インバウンドでうんざり「観光公害」から抜け出す新しい旅の楽しみ方とは?
2025年5月15日(木)15時0分 大手小町(読売新聞)
慌ただしい毎日を送っていると、豪華客船や観光列車などで移動しながら、ゆったりと快適な時間を過ごす旅に憧れるもの。こうした旅は、体への負担が比較的少なく、セレブなイメージがあることから、高齢層や富裕層のレジャーだと思っている人が多いかもしれません。しかし、最近は若い世代でも人気が高まっており、SNSでは、窓から流れる景色をバックに移動時間を優雅に楽しむリール(短時間の動画)投稿が増えています。クルーズコンサルタントで旅行ジャーナリストの村田和子さんに、人気の理由などについて聞きました。

村田さんによると、船や列車に乗って移動時間を楽しむ旅が着目されるようになったのは、2004年に九州新幹線の一部開業に伴って、九州地方で多くの観光列車がデビューしたことがきっかけ。
2010年にバハマ船籍のカジュアル客船「レジェンド・オブ・ザ・シーズ」が日本発着クルーズを開始したことなどから、日本でもクルーズを身近に感じる人が増え、現在の盛り上がりにつながっているといいます。
昨年10月には、シーズンごとにルートを変えて西日本を巡るJR西日本の観光列車「はなあかり」の運行がスタートし、話題になりました。今年7月には、日本郵船のクルーズ事業「飛鳥クルーズ」から、34年ぶりに新たに造船された「飛鳥3」の就航が予定されています。
村田さんは、「船は利用客のリピート率が高く、老若男女に人気です。2024年に過去最多を記録した外国人観光客も、船で日本一周を楽しむ人が多く、日本発着クルーズが活況を呈しています」と説明します。
船旅では、立ち寄った港で降りて、その土地の周辺を自由に観光することができ、船内では、食事はもちろん、ショーやイベントなどのエンターテインメントが楽しめます。観光列車では、車窓の景色や伝統工芸品の展示などを楽しみながら移動し、地域の食材を使った料理を食べたり、途中駅に停車中に地域の土産などを購入したりといった機会も用意されています。

こうした旅には、高額な料金がかかるイメージを持つ人が多いかもしれませんが、カジュアル客船であれば、移動、宿泊、食事などのサービスが込みで1泊1万円台から。観光列車だと、愛媛県の松山〜伊予
最近の観光列車には、おひとりさまでも利用しやすい座席や、アフタヌーンティーを楽しむプランなどが用意され、利用客の様々なニーズに対応しています。
村田さんによると、船旅では子ども連れのファミリーやビジネスパーソンなど、若年層の利用者が増えています。「お子さんがぐずっても、すぐに自室に戻れますし、船内では様々なイベントが行われるので、3世代がおのおの行動して楽しむこともできます。働き方改革で、まとまった休みが取れるようになり、リモートワークが可能になったことも利用客の幅が広がった要因です。船上Wi-fiも、衛星通信網『スターリンク』を搭載している船なら、オンライン会議ができるほどにスムーズです」
ここ数年、有名観光地でのオーバーツーリズム(観光公害)が社会問題になり、宿泊費の高騰に悲鳴を上げる人も増えています。村田さんは「クルーズは船内で宿泊するので、観光地などで旅行客の宿泊先を分散させるという役割も大きい」と話し、こうした問題の緩和にもつながると指摘します。観光列車についても、鉄道会社が地域の観光振興を主目的に運行しているケースが多いことから、「観光列車に乗るために地方へ足を運ぶ人が増えれば、オーバーツーリズムの解消や地域の活性化につながる」と説明します。
船や列車の中なら、食事を取るにしても、大勢の観光客で混雑する有名観光地の店のように、長時間並ばないと食事ができないといった心配は無用。乗客数が限られた空間で、ゆったりとくつろいだ時間を過ごせます。さらに村田さんは、「船旅では、かつてにぎわった港町の歴史や文化に触れたりすることも多いので、新しい発見があります。観光列車の旅では、地元の方々が旗を振ってお出迎えしてくれるといった交流もあり、他にはない体験ができます」と魅力を語ります。
ただ、船旅の場合には、注意すべきこともあります。「悪天候によって、予定していた港に停泊できず、運航ルートが変更になることもあります。私自身、福岡の博多を出て韓国・

船旅には、ある程度の乗船期間の確保が必要になるため、「トライしてみたいけどハードルが高い」という人もいるでしょう。
そこで村田さんが勧めるのは、フェリーです。「毎日運航し、空きがあれば当日チケットを購入して乗船することも可能。新しい船はおしゃれで、商船三井の旅客フェリー『さんふらわあ(くれない・むらさき)』に乗船した時には、プロジェクションマッピングを楽しみました」
さんふらわあには、現地0泊・船内2泊の「弾丸フェリー」というプランがあります。関西を夜に出航して、早朝に九州へ到着し、最大12時間過ごした後、フェリーで関西に戻るというプランで、価格は往復で1万2000円〜なので、若い世代を中心に人気を博しています。
28年には、豪華客船「ディズニークルーズ」の運航が国内で予定されており、今から話題を集めています。村田さんは、今後も若い世代が船旅・観光列車の旅に注目し、利用客の層が広がると予想しています。「船や観光列車で旅をすると、日本という国はどこを切り取っても、歴史や文化、人の営みがあると感じます。好みの旅を見つけて、ぜひ一度チャレンジしてみてほしい。きっと新しい発見があるはずです」
(読売新聞メディア局 長縄由実)
プロフィル村田和子(むらた・かずこ)1969年生まれ。大阪市立大学生活科学部卒業後、企業の人事部を経て、リクルートマネジメントソリューションズへ入社。マーケティングを担当する傍ら、2001年、総合情報サイト「All About」で旅の執筆を開始。2007年から旅行ジャーナリストとして、旅育、ひとり旅、地域活性などをテーマに、執筆や講演、コンサルティングを行う。クルーズコンサルタント・総合旅行業務取扱管理者の資格を所持。著書に、「家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ〜旅育BOOK」(日本実業出版社)。