だからヨボヨボにならずに2時間の電車通勤ができる…「92歳の栄養学者」が朝食で食べている緑色の野菜

2025年5月26日(月)10時15分 プレジデント社

女子栄養大学副学長の香川靖雄さん - 撮影=池口祥司

年齢を重ねても健康でいるためには、どうすればいいのか。92歳の栄養学者で、女子栄養大学副学長の香川靖雄さんは「朝食を抜いてはいけない。脳にエネルギーが届かず、健康を損なうリスクを高めてしまう。ぜひ朝食に取り入れてほしいおすすめの料理がある」という——。

■たかが朝食、されど朝食


みなさんは、毎日朝食を食べてから、1日のスタートをきっているでしょうか。


「飲み過ぎた翌日は食欲がないので……」とか「シャワーや着替え等の身支度を優先してしまう……」といった理由で、朝食をスキップしてしまった経験がある人は少なくないはずです。


農林水産省が2025年3月に発表した「食育に関する意識調査報告書」によると、朝食を「ほとんど食べない人」は全体で8.7%、若い世代に限っていえば20.5%もいたそうです。


たかが「朝食」と思われる人もいらっしゃるかもしれませんが、されど「朝食」です。朝食にはさまざまなメリットがあり、私は専門の栄養学の観点から、朝食を軽視する傾向に警鐘を鳴らすべく、2007年に『科学が証明する 新・朝食のすすめ』(女子栄養大学出版部)という本を上梓しました。書籍の中では、朝食と子どもたちの成長や学校の成績の関係性についても論じましたが、ここでは大人の健康について絞ってお伝えしたいと思います。


■朝食をとると脳が目覚める


今現在、92歳の私は週に二度三度、電車を乗り継いで、片道2時間以上かけて副学長を務めている女子栄養大学に通っていますが、もちろん、毎朝、朝食を食べています。なぜかといえば、朝食は1日のウォーミングアップの役目を担っているからです。


具体的には、朝食を食べることで脳の唯一のエネルギー源であるグルコースを供給することになるわけですが、端的にいえば、朝食をとることで脳が目覚め、「集中力」や「作業能力」を高めることにつながるのです。ですから、もし、私が毎日朝食を食べずに過ごしていたなら、92歳まで大学通いするのは不可能で、もっとはやく引退していたことでしょう。


撮影=池口祥司
女子栄養大学副学長の香川靖雄さん - 撮影=池口祥司

また、朝食には他にも多くのメリットがあります。たとえば、日本のみならず、世界中で問題になっている生活習慣病。WHOは全世界の死者の70%以上が、日本でいうところの「生活習慣病」で亡くなっているというデータを発表しています(WHOは「生活習慣病」ではなく、「非感染性疾患」という表現を使用。厳密な定義は違いますが、置き換えて捉えても差し支えないと考えています)。


これは日本の厚生労働省等が発表している数値と大きな開きはなく、厚労省は、運動、食生活、禁煙、健診・検診の受診の視点から生活習慣病予防を促し、健康寿命の延伸を目指す「スマート・ライフ・プロジェクト」を推進しています。


■認知症の予防にもつながっていく


「食事」という観点で捉えると、要はバランスのとれた食事を朝・昼・晩、規則正しくとりましょうということになるのですが、たとえば、とくに男性の天敵である「糖尿病」。厚労省発表の「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」によれば、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、女性が8.9%に対して、男性は16.8%と高くなっています。


糖尿病は、突然死の原因となる心筋梗塞等の心臓血管疾患を引き起こすだけでなく、認知症のリスクを高めると考えられています。日本の平均寿命は世界一である一方、長生きするということは、認知症をはじめとする病気とも長く付き合わなければならないことを意味しているのです。


死生観は人それぞれですが、一般的には、健康で長生きが理想的な形であり、私も元気なうちは世の中の役に立ちたいと考え、副学長として、研究者として、今も大学に通っているのです。


糖尿病の話に戻しましょう。先述したように朝食には脳にグルコースを供給する役割があります。低血糖は認知症の大敵ですから、若いときから朝食を抜かずに、3食バランスのよい食事をとることが、認知症の予防につながっていくのです。


写真=iStock.com/ahirao_photo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ahirao_photo

■食事の基本は「バランスよく」


少し専門的な話が長くなってしまいました。ここからは、92歳の私が何十年と実践して、自身が実験台となって証明した、ヨボヨボにならずに、現役を続けるための「朝食」のポイントについてご説明しましょう。


まず、食事の基本は「バランスよく」であり、4つの食品群をしっかりと摂取するようにしてください。4つの食品群については、女子栄養大学の創設者である香川綾が考案した四群点数法が参考になります。かいつまんでお伝えすると、以下に掲げる食品をバランスよくとるようにしてください。


1群:卵、牛乳・乳製品
2群:魚介類、肉、大豆・大豆製品
3群:野菜類、きのこ類、海藻類、芋類、果物
4群:穀類、砂糖、油脂、嗜好品、種実類

ただ、これだけでは具体的な食事のイメージが浮かばなかったり、バランスのよい食事を用意するハードルが高く感じられる人もいるでしょう。ですので、ここでは思い切って、朝食に摂取すべき栄養素を3つに絞ってお伝えします。


■「炭水化物」「たんぱく質」「ビタミン」をとる


まず、最初にとるべきは「炭水化物」です。近年、炭水化物をとらないダイエットも流行しているようですが、脳を目覚めさせるには、炭水化物は欠かせません。そして、できれば血糖値に与える影響がゆるやかな「でんぷん」がおすすめであり、その代表格が「白米」や「玄米」になります。


