筋トレでも有酸素運動でもない…高齢になっても「自分の足腰で歩き続ける」ための"シンプルな動作"【2025年4月BEST】
2025年5月3日(土)18時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Deepak Sethi
2025年4月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお送りします。健康・医療部門の第4位は——。
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▼第4位 筋トレでも有酸素運動でもない…高齢になっても「自分の足腰で歩き続ける」ための"シンプルな動作"
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年をとるにつれ、身体がどんどん動かなくなっていくのは自然の摂理だ。だが、理学療法士のケリー・スターレットさんは「可動域を広げてスムーズに動く体をつくるためには、筋トレも有酸素運動も必要ない。ごくシンプルな動きを定期的に行うことで高齢者でも“動く体“を手に入れ、転倒などのリスクを減らすことができる」という——。
※本稿は、ケリー・スターレット、ジュリエット・スターレット『すごい可動域』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■転倒は年齢に関わらず毎日毎秒起きている
“動き”のすべてに影響し、身体能力のすべてを支える縁の下の力持ち、それがバランス能力だ。若いうちは気にも止めていなかったのに、60歳を超えると平衡感覚を失う危険性が一気に高まる。
高齢者の転倒は紛れもなく世界的な問題であり、米国に限っても憂慮すべき数字が報告されている。CDC(疾病対策予防センター:Centers for Disease Control and Prevention)によると、毎日毎秒、高齢者が転倒している——それは年間でおよそ3,600万件に及び、高齢者におけるケガと、ケガがもたらす死の主原因になっている。
転倒がもたらすケガや心理的影響は、行動範囲の縮小にもつながる。社会的交流を制限し、最終的には動くこと自体が億劫になって、体が弱っていく。それが、平衡感覚をさらに失わせるという悪循環に陥っていく。
写真=iStock.com/Deepak Sethi
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社会はこの状況を、加齢がもたらす代償として受け入れているが、私たちはその消極的な見方を拒否したい。必ず“転ぶ”必要はなく、バランス能力を保ち続けられることも、取り戻せることも知っているからだ。
転倒は高齢者だけに起こる問題だという考えそのものも間違っている。例えば、大学生を対象に4カ月間調査した結果、その半数が何らかの形で転倒していることがパデュー大学の研究によって明らかになった。若者の転倒についての調査はパデュー大学以外でも行われている。
ある研究によれば、学生は平均して週に1回つまずいたり滑ったりするが、ほとんどの場合、転ぶ前に体勢を立て直すことができる。転倒する最大の原因は、誰かと話しながら歩いていたことだった。18歳から35歳までの不慮のケガの3番目の原因は転倒によるものだ。
■バランス能力は誰でも回復できる
こういった話が、憂鬱に聞こえることは承知している。しかし、もともと人間は、重力の中で直立していられるものなので、バランス能力が衰えないように気をつけていれば、転倒数は急速に減少していくだろう。バランス能力の改善は難しいことではなく、遊び——歯を磨いたり、皿を洗ったりしながらでもできる——に似ている。
誰もがかつては子供だったので、上手にそうするやり方を知っている。ほんの少しの努力で大きな違いにつながるのがバランス能力だ。
次に紹介する2つのテストをやれば、バランス能力の異なる側面を評価できる。SOLEC(Stand On One Leg, Eyes Closed)テストは視覚情報を排除するテスト。オールドマン・バランステストは動的バランス能力(動きながらバランスを取ることができるか)を測定するテストだ。どちらも、バランス能力と深く関係している足について多くを知ることができる。足裏を通じて入ってくる情報をうまく脳に送ることができれば良いスコアが出る。
SOLECテスト
足元がどれだけ安定しているかは、足そのもののほかに3つの要素によって決まる。視覚、内耳、それと、筋肉/腱/筋膜/関節に散らばっている固有受容器だ。体と周囲との位置関係を教えてくれる視覚は、体を安定した状態を保つうえでとても重要な要素だ。
「見る能力」を除外すると、体に備わっている他のバランスツールに頼らなければならなくなる。SOLECテストは、視覚以外のあなたのバランスツールがどの程度機能しているか知ることができるテストだ。目を閉じて片足で立って行うが、簡単なことではなく、バランスを維持するうえで視覚がいかに重要であるか理解できるだろう。
■毎日簡単なテストを続けるだけでバランス能力が上がる
●準備
秒針の付いた時計を用意する。時間を測るが、目を閉じて行うので、誰かにサポートしてもらうとやりやすい。タイマーを使ってもいい。障害物がない床で裸足になる。
●テスト
