“会社から与えられた目標”をゴールに設定すると、なぜ未達に終わるのか
2024年5月13日(月)4時0分 JBpress
キーエンスの離職率は3〜5%台を推移している。厚生労働省が発表した産業界全体の離職率15%(2022年度)に比べてかなり低い。理由の1つは、日々の業務を数値化することで不要なストレスやプレッシャーが排除できるからだと同社出身の岩田圭弘氏はいう。非人間的と思われがちな“行動の数値化”は、むしろ仕事に人間味をもたらす。本連載では、『数値化の魔力 “最強企業”で学んだ「仕事ができる人」になる自己成長メソッド』(岩田圭弘著/SBクリエイティブ)から内容の一部を抜粋・再編集し、仕事の成果を高める“キーエンスの数値化”を紹介する。
第2回は、「自分の行動」を見える化する3つのステップについて解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 毎日の業務を数値化すると、なぜ“10倍速の成長”が可能になるのか
■第2回 “会社から与えられた目標”をゴールに設定すると、なぜ未達に終わるのか(本稿)
■第3回 仕事の成果が低い時、「能力不足かも」と悩む前にすぐやるべきこととは?
■第4回 「行動の量」を増やすことが、“根性論”にならない理由とは?(5月27日公開)
■第5回 「行動の量」を増やしても、残業が増えない発想とは?(6月3日公開)
■第6回 なぜ、「数値目標が設定しにくい業務」の数値化が重要なのか?(6月10日公開)
■第7回 部下を“茹でガエル”にするマネジャーの、典型的なチームの状態の捉え方とは(6月17日公開)
■第8回 数値化が苦手なマネジャーは、なぜ感情的に部下を叱るのか?(6月24日公開)
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■STEP1——ゴールを定量化する
まずは、目標(ゴール)を定量化します。
ダイエットで言えば「目標の体重」です。
特にビジネスシーンでは、これは「KGI(Key Goal Indicator)」と呼ばれます。
KGIとは目標が達成されたかどうかを評価するための指標で、営業であれば目標とする売上や利益、受注件数、人事で言えば目標とする「採用人数」などだったりします。
ゴールを定量化するのは、会社から求められている役割をまっとうするために目指す指標が必要なためです。
会社から仮に今月の目標として「売上300万円」を与えられているのであれば、「KGI=1カ月で売上300万円」となります。
このKGIの設定内容によって、各プロセス(行動)で必要となる「行動量(どれだけの『行動の量』が必要か)」や「転換率(どれだけの『行動の質』が必要か)」が変わってきますので、KGIはこの後のすべてのステップの原点となる数字です。
KGIを設定するときのコツは、会社から与えられた目標よりも高い目標を持つことです。
なぜなら、人は基本的に目標値を下回る結果を出しがちだからです。
大体、8〜9割の達成率になることが多いです。
そこを織り込んで3割増しくらいのKGIを設定するのがコツです。
たとえば、会社から与えられた今月の目標が売上300万円であれば、3割増しの390万円をKGIに設定します。
私がキーエンスにいたとき、最初は会社から与えられた売上目標額をそのままKGIにしていました。
ところが入社2年目の頃に、あと1件を残してKGIを未達にしてしまったことがあったのです。
まさに自分が目指していた値の95%ほどになってしまったわけです。
このことがあってからは、KGIを会社から与えられた数値よりも高くしました。
これにより、仮に設定したKGIを達成できなかったとしても、会社から与えられた目標は達成できるので、きちんと「結果」を評価してもらえます。
トップレベルを目指している人であれば、会社から与えられた目標の2倍の目標を設定するのも、いいでしょう。
たとえば、会社から与えられた今月の目標が売上300万円であれば、2倍の600万円をKGIに設定するのです。
8〜9割の達成率で終わってしまったとしても、480万円以上の結果にはなりますので、かなり高い評価を得ることができます。
実際、私がキーエンスで営業成績1位を達成していた頃には、KGIを会社の目標額の2倍に設定していました。
もし、会社から具体的な数値を与えられない場合は、自分の過去の実績を常に上回るようなKGIを設定すればいいでしょう。
今はわかりやすい例として営業でのKGIを例にしましたが、人事部の採用担当者であれば、たとえば今期の新卒採用人数を10人にすることをKGIに設定します。
また、製造業の商品企画部の企画担当者であれば、全商品の売上における新商品の売上比率をKGIに設定します。
この場合は新しい企画が全体の売上にどれくらい貢献すべきなのかを数値化しているわけです。
キーエンスでも「会社を永続させる」というミッションを達成するために重要としている指標でした。
また、マーケティング担当者であれば今月の有効リード獲得件数を3000件にすることや、カスタマーサクセス担当者なら今月の解約率を2%以下に抑えるなどをKGIに設定できます。
ここまでが、ステップ1になります。
■STEP2——ゴールに至るまでの行動を「業務プロセス」で分解する
このようにKGIとしてゴールを設定したら、「このKGIを達成するために、自分が何をすればいいのか」を決めなければなりません。
たとえばKGIとして今月の売上を600万円に設定しても、それだけでは何をすればいいのか行動の仕方が定まりません。
そこで次に、KGIに至るまでの行動を業務プロセスで分解します。
営業で、「受注件数〇件」がKGIであれば、受注に至るまでの「DM⇒電話⇒アポ⇒面談⇒商談化」の各プロセスに、行動を分解します。
人事で、「採用人数〇人」がKGIであれば、採用に至るまでの「応募⇒書類選考⇒一次面接⇒二次面接⇒最終面接⇒内定承諾」の各プロセスに、行動を分解します。
