一番人気の投資信託で試算してもやっぱり損…高齢者向け「プラチナNISA」の根本的リスクを73歳現役FPが指摘
2025年5月20日(火)9時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki
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■NISAになかった「分配型」を65歳以上限定で認める?
金融庁が高齢者向け「プラチナNISA」を検討し始めたという報道があった。
今まで新NISAの対象となっていなかった分配型投資信託を65歳以上の高齢者向けに解禁するとのことだ。年金の不足をおぎなうため毎月支払われる分配金を使って老後資金にしてもらおうというもので、予定では2026年の税制改正に織り込み、同年初頭から使えるようにするという。
はたして高齢者はプラチナNISAに投資すべきだろうか、検討してみよう。
従来のNISAは分配金再投資型を対象にしていて、分配型は対象外だった。その理由は、長期的な資産形成には再投資型の方が、投資効率がよく、手数料も安いからだ。
再投資型投資信託は投資信託の収益を分配金として支払わずに再投資し続け、分配金の運用益もふくめて解約時に一括で支払うというもので、複利効果が最大化する。これに対し、分配型投資信託は定期的に分配金を支払いながら残金を運用していくタイプなので、複利効果は薄いが、投資家にとっては定期的にキャッシュフローが得られるというメリットがある。
分配型と分配金再投資型の特徴とメリット・デメリットを詳しく見てみよう。
■分配型(プラチナNISA)と分配金再投資型(NISA・新NISA)
分配型投資信託は投資信託の運用で得られた利益を定期的に投資家に分配する。したがって、相場が上がり続けても、分配金を支払うため利益が減る。利益が減るだけで済めばまだいいが、それ以上に問題なのは、分配金に比べて利益が不足する場合だ。その場合、元本の一部を削ってでも分配金を支払うことになるので元本が減る。これを「元本毀損」という。すなわち、利益を生み出すための原資となる元本が減ってしまうので、利益を生み出す力がますます減ってしまう。
これと対照的なのが、今まで金融庁が推奨してきた分配金再投資型投資信託だ。
これは、運用で得た利益を再投資するので、複利効果を生む。相場が下げ続けない限り、複利効果により投資金額が増え続けるというメリットがある。
投資信託「グローバル・ソブリン・オープン」の実例から分配型と分配金再投資型のどちらの投資効率がいいかを検証してみる。
グローバル・ソブリン・オープンは、1997年に創設された世界主要先進国の国債など、信用力の高いソブリン債券に投資する分配型の投資信託だ。主に、A格以上の国債や政府機関債などに投資し、安定的な利子収入と値上がり益を狙ってきた。債券投資なので、株式投資に比べ安全ということで人気を集め、創設から10年間は5〜7%の高年利回りで人気を集め、純資産額は5.6兆円を超えた。当時の超人気ファンドである。
図表3を見ていただきたい。
図表3は、1997年12月の設定時に1000万円を投資し、2025年4月まで27年4カ月間持ち続けた場合の投資成績を示している。
■人気の分配型ファンドでも「再投資型」の方がずっと得
分配型では分配金は936.1万円だが元本が1000万円から527.1万円に減少している。これは分配金の支払いが利益だけでは足りず、元本から支払われていたことを示している。実力以上に配当を支払っていたということだ。
分配型の27年4カ月の投資成績はプラス457万8000円で、投資リターンはプラス46%。
これに対し、グローバル・ソブリン・オープンには再投資型もあって、それに投資した場合、投資成績はプラス1077万円で投資リターンはプラス108%となる。
両者とも投資成績はプラスだが、約27年持ち続けた成果は、再投資型が元本の倍、分配型は元本の約1.5倍という成績だ。再投資型の方が、明らかに成績が良い。
この理由は、分配金再投資型が収益を再投資してそれを増やし続けることができるためだ。すなわち、複利効果が大きいためである。
■毎月分配金をもらえても…投資リターンには大きな差が
分配型は設定当初から分配金を支払うため元本を取り崩していたので、収益を再投資する複利効果は全くなく、その結果が投資リターンの差をもたらした。
分配型は元本毀損を起こし、元本は当初の半分になっているが、分配金が大きいためトータルではプラスになっている。しかし、分配金を支払わずに、それを再投資に回せば、複利効果のため、さらに増えたということだ。
図表4は27年間のグローバル・ソブリン・オープンの運用の軌跡を示しているが、これを見ると次のことがわかる。
1.創設後13年目の2011年までに元本は2025年時点と同じ53%まで減っている。それまでの分配金利回りは年7.2%から4.2%。この期間に実力以上の分配金配当を続け、元本を毀損していたことがわかる。しかし高利回りを維持したため、人気も上昇し2007年には純資産が最高額の5.6兆円までに達した。投資家は高利回りに騙され、投資をしたが、投信には高利回り通りの実力はなかったということだ。