広々としていて、障害物がない床の上に裸足で立つ。転倒に備えるために壁の近くで行う。目を閉じ、片脚を曲げ、そちら側の足を床からできるだけ高くまで上げる。足を下ろした回数を数えながら、20秒間この姿勢を保つ。
『すごい可動域』P.197より
●結果が意味するもの
バランスを取り戻すために足を床に触れさせた回数がスコアになる。左右を別々に評価する。
・まったく触れなかった
バランス感覚に優れていることを示している。毎日テストし続けることが、バランス能力の維持につながる。
・1〜2回、触れた
かなり良い。次に紹介するモビライゼーションを少し行えば、触れなくなるだろう。
・3回以上、触れた
この結果を知れたことは幸運だ。バランス能力改善に着手しよう。
このテストを毎日やらない理由はない。そして、テストすること自体がバランス能力を高める練習になる。
写真=iStock.com/ALLVISIONN
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■バランス能力を高めるモビライゼーション
今回は、2つのモビライゼーションを紹介しよう。モビライゼーションは、筋力を増強するためのエクササイズではない。関節を動かすことで、圧迫されていた軟部組織(皮膚、神経、筋肉、腱)をほぐし、本来の動きのパターンに体を慣らして、戻すことが目的になっている。
1つ目はYバランス・モビライゼーションだ。これは、バランス能力とケガをするリスクを評価するためにアスリート向けに行われるテストに基づいている。動的バランス(動きながらバランスをとること)を改善するのに役立つ。
1.Yバランス・モビライゼーション
ケリー・スターレット、ジュリエット・スターレット『すごい可動域』(かんき出版)
床上に書かれた大きなYの字の中心に自分が立っていると想像する。足を異なる方向に伸ばして、どこまで届くかに注目する。膝を曲げたり、体を傾けたりしても構わない。脚を伸ばして3回呼吸する間、バランスを保つことがゴールになる。
広くて障害物がない床の上に裸足で立つ。Yの字の真ん中に立っていると想像する。Y字をつくる3本の線のうち、Yの字の下にある長い1本が目の前に伸びていて、上部にある2本が体の後方の左と右に伸びている。片脚でバランスをとりながら、もう一方の脚をできるだけ前方に伸ばし、Y字の底につま先で触れる。3回呼吸する。
次に、伸ばしたほうの足をその同じ側の後ろに伸ばし(左足なら左後ろに伸ばす)、Y字の上部に触れる。ここでも、バランスを崩さずにできるだけ遠くへと伸ばし、3回呼吸する。次に、同じ足を反対側の脚の後方へ移動させて、できるだけ遠くまで伸ばし、Y字のもう一方の上部に触れる。3回呼吸する。反対側の足を使って繰り返す。
『すごい可動域』P.210より
■バランス保持に大切なのはふくらはぎと股関節
2.ふくらはぎストレッチ・クロスオーバー
古典的なふくらはぎストレッチのように思えるかもしれないが、反対側の足を横に踏み出す調整を加えて、ダイナミックなものにする。鍛えているほうの脚をまたぐことで股関節を伸展させるので、ふくらはぎのより深い組織までアプローチすることができる。
写真=iStock.com/kozorog
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縁石やブロックの上に立つ。右かかとを地面に下ろして、足を上向きにする。次に、左脚を右脚の前で交差させ、その姿勢を保ちつつ5〜10回呼吸する。また、力を加えた側(左脚)の臀筋を締めることができるか試す。反対側でも同じ手順を繰り返す。
『すごい可動域』P.212より
これらのモビライゼーションをぜひ生活に取り入れて、バランス能力を高めてほしい。
(初公開日:2025年4月2日)
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ケリー・スターレット
理学療法士
ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナルのベストセラーリストに名を連ねる人気作家。オリンピック選手や大学のクラブチーム、NFL、NBA、NHL、MLBの選手などのアスリートのみならず、障害や慢性的な痛みに向き合う子供、会社員に向けて、可動性改善に対する革新的なアプローチを提供している。ジュリエットとの共著に、『ケリー・スターレット式「座りすぎ」ケア完全マニュアル』(医道の日本社)がある。
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ジュリエット・スターレット
アスリート、弁護士、起業家
母親として、そして非営利団体「スタンダップキッズ」の創設者として、座りすぎのライフスタイルに対して警鐘を鳴らし、あらゆる公立学校の子供たちにスタンディングデスクを提供できるよう尽力している。1997年〜2000年まで、パドリングのプロスポーツ選手として活躍し、米国エクストリーム・ホワイトウォーターのチームに所属。2度の世界選手権タイトルと、5つの国内タイトルを獲得。
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(理学療法士 ケリー・スターレット、アスリート、弁護士、起業家 ジュリエット・スターレット)