「トトロ」でも「千と千尋」でもない…TV離れの中で札束"輪転機"と化した日テレ「金ロー」ジブリ作品視聴率1位は

2025年5月9日(金)11時15分 プレジデント社

スイッチメディア「TVAL」データから作成

日本テレビ「金ロー」が絶好調だ。次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんは「特に宮﨑駿監督の作品を筆頭としたスタジオジブリの映画など良作アニメで高い視聴率を出している。先週放送の『君たちはどう生きるか』は2024年以降放映作品で視聴率2位だった。日テレ・系列局が出資した映画が同枠の4分の1を占め、再放送すればするほど儲かる」という——。

先週2日金曜に放送されたスタジオジブリの映画『君たちはどう生きるか』(宮﨑駿監督、以下、君たちは)。夜9時から11時半過ぎと遅い時間で長時間の放送になったにもかかわらず、この一週間のどの夜帯ドラマより高い視聴率となった。


放送枠は日本テレビの金曜ロードショー。以前から高視聴率が出る枠だったが、テレビ離れが進み、テレビ番組全体の視聴率が低迷する中、逆にどんどん強くなっている。


何が凄いのか、視聴データを基に分析してみた。


■『君たちはどう生きるか』の強さ


物語の舞台は第2次世界大戦中の日本。火事で母を失った主人公の眞人は、父と共に東京を離れた。その疎開先で父と再婚した母の妹・夏子や周囲の人々になじめずにいたが、そんな中で人間の言葉を話す青サギと出会い、不思議な世界に入っていく……という展開だった。


スイッチメディア「TVAL」データから作成

実は同作品は毀誉褒貶が激しい。


「つまらない」「退屈」「意味不明」などの批判も少なくない。その一方で「さすが」「宮崎駿監督の集大成」「表現者としての孤独な苦悩が痛切」など、高く評価する声もたくさんある。


実は「金ロー」枠でジブリ作品とその他の作品と比較すると、視聴率が傑出している。


去年1月からの同枠で放映された64作品の中では、「個人視聴率」で2位(1位は『天空の城ラピュタ』)。属性別の「SNSヘビーユーザー」(1日3時間以上の利用者)に限ればダントツ1位。そして「10代」にもよく見られ、「50歳以上」でも圧倒的だった。


「個人視聴率」トップの『天空の城ラピュタ』は恒例の“バルス祭り”が続く影響もあるのか、リアルタイム視聴する人が今も多い。ところが、SNSをよく使う人では「君たちは」はそれを上回り、さらに中高年では他作品を寄せ付けなかった。


宮崎監督の長編としては『風立ちぬ』以来10年ぶりで、『千と千尋の神隠し』以来21年ぶりのアカデミー長編アニメ映画賞だったことも大きい。しかも宮崎アニメの集大成的な作品で遺言ともとれるメッセージに、長年ジブリ映画を見て来た中高年が反応した。


■「金ロー」輪転機論


「君たちは」をはじめジブリ映画は、単に視聴率が凄いだけではない。


「名探偵コナン」の5作品を含め、日テレや系列局が出資した映画が4分の1を占めた同枠は、他の番組枠と比べ利益を効率的に生み出す輪転機のような存在になり始めている。


金ローの個人視聴率ベスト10(24年1月〜25年5月2日)

順位 放送日 作品名 個人視聴率(%)
1位 2024年8月30日 天空の城ラピュタ 7.4911
2位 2025年5月2日 君たちはどう生きるか 7.19766
3位 2024年1月5日 千と千尋の神隠し 7.08949
4位 2024年4月5日 すずめの戸締まり 7.00916
5位 2024年8月23日 となりのトトロ 6.746
6位 2024年4月19日 名探偵コナン黒鉄の魚影(サブマリン) 6.31744
7位 2025年4月18日 名探偵コナン100万ドルの五稜星(みちしるべ) 6.19115
8位 2024年4月12日 名探偵コナン紺青の拳(フィスト) 6.0405
9位 2025年1月10日 ハウルの動く城 5.87223
10位 2024年11月1日 ゴジラ−1.0 5.83561


まずは他の4分の3の作品群と比較してみよう。


ジブリと同様に10本放送したディズニー作品は、視聴率が今ひとつ伸びていない。「SNSヘビーユーザー」によく見られているものの、実は「18歳以下の子とその親」の随伴視聴は多くない。つまり一家団欒で見る番組としては、ジブリやコナンは特に優れた作品群なのである。


個人視聴率が高い作品は、他にも少なくない。


トップガン』『バック・トゥー・ザ・フューチャー』『ハリー・ポッター』『キングダム』などは及第点だ。ところが「親子随伴視聴」や「SNSヘビーユーザー」の間では今一つ。ジブリ作品は視聴者層と話題性で優れていると言えよう。


しかも何度も再放送した作品がたくさんある。


今まで10回以上放送した作品が9つ。5〜9回のものも多く、再放送の総回数は優に160回を超える。再放送は番組制作費がほとんどかからない。しかもジブリやコナンの版権の一部はテレビ局に属している。つまり放送権を制作委員会に支払ったとしても、その一部はテレビ局に還流されるので、広告収入に対する利益率が高くなる。擦れば擦るほどお金を生むという意味で、輪転機のような存在なのである。


