Glico独自のビフィズス菌GCL2505株と水溶性食物繊維イヌリンによる「腸内細菌叢への影響」と「短鎖脂肪酸の産生」をヒト試験で確認
2025年5月29日(木)13時48分 PR TIMES
江崎グリコ株式会社は、当社独自のビフィズス菌Bifidobacterium animalis subsp. lactis GCL2505(以下、GCL2505株)と水溶性食物繊維イヌリンによる腸内細菌叢への影響と、短鎖脂肪酸の産生をヒト試験において確認しました。本研究成果は2025年5月16日(金)に日本農芸化学会の英文誌「Bioscience, Biotechnology and Biochemistry」に掲載されました。当社は「タンサ脂肪酸プロジェクト」として短鎖脂肪酸の研究と啓発活動を積極的に進めており、今後もGCL2505株と短鎖脂肪酸の可能性を探ってまいります。
【本研究のポイント】
- 便通が安定している健常な成人男女120名を対象にしたヒト試験の結果、GCL2505株とイヌリンを2週間摂取した期間は、プラセボを摂取した期間と比較して、腸内のビフィズス菌が増えて腸内細菌叢全体の構成が変化し、便中の短鎖脂肪酸濃度が高くなりました。
- また、腸内細菌叢全体の遺伝子情報を調べたところ、炭水化物代謝に関する機能を持つ遺伝子などが増えており、腸内細菌叢全体において炭水化物代謝に関する機能が変化していることが示唆されました。
- 短鎖脂肪酸が増えた人と増えなかった人を分けて解析したところ、短鎖脂肪酸が増えなかった人は、GCL2505株が属する種のビフィズス菌が増えているにも関わらず、腸内細菌叢全体の構成や遺伝子の機能がほとんど変化していないことが分かり、短鎖脂肪酸の増加にはビフィズス菌の増加だけでなく、腸内細菌叢全体の構成や機能の変化が重要であることが示唆されました。
- 今回観察された、GCL2505株とイヌリンの摂取による短鎖脂肪酸の増加によって、これまでに研究発表を行った内臓脂肪・体脂肪の低減※1、安静時エネルギー消費量(基礎代謝量)の向上※2、血管の柔軟性改善※3、認知機能の改善※4などの健康に寄与する機能が短鎖脂肪酸の増加によってもたらされるという仮説が支持されました。
【内容】
■論文タイトル・著者名
Enhancement of carbohydrate metabolism by probiotic and prebiotic intake promotes short-chain fatty acid production in the gut microbiome: A randomized, double-blind, placebo-controlled crossover trial
Yuhei Baba, Daisuke Tsuge, Ryo Aoki
Biosci Biotechnol Biochem. 2025, May 14: zbaf071. (Online ahead of print);
https://academic.oup.com/bbb/advance-article/doi/10.1093/bbb/zbaf071/8131516
■研究背景
腸内細菌は腸内でさまざまな代謝物を産生しています。これらの代謝物は、宿主のエネルギー恒常性、糖代謝・脂質代謝の調節、免疫細胞の分化やその機能などに関与していることが知られています。特に、短鎖脂肪酸は腸や肝臓の細胞におけるエネルギー源となるほか、グルコースや脂質の代謝、血圧や腸のバリア機能、免疫などを調節することが報告されています※5、6、7。短鎖脂肪酸は、水溶性食物繊維などのヒトが消化できない食物成分を腸内細菌が分解した最終産物として産生されます。したがって、短鎖脂肪酸はプレバイオティクス、プロバイオティクス、シンバイオティクスがもたらす健康効果の主な要因の一つと考えられています。腸内細菌の短鎖脂肪酸の産生に関わる代謝経路は、これまでにも広く研究されてきましたが、健康なヒトにおけるプロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクスによる短鎖脂肪酸の産生と、腸内細菌叢の機能変化の関係はほとんど調べられていませんでした。
〜GCL2505株と短鎖脂肪酸の可能性〜
当社独自のビフィズス菌であるGCL2505株は健康な成人から分離されたプロバイオティクス株で、これまでの研究により、イヌリンと共に摂取することで、GCL2505株単独の摂取よりも腸内のビフィズス菌を増やすこと※6や、内臓脂肪・体脂肪の低減※1、安静時エネルギー消費量(基礎代謝量)の向上※2、血管の柔軟性改善※3、認知機能の改善※4など、さまざまな健康に寄与する機能が明らかになっており、その作用機序はビフィズス菌や腸内細菌による短鎖脂肪酸の産生によるものと考えられていました。その一方で、GCL2505株とイヌリンの摂取による、短鎖脂肪酸の産生と腸内細菌叢の機能変化のヒトにおける関係は明らかになっていませんでした。そこで、今回、短鎖脂肪酸やその機能について、さまざまな研究が進む中、当社ではGCL2505株とイヌリンによる、短鎖脂肪酸の産生と腸内細菌叢の機能変化の関係についての研究に着手しました。
■試験概要と結果
- 便通が安定している(便通が週に5回以上)の健常な成人男女120名を対象に、GCL2505株100億個とイヌリン2gを含む乳飲料を試験食品、GCL2505株とイヌリンを含まず酸味料で風味調整をした乳飲料をプラセボ食品として、プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較試験を行いました。
- その結果、試験食品を2週間摂取した期間では、プラセボを摂取した期間と比較して、便中の総短鎖脂肪酸、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸、n-吉草酸の濃度が有意に増加しました。
- また、GCL2505株とイヌリンを摂取した期間の糞便中の総ビフィズス菌数はプラセボを摂取した期間と比較して有意に高い値を示し、腸内細菌叢全体の構成の違いを表すβ多様性(Bray-Curtis非類似度)が有意に変化しました。さらに、腸内細菌叢全体の遺伝子に着目すると、炭水化物代謝やアミノ酸代謝に関連する機能をはじめ、さまざまな機能を持つ遺伝子が増えていました。
