中居くん、今こそあなたが会見する番です…「全責任は私にある」としながら"性暴力認定"に「反論」する強烈な違和感
2025年5月16日(金)17時15分 プレジデント社
タレントの中居正広さんが芸能活動を引退することを伝える街頭モニター=2025年1月23日午後、東京・秋葉原 - 写真=共同通信社
■「受任通知兼資料開示請求及び釈明要求のご連絡」
今年1月に引退した中居正広氏の代理人弁護士5人が、5月12日、報道各社に文書を送った。
各社の報道によれば、そのタイトルは、「受任通知兼資料開示請求及び釈明要求のご連絡」。漢字18文字、ひらがな3文字と長い。
「受任通知」とは、この弁護士たちが、「(第三者委員会と)中居氏との関係に関する一切」について、同氏の代理として手続きを進める、ということをさす。次の「資料開示請求」の「資料」とは、第三者委員会が、調査報告書作成のために使った資料、そして、性暴力の認定にいたった資料等をさし、これをあきらかにするように求めているということだ。
最後の「釈明要求」とは、要するに「性暴力」という表現を使った理由について、もっと説明(釈明)しろ、という要望といえよう。
報道各社では、「中居正広氏の代理人 フジテレビ第三者委“性暴力認定”に反論」(NHKニュース)といったかたちで「反論」と報じている。実際、代理人による「要求」には、次のように書かれている。
当職らが中居氏から詳細な事情聴取を行い、関連資料を精査した結果、本件には、「性暴力」という日本語から一般的に想起される暴力的または強制的な性的行為の実態は確認されませんでした。
これははたして「反論」なのだろうか。「(性暴力の実態を)
もしこれが報道各社がそう表現するように、「反論」
■なぜ、引退したのか?
この「文書」に対して、まず最初に思い浮かぶのは、「では、なぜ引退したのか」、という疑問ではないか。
写真=共同通信社
タレントの中居正広さんが芸能活動を引退することを伝える街頭モニター=2025年1月23日午後、東京・秋葉原 - 写真=共同通信社
私は、1月23日の中居氏による「ご報告」文書について、前回記事に、同氏にたいして「記者会見か否かにかかわらず、自分のことばで、本音を残してほしかった」と書いた。
そのときも抱いた、中居氏が「心の叫びを隠しているのではないか」との印象を、今回の代理人弁護士による文書(以下では「文書」)を目にして、さらに強くした。「だったら、なんで引退したの?」という謎は、さらに深まったのである。
その謎を解くために、まずは、中居氏側が「反論」している、「第三者委員会による調査報告書(以下では「報告書」)」(3月31日公表)をあらためて読もう。
■「中居氏は守秘義務の解除に応じなかった」
「報告書」の27ページには、「(被害)女性Aは当委員会に対する全面的な守秘義務解除に同意したが、中居氏は守秘義務の解除に応じなかった」とある。そして、こうした態度も、事実認定の根拠の1つにされている。
この「守秘義務」とは、女性Aと中居氏の間で結ばれた示談契約におけるものを指す。「報告書」(26ページ)によると、その対象は「2023年6月2日に女性Aが中居氏のマンションの部屋に入ってから退室するまでの事実」と「示談契約の内容」の2点である旨、双方の代理人弁護士との協議の結果、第三者委員会が特定したとされている。
「文書」は、守秘義務解除に応じなかった理由について、「中居氏は、当初守秘義務解除を提案していたが、第三者委員会から『2人の密室で何が行われたかが直接の調査対象ではない』との回答があったという経緯があった」と弁明している。
中居氏の守秘義務解除への不同意は、「(第三者委員会が)双方の代理人弁護士と協議した結果」であると書かれている。
仮に、中居氏側が「当初守秘義務解除を提案」していたとしても、報告書の記述が正しいとするなら、その後の協議のプロセスで、結果としては「守秘義務の範囲内の事項についてはヒアリングに応じない」としたのではないか。さらに、その応じないとの意向をふまえて、「協議した結果」が、「報告書」に反映されているのではないか。
もし、中居氏(側)の意に反して、つまり、「守秘義務解除を提案」したのに、それを反故にして、むりやりストーリーを作っていたのだとしたら、とんでもない。そんなデタラメな報告書を出したのだとしたら、「文書」の言う通り「中立性・公平性を欠いていると言わざるを得ません」どころか、第三者委員会を名乗る資格など、どこにもない。
そんな「中立性・公平性を欠いている」内容なら、まさに「文書」の記述のとおり「これまでに築かれた第三者委員会制度の社会的信用をも失墜することになりかねない」きわめて重大なポイントではないか。たとえ、検討や準備に時間がかかったとしても、公表されてから、約1カ月半ものあいだを置いてはならないのではないか。
写真=iStock.com/giorgiomtb1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/giorgiomtb1
■「性暴力」という言葉
次に「性暴力」という「報告書」の表現についても「文書」は指摘している。
