成績優秀でもこれなしでは実力発揮できない…小学・中学受験でわが子の「合格」手繰り寄せる家庭が必ずする事

2025年5月14日(水)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dr_Microbe

激しい咳が長く続く百日咳が大流行している。ナビタスクリニック川崎院長の医師・谷本哲也さんは「適切な時期にワクチン接種を受けて免疫をつけておけば、たとえ流行が起きても過度に怖がる必要はありません。家族で協力して感染症から身を守り、万全のコンディション維持に努めましょう」という——。
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今春、日本各地だけでなく、アメリカや韓国など世界中で百日咳(ひゃくにちぜき/ひゃくにちせき)の感染が広がっています。乳幼児で特に重症化しやすい病気として知られていますが、実は保育園児や小学生とその家族にとっても見過ごせない感染症です。


正しい知識と予防策を身につければ、過度に不安になる必要はありません。百日咳とはどのような病気なのか、2024〜25年にかけての感染拡大の現状、そして予防接種(ワクチン)の重要性について解説します。


■百日咳とはどんな病気?


百日咳は、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)という細菌による呼吸器の感染症です。感染力が非常に強く、主に患者の咳やくしゃみの飛沫を通じて周囲へうつります。パータシスとは激しい咳を意味するラテン語です。


名前のとおり長引く激しい咳が特徴で、典型的には「コンコンコン……ヒュー」といった発作的な咳が何度も起こり、2〜3週間にわたり強い咳込みが続きます。その後も回復までさらに2〜3週間、場合によっては3カ月近く咳が続くこともあります。この長引く経過が「百日咳(百日間も咳が続く)」と呼ばれる理由です。


特に乳幼児にとって危険な病気です。生後6カ月以下の赤ちゃんが感染すると、咳込みで呼吸ができなくなり、全身が青紫色になったり(チアノーゼ)、けいれん発作を起こしたりすることがあります。最悪の場合、肺炎や脳症を併発して命を落とすこともあるのです。


一方、年長児や大人が感染した場合は重症化しにくく、激しい咳ではなく「ただ咳が長引くだけ」といった症状で多くは経過します。それでも、受験や定期テストなどを控えた児童・生徒の場合は、咳のため勉強に集中できなかったり、夜間の咳で眠れず寝不足になったり、といった勉学への悪影響もあります。大人でも仕事や日常生活に差し支えます。


咳がひどくならない場合は、医療機関を受診しなかったり百日咳と診断されなかったりするケースも少なくありません。ただし、症状が軽くても感染力は強いため、本人が気づかぬうちに周囲へうつしてしまう点に注意が必要です。


■コロナ禍後の百日咳の感染拡大


なぜ、ここにきて感染拡大しているのでしょうか。実はコロナパンデミック中は感染予防の効果で百日咳も減っていましたが、社会活動が平常化するとともに百日咳患者の報告数は2024年の中頃から再び増加に転じました。世界中で同様の現象が報告されていますが、日本では2025年に入ってからの4カ月間(1〜4月)に報告された患者数は1万人を超え、2024年一年間の合計(4054人)をすでに上回っています。


現在の流行は2018〜2019年の大流行に匹敵する勢いであり、コロナ禍で減少していた患者数がパンデミック前の水準に戻っているわけです。2018年と2019年には国内で年間1万人以上の患者が報告されましたが、2024年末から2025年にかけての急増により、それを超えそうな規模での流行が今回起こっています。


今回の流行でも患者の多くが子どもです。報告例の約6割は15歳以下で、特に10歳未満の小児が多数を占めています。そして重症化リスクが最も高いのは、予防接種前あるいは接種途中の生後6カ月未満の赤ちゃんです。実際に乳児の患者も増えており、自治体や医療機関からは乳児の重症化防止に向けた注意喚起がなされています。


一方で乳幼児以外の患者も増えており、私のクリニックにも受験生世代から大人まで百日咳と診断される方が少なくありません。この5月には、全国で検査数が増加したことにより検査試薬が足りなくなり、十分な検査もできない状況になっています。乳幼児より上の年齢では前述のように軽症で見逃されやすいものの、2024年の東京都内の患者400人のうち約半数は乳幼児期に百日咳の予防接種を4回受けていた人でした。これは、ワクチンを受けていても時間の経過とともに免疫が薄れてしまうことを意味しています。


百日咳流行拡大の背景には、コロナ禍で流行が一時抑えられた反動で、社会全体の百日咳に対する集団免疫(みんなが持つ免疫力)が低下し、感染しやすい人が増えたこと、抗菌薬が効かない耐性菌が出現していること、大人から子どもへの感染(家庭内感染)が増加したこと、といった原因が考えられます。


こうした中でマスクや手洗いといった衛生面に加え大切なのが、予防接種によって事前に免疫をつけておくことです。


写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

■百日咳の予防接種(ワクチン)が重要


百日咳はワクチンで予防可能な感染症です。日本では定期予防接種として乳幼児期に計4回の百日咳含有ワクチン接種が推奨されています。現在は他の病気の予防も加えた、5種混合ワクチンが使用されています。


標準的なスケジュールは生後2カ月、3カ月、4カ月の計3回と、1歳〜1歳半頃に追加の4回目を接種します。厚生労働省も「生後2カ月に達したらできるだけ早く接種を開始しましょう」と呼びかけており、乳児がいるご家庭ではスケジュールどおり、なるべく早期に接種を受け始めることが重要です。


