「みんなの75点より誰かの120点」から生まれた「あんだく溺れ天津飯」ヒットを連発するドンキの「What3カ条」とは?

2025年4月30日(水)4時0分 JBpress

 型破り、というか、正直ちょっと変…35期連続増収増益という圧倒的成長力を誇る総合ディスカウント店「ドン・キホーテ(ドンキ)」。流通・小売業を代表する一大カンパニーへと飛躍した原動力は、「顧客最優先主義」と「権限委譲」という独特の企業風土にあった——。本稿では『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』(吉田直樹、森谷健史、宮永充晃著/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集。ドンキやパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)のキーパーソンの話を通じ、ユニークで大胆な経営やマーケティングの手法の本質に迫る。

 部署の垣根を越え、白熱した議論が交わされるドンキの「商品起案会議」。そこでは実際に何が話し合われているのか? ヒット商品創出の核心を探る。


商品化の大きな関門「What3カ条」

 試行錯誤を重ねた末、2021年2月、「情熱価格」をリニューアルしました。その結果、「素煎りミックスナッツDX」や「業務用ウインナー 800g」「ライトツナフレーク かつお 10缶パック」といった大ヒット商品が、次々と生まれました。

 情熱価格が、お客さまとドンキを結び付けるマグネットになり、「ドンキに来たらこれを買いたい」というお客さまがお見えになるようになったのです。

 ドンキの情熱価格といっても、かつては知ってる人は知ってる、といった程度でした。それが、今やドンキの“アイコン”になりました。

 こうしたヒット商品を生み出す源泉になっているのが、前回述べた「How3カ条」と、もう一つ「What3カ条」です。

 What3カ条は商品自体の売りを明確化するためのもので、(1)しっかりターゲットを見定められているか、(2)顧客のメリットに還元されているか、(3)『世の中の当たり前』ではなく独自性があるか、という3つの項目から成ります。そして、そのセールスポイントを顧客に伝えるため、判断の指針となるのがHow3カ条という立て付けになっています。

 それでは、What3カ条について詳しく説明しましょう。事例として取り上げるのは、情熱価格のヒット商品である「にんにく6倍ドン引きペペロンチーノ」です。

(1)しっかりターゲットを見定められているか

「にんにく6倍ドン引きペペロンチーノ」は、とにかくにんにくが大好きで、食後の口臭やにんにくフードを買うことに抵抗がないお客さまにターゲットを限定。その中でも、にんにくがたっぷり入ったペペロンチーノを食べたいと考えている、30〜40代の方に絞り込んだ商品です。

(2)顧客のメリットに還元されているか

 ターゲットを細かく絞ることにより、「どんな期待に応えればよいか」が明確になります。にんにく好きに伝えるべきなのは、にんにくの“量”であると考えました。にんにく「6倍」という数字に裏づけられた顧客メリットを打ち出し、商品の魅力を高めます。

(3)「世の中の当たり前」ではなく独自性があるか

「にんにく6倍ドン引きペペロンチーノ」は、万人ウケが難しく、恐らく他社では見かけない商品でしょう。しかし、あえてそれを作るのが「ドンキの強み」となります。「我々が作らないでどうするんだ!」という使命感を社員全員が共有することで、ワクワクするような面白い商品が生まれるのです。

 お客さまの嗜好が多様化している今の時代こそ、1人に「深く刺さる」ことで強烈なファンを生み出します。そして、その1人の後ろには、似たような嗜好の人が10人、100人、1000人と存在するはずです。

 さらに「個性的な商品」は話題になります。「買ってみた」「食べてみた」のSNS情報を見て、「ちょっとだけ気になっている人」のうち、何割かの方々には買っていただけます。

「遠慮しないでとことん突き詰める姿勢」を貫き、まだこの世に存在しない未開のジャンルを開拓することで、イノベーションが生まれます。隠れたニーズだけではなく、「その先を見てみたい、味わってみたい」という人々の「飽くなき探求心」を満たすことができるのです。


「みんなの75点より誰かの120点」を狙った「偏愛めし」

 一般的な他社のPBでは、万人ウケしたほうがいいという考え方になると思います。そのほうがマーケットは広くなり、売り上げが伸びる可能性が高いからです。

 しかし、ドンキは万人ウケしないPBをさらに先鋭化させました。2023年11月にリリースした「偏愛めし」です。

「みんなの75点より誰かの120点」

 これが偏愛めしのコンセプトです。万人ウケは狙わないと明確に決めた、総菜のみのブランドです。好きな人だけ好きになってくれればいいと、思う存分、振り切りました。

 天津飯を想像してください。天津飯を食べるとき、最後のほうになると、あんがなくなって、白ご飯だけが残ってしまうことはありませんか? これが天津飯を食べるときのストレスになっている人がいるのではないか… 。会議の席で、そんなことが話題に上ったのが開発の出発点でした。

 そこで「俺は具が足りなくて、白飯ばかりになるのが一番嫌い」という、少し偏った思考の人に向けた天津飯を開発することにしました。その名も「あんだく溺れ天津飯」。あんが通常の3倍くらい入っている天津飯です。白ご飯はもちろん、玉子も“あんの海”に完全に溺れています。

「あんだく溺れ天津飯」の開発者は、カロリーの塊のようなメニュー開発を得意としている男性です。彼は自分の嗜好をベースに開発している面もありますが、他にもドンキには「きっとこういう嗜好の人っているよね」と想像して、開発している商品があります。


なぜ家電の会議に食品担当が参加するのか?

 ドンキらしいPBを世に送り出すために、それまでなかった新しい会議をつくりました。それが月1回の「商品起案会議」です。何でもかんでも、情熱価格としてリリースしていいわけではありません。よりドンキらしい商品を作っていくため、商品開発担当者から提案されたアイデアを、みんなで徹底的にたたく場にしました。

 商品起案会議に参加するのは、僕や社内デザイナー、商品開発担当者に加え、最初の1年ほどは、博報堂から宮永さんやデザイナー、コピーライターに入ってもらいました。商品起案会議の大きな特徴は、家電や食品といった担当カテゴリーの枠を超えて、いろんな部署の人たちが参加すること。

 というのも、例えば家電チームの中だけで家電のことを話していても、視野が狭くなってしまうからです。食品担当など、全く家電に携わっていない人の意見も取り入れるべきだと考えました。極めてフラットな目線で、お客さまの心に届く商品かどうかを、真剣に議論する場にしたんですね。

 1年くらいたつと、会議はドンキのメンバーだけで自走できるようになりました。今は初期のころとは形態が大きく変わり、僕もよほどの重要案件でもない限り参加していません。宮永さんら博報堂チームが加わるのも、ここぞというときだけになりました。

 またPBのリブランディング後には、PB推進をより強化するため「プロフィットマネジャー(PM)」という職責を新設しました。

 PMは全国14あるエリアごとに配置されています。僕らがPBのメーカーだとすると、PMは各エリアを担当する営業マンのような役目。PMはPB商品を各店舗に売り込んでいきます。商品の魅力が伝わるよう、各店舗に「営業」しなきゃ売ってもらえないですから。

 このPMも商品起案会議に参加して、担当エリアの店舗で仕入れる数量などを決めていきます。商品起案会議では他の部門の開発担当だけでなく、営業サイドの人間も加わって喧々囂々(けんけんごうごう)の議論を交わすのです。

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筆者:吉田 直樹,森谷 健史,宮永 充晃

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