■日テレ「金ロー」vsフジ「土プレ」


映画の放送枠はかつて各局が持っていた。


ところが他局は次第に撤退し、今や週一の定時を持つのは日テレのみ。あとはフジテレビが、土曜夜に不定期に映画(土曜プレミアム)を放送しているだけだ。


スイッチメディア「TVAL」データから作成

その両枠を視聴率で比較すると、大差ができている。


「50歳以上」でこそ両枠は拮抗している。ところが若年層では「金ロー」が圧倒している。やはり定時枠で視聴習慣がつきやすい点と、アニメを多く持つ日テレが優位になっていることがわかる。


ただし、フジも「50歳以上」が健闘する枠がある。


全20作の中の上位を占めるのが、「踊る大捜査線」シリーズや『イチケイのカラス』『ミステリと言う勿れ』など同局人気ドラマの劇場版だ。これらもまずまずの視聴率だが、残念ながら「50歳以上」の中高年に支えられた数字となっている。


同局はかつて「F1(女性20〜34歳)のフジ」と言われた。ところが全盛期から20〜30年が経過し、当時のF1は今や50歳以上だ。アニメを中心に若年層と親子随伴視聴で優勢な日テレとは、ここが大きな違いとなっている。しかも若年層が少ないためにSNSでの話題性も乏しい。「金ロー」が再放送を繰り返しながらも一定の数字を保っているのとは、このメカニズムが異なる。


■ジブリと宮崎監督の今後


好調なジブリだが、実は全てが及第点ではない。


今回の10本でも、『アーヤと魔女』『耳をすませば』『猫の恩返し』『ゲド戦記』などは、ボチボチ再放送に耐えられなくなっている。個人視聴率だけでなく、親子随伴視聴やSNSヘビーユーザーの数字が伸びないからだ。


スイッチメディア「TVAL」データから作成

「金ロー」枠は、実は視聴データの分析でPDCAが回せる。ジブリ10本の平均と比較し、どんな視聴者層が突出しているか、どこがダメかを見れば、次の再放送をどのタイミングでやるとどの程度見られるかが予測できるからだ。


例えば、前出の『天空の城ラピュタ』。


すでに19回目の放送だったが、依然として親子随伴視聴がダントツで、SNSでの話題性も大きい。タイミングを間違わなければ、まだ何度も再放送できそうだ。


となりのトトロ』も根強い人気だ。


親子随伴視聴で優れ、かつSNSで上位3本の指に入る。少女と幼子がメインで、親との関係に主眼があっただけあり、視聴者層の新陳代謝により今後も注目してくれる人は少なくない。


今回が初放送だった「君たちは」も期待できる。


時代背景が戦争で、エンタメ色が薄かったので批判する人もいたが、宮崎駿の作家としての活動の集大成となっている点が今後も生きてくるだろう。ジブリ自体がどうなっていくのか、監督には次があるのか、さらに後継者がどうなるのかなど、同作を再放送するタイミングは何度も訪れそうだ。


■テレビ離れの中の次の一手


番組枠としての「金ロー」には未来がある。


仮にジブリのパワーが往時と比べて後退しても、代わりを務める作品が次々と出てくるからだ。


例えば「コナン」シリーズ。


すでに劇場版が28作制作されている。このストックを活用すれば、「金ロー」枠で毎年数本放送しても飽きられない。しかも今後も劇場版が制作されるので、放送のタイミングも十分ある。いずれはジブリをしのぐ存在になり得るし、権利の一部はテレビ局が保有するので、輪転機としての機能も遺憾なく発揮できる。


日テレにはアニメ作品が他にいくつもある。


「ルパン三世」「シティーハンター」などをはじめ、近年では「薬屋のひとりごと」「僕のヒーローアカデミア」「葬送のフリーレン」などヒット作が出てきている。


実写ドラマでも、ミステリ、学園もの、タイムリープものなど、人気作がいくつかある。これらの劇場版を制作していけば、「金ロー」で現状3割弱の権利保有コンテンツが、やがて4割を超えて立派な輪転機に進化するだろう。


これまでの放送で、1回の放送で広告収入の最大化を図ってきた。


ところがテレビ離れが進み、テレビ広告費が減少する中、異なる戦略が大切になってきた。その一つの柱が、同局が守ってきた映画枠の活用だ。


事実、23年秋に日テレはジブリを子会社化した。


その結果、24年度第3四半期の日テレの決算は、前年同期比の売上274億円増のうちの半分ほどをアニメ関連会社がたたき出した。特に営業利益ベースでは、64億円増を上回る69億円がアニメ関連会社だった。


間違いなく「金ロー」は、権利を自局で持つことで最強番組になった。


今後も視聴率が下がり、テレビ広告費が厳しい中、この傾向は続くだろう。ジブリ映画『コクリコ坂から』の「紺色のうねり」という歌に、こんな歌詞が出てくる。


紺色のうねりが
のみつくす日が来ても
水平線に君は没することなかれ


まさにテレビ離れが進む厳しい時代が「紺色のうねり」。「水平線に没しない」ための方策の一つが「金ロー」におけるジブリなどではないだろうか。日テレをはじめ各局が、こうした“輪転機”で苦境を乗り切ることを願ってやまない。


----------
鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。
----------


(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)

プレジデント社

「日テレ」をもっと詳しく

「日テレ」のニュース

「日テレ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