マイクロソフトが主導する次世代AIシステムの開発 グーグル、アップルらと繰り広げる競争はどこまで白熱しているか

2025年5月16日(金)4時0分 JBpress

 今や半導体は経済安全保障の要であり、各国が自国での開発・製造に注力している。水平分業化された半導体産業において、足元ではファブレス(設計)の米エヌビディアとファウンドリー(製造)の台湾TSMCが大きくリードしているが、技術進化は早く、勢力図がいつ一変しても不思議はない。本稿では『日台の半導体産業と経済安全保障』(漆畑春彦著/展転社)から内容の一部を抜粋・再編集。世界の半導体産業と主要企業を概観するとともに、日本の半導体開発の最前線に迫る。

 先端半導体の登場で、データセンターの建設ラッシュと米ハイテク大手企業による生成AI開発競争が進む現在。数字から見えてくる、その実態とは?

■ AI投資拡大に伴う先端半導体への需要増

 米調査会社のガートナーは、2024年の世界のIT投資は前年比8%増の約5兆ドルとなり、同3.8%増の2023年から伸びが加速すると予測している。主にデータセンターが投資の牽引役となっている。2024年に入り、米ハイテク大手企業を中心とした生成AI向けインフラ投資、データセンター投資が急拡大している。

 データセンターは、安全で高いシステムの継続稼働能力をもって、企業のインターネットサーバーやデータ通信、固定・携帯・IP電話などの装置を設置・運用することに特化した施設である。建物内には、通信事業者の光ファイバーなど大量の通信回線が引き込まれ、サーバーを収納するサーバーラック(専用棚)やキャビネット、大量データを保存するストレージ、ネットワーク機器を備えるなど、分散するIT機器を集約的に設置し、その効率的な運用を可能としている。

 利用者に対し、1ラック当たりの賃貸料が定められ場所貸し形式で提供されている。企業のAI利用が拡大するなか、自社のサーバーを効率的に管理・利用すべく、充実したインフラを備えたデータセンターへの需要が世界的に高まっている。

 国内でも、データセンターの建設ラッシュが続いている。調査会社IDCジャパンが2022年4月に公表した予測によれば、日本国内事業者データセンターの延床面積は2021〜2026年に年平均8.2%成長し、2025年に263万400ⅿ2、2026年に390万5100ⅿ2に増加する。

 このデータセンターに対し、エヌビディアなど半導体メーカーは大量の半導体デバイス(プロセッサ)を提供している。調査会社マーベル・テクノロジーは、データセンター用プロセッサ市場は、2023年の680億ドルから2028年には2020億ドルに拡大すると予測している(図表1-9)。

 プロセッサとして重要なのが「アクセラレータ(accelerator)」である。頭脳本体CPUの処理速度を高めるデバイスであり、エヌビディアのGPUはその先端品である。

(出所)電子デバイス産業新聞、2024年5月30日付(原データはマーベル)

 米マイクロソフトが発表した2024年6月期通期決算では、設備投資が前年同期比約8割増の557億ドル(約8兆5000億円)に急拡大し、2025年6月期はさらに拡大を見込んでいる。マイクロソフトは、「ChatGPT」を開発したオープンAIと提携し、同技術をビジネスソフトに搭載する成長戦略を描いている。

 事業の拡大には、データセンターなどへの膨大な投資が必要となる。生成AIサービスの多くは、データセンター内で開発・運用されている。膨大なデータをAIに学ばせ回答の精度を上げる「学習」、利用者から質問などを受けてAIが答えを導く「推論」には、高価な専用半導体GPUを組み込んだ設備が必要となる。

 英調査会社オムディアの調べでは、2024年、マイクロソフトがエヌビディアからAI半導体Hopper GPU(Hopperアーキテクチャーを採用するH100 GPU)を競合するIT企業の2倍にあたる48万5000基も購入したことがわかった。中国のバイトダンスとテンセントが各々約23万基、米国のメタが22万4000基、xAI/テスラ(xAI/Tesla)が20万基、アマゾンが19万6000基、グーグルが16万9000基などとなっている。

 Hopper GPUは画像処理を担い、AIシステムの開発には欠かせないとされる高性能GPUである。2024年のAIデータセンターの投資額を見ても、マイクロソフトはアマゾンやグーグルを大きくリードしている。

 マイクロソフトは、AI半導体を多く使うChatGPTのオープンAIにも累計130億ドル(約2兆円)の巨額投資をしており、データセンターの整備を急いでいる。マイクロソフトが、AIを使った次世代システムの開発競争で主導権を握る動きとして注目されている。また、アップルは、外部からのGPU調達を抑え、ブロードコムと協働して自社でのGPU開発を進めている。

 米調査会社デローログループの予測によれば、世界全体のデータセンター投資は2025年に4637億ドル(約70兆円)と2024年比3割増加する。そのおよそ半分をアマゾン、マイクロソフト、グーグルの「クラウドコンピューティング3強」にメタを加えた米ビッグテック4社が占める。

 そしてその恩恵は、データセンター向けAI半導体GPUで世界シェアの9割を握る米半導体大手エヌビディアに集中する。需給ひっ迫でGPUの価格は高騰しており、その結果、エヌビディアは2024年の各四半期決算で、7割を超える売上高総利益率を確保している。

 グーグル親会社の米アルファベットは、新興の米オープンAIと生成AIの性能をめぐり激しい競争を繰り広げている。2024年6月末に業界最高水準の性能を持つ生成AIを投入、開発ペースを加速している。

 2024年4-6月期決算では、純利益が前年同期比29%増の236億1900万ドル(約3兆7000億円)と5四半期連続の増収増益を確保したが、研究開発費や設備投資は増加の一途をたどっている。4-6月期の研究開発費は前年同期比12%増の118億ドル、設備投資はキャッシュフローベースで131億ドルと9割増となった。ともに増加分の大半は生成AI関連である。

 2024年6月、傘下のグーグルは一度に処理できる情報量(トークン数)を200万倍に倍増した「Gemini1.5プロ」の強化版を投入した。より高速で動く「Gemini1.5フラッシュ」と合わせて最新AIモデルを揃え、クラウド事業の企業顧客を中心に顧客開拓を進めている。

 一方、米オープンAIは、2024年9月からAIと人間同士のように自然な会話ができる音声機能の一般向け提供を始めた。さらに12月には、オープンAIは、短い文章で指示を与えると自動で動画を作るAIサービス「Sora」の提供を始めた。最長20秒の動画を生成でき、アーティストや動画制作者のほか、企業が広告や商品宣伝に動画を使うなどの用途を見込んでいる。

 より一般向けには、AI機能搭載のスマートフォンの市場が拡大している。2024年9月、アップルは、新型スマートフォンiPhone16シリーズ4機種の発売を発表した。2024年6月に発表した生成AIサービス「アップルインテリジェンス」を全ての機種で使えるようにした。

 上位機種では回路線幅3nmの最先端半導体を採用、生成AIの機能が前機種よりも最大15%高速処理できる。電子デバイス産業新聞の推計では、AI搭載スマートフォンの割合は2024年に31%、2025年には43%に拡大する。

 消費者にとって生成AIがかなり身近なものになることで、デジタル経済がAIを使って活性化、市場が拡大することが期待される一方、技術レベルはまだ発展途上にあるAIに対する慎重論は根強く、AIの普及拡大に応じた規制が求められている。

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筆者:漆畑 春彦

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