なぜ沖縄県は「長寿王国」から陥落したのか…医師が指摘する「魚や野菜を食べない日本人」の体を蝕んでいる食品
2025年5月15日(木)18時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/O_P_C
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■家族で同じものを食べる時代
【トット】たしかに食べることって、楽しみだし大事です。家族みんなで、ちらし寿司でも何でもいいんですけれど、同じものを食べている時代は、いま思うといい時代でしたね。毎食、自分の好きなものだけ食べればいいという、いまとは違います。
私は母の精進揚げが大好きでした。細く切ったごぼうや人参、玉ねぎ、さやえんどうなんかをかき揚げにした、お野菜のてんぷらなんですけど、これが大好きで「何が食べたい?」と聞かれると、笑っちゃうくらい、いつも「精進揚げ!」と言いました(笑)。もちろんどんなに好きでも毎日精進揚げを食べられるわけはなくて、いつもは、まず父の好き嫌いに合わせて母がお料理を作ってました。
父が好きじゃないから店屋物(てんやもの)もほとんど取らなかったし、うちはちょっと独特の食卓だったかもしれませんけれど。それで特別ではないけれど、何かのときに好きなものを母に作ってもらえると大喜び。姉弟(きょうだい)それぞれに思い出の食べものがあったと思うし、そういうふうにわが家の食卓がありました。
■「昔の食卓」で教わったこと
【トット】うちだけではなくて、昔の家族は一緒にごはんを食べていましたよね。きらいなものがあって、いやだなと思っても、みんなで一緒に食べるからきらいだとは言っていられないし、きらいなものでも食べなさいと言われます。父親が怖い存在でしたからね。あるときは、きょうだいで取り合いをしたかもしれないけれども、それもまた、分け合って食べるとはどういうことかという教育につながります。いまのように自分の好きなものを家族バラバラ、チンして好きなだけ食べていいというのはちょっと……。
【カマタ】おいしいものがあるけれど少ししかない、それを家族で分け合う。少しここでがまんして、ひとりで食べ過ぎちゃいけないんだということも教わりますね。ところがいまは、お金があればなんでも手に入るというので、好きなものを好きなだけというふうになってしまった。
■「分け合う」を学んでいない若者
【トット】私は「分配の女王」と言われてますが(笑)、5人いたら5人できちんと分けて食べたいんです。いつか、すごく驚いたことがあります。仕事の関係者とみんなでごはんを食べに行きました。ビュッフェ形式で自分で取って持ってきて食べるんですが、スイカだけが大きい一切れしかなかった。「じゃあ、このスイカはあとでみんなでデザートに食べましょうね」と言って、テーブルに置いて、ごはんを食べていた。私はスイカが大好きで、デザートを楽しみにしていた(笑)。ところが途中でぱっと見たらスイカがないの。びっくりしてたら、隣にいた若い人が、「あ、ぼくが食べました」と言うの。
「あれはみんなで、あとで食べましょうと言ったじゃない」と言ったら「そうでしたっけ」と平気で言うんです。そうか、と思って「あなたひとりっ子?」と聞いたら、「そうです」と言う。「悪いけど、こういうのはみんなで食べようと言ったら、一口でも分け合うのよ。あなた、家で自分でなんでも食べていいと言われているんでしょう」と言ったら、「そうです」と。よく聞いてみたら、ひとりっ子だから、そこのおうちではお母さんが、食べたいものはなんでも与えてくれて、分けたことがないと言うんです。「分け合う」ってことを経験的に学んでなかったんですね。
■一緒に食べるのは「人間らしい営み」
【カマタ】ごはんを一緒に食べるというのは、ほんらい人間だけがすることで、たとえば人間に近いゴリラとかチンパンジーでも孤食だそうです。ゴリラは自分でとったものを基本的には分けるということをしない。家族で一緒に食べるというのは人間らしい営みなのに、このごろそれをしなくなりかかっている。これは危ないことですよね。
写真=iStock.com/byryo
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【トット】現在のように家族といっても子どもも親もバラバラになってしまったのは、「みんなで一緒にごはんを食べていたのがなくなった、それが大きいのではないか」、服部栄養専門学校の服部幸應先生はそんなふうにおっしゃっていました。冷凍食品でも、お惣菜でも、とにかくいまは何でもあって、子どもはレトルトのカレーを食べて、お母さんは何かそのへんのもので済ませる、お父さんは冷凍食品をチンしてと。だから時間も食べるものもバラバラです。
だから、みんなで話し合ったりすることもなくしてしまったし、分け合うこともない。ただ自分が食べたいものを、わがままで食べる、結局、コミュニケーションの問題をはじめ、いろんなことが全部食べものから起こっているのではないか。自分の好きなようにならないとキレるのも、そこにかかわる。だからいま、食育に力を入れる必要があると服部先生は思ってらっしゃるというお話でした。
■かつて沖縄は「長寿王国」だったが…
【カマタ】そういえば、こんな話を聞きました。ファーストフード店が年に一度の大売出しとして、ハンバーガーを64円で売り出した。すると100個買うお母さんがいた。冷凍庫に入れておいて、毎日チンして、子どものおやつにするのだそうです。64円でおやつが買えれば安いものだという発想なんですね。これを食べて「おいしい」と思う子どもはどうなるんでしょう。カロリーだけは高いから、栄養失調になることは絶対ありません。でも、心はどうなっちゃうのかなと心配になる。たしかにおいしくもできているでしょう。けれど、何か子どもの心が壊れていくんじゃないかとぼくは思うんです。
