トリドールHDが始めた「KANDO開拓コミッティ」とは?離職率が下がれば顧客満足度が高まるメカニズム

2024年11月29日(金)4時0分 JBpress

 一軒の焼き鳥屋から始まり、「丸亀製麺」の大ヒットから東証プライム上場を果たしたトリドールホールディングス(HD)。今や国内外に約20の飲食ブランドを持つまでに成長したグローバルフードカンパニーは、なぜ次々と繁盛店を生み出せるのか。本連載では『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』(粟田貴也著/宣伝会議)から、内容の一部を抜粋・再編集。「外食は最も身近なレジャー」をコンセプトに快進撃を続けるトリドールの戦略ストーリーと、成功の源泉とも言える独自の経営論について、創業社長・粟田貴也氏が自ら明かす。

 第4回は、トリドールHDが他の外食企業同様に直面する「従業員の高い離職率」を下げるための経営改革について紹介。今いる人材に働き続けてもらうため、採用難の時代に組織に求められる考え方とは?


採用難の時代への備えは、まず離職を減らすことから

 この章の冒頭で少子高齢化により就業人口が減っていくという社会の変化についてふれました。その変化が進むと、今後さらに採用難の時代がやってくることは明白です。

「そんな時代にも人を採用し続けられるだろうか」と思案する中で、「いかに人を採用するか」の前に「いかに今トリドールにいる人が働き続けてくれるか」を考えなければいけないことに気づきました。

 頻繁に人が辞め、そのたびに採用するこれまでの流れを変えて、人が長く働き、居続けてくれる仕組みをつくらなければ。しかし、そんなことが可能なのだろうか。

 悩んでいた2022年12月頃、アメリカの家電量販店・ベスト・バイの元CEOが書いた『ハート・オブ・ビジネス』(ユベール・ジョリー著、英治出版刊)という本を読みました。その本では、危機的状況にあったベスト・バイが、パーパス(企業の社会的存在意義)を定め、そのパーパスと人を中心に据えた経営に切り替えたことで、個々人が協働する人間らしい組織として生まれ変わり、業績がV字回復した軌跡が書かれていたのです。

 特に私の心に刺さったのは、人のつながりを大事にして、一人ひとりが生き生きと働ける環境をつくることで、従業員が「信じられないパフォーマンス」を発揮したという部分。これがまさに、私がトリドールで目指していたことだったからです。本当に実践し、実現した会社があったのか、と気持ちが晴れていきました。しかも、ベスト・バイはECの台頭などで縮小傾向にある家電の小売業態でありながら、人を大切にすることで苦境を乗り越えた。その事実に強く背中を押されたのです。

 トリドールの皆は今でも十分がんばってくれている。その上で、もっと個人が生き生きと働ける環境をつくれたら、働く人の幸福度を上げながら、会社もこれまで以上に成長できるのではないか。そんな期待を抱きました。そこで、2022年3月に「KANDO開拓コミッティ」というプロジェクトを立ち上げ、働く人の幸せ・ハピネスについて考え始めました。そのKANDO開拓コミッティが主催で私が議長となり、経営改革の全体戦略立案をする「感動創造会議」を設定。その下に「トリドールホールディングス改革会議」や「ハピネス感動創造会議」といったチームを設け、議論を重ねてきました。

 2024年からは全社を上げて、新たな経営改革に取り組んでいます。従業員の「ハピネス」が、お客様の「感動」を生む。その循環が常に生まれる組織を創ることを目指し、さまざまな施策がスタートしたところです。


離職率がこれからのトリドールの命運を左右する

 2023年11月に開催した全社イベント「ALL KANDO CREATORS MEETING」では、まだ議論の最中ではありましたが、全国で働く社員の皆さんに直接メッセージを届けられる貴重な機会だと思い、その時までにまとまっていた内容をお話ししました。

今、私は、過去に味わったことがないほどの危機感を感じています。今日は皆さまに、今私が感じていることを、そのままお伝えしたいと思います。

この日本においては、少子高齢化に歯止めがかかりません。人口は減り続ける一方です。

そして、コロナによって「飲食の仕事はしたくない」と考える人が増えました。実際、トリドールも人を集めづらくなっていますし、人がどんどん辞めてしまうという現実が、今すでに目の前に突きつけられています。