- 研究対象者を短鎖脂肪酸が増えた群、増えなかった群に分けて解析をしたところ、短鎖脂肪酸が増えなかった群ではGCL2505株が含まれるビフィズス菌種が有意に増加していましたが、腸内細菌叢全体の構成やその機能はほとんど変化していませんでした。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/1124/547/1124-547-c7047a3a765e2ccde705b3fe030a373e-1000x1000.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1.便中短鎖脂肪酸濃度の測定結果
(Biosci Biotechnol Biochem. 2025, May 14: zbaf071. より作図)
グラフの値は摂取期ごとの平均値、エラーバーは標準偏差を示す
■考察
今回の試験では、GCL2505株とイヌリンの摂取は、腸内細菌叢の組成とその機能の変化を通じて、便中の短鎖脂肪酸濃度を増加させることがわかりました。また、短鎖脂肪酸が増えなかった群では、GCL2505株が属する菌種が増えていたにも関わらず、腸内細菌叢の組成とその機能が変化していませんでした。このことから、腸内での短鎖脂肪酸の増加には、プロバイオティクスおよびプレバイオティクスの摂取後に特定の細菌が増加するだけでなく、腸内細菌叢全体の構成の変化、炭水化物代謝を含む機能の変化が重要な役割を果たしていることが示唆されました。
今回の結果より、以前に研究発表を行った肥満を起点としたメタボリックドミノに関連する内臓脂肪・体脂肪の低減※1、安静時エネルギー消費量(基礎代謝量)の向上※2、血管の柔軟性改善※3、認知機能の改善※4などの健康に寄与する機能は短鎖脂肪酸を介して発揮されるという仮説が支持されました。(図2)
健康寿命の延伸には、メタボリックドミノの出発点である肥満を予防することが重要と考えられています。日常的にGCL2505株とイヌリンを摂取することは、腸内の短鎖脂肪酸を増やし、肥満およびメタボリックドミノの進行を予防できる可能性があります。当社は、今後もGCL2505株と短鎖脂肪酸の可能性を探り、当社の存在意義(パーパス)である「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現に努めてまいります。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/1124/547/1124-547-97532f84cb0d66a8b43050ecf8b76bd6-842x595.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2.GCL2505株とイヌリンによる健康に寄与する機能の推定作用機序
GCL2505株とイヌリンに関するこれまでの研究成果
https://tansa-magazine.glico.com/articles?ct=1(https://tansa-magazine.glico.com/articles?ct=1)
【参考情報】
■短鎖脂肪酸とは
短鎖脂肪酸とは、ビフィズス菌などの腸内細菌が水溶性食物繊維やオリゴ糖などをエサにして作る腸内細菌代謝物質です。酢酸、プロピオン酸、酪酸などがその代表です。近年の研究で、体脂肪の低減、安静時エネルギー消費量(基礎代謝量)の向上などの抗肥満作用をはじめ、免疫やストレス、認知機能への作用など、さまざまな機能を持つことが明らかになっています。
■プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクスとは
プロバイオティクスは、適切な量を投与することで宿主の健康に良い影響をもたらす生きた微生物、プレバイオティクスは、腸内細菌叢の調節によって宿主の健康に良い影響を与える非生存性の食品成分です。プロバイオティクスとプレバイオティクスの両方を組み合わせたものがシンバイオティクスです。
■腸内細菌叢の多様性とは
腸内細菌叢の多様性は、主にα多様性、β多様性の2つの指標で評価されます。α多様性は、個体の中での多様性(存在する菌の種数やそれらの存在量の均等さ)を評価する指標です。一方、β多様性は多様性が個体間でどのくらい異なるかを比較し、評価する指標です。
■江崎グリコの「タンサ脂肪酸プロジェクト」について
当社は、人々の健康寿命を延伸することを一つの使命と考え、腸の健康と腸内細菌の研究に注力しています。近年、腸と密接に結びついたさまざまな疾病が人々の健康課題となる中、ビフィズス菌と短鎖脂肪酸の研究と啓発活動によって、健康寿命の延伸に寄与したいと考え、2022年6月に「タンサ脂肪酸プロジェクト」を立ち上げました。生活者の方々への短鎖脂肪酸に関する分かりやすい情報の発信と、当社独自のビフィズス菌であるGCL2505株のヒトへの作用に関する臨床研究等を進めています。
タンサ脂肪酸プロジェクトサイト:https://cp.glico.com/tansa/(https://cp.glico.com/tansa/)
※1 Baba Y et al. Nutrients. 2023, 15, 5025.
※2 Baba Y et al. Nutrients. 2024, 16, 2345.
※3 Azuma N et al. Nutrients. 2023, 15, 4175.
※4 Azuma N et al. Biosci Biotechnol Biochem. 2023, 88, 86-96.
※5 Blaak EE et al. Benef Microbes. 2020, 11, 411-455.
※6 Martin-Gallausiaux C et al. Proc Nutr Soc. 2021, 80, 37-49.
※7 Lange O et al. Curr Obes Rep. 2023, 12, 108-126.