2.2014年から2025年までの分配金は低金利への移行に伴い年2.4%から0.2%に下がったが、元本毀損は起きていない。収益力に応じた分配金支払いを行っていたということがわかる。
■「分配型は複利効果がない」という最大のデメリット
グローバル・ソブリン・オープンで分かるように、複利効果があるかないかで、投資信託の投資効率は大きく変わる。
ここでは改めて、複利効果について説明してみたい。
資産運用の方法には単利運用と複利運用がある。
単利運用とは運用で得た利息を元本に組み入れず、当初の元本しか利息を生まない形で運用する方法をいう。
これに対し、複利運用は運用で得た利息を元本に組み入れ利息がさらに利息を生む形で運用する方法である。
複利運用は収益が収益を生むので単利運用に比べ元本が大きく増加する効果がある。これを「複利効果」という。複利効果は運用が長期にわたればわたるほど大きくなる。ただし、複利運用は利息を元本に組み入れるのでインカム・ゲインにより生活資金や旅行資金を得ようとする人には向かない。
1.効果を実感できるのはいつ? 複利の計算方法
それでは銀行預金や債券など元本が保証され金利が決まっている商品の複利効果の説明をする。
100万円を年利5%で3年間運用した場合の元利合計を比較
単利運用:
100万円 × (1+0.05×3)=115万円
複利運用:
100万円 × 1.05^3=115.76万円
複利運用した場合は、単利運用とくらべ、3年間の元利合計は7600円大きくなる。
100万円を年利5%で5年間運用した場合
単利運用:
100万円 × (1+0.05×5)=125万円
複利運用:
100万円 × 1.05^5=127.63万円
5年間運用した場合さらに差が広がり、2万6300円になる。
図表5と図表6を見てほしい。
年利5%で運用した場合、複利運用と単利運用の差は10年で9%、20年で33%になる。10年から20年が長期運用の一つの目安といわれているので複利運用と単利運用の差は長期投資で大きくなることがわかる。
また、50年運用すれば複利運用と単利運用の差は何と328%、すなわち3.28倍にもなる。複利運用は時間を味方にすることが重要で、特に若い人は複利運用で長期投資をすることを考えるべきということになる。
株式や投資信託で運用する場合は銀行預金と違い毎年の配当や剰余金が決まっているわけではないが、金額が変動するにせよ配当や剰余金が生じるので時間とともに複利効果があるという点は同じである。
■「分配型は手数料が高い」という2つめのデメリット
複利効果の次に投資のコストとなる信託報酬手数料の違いについて述べてみよう。
分配型と再投資型の信託報酬手数料を比べると、再投資型が0.05775%から0.187 %以下なのに対し、分配型は1.1%から1.903%と分配型の5倍から30倍になっている。ただし、グローバル・ソブリン・オープンに限って言うと再投資型でも分配型でも同じファンドなので差は出ていない。
信託報酬手数料は年あたりのコストなので、年1.1%の場合、10年で11%、20年で22%である。馬鹿にならないコストだ。さらに年1.903%の場合は、10年で19%、20年で38%となるので、とんでもないレベルということになる。
なぜ、分配型が高いかというと、利回り確保のため売買頻度を高くする、および売り込みのため対面販売を重視しているので、人件費がかかるからである。
複利効果を最大化したいなら再投資型を選ぶべきであるということが手数料の面からもいえる。
■結論、老後のキャッシュフローはどうすればいいのか?
それでは高齢者はどんな投資をすればよいだろうか?
1.投資効率の観点から「再投資型投資信託」を選ぶ。
2.手数料の観点からも信託報酬手数料の安い「再投資型投資信託」を選ぶ。
3.老後のキャッシュフロー対策としては、上記の再投資型投資信託を自分自身の資金計画に従い「毎年定額または定率」で機械的に取り崩していく。
65歳の人の平均余命は男性で19.5年、女性で24.4年だ(2024年簡易生命表ベース)。
すなわち、老後資金は20年から25年のスパンで考えるべきなので、複利効果が大きい分配金再投資型で運用するのが正解ということになる。
そのうえで、必要な老後資金は定期的に一定額とりくずしていくのが、最も投資効率がよい方法になる。
分配型が再投資型より投資効率で劣るのは、グローバル・ソブリン・オープンの例でみたとおりだ。
結論として、プラチナNISAでの投資はお勧めできない。
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浦上 登(うらかみ・のぼる)
コンサルタント
早稲田大学政治経済学部を卒業後、三菱重工業に入社、海外向け発電プラントの仕事に携わる。ベネズエラ駐在、米国ロサンゼルス営業所長などを歴任後、三菱重工グループの保険代理店に移り、取締役東京支店長。2009年にはファイナンシャル・プランナーの上位資格CFPを取得。2017年にサマーアロー・コンサルティングを設立、著書に『70歳現役FPが教える 60歳からの「働き方」と「お金」の正解』(PHP研究所)がある。
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(コンサルタント 浦上 登)