では、どうするのか。少子化は止まることがないから、他の会社と同じように機械化に走り、省人化を目指すのか。

私は絶対にその道には行きません。なぜか。その道は、トリドールが歩む道ではないからです。

私は、他の会社の真逆に行きます。人が群がる会社にしていきます。

言い方を変えると、人が群がる会社になることで初めて、トリドールは本物の感動創造業に進化することができるのです。

省人化を目指す会社には不可能でしょうが、今まで人の力を信じてきたトリドールには、その可能性があります。

この可能性を引っ張り上げて、人が群がり、真の感動創造業への進化を実現させる唯一の方法は何か。

それは、トリドールで働くすべての人が幸せになることです。

ここにいる皆さま一人ひとり、店頭を支えてくださっているお一人お一人のパートナースタッフ、そして、今も世界中で活躍してくれている世界中の仲間たち。 すべての人が、幸せになることです。

「幸せになる」と言うと、少し漠然としたものに聞こえるかもしれません。でも私は、漠然としたイメージで「幸せ」と言っているわけではありません。

もっと具体的に表現するならば、皆さまが日々働いている一つひとつの店舗や職場が、一人ひとりにとって、かけがえのない居場所になることをイメージしています。

一つひとつの店舗や職場を、私達経営はもちろん、全員で力を合わせて、今よりもずっとずっと、心地よい時間が過ごせる場所にしていくこと。

私はそれこそが「幸せになる」ということだと、考えています。

(スピーチ内容抜粋)

 ここでいう危機感とは、離職率がこれからのトリドールの命運を左右する、ということです。

 離職率が高いと、人手が足りず忙しくなります。新たに人を採用するものの、忙しいと育成が間に合わない。そうなると仕事の効率が落ち、さらに忙しくなります。そしてサービスレベルが下がり、お客様の満足度も下がり、結果的にお客様からの感謝を感じる機会も減少します。働く充実感も下がってしまいます。

 さらに、離職率が高いことで採用コストがかさみ、トレーニングコストも莫大にかかります。そのため現状働いている人にお金がかけられなくなり、勤務環境や条件が悪くなる。そこからまた離職につながってしまいます。

 しかし、離職が減れば、熟練した人が店舗にたくさんいるため、仕事の効率が上がります。人手が充足しているので余裕があり、サービスレベルも上がり、お客様の満足度も上がります。そして、お客様からたくさん感謝されることで働く充実感が上がるのです。採用コストやトレーニングコストも削減されるため、今働く人にお金をかけることができ、働きやすい環境が整っていきます。結果的に、さらに離職が減るという循環が生まれるのです。

 トリドールが運営する店は手仕事が多いため、人が頻繁に辞めていくと技術が蓄積されず、サービスレベルが落ちてしまいます。結果として、感動体験という我々の一番の強みがなくなってしまうのです。しかし、人が長く働いてくれたら、技術も高まり、結果的に顧客満足度も高まります。これが何年も続けば、離職率が高い状態が続いた場合に比べ、大きな差が出てくるでしょう。

 今、トリドールの離職率は高いと言わざるを得ません。外食業界の全体平均と変わらないくらいですが、もともと外食業界は他業界に比べて離職率が高いのです。

 そんな中でも、例えばスターバックス コーヒー ジャパンの離職率は業界平均よりも低いと言われています。やはり、離職率は働く人のエンゲージメント(愛着、誇り、思い入れ)によるのではないでしょうか。働き方や条件も影響するとは思いますが、スターバックスで働く人達はきっと、スターバックスで働く自分が好きだと思えている。ここで働くのは格好良い、という感覚がある。ここが大事なのです。

 トリドールが目指すのは「格好良い」ではないかもしれませんが、「ここで働いている自分が好き」と思えるような環境はつくれるのではないかと考えています。

<連載ラインアップ>
■第1回 「新規参入でもシェアを取れる」トリドールHD粟田社長が語る、外食産業市場のダイナミックな可能性とは?
■第2回 「製麺所の風情を手放したら丸亀製麺ではなくなる」トリドールHD粟田社長が語る“二律両立”の経営とは?
■第3回 省人化の時代に、なぜ丸亀製麺は“増人化”へ舵を切ったのか?トリドールHD粟田社長が語る「体験価値」
■第4回 トリドールHDが始めた「KANDO開拓コミッティ」とは?離職率が下がれば顧客満足度が高まるメカニズム(本稿)
■第5回 トリドールHD急成長の土台、従業員一人ひとりが持つ成長哲学「トリドール3項」とは?
■第6回 国内外で年間250店、トリドールHD粟田社長はなぜ新規出店の意思決定を人に任せるのか?(12月17日公開)
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筆者:粟田 貴也

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