行動を業務プロセスに分解することで、KGIを設定しただけでは漠然としていた「結果のために何をすればいいのか」を具体的にしていきます。
仮に「今月の売上目標が600万円」など、目標が金額だった場合はどうすればいいでしょうか。
この場合は、この「金額ベースの目標」を分解して、「受注」という「行動ベースの目標」に落とし込みます。
たとえば、キーエンスのように電子機器を販売しているBtoBの営業担当者であれば、「KGI(目標売上)=商品単価×受注件数」となりますから、今月の売上目標が600万円で、担当している商品の単価が50万円であるとすれば、受注件数は12件になります。
すると、この担当者のKGIは、売上額で示せば600万円でしたが、受注件数で示せば12件になります。
これをKGIとして設定してから、業務プロセスで行動を分解していくのです。
■STEP3——分解したプロセスごとに「行動目標」を数値で設定する
業務プロセスを分解できたら、プロセスごとに目指すべき「行動の量」を設定します。
この数字を「行動目標」と呼びます。
行動目標を数値化する理由は、KGIを達成するために、現状で十分な行動を取れているかどうかを確認する指標が必要なためです。
この指標を「KPI(Key Performance Indicator)」とも呼びます。
つまりKGIが「達成すべき目標の数値」であるのに対して、KPIは「目標を達成するためにプロセスごとで達成しておくべき数値」です。
KPIがあることで、プロセスごとにどこまで努力するべきなのか、あるいはプロセスごとに現在どのあたりまで達成できているのか、そしてどのプロセスが滞っているのかを把握できるようになります。
つまり、KPIはPDCAを回すために必要な指標と言えます。
ここでもわかりやすいように、営業の場合の例と人事の場合の例を紹介しましょう。
まずは、営業の場合の例です。
上の図を見ていただくと、受注に至るまでの行動がプロセスで分解されており、それぞれのプロセスごとに行動目標が立てられています。
このそれぞれのプロセスの行動目標の達成をすることで、KGIである受注件数を達成するのです。
では、この行動目標の数字は何を基準に設定すればいいのでしょうか。
それが、「過去の転換率」になります。
順を追って説明していきましょう。
最初はKGIである「受注件数」の12件のみがあります。
仮に過去の「受注率(商談化のうち、何件が受注に至ったか)」が31%だったとしましょう。この場合、商談化の行動目標Xは「X×31%=5件」で、16件となります。
次に、過去の「商談化率(面談のうち、何件が商談化に至ったか)」が30%だったとしましょう。この場合、面談の行動目標Xは「X×30%=16件」で、54件となります。
このように、KGIである「受注件数」と「過去の転換率」から逆算して、それぞれのプロセスの行動目標を立てていくのです。
しかし、読者の皆さんは初めてこの数値化を実践しますから、そもそも「過去の転換率」を持ち合わせていません。
その場合、まずは仮で各転換率を設定してしまって構いません。
皆さんも普段自分が行なっている業務ですから、それぞれの転換率が大体どのくらいかは何となく見当がつくと思います。
そして、まずはその仮の転換率と行動目標のもと、1カ月、2カ月と、行動目標に対する行動実績(それぞれの実際の行動の量)を記録してPDCAを回していきます。
そうすれば、各プロセスの実際の「行動の量」が出ますので、そこから自ずと正確な転換率を算出できるようになります。
続いて、人事の場合の例も、同じです。
下の図を見てください。
KGIである「採用人数」と「過去の転換率」から逆算して、それぞれのプロセスの行動目標を立てていくのです。
こちらも同じく「過去の転換率」の数字がなければ、まずは仮の転換率と行動目標を立ててください。
数カ月、実績を記録していけば、正確な転換率が出てきますので、行動目標も精緻なものになっていくでしょう。
行動目標を設定する際の注意点としては、実際に必要な数よりも高めに設定をしておくことです。
先にお話ししたのと同様で、人は目標の8〜9割の達成率で終わることがほとんどだからです。
そして、そのためには、転換率を〝低めに〞設定することが大事になります。
たとえば、営業の「アポ」から「面談」への転換率(面談率=アポの件数のうち、何件が面談に至ったか)を高めに設定してしまうと、少ない「アポ」でも多くの「面談」を獲得できることになってしまうため、必然的に「アポ」のプロセスの行動目標が減ってしまいます。
転換率は、過去と同じ行動をしていたら下がるくらいに見積もっておいたほうがいいのです。
前年同月の転換率が97%であれば、今月の転換率は95%くらいに下げたほうが行動目標を高く持つことができます。
転換率を下げておくことは、「確率」という不確実性のリスクを軽減することになります。
<連載ラインアップ>
■第1回 毎日の業務を数値化すると、なぜ“10倍速の成長”が可能になるのか
■第2回 “会社から与えられた目標”をゴールに設定すると、なぜ未達に終わるのか(本稿)
■第3回 仕事の成果が低い時、「能力不足かも」と悩む前にすぐやるべきこととは?
■第4回 「行動の量」を増やすことが、“根性論”にならない理由とは?(5月27日公開)
■第5回 「行動の量」を増やしても、残業が増えない発想とは?(6月3日公開)
■第6回 なぜ、「数値目標が設定しにくい業務」の数値化が重要なのか?(6月10日公開)
■第7回 部下を“茹でガエル”にするマネジャーの、典型的なチームの状態の捉え方とは(6月17日公開)
■第8回 数値化が苦手なマネジャーは、なぜ感情的に部下を叱るのか?(6月24日公開)
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筆者:岩田 圭弘