本離れの時代に驚異の大ヒットを連発…書籍PRのプロが本の内容を伝える代わりにアピールしたこと

2025年5月20日(火)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Warchi

営業のノルマがきつい、一生懸命売り込んでもまったく売れない、と嘆く営業マンは多い。PRのプロであるQUESTO代表の黒田剛さんは「“売りたい”と一方的に押しつけても結果は出ない。相手の心を動かすためには、ストーリーで語ることが何より大事だと知ってほしい」という——。(第2回/全2回)

※本稿は、黒田剛『非効率思考』(講談社)の一部を再編集したものです。


■一生懸命に伝えても伝わらない大問題


「どうも相手の心に響いてないな」


PRしていてそう感じるときがある。


それは、「本の内容の素晴らしさを伝えよう」としてしまっているときだ。


著者と編集者の思いが込められた本の内容が素晴らしいのは当然のこと。ついついそこを伝えたくなってしまう。けれど、データや事実は単なる情報にすぎず、相手の心に響きにくいものなのだ。


写真=iStock.com/Warchi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Warchi

■「事実」より「ストーリー」で提案する


そこで、その事実が生まれた背景を「ストーリー」に変えて提案することが必要になってくる。


たとえば、スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションが、なぜ心に響くのか。それは、まさにストーリーで伝えているからだ。iPhoneを発表するとき、こんな言葉からスタートする。


2年半、この日を待ち望んでいました。
時折、すべてを変えてしまうような革新的製品が現れるものです。


Appleは非常に幸運でした。そのような製品をいくつも世に送り出すことができたのです。


1984年 マッキントッシュを発表。
それはAppleを変えただけでなく、コンピューター業界全体を変えました。


2001年 初代iPodを発表。
それは音楽の聴き方だけでなく、音楽業界全体を変えました。
本日、このような革命的な新製品を3つ発表します。


このあと、じつはこの3つの新製品というのは、「iPod」「Phone」「Internet」の3つを1つにした「iPhone」であることを伝えて、すべての観衆を魅了していく。


■相手の心を動かすのは「商品の説明」ではない


このプレゼンテーションの何がすごいのか。それは、商品の説明をほとんどせずに、興味を持たせている点だ。


Appleという会社のストーリーだけではなく、「あなたたちは、未来を変える新製品の発表に今、立ち会っているんだよ」というストーリーを提示している。


このプレゼンテーションは、本のPRにも応用できる。この本を取り上げると視聴者の心をどんなふうに動かせるのかを、メディアにストーリーで伝えるのだ。


■人間は「物語る」動物


僕がPRを担当した『温めれば、何度だってやり直せる』を紹介したときを例に、考えてみる。この本の内容を「事実」で伝えるとするとこうなる。


「久遠(くおん)チョコレート」という会社が出した本をご紹介させてください。著者は創業者の夏目浩次さんです。年間売上18億円を達成していて、全国で約550人のスタッフを雇用し、その7割にあたる約350人が障害者です。障害者スタッフの平均月収は16万円となっています。今、話題の夏目さんをご紹介させていただけませんでしょうか。

一方、「ストーリー」で伝えるとこうなる。


今、話題の久遠チョコレートをご存知ですか?


これは、「全国平均賃金1万6000円」という障害者雇用の世界に、チョコレートで革命を起こした男の物語なんです。


障害者支援のために夏目さんが始めたパン屋は失敗し、あっという間に1000万円の借金を抱えてしまいます。


大きな壁に直面した夏目さんは、チョコレート作りに事業を転換。
パンと違って失敗しても「温めて溶かせば、何度でもやり直せる」のがチョコレート。これが、障害者の“稼げる場所”を作り出し、彼らの所得を全国平均の10倍にしました。


10年たった今、久遠チョコレートは全国に40店舗以上を展開し、年商18億円の会社に。チョコレートが奇跡を起こし、生きづらさを抱える人たちの新たな可能性を切り開いたのです。


このように「成功した」という「事実」だけではなく、成功の背景と会社の未来を「ストーリー」で紹介することで、久遠チョコレートは、たくさんのメディアに取り上げられた。


いかに本の内容を説明せずに、「その本、読んでみたい!」と思わせるか。


PRの仕事とは、単に情報を伝えることではない。大切なのは、相手の心を動かすための「ストーリー作り」なのだ。


■「最強美容家」をどう表現するか


メディアに本を提案する際、必ず聞かれる質問がある。それは、「なぜ今、この本を取り上げる必要があるのか?」というものだ。


この質問に答えるためには、単に本を紹介するのではなく、“現象”と一緒に提案することが必要だ。


たとえば、美容家・石井美保さんの美容本を提案したときのことだ。


最初に提案するべきは、石井さんの美容メソッドではない。まず「なぜ今、この本を取り上げる必要があるのか?」という現象を探した。


写真=iStock.com/Makhbubakhon Ismatova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Makhbubakhon Ismatova

■「コロナ禍でスキンケア用品が売れている」という現象にフォーカス


当時はコロナ禍の影響で外出が制限され、メイクアップ用品よりもスキンケア用品が売れている、というニュースが話題になっていた。そこで、「スキンケア用品が今、爆売れしている」という“現象”とともに本を提案する。


