「部下が指示通り動かない」のは上司が悪い…ダメ上司がしょっちゅう口にしている4文字の副詞

2025年5月16日(金)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JNemchinova

部下に的確な行動を指示するにはどうすればよいか。行動科学マネジメント研究所所長の石田淳さんは「抽象的な言葉を具体的な行動にかみ砕くことが大切だ。MORSの法則の4条件を満たすものだけを行動ととらえると、相手への指示も評価も格段に明確化する」という——。

※本稿は、石田淳『【新版】教える技術 行動科学を使ってできる人が育つ!』(かんき出版)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/JNemchinova
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■曖昧な表現では部下に伝わらない


「真心をこめて接客しなさい」「しっかりやれ」「できるだけ早く提出を」……。


この3つの指示の仕方に共通していることは何だと思いますか?


正解は、いずれも表現が曖昧かつ抽象的だということです。


行動を指示するときには、できるだけ具体的に表現する必要があるのに、実際はこういった曖昧な表現しかしていない上司がとても多いのが現状です。


これでは、部下はどんな行動をしたらいいのかわかりません。


特に、優秀でどんな仕事も感覚的にできてしまうような上司は要注意です。


「真心をこめる」の場合、たとえば“商品は必ず両手で渡す”“そのあとお客様の目を見てから会釈をし、そのまま3秒間静止する”というふうに具体化すれば、誰でもその行動ができますし、サボりようがありません。そうすれば、お客様からは「このお客の接客には真心がこもっている」と感じていただけることでしょう。


「できるだけ早く」では、人によって連想する期間がまったく違うので、“明日までに”“月曜朝までに”“今月中に”などと明確にしないといけません。


出典=『【新版】教える技術 行動科学を使ってできる人が育つ!

■「歩きながら走れ」と言われているのと同じ


そして、もうひとつありがちなのが、「顧客第一主義」と「利益追求」のように、相反する内容を同時に求めるような指示の仕方です。


これも、表現が曖昧であることが元凶。こんなふうに指示された部下は、“歩きながら走れ”と言われているように感じてしまいます。


人は「歩きながら走れ」という相反する行動を命じられたらどうするか?


その反応には2種類あります。


ひとつは、走ることも歩くこともしなくなる、つまり行動をやめてしまうこと。


もうひとつの反応は、走るのとも歩くのとも違う中途半端なスピードで前に進むこと。自信を持って“歩く人”や“走る人”はほとんど現れません。


本当にやらせたい行動や、身につけさせたい業務があるのなら、その内容をできるだけ明確かつ具体的に表現しなければダメだということです。


試しに図表1の問題を解いてみてください。回答はこの記事の一番最後です。


■「行動」を具体化する4つの指針


行動を具体的に言語化しようとするとき、おおいに参考になるのが、行動分析学で行動を定義するときに用いられる「MORSの法則(具体性の法則)」です。


MORSの法則は次の4つの条件から成り立っています。


Measured 計測できる
Observable 観察できる
Reliable 信頼できる
Specific 明確化されている

この4つの条件を満たしていないものは「行動」ではないということなんです。


念のため補足すると、


計測できる=カウントできる、あるいは数値化できる。
観察できる=誰が見ても、どんな行動をしているのかわかる。
信頼できる=どんな人が見ても、それが同じ行動だと認識できる。
明確化されている=文字通り何をどうするか明確になっている

ということを意味しています。


たとえば、


・親密にコミュニケーションをとる
・しっかり立ち止まる
・売上げを伸ばす

と言った言葉は、一見「行動」を表しているような印象を与えますが、MORSの法則の4つの条件をまったく満たしていないので「行動」にはあたりません。


・親密にコミュニケーションをとる
→すべての顧客に対し3カ月に一度電話をかけ、当社のサービスに対する感想を聞く
 2週間に一度、メールマガジンを送る


・しっかり立ち止まる
→5秒間止まる
 腕は伸ばして体に密着させておく


・売上げを伸ばす
→チラシを毎週200戸に配布する
 インターネットの情報サイトに広告を出す
 毎月300名にサンプルをプレゼントする


行動をここまで具体的に書き出せば、教えるべきことがはっきりするし、きちんと教えられたかどうかのチェックや評価も客観的に行うことができます。


写真=iStock.com/mattjeacock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mattjeacock

