米国の貿易赤字が急拡大したレーガン政権の対日政策は苛烈を極めた。米国の対日貿易赤字は80年代半ばに500億ドル(当時のレートで最大約10兆円)を超え、貿易赤字全体の4割超を占めた。「日本封じ込め」や「日本異質論」といった考え方が広がり、米国の保護主義を先鋭化させた。

 「国民の皆さま、外国製品をぜひお買いください。1人が100ドル買えば、輸入は120億ドル増える。それが国の困難を救う」

 85年4月、中曽根首相はテレビの前で米国製品の購入を国民に呼びかける、異例の記者会見に踏み切った。この年の政府の経済対策には「節度ある輸出」「調和ある対外経済関係」といった文言が並び、輸入品の販売促進に力点が置かれた。対米関係に腐心する政府の苦悩がにじむ。

 「米国は、自国の基準・判断に基づき『不公正だ』と一方的に判定し、報復や制裁で威嚇して、他国に制度変更を迫る」

 通商産業省(現経済産業省)が92年に発表した「不公正貿易報告書」の一節は、現代のトランプ政権にもそのままあてはまる。

 担当課長として報告書をまとめた豊田正和・元経産審議官は「貿易黒字イコール不公正貿易と米国に言われ続けるのは不適当だと思い、国際ルールに違反しているのは米国であると明らかにしたかった」と振り返る。

 過去の貿易摩擦では、日米が安全保障面で欠かせないパートナーであることが一定の歯止めになり、難交渉も妥結に至った。だが同盟国にも容赦なく襲いかかるトランプ政権との交渉で、日本政府が落としどころを見いだせるかどうかは、極めて不透明だ。

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