「ダメ出しの殿堂」に月5000件の突っ込みが殺到 ドンキの愛される“弟キャラ”とお客の声を売上150%につなげる極意
2025年5月12日(月)4時0分 JBpress
型破り、というか、正直ちょっと変…35期連続増収増益という圧倒的成長力を誇る総合ディスカウント店「ドン・キホーテ(ドンキ)」。流通・小売業を代表する一大カンパニーへと飛躍した原動力は、「顧客最優先主義」と「権限委譲」という独特の企業風土にあった——。本稿では『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』(吉田直樹、森谷健史、宮永充晃著/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集。ドンキやパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)のキーパーソンの話を通じ、ユニークで大胆な経営やマーケティングの手法の本質に迫る。
ドンキのアプリ内にあるレビュー・掲示板機能「マジボイス」。その前身「ダメ出しの殿堂」はどのようにして誕生したのか、執行役員の森谷健史氏と、博報堂のクリエイティブディレクター・宮永充晃氏の言葉からひもとく。
集まったのは、愛のあるダメ出し
ドンキのお客さまは、内心ダメ出ししたくてウズウズしていたんじゃないでしょうか。ダメ出しの殿堂を始めた途端、月4000件、多いときは月5000件ものダメ出しが殺到しました。
これだけダメ出しされたら、普通は商品開発に携わった社員たちはヘコみますよね。ところが、ダメ出しの殿堂に集まったコメントの雰囲気が、あまりキツくないんです。
ネット上のダメ出しというと、ヘイトやディスり、アンチといったワードが思い浮かぶかもしれません。しかし、ダメ出しの殿堂に集まったコメントは、X(旧Twitter)に書き込まれるようなトゲのある言葉遣いではありませんでした。どちらかというと、愛のあるダメ出しが多かったんです。
きっと、お客さまはドンキのことを「しょうがねえやつだな」と思っていたのでしょう。お客さまにとって、多分ドンキは「世話の焼ける後輩」「突っ込みたくなる、かわいい弟」のような存在なんじゃないでしょうか。
書き込みのトーンを見たとき、僕は「これはうまくいくんじゃないかな」と直感しました。なぜなら「より良い商品を一緒に生み出そう」といった、建設的な場所になっていたからです。ホント、お客さまには感謝しかありません。
UIとコメントの書き込みやすさに工夫
実は意図的に、突っ込みやすいキャラ設定もしていました。宮永さんとは「ドンキを芸能人にたとえると、誰ですかね?」「俳優の〇〇さんじゃない?」といった会話を交わしながら、UI(ユーザーインターフェース:画面デザイン)のデザインを大きく2つ工夫しました。
一つはPOP調にしたこと。親しみやすくて突っ込みやすく、フレンドリーな感じを出すためです。それこそ「かわいくてダメな弟キャラ」のような設定を想定していたのです。「ドンキはしょうがねえやつだ。だから俺が指摘してやるよ」と思われるように、うまくボケなければいけないと考えたんです。そうしたほうが、お客さまの本音が集まります。その集合体が僕らの資産になって、商品の改善に生かせると考えました。
もう一つこだわったのは、コメントの書き込みやすさです。お客さまの声を集めるWebサービスは他にもありますが、書き込むまでの手続きが煩わしいことがあります。それではお客さまはイライラしてしまいます。思いついたことを気楽に発言できる、ブレストのような感覚でダメ出しできるU Iを意識しました。
ダメキャラ丸出しのダメ出しの殿堂を立ち上げることによって、単に一方通行でプロダクトを提供するのではなく、お客さまとの双方向のコミュニケーションを通したブランディングを進めていきました。
不満も言える“脇の甘さ”で築いたお客さまとの絆
「ダメ出しの殿堂」がリニューアル成功の要因
実はダメ出しの殿堂を始める前から、ドンキはお客さまからダメ出しを受けていました。売れた商品や話題になった商品を分析してみると、その商品を評価する声がある一方で、お客さまから数々の突っ込みが入っていたのです。