実際、健康にもよくない。長寿王国とかつては言われた沖縄が、長寿どころか男性の寿命は全国26位にまで落ちてしまったのは、2000年です。「沖縄ショック」「二六ショック」と呼ばれ、保健関係者には衝撃を与えたのですが、なぜかを調べていったら、どうも食生活の変化がある。都道府県別で見て、魚を日本一食べなくなっていて、野菜を食べなくなった。肉を日本一食べている。いちばんの問題はファーストフード店が人口比でいちばんたくさんあるんです。ファーストフードは、健康にマイナス要素が大きいと思います。
ハンバーガー(写真=Topi Pigula/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
■朝ごはんを食べる子どもが減っている
【カマタ】それだけではなく、食にはその家の家族の絆とか、その地域の文化みたいなものも関係しますから、そこにファーストフードが入り込んでしまうと、なにしろ全世界に広がっているのがファーストフードですから、その食事は絆や文化にも影響します。ただ寿命が短くなるだけではなく、10年先、20年先、あるいはもっと先に家族のあり方が変わったり、子どもの育ち方が変わったり、もっとたいへんなことが起きてくるんじゃないかと思うんです。
【トット】いま、食べものがあふれている日本で、朝ごはんを食べる子が減っているそうですね。学校で、朝ごはんを子どもに食べさせてくださいという指導をされて、「あら、朝ごはん、子どもに食べさせたほうがいいんですか」というお母さんがいたそうです。これも聞いた話ですが。
■食べるって、カロリーだけじゃない
【カマタ】いや、ありえます。しかし「朝ごはんを食べさせなければいけない」という生きるうえでの基本的なことを、お母さんが思わなくなっていたのでは、子どもが元気に楽しく、学校で学べないのではないかと心配です。朝、ごはんと味噌汁とちょっとした野菜を食べて学校へ行けば、考える力も出るし、体を動かすのも楽。少々困ったことが起きても乗り越える力が出てくると思うけれど、肉まんをチンして食べさせて、さあ学校へ行っておいでと言っても、栄養価は高いかもしれないけれど、食べるって、カロリーだけじゃないような気がするんですよ。
黒柳徹子、鎌田實『トットちゃんとカマタ先生のずっとやくそく』(実業之日本社)
料理をする音とかにおい、動き、いろんなものがかかわると思うんです。朝、家の中で、トントントンとお母さんが野菜を刻む音が聞こえたり、味噌汁のいいにおいがしてくる、そういうこともとても大事だとぼくは思っています。
【トット】安心感みたいなものですね。それって大事だと私も思います。みんなが行きたがって入学希望者が殺到している小学校というのを先日、テレビで見ました。授業がおもしろい、先生が魅力的。実習というか、子どもたちが討論したり積極的になんでもやって、とてもおもしろい勉強をやっています。その学校の先生は、「とにかく、子どもに朝ごはんを食べさせなければ、成績がよくなりません」と言い切っていましたね。何があっても朝ごはんを食べさせるように、そのためにも夜は早く寝てくださいと言う。早く寝て、ちゃんと起きて、朝からごはんをしっかり食べて、それがちょうどエネルギーになるころ学校に着くといい、ということですね。
■「海と山」のお弁当
【カマタ】うん、食は大事。トットちゃんの学校のトモエ学園では、校長先生の考えで、子どもたちのお弁当には「海のものと、山のものを持たせてください」とおうちの人にお願いしていたそうですね。いいなあ、その発想。親御さんは一生懸命、「海と山、海と山」と考えて作ったでしょうし、子どもたちはお弁当のおかずのどれが海でどれが山か、どうやってできた食べものなのか、考えながら食べたことでしょう。
【トット】ええ。そしてお弁当の前に歌を歌う。イギリスのあの有名な「船を漕げよ」に校長先生が歌詞をつけた「よーく噛めよ、食べものを噛めよ、噛めよ……」と歌って「いただきます」になるんです。ただねえ、その当時は一生懸命噛んだんですが、私は生来のせっかちで、おとなになってからは、あんまり噛まないでツルンと飲むように食べてしまう(笑)。校長先生の言ったことの中で、守れていないのはたったひとつ、これだけかもしれません。
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黒柳 徹子(くろやなぎ・てつこ)
俳優
東京・乃木坂生まれ。父はNHK交響楽団のコンサートマスター。香蘭女学校を経て東京音楽大学卒業後、NHK放送劇団に入団、日本初のテレビ専属女優として活躍。「徹子の部屋」は50年目を迎え、著書『窓ぎわのトットちゃん』は800万部超のベストセラーに。2023年に続篇とアニメ映画を発表。ユニセフ親善大使として世界各地を訪問。文化功労者、東京フィル副理事長など多数の役職を務める。
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鎌田 實(かまた・みのる)
医師・作家
1948年、東京都生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院に赴任。「地域包括ケア」の先駆けをつくり、長野県を長寿で医療費の安い地域へと導く(現在、諏訪中央病院名誉院長)。現在は全国各地から招かれて「健康づくり」を行う。2021年、ニューズウィーク日本版「世界に貢献する日本人30人」に選出。2022年、武見記念賞受賞。ベストセラー『がんばらない』(集英社文庫)ほか書多数。チェルノブイリ、イラク、ウクライナへの国際医療支援、全国被災地支援にも力を注ぐ。現在、日本チェルノブイリ連帯基金顧問、JIM-NET顧問、一般社団法人 地域包括ケア研究所所長、公益財団法人 風に立つライオン基金評議員ほか。
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(俳優 黒柳 徹子、医師・作家 鎌田 實)