とくに情報番組では、“現象”なしでの紹介は難しい。


そのため、“現象”を軸にストーリーを作り、番組で取り上げられる場面を具体的にイメージしながら提案を組み立てる。


■現象
現在、コロナ禍で外出が制限されている影響で、メイク用品よりも洗顔などのスキンケア商品が爆売れしている。
(例:ドラッグストアの店員へのインタビューで裏付け)


■ストーリー
美肌のカリスマ美容家・石井美保さん。彼女も、もともとは自分の肌に多くのコンプレックスを抱え、あらゆる化粧品をそろえていた。そんな彼女が試行錯誤の末見つけた美肌を手に入れる唯一の方法。それは「与える」ことではなく、「落とす」洗顔・クレンジングを見直すことだった。


■内容
本の内容から「肌をこすらない洗顔メソッド」などを紹介。


こうして、番組で紹介されたときの具体的な構成をイメージして提案するのだ。


■“現象”を伝えて10万部のベストセラー


提案時には、たとえば次のように切り出す。


「ご存知ですか? 今、コロナ禍で外出ができない影響から、メイク用品よりも洗顔などのスキンケア商品が爆売れしているんです」


石井さんが番組に出演すると、そのあまりの美肌に視聴者が驚き、こすらない洗顔メソッドはSNSで瞬く間に話題となった。結果、この本は10万部のヒットとなった。


相手の心を動かすストーリーは、“現象”とセットになってはじめて、今、メディアで取り上げるべき強固な理由となるのだ。


■人の話もストーリーで聞く


人に何かを伝えたいときは、事実ではなくストーリーで伝える。


僕は、人の話を聞くときにも大切なことは同じだと思っている。初対面の誰かと話すとき、相手が今、何をやっているかではなく、これまで何をしてきたかを聞くようにしているのだ。


誰かと2人で食事をする際は、その人が生まれてから現在にいたるまでの流れを時系列で聞き出す。


「中学生の頃に考えていたことを、まさに今、実現しているんですね!」などと話が盛り上がる。話しながら、その人の『情熱大陸』を作っていく感じだ。


■相手の持つ「ストーリー」を聞き出せ


それほどゆっくり時間がないときも、たとえば雑誌編集者だったら「以前はどの雑誌を担当していましたか?」と尋ねる。「そうなんですか! ではその前は?」と時間がある限り遡(さかのぼ)っていく。



黒田剛『非効率思考』(講談社)

誰もがそれぞれのストーリーを持っているものだ。そして、それを語ることをイヤがる人はほとんどいない。むしろ喜んで話してくれる。


僕が熱心に相手のストーリーを聞いていると、「まだ僕の話、してていいんですか?」と聞かれることが多い。「もちろんです!」と僕はさらに聞く。


こうして相手を「今」という点ではなく、「過去」と「今」をつなげた線として知るのだ。相手の背景をストーリーとして把握すると、その人のことをより深く理解できる。


その人を誰かに紹介する機会があれば、誰よりも詳しくその人を紹介できるようになっている。


これは、僕がメディアの著者への取材に必ず立ち会う理由の1つでもある。インタビュー中に著者の話を聞くのはもちろんだが、インタビューの合間に、僕は著者にあれこれ質問する。ここでストーリーを集めているわけだ。


ストーリーで相手を理解しているからこそ、ストーリーでメディアに提案ができるのだ。


■ビジネスに大切なことは子ども時代の食卓に学んだ


じつはこれは、子どもの頃の習慣から身についた僕のクセなのだと思う。僕が子どもの頃から黒田家では、夕食時、その日にあったことを親に事細かに話すのが日課だった。


たとえば、小学校の修学旅行から帰ってくると、2泊3日すべての行動を1日目の朝から、順番に話していくのだ。


僕が話すと「それで?」「それで?」と面白がって聞いてくれるので、ついついストーリー仕立てにして、いつまでも話してしまうのが常だった。僕の話をいつも両親は楽しみにしてくれていたのだ。


「相手に興味を持って話を聞く」のが、何よりコミュニケーションの第一歩だ。僕は、それを子ども時代の食卓で学んだのだ。


----------
黒田 剛(くろだ・ごう)
QUESTO代表
1975年、千葉県で「黒田書店」を営む両親のもとに生まれる。須原屋書店学校、芳林堂書店外商部を経て、2007年より講談社にてPRを担当する。2017年に独立し、PR会社「QUESTO」を設立。講談社の『妻のトリセツ』(黒川伊保子)は、シリーズ累計70万部を超えるヒットを記録。『いつでも君のそばにいる』(リト@葉っぱ切り絵)をはじめとする葉っぱ切り絵シリーズは累計30万部を突破。『続 窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子)は、発売2カ月で50万部突破。その他、KADOKAWA、マガジンハウス、主婦の友社、岩崎書店など、多くの出版社にてPRを担当。非効率ながらも成果を出す独自の仕事術を、セミナーなどを通して伝えている。著書に『非効率思考 相手の心を動かす最高の伝え方』がある。
----------


(QUESTO代表 黒田 剛)

プレジデント社

「時代」をもっと詳しく

「時代」のニュース

「時代」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