例えば「素煎りミックスナッツDX」のパッケージには、クルミやピーナツなどの割合を「黄金の究極比率」として、勝手に定義して表記していました。それに対し、お客さまの間では「これってどういうこと?」「究極じゃないと思う」という突っ込みが、かなり起きていました。
お客さまが突っ込むということは、気になっているんですよね。興味がなければ突っ込みません。ドンキの商品には、いい意味で突っ込みの余地がある“脇の甘さ”みたいなところがありました。
その突っ込みに対して、真摯に応えるようにしたのがダメ出しの殿堂です。この仕組みが生まれたことが、情熱価格のリニューアル成功へ向けた大きな引き金になったと思います。ダメ出しの殿堂によって、お客さまと商品とのインタラクティブ(双方向)な関係を築けたのは、大きな成果の一つでした。
宣伝もなしに、膨大なダメ出しが集まった理由
ダメ出しの殿堂は、対外的にはそれほど宣伝してはいません。店内で案内はしていましたが、強く打ち出してはいませんでした。告知らしい告知といえば、ブランドリニューアルの発表会で紹介したのとプレスリリースくらいです。
それでも月4000件ほどのダメ出しが集まったのは、森谷さんが触れたように、ボケキャラ、弟キャラのドンキだから不満も言いやすい、というのが最大の要因ではないかと思います。ドンキとはキャラクターが異なる他社が同じことをやっても、多分、ここまで本音は集まらない気がします。
近年、企業がユーザーや消費者と一緒に商品やサービスをつくる「共創」という言葉をよく目にするようになりました。これからの商品・サービス開発には欠かせない視点ですが、企業のブランドやキャラクターを生かした上で、消費者と企業がお互いにWIN-WINの関係になるような演出が必要だと感じます。
ドンキのお客さまの多くは、間違いなくドンキのファンです。といっても、弟キャラに対する親しみのような感情を抱いています。だからこそ、ダメ出しの殿堂もうまく機能したのではないでしょうか。
「ホントにしょうがないよな、ドンキってやつは…(笑)」
お客さまは、そうこぼしながら世話を焼いてくれているのだと思います。
次のフェーズへ踏み出したお客さまとの関係
ダメ出しは放置せず、商品改善で売り上げアップ
ダメ出しの殿堂に投げ込んでくださったお客さまの突っ込みの声は、そのまま放置なんてしません。できるだけ商品の改善につなげていきます。さらにその事実を、全てWebサイトで公表しています。
例えば「ハイブリッドミニバスタオル」という商品があります。マイクロファイバーと綿を約半々で合わせて、綿の風合いを持ちながら、マイクロファイバーの吸水力と速乾性を実現するという、いいとこ取りのバスタオルです。
すると、お客さまから「体を拭くにはサイズが小さ過ぎる」「若干大きさが物足りない」というダメ出しがありました。品質には満足していただけたのに、サイズが使いにくいというのです。これではお客さまにとっての“理想”ではありません。
言い訳になりますが、当初このバスタオルは、あえて少し小さいスポーツタオルくらいのサイズにしました。なぜなら、バスタオルはサイズが大きくて、ベランダに干すときにスペースを取るからです。毎日洗うものなので、ハンガーに掛けられるサイズにしたんですね。そこが売りでもありました。ところが、「これは小さ過ぎるだろ!」というダメ出しがたくさん来たということは、ドンキ側の見込み違いだったと言わざるを得ません。
ダメ出しを受けて、ハンガーに掛けられるサイズは保ちつつ、100センチだった長さを120センチに変え、商品名もお客さまの“理想”に近いバスタオルということで、「理想のバスタオル」に変更し、リニューアルしました。すると、売り上げが150パーセントに伸びたんです。
フライパンも、ダメ出しを受けて形状を変更した商品の一つです。「取っ手が持ちにくい」というダメ出しの声が集まったので、グリップの角度をほんの少し変えたんです。たったそれだけで、売り上げが120パーセントくらいになりました。
ダメ出しの原因をしっかり理解して商品改善に生かせば、売り上げアップにつながることがよくわかりました。
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筆者:吉田 直樹,森谷 健史,宮永 充晃