そりゃ消費も冷え込むわけだ…頼みの綱のインバウンド特需もついに頭打ちで彼らが爆買いの代わりに始めた事

2025年5月16日(金)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

実質賃金が伸びない中、消費意欲が低迷する一方の日本。そんな経済を支えていたインバウンド消費にも陰りがみられる。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「訪日外国人は過去最高の3686万人に達したが、全国百貨店売上高や旅行取扱状況の数字は2025年に入り頭打ち状態だ」という——。
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トランプ関税に振り回される日本経済。国会では、7月の参議院選挙もあって野党が消費税減税を強く主張していますが、与党は、今のところは減税に慎重な姿勢を示しています。


しかし、現状の日本経済は足腰がかなり弱っています。物価を考慮した「実質賃金」はマイナスの状況で、そのせいでGDPの50%強を支える家計の支出も停滞気味です。


今回はトランプ関税で見落とされがちな現状の日本経済、とくに賃金と消費の状況を見ていきましょう。


■上がらない「実質賃金」


図表1は、現金給与総額と消費者物価(生鮮除く総合指数)の上昇率です。


現金給与総額とは、基本給等の所定内賃金、残業などの所定外賃金、そして賞与を足した、ひとり当たりの賃金を言います。


表にあるように、現金給与総額は、プラスの状態が続いています。実は2022年1月から39カ月連続で前年同月に比べて上昇しています。今年3月も2.1%の上昇で、現金給与総額は30万8572円です。


ただし、この数字は「名目」です。経済学で名目という場合には、「実額」を表します。つまりインフレを考慮していない数字です(インフレを考慮した数字を「実質」といいます)。


そこで消費者物価の数字を見てみます。表にあるように昨年12月から今年3月までは3%を超える消費者物価の上昇が続いています。昨年より物価上昇率が高いことに注意が必要です。


もう一度、現金給与総額の数字を注意深く見てみると、昨年6、7月そして11月、12月の数字が高くなっています。これは賞与の影響が大きいからです。そして、それらの月では、消費者物価上昇率よりも、給与の数字が大きいことが分かります。物価上昇に給与がわずかですが勝っていたのです。


しかし、今年に入った3カ月間を見ると、物価は3%以上上昇しているのに、給与の上昇率はそれ以下で、とくに1月、3月は物価の上昇率が賃金を1%以上も上回っています。「実質賃金」が大きくマイナスですから、国民の生活が苦しくなっているのです。


国民からすれば、こうしたデータは見たくないけれど、見なければいけない。現実を直視して物価高の世の中を乗り越えていかなければならない。そんな心境でしょう。


■消費支出もマイナス


上記のような状況ですから、消費支出が伸びないのも当然です。GDPの5割強を支える家計の支出ですが、低迷を続けているのです。


図表2は、家計の実質消費支出(2人以上世帯)ですが、マイナスの月が多いのがお分かりいただけると思います。2024年度1年間の1カ月当たりの支出額は、30万4178円で、実質で0.1%のマイナスでした。


2025年3月は2.1%と、2カ月ぶりのプラスでしたが、内訳を見ると、2月の気温が低かったことによる「光熱・水道」が7.2%増、エアコン需要による「家具・家事用品」が3.3%増となる一方、支出割合の多い「食料」は0.7%減、「被服及び履物」も3.0%減でした。


先ほども説明したように、3月は実質賃金が大きくマイナスとなる中、消費支出は2カ月ぶりのプラスとなりましたが、その要因は寒さ対策のための「光熱・水道」などの増加で、家計のやりくりが苦しい中、食料品や服などの支出を減らしているのが分かります。


直近のゴールデンウイークでも、テレビの街頭インタビューなどでは「安・近」というのがキーワードだと報じられていましたが、家計の実質収入が伸び悩む中、旅行に使える資金も限られており、支出を抑えながら近場に行く傾向が強まりました。


また、備蓄米の放出も効果が十分に出ない中で、高騰したコメの価格も低くなる気配があまりなく、家計は苦しさを増すばかりです。


注目は今後発表される4月以降の現金給与総額の伸び率です。大企業では5%以上の賃金上昇が行われたと報道されていますが、働く人の7割を占める中小企業ではどうかというところに注目です。インフレ率を上回る数字が出て、それが続くかどうかに注意が必要です。


■インバウンド消費も頭打ちに


オーバーツーリズムが言われて久しく、訪日外国人数は大きく増加しました。2024年には過去最高の3686万人を超え、それまで最多だったコロナ前の2019年の3188万人を大きく上回りました。しかし、消費という面ではそろそろ頭打ち感が見えています。


図表3は、全国百貨店売上高と旅行取扱状況の前年比の数字です。


2024年は比較的順調に増加していましたが、両方の数字ともに今年に入り停滞気味です。


訪日外国人の数は増加しているものの、「賢い」旅行客も増え、SNSなどで見た場所を、電車やバスなどの公共交通機関で訪れるケースも増えています。


私は東京の私鉄沿線に住んでいますが、いままで地元住民や日本の観光客には見向きもされなかった場所に、外国人が本当にたくさん朝からぞろぞろと駅から歩いて訪問するようになりました。小規模な地元商店街のカフェやお饅頭屋さんなどはそのおかげで来店客が増えていますが、単価がそれほど高くないので、これまでのような高級品の「爆買い」による収益増は、なかなか見込めないと思います。


ここまで見たように、日本人の所得が伸びず、家計の支出が低迷する中で、インバウンド観光客による支出が、日本経済を底支えしてきましたが、それも頭打ち感が出てきていることに注意が必要です。


■消費税を減税するか


こうした中、立憲民主党や日本維新の会、国民民主党などは消費税の減税を強く主張しています。一方、自民党は今のところ消費税の減税を受け入れていません。石破茂首相は、最近も「限られた財源の中で、守っていかなければいけない人に対して厚い支援をするやり方は本当に消費税を下げることだけなのか」と発言し、消費税減税に否定的な見解を示しています。


対名目GDP比で先進国中最悪という膨大な財政赤字を抱える現状、他の財源を確保できない中での消費税減税には消極的にならざるを得ないというところでしょうが、参議院選挙を7月に控えて、石破内閣としては難しい選択を迫られそうです。自民党議員の中にも、選挙を控えて消費税率の引き下げを主張している議員もいます。


また、与党である公明党は、食料品などの軽減税率(現状8%)を下げることも選択肢としてありうると主張しており、このところ苦しい選挙を続けている公明党の意見をどこまで受け入れるかも石破首相としては判断が分かれるところです。


いずれにしても、ここまで見てきたように、実質賃金が伸びず、家計が苦しさを増す中で、消費が低迷するという悪い状況となっていることは間違いありません。


トランプ関税の影響で自動車や鉄鋼業などに動揺が広がる中で、4月以降の賃上げの状況がどうなのかということを見極めたいところです。


ただ、昨年度は比較的業績が良かった企業も、トランプ関税の影響を読み切れず、トヨタはじめ今年度の決算予想を昨年度より減額する企業も少なくありません。パナソニックも1万人(国内は5000人)のリストラを発表しています。来年度の賃上げはなかなか厳しいかもしれません。


コメの価格高騰も有効的な対応策が出ない中で、多くの国民は不満を抱いています。こうした中、目に見える形で、石破政権が国民生活を豊かにする方策を出せなければ、参議院選挙を乗り越えられず、政権はもたないということも十分考えられます。消費税減税はじめ政府の経済対策に待ったなしの状態です。


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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)

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