2番目は、「たんぱく質」です。とくに高齢者は筋肉低下による「フレイル」を予防するのに欠かせない栄養素になります。フレイルは、日本老年医学会が提唱した概念であり、加齢による心身の機能が低下していく状態を指しています。フレイルが進行することで、要介護状態へと移行してしまうため、健康寿命を維持するには、しっかりとたんぱく質をとらなければならないのです。たんぱく質は、卵や牛乳、大豆、肉・魚等に多く含まれています。


3番目は「ビタミン」です。ビタミンの中でも、私が長年提唱しているのは、水溶性のビタミンの一種である「葉酸」の積極的な摂取です。葉酸は必要以上にとっても吸収されずに排出されてしまうため、朝・昼・晩、過不足なくとらなければなりません。


■朝食には「ホウレンソウ」がおすすめ


炭水化物は「白米」、たんぱく質は「卵や牛乳、豆、肉」ということで、イメージしやすいと思いますが、問題は「葉酸」です。


結論からいえば、朝食で「葉酸」を摂取するのにおすすめなのは、「ホウレンソウ」です。アメリカの漫画・アニメの主人公のポパイがホウレンソウを食べて力を発揮するというシーンがあるのですが、ホウレンソウには、葉酸以外にも、カリウム、鉄、ビタミンA、ビタミンK、食物繊維が含まれており、栄養満点です。実は、この記事の取材を受けた日の朝も私は「ホウレンソウのおひたし」を食べました。ホウレンソウは朝食でよく食べるのですが、まさに私自身の元気の秘訣であると言ってもいいでしょう。


撮影=池口祥司
朝食にはホウレンソウがおすすめ - 撮影=池口祥司

しかし、ホウレンソウだったらどんな食べ方でもいいわけではありません。ゆでたホウレンソウ100gには、約100μgの葉酸が含まれています。ただ、残念ながらゆでるなどの加熱調理によって失われる栄養素もあるため、効率よくとるには電子レンジ調理がおすすめです。


調理方法はいたって簡単です。


1:ホウレンソウを洗って、手頃なサイズにカットしましょう
2:器に入れて、ラップをかけて、電子レンジでチンしましょう
3:水にさらして「あく」を抜き、ゴマ、かつおぶし等をトッピングしましょう

■「葉酸」は認知症対策にも効果的


電子レンジで手軽にできる「ホウレンソウのおひたし」は忙しい毎朝にもぴったりのメニューではないでしょうか。


また、一手間かける余裕がある人は、味噌汁等の汁物にホウレンソウを入れれば、汁に流出する栄養素の一部を回収することが可能になりますのでおすすめです。


写真=iStock.com/Promo_Link
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

香川靖雄『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』(女子栄養大学出版部)

ちなみに、葉酸の摂取は認知症対策にもなります。認知症予防には、血中ホモシステイン濃度を低下させることが効果的とされていますが、葉酸にはその働きがあるとされているのです。かくいう私自身も、92歳となった今なお教壇に立ち、栄養学を学ぶ学生たちに講義を行っています。パソコンで授業用の資料を作成したり、スマートフォンを使って日常的にメールに返信したり、Facebookの投稿も日課になっています。このように元気な毎日を過ごしていますが、ホウレンソウが一役買ってくれているのかもしれませんね。


また、ホウレンソウ以外には、枝豆、ブロッコリー、レバー、アスパラ、春菊等にも葉酸が豊富に含まれていますのでこちらもおすすめです。いちご、キウイ、オレンジなどの果物は調理の手間がかかりませんので、こちらも忙しい人にとっては魅力的な食材といえます。


■元気な私が「論より証拠」そのもの


ホウレンソウで元気になるポパイを思い浮かべてもらえれば、詳細な説明は不要かもしれませんが、ホウレンソウに含まれる葉酸はもっと注目されるべき栄養素です。女子栄養大学は埼玉県の坂戸市と一緒に、「坂戸市葉酸プロジェクト」を実施し、ホウレンソウをはじめとする葉酸を多く含む食材の摂取を呼びかけてきました。そうした試みの効果もあり、坂戸市の健康寿命は全国平均と比べても長く、医療費も全国最低レベル、疾患の減少も確認されたことから、昨年8月には県の特別賞を受賞しています。


そして、なによりも、葉酸を積極的に摂取した結果、92歳になったいまも、現役の研究者として大学に電車を乗り継いで通っている私の現在の姿が、「論より証拠」そのものといえるでしょう。


もちろん、ホウレンソウ“だけ”を食べ続ければ健康になるということではありませんが、「葉酸」を摂るには皆さんにものすごくおすすめしたい食材です。健康で長生きするための食習慣として、ぜひ明日の朝食メニューにホウレンソウの品を取り入れてみてはいかがでしょうか。


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香川 靖雄(かがわ・やすお)
女子栄養大学副学長
1932年、東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業、聖路加国際病院、東京大学医学部助手、信州大学医学部教授、米国コーネル大学客員教授、自治医科大学教授、女子栄養大学大学院教授を経て、現在、自治医科大学名誉教授、女子栄養大学副学長。専門は生化学・分子生物学・人体栄養学。著書に『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』『科学が証明する新・朝食のすすめ』『香川靖雄教授のやさしい栄養学』(以上、女子栄養大学出版部)、『老化と生活習慣』『生活習慣病を防ぐ』(以上、岩波書店)などがある。
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(女子栄養大学副学長 香川 靖雄 構成=池口祥司)

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