乳幼児期にしっかり免疫をつけておくことで、重症化や死亡のリスクを大幅に下げることができます。報告では、百日咳含有ワクチンの接種によって発病リスクを約80〜85%減らせるとされています。仮に感染してしまった場合でも、ワクチンを受けていれば症状が軽く済む傾向があります。


ただし前述のとおり、幼い頃にワクチンを受けていても年齢が上がるにつれて免疫効果は徐々に薄れてきます。百日咳含有ワクチンによる免疫の持続期間は一般に5〜10年程度とされ、ちょうど受験にも関係する小学校および中学校入学前後から再び感染しやすくなる可能性があります。実際、日本小児科学会によれば、4回の乳幼児期定期接種を完了していても、学童期には感染例の報告があることが示されています。


そこで日本小児科学会は任意接種として、小学校入学前(就学前1年間)に百日咳を含有する3種混合ワクチン(DTaP)を追加接種し、さらに11〜12歳頃にも本来11歳で行われる2種混合(ジフテリア・破傷風)ワクチンを3種混合ワクチン(DTaP)に置き換えて接種することを提案しています。


実施すれば学童期以降の免疫維持に役立つと期待されています。これはちょうど小学校受験、中学校受験の準備時期に重なるわけです。費用は5000円から1万円程度かかりますが、「合格」のためには子供の勉学だけでなく、家族がこうした「追加接種」の情報をしっかりキャッチして、実践することも重要になります。


■家族や周囲みんなでワクチン接種を


乳幼児、さらには受験生が百日咳にかからないようにするためには、本来であれば周囲の人が病原体を持ち込まないことも重要です。


具体的には、両親やきょうだい、同居の祖父母など、日常的に接触する家族全員が百日咳の免疫を持っておくことが推奨されます。こうすることで、たとえ周囲の誰かが百日咳菌を持ち込んでも、免疫力で守られる確率が高まります。


海外では、特に妊婦さんへの成人向けの百日咳含有ワクチン(Tdapワクチン)が、赤ちゃんを百日咳から守るうえで効果的だと報告されています。お母さんが妊娠後期(妊娠7〜9カ月ごろ)に百日咳含有ワクチンを接種すると、母体内で作られた抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移行し、生後しばらく赤ちゃんを守ってくれるのです。実際に米国や欧州では妊婦への接種が広く行われています。


残念ながら、日本では成人向けのこのTdapワクチンは未承認で、一部の専門の医療機関で輸入している以外は取り扱いがありません。輸入ワクチンで取り扱いがあるところでは、1万円前後で提供されています。


また、小児用の3種混合ワクチン(DTaP、小児期に使うものと同成分)を11歳以上の年齢層にも使うことは国内でも承認されています。成人用の輸入ワクチンより副作用がやや多い可能性もありますが、希望すれば妊婦でも小児用の接種を受けることも可能です。赤ちゃんのために接種を望む場合は主治医に相談してみるとよいでしょう。


写真=iStock.com/Vadym Terelyuk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vadym Terelyuk

いずれにせよ、乳幼児や児童・生徒、妊婦のいる家庭では、本人だけでなく、家族全員が百日咳の免疫を確認し、必要に応じて追加接種を検討することが勧められます。過去に百日咳にかかったことがなく、幼少期の定期接種以降ワクチンを受けていない大人の方などは、上述にように任意で自費になりますが、小児用DTaPワクチン、もしくは成人用輸入ワクチン(Tdapワクチン)を取り扱っている医療機関での接種を検討するとよいと思います。


なお、百日咳と診断された場合、感染拡大を防ぐために抗菌薬(抗生物質)による治療を行います。一般的にマクロライド系抗菌薬が用いられ、発作的な咳が始まる前の時期であれば症状の軽減に有効ですが、耐性菌の出現が問題になっています。一旦激しい咳の時期(痙咳期)に入ってしまうと抗菌薬で症状そのものを止めることは難しくなります。


それでも抗菌薬治療には他者への感染力を低下させる効果があるため、患者本人の回復を助けるというより周囲への2次感染を防ぐ目的で治療が行われる場合があります。学校保健安全法においては、「学校感染症(第2種)として、特有の咳が消失するまで、又は5日間の適正な抗菌性物質による治療が終了するまで出席停止」と定められています。


もし、本人や家族が「2週間以上咳が続く」「ゼーゼーと息苦しそうな咳をしている」といった症状がある場合、無理をせず早めに医療機関を受診して相談するのがよいでしょう。また、周囲に乳幼児や高齢者、妊婦がいる場合は特にうつさないための配慮がかかせません。


いずれにせよ、日頃からの衛生対策も重要です。百日咳に限らず、基本的な感染症予防策が大切です。今一度、手洗い、手指消毒の徹底、咳エチケット(咳やくしゃみをするときはマスク・袖で押さえる)を確認し、体調の優れない人にむやみに近づかない、食器やタオルの共用を避けるといった注意をお願いできればと思います。


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谷本 哲也(たにもと・てつや)
内科医
鳥取県米子市出身。1997年九州大学医学部卒業。医療法人社団鉄医会理事長・ナビタスクリニック川崎院長。日本内科学会認定内科専門医・日本血液学会認定血液専門医・指導医。2012年より医学論文などの勉強会を開催中、その成果を医学専門誌『ランセット』『NEJM(ニューイングランド医学誌)』や『JAMA(米国医師会雑誌)』等で発表している。
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(内科医 谷本 哲也)

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