■いい上司は「きちんと」を言語化する


部下に仕事を教える過程において、「行動を分解すること」「具体的に言語化すること」が絶対に欠かせません。


たとえば野球の初心者に対して「絶好球が来たら、振り抜いてホームランにするんだ!」なんて指導をして、よい結果がのぞめるでしょうか?


絶好球っていったい何? 振り抜くとはどんな動作? 初心者にとっては何ひとつ理解できず、もちろん正しい“仕事”もできません。


実は私自身、かつては“具体的な指示”とは無縁で、「わからないなら、見て覚えろ」「とにかく期日までにやっておけ」などと平気で言っていました。今になって思えば、こんな上司のもとでみんなよく耐えていたなぁと思います。


ビジネスの場合、特に社内で当たり前のように使っている言葉ほど、具体的な表現への置き換えが必要になります。


たとえば「きちんと管理する」の“きちんと”とはどんな状態を指すのか?


「親身な対応を心がけましょう」の“親身な対応”とは、具体的には何を意味する? どんな言葉遣いがいいのか? そのとき、表情はどうすればいい? 相手の正面に立つのか、並ぶのか?


「アイデアを出し合う」というけれど、アイデアはどこで発表するのか。会議? 社内チャット上? レポートにする? 期限もしくは頻度は? 件数は? ……。


いつも当然のように使っているこうした言葉を、具体的な行動にかみ砕いて説明することが、あなたはできますか?


■抽象的なスローガンは翻訳する


私は課長クラスなどいわゆる中間管理職と呼ばれる人たちにとって欠かすことができない重要なスキルに、翻訳作業があると考えています。


ここで言う翻訳とは、社長を始めとする上層部から発せられる抽象的なメッセージや指令を、具体的な行動に置き換えて現場の部下たちに伝えるということです。


なぜ社長の言葉が抽象的になりがちなのか。


その理由は、リーダーから中堅社員、新人、派遣やパートのスタッフにいたるまでの幅広い階層、そして企画、営業といったビジネスの最前線から人事・経理・総務などの裏方までを含むさまざまな部署に対して、ひとつの言葉でメッセージを伝えなければならないことに起因します。



石田淳『【新版】教える技術 行動科学を使ってできる人が育つ!』(かんき出版)

そして社長が、たとえば“一枚岩のように強い組織になろう”、あるいは“信念を持ってやろう”というメッセージを発したとき、それをそのまま自分が率いている部署に持ち帰って、「それじゃあ、僕らも一枚岩になろう!」と大声で叫んだところで、部下たちは「何を言ってるの……?」と呆れるだけです。


社長や上層部が発した抽象的な要求を、自分のチームに所属する新人、場合によっては派遣社員、アルバイトのスタッフにも実行できる行動に変換し、彼らにダイレクトに伝わるような具体的な言葉で表現する。上司であるあなたは、このことを常日頃から心がけてください。


この翻訳作業は優秀な管理職の人はみな自然とできています。


部下の信頼を得ることにおいてももちろんそうですが、これからあなたがキャリアを積んでいくうえでも身につけておいてほしいことのひとつです。


※図表1の問題の回答は、「すべて「行動」には当てはまらない」です。


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石田 淳(いしだ・じゅん)
ウィルPMインターナショナル代表、行動科学マネジメント研究所所長
日本の行動科学マネジメントの第一人者。米国のビジネス界で大きな成果を上げる行動分析を基にしたマネジメント手法を日本人に適したものにアレンジし、「行動科学マネジメント」として確立。主著に『教える技術』。
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(ウィルPMインターナショナル代表、行動科学マネジメント研究所所長 石田 淳)

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