「普通の日本人にとって」、「日本語の凶暴な言葉の響き・イメージ」、そして、「日本語が与える一般的な印象」に照らして、「性暴力」という言葉が一人歩きしているのではないか、というのが「文書」の趣旨と、私は読み取った。
私が「普通の日本人」なのかどうかは、わからないし、「日本語が与える一般的な印象」についても、浅学なため、よく理解できない。「普通」がいるなら「普通ではない」日本人もいるはずであり、「一般的」があるなら「一般的でない」印象もあるのだろうか。
「文書」は、第三者委員会が、「性暴力」について「WHOの広義な定義を何らの配慮もしないまま漠然と使用しました」と指弾しているのだが、果たしてそうだろうか。
「報告書」の27ページをみよう。そこには、たしかにWHOの「広義な定義」を引用している。
強制力を用いたあらゆる性的な行為、性的な行為を求める試み、望まない性的な発言や誘い、売春、その他個人の性に向けられた行為をいい、被害者との関係性を問わず、家庭や職場を含むあらゆる環境で起こり得るものである。また、この定義における「強制力」とは、有形力に限らず、心理的な威圧、ゆすり、その他脅しが含まれるもので、その強制力の程度は問題とならない。
くわえて、注釈では、日本の「内閣府男女共同参画局のホームページ」での「性暴力」の定義を引用し、そのリンクもある。冒頭の「性犯罪・性暴力とは」には下記のような説明がある。
同意のない性的な行為は、性暴力であり、重大な人権侵害です。(中略)相手と対等な関係でなかったり、断れない状況であったり、はっきり嫌だと言えない状況で性的な行為があっても、それは本当の同意があったことにはなりません。また、一つの行為に同意をしていても、他の行為にも同意したことにはなりません。
こうした資料を用いて、第三者委員会が定義する「性暴力」とは、つまるところ「『同意のない性的な行為』が広く含まれており、『性を使った暴力』全般」(「報告書」27ページ)である。
「普通の日本人」ではないかもしれない私が、「一般的」ではないかもしれない理解力に基づいて、「報告書」の「性暴力」についての定義を見た。その限りでは、「何らの配慮もしないまま漠然と使用」しているようには見えないのだが、それは、私の問題であって、ここで「文書」に「反論」したいわけでは、まったくない。
それよりも、私のこの文章での主張は、今回もまた、中居氏の肉声・本音を聞きたい、という1点に尽きるのであり、なぜ引退したのか、という謎を解いてほしい、との願いに尽きるのである。
■「全責任は私にあります」
中居氏は、1月23日に引退を表明した「ご報告」のなかで、「全責任は私にあります」と述べている。この「全責任」とは、いったい何を指しているのだろうか。そして、この「全責任」をもって、「芸能活動を引退」したのではなかったのか。
「文書」を出した理由は、私には、わからない。たとえ、どんな理由があったにせよ、「文書」にあるように「中居氏の名誉・社会的地位は著しく損なわれている」ところは、誰しもが、それこそ「普通の日本人にとって」理解できよう。
「名誉・社会的地位」を回復したいのなら、「中居氏の人権救済」をしたいのなら、なぜ、ストレートに、そう求めないのだろうか。法律の世界におけるテクニックなのかもしれないが、「開示請求」と「釈明要求」に、第三者委員会が応じたとしても、「名誉・社会的地位」が戻るとは、「日本語が与える一般的な印象」では、つかみづらい。
中居氏の引退から4カ月近くが過ぎた。そのあいだに、フジテレビは、まだ「進捗状況」の報告にすぎないとはいえ、「組織としての反省と再生への誓い」を公表し、「再生・改革」にむけて歩もうとしている。
関係者の処分こそまだなされていないものの、社長も会長も辞任し、「天皇」と呼ばれた日枝久氏も取締役相談役を退いている。組織としてのケジメをつけようとしている。
写真=iStock.com/Carlos Pascual
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Carlos Pascual
■いまこそ、あなたの番です。
中居氏は、関係者のなかでは、もっとも早くケジメをつけ、「今後も、様々な問題、調査に対して真摯に向き合い、誠意をもって対応して参ります」と「ご報告」で表明していた。今回の一連の問題の発端でありながら、そのケジメにむけて先鞭をつけた人物だったのではないか。
そう考えると、引退の謎が深まる。なぜ引退したのか? それは、「全責任」をとるためではなかったのか。「名誉・社会的地位」を失うことを承知の上だったのではないか。それなのに、「文書」を出すということは、承知していなかったからなのか。
であればこそ、いまこそ、あなたの番と言いたい。「資料開示請求及び釈明要求」のような漢字ばかりの難しい日本語ではなく、あなた自身のことばで、「真摯に」「誠意をもって」言いたいこと、言いたかったことを、つまびらかにしてほしい。
何より、「当初守秘義務解除を提案して」いたのなら、恐れることなど、もう、何もない。
----------
鈴木 洋仁(すずき・ひろひと)
神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
----------
(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)