「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?

2024年10月2日(水)4時0分 JBpress

 「営業は断られてから始まる」と言われる。だが、話術だけで成約に導けるほど甘くはなく、1度成功したアプローチが2度通用する保証もない。「買う・買わない」の決定権を相手が握る中、営業担当にできることは何か、すべきことは何なのか? 本連載では、日本一の営業成績を認められ、初めて地方ボトラーから日本コカ・コーラへの出向を果たした山岡彰彦氏の『コカ・コーラを日本一売った男の学びの営業日誌』(山岡彰彦著/講談社+α新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。顧客視点や組織力の大切さに気付いていく学びの足跡をたどる。

 第1回は、ルート営業からフードサービス営業に異動した著者が、壁にぶつかりながらも新規顧客獲得に至った際のエピソードを紹介する。

<連載ラインアップ>
■第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?(本稿)
■第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは(10月16日公開)
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?(10月23日公開)
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?(10月30日公開)
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(11月6日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから


いままでの延長線上で考えない

 スーパーやコンビニ、自販機で売られている瓶や缶、ペットボトルといったパッケージ充塡された商品とは異なり、フードサービス部門の製品は、それぞれの売り場でディスペンサーという機械によって商品になるので、お客様が手に取る直前までかたちになっていません。

 よくファストフード店やコーヒーショップのカウンターの反対側で店員さんが容器に飲料を注いでいるあの機械で商品にしているのです。お店によってグラスやカップのサイズも違い、ファミリーレストランのドリンクバーだとあらかじめ定めた量目で販売するという概念すらありません。私のこれまでの経験則がそのままでは通用しないということです。

 フードサービス部門の主な市場はレストランやファストフード店ですが、そのほとんどはこれまでの営業活動でしかるべきお店にはすでに機材が設置されています。つまり、この市場で新規開拓を進めるのはそう簡単ではないということです。

 そんな状況でも毎日新規開拓に行かなければ仕事になりません。最初のうちはなんとか見つかった訪問先も、1ヵ月もするとリストは余白だらけです。行くところがありません。

 営業の仕事は外回りがほとんどですから、一旦会社を出てしまえばどこで何をしようが上司にはわかりません。仕事を怠るとそのまま成績にはね返ってきますが、わかっていながらも喫茶店に入って時間をつぶしたり、クルマの中で昼寝をしたりと現実逃避の日々を過ごすことになってしまいがちです。なにしろ訪問しようにも行く先がないのですから。

「このままだとどうなってしまうのだろう」

 不安は日を追うごとに大きくなっていきます。月初めの定例会議のことを考えると頭が痛くなり、眠れない日が続きます。

「どうだ、調子は」

 背中から声を掛けられ、振り向くと小林統轄部長です。

「最近はちょっと、厳しいです…」

 少し躊躇しながら曖昧な返事で応えます。

「いま、どんなところを回っているんだ」

 さらに踏み込んできます。

「レストランとか喫茶店とかそういったところです」

 やっていることをそのまま答えます。

「新規開拓といっても毎日行くのはきついだろう。ましてや限られた市場だ。そんなに都合のいい訪問先がそうそうある訳じゃない。そうじゃなかったらこの時間にここにいることもないだろう」

「ええ、まぁ…」

 いきなり核心を突かれて言葉がありません。忙しそうに働いているオフィス勤務の同僚たちがチラチラとこちらを見ています。昼過ぎのこの時間に自分の机で急ぎでもない書類をつくって時をやり過ごしている自分がなんとも情けなくなりました。

「ちょっと教えて欲しいんじゃが、お前は何を考えて新規の取引先を探しているんだ」

 やれやれ説教か。この状況で辛いなと思いながらも黙って話を聞くしかありません。

 押し黙っている私に「お前はまずレストランや喫茶店に自分たちの製品を買ってもらいたい、機材を置いてもらいたいと考えているんじゃないか」との質問が飛んできます。

 確かにその通りです。それがいまの仕事なので、「はい、それは、そうです…」と力ない返事をします。

「もしそう考えているんだったら順番が違うぞ。それはこちらの都合で考えているということじゃ。商品を買ってくれる、機材を置いてくれることが先じゃなくて、我々の商品が欲しい、あったら嬉しい、我々の機材を置いたら便利になる。そういうところはどこか。まず相手の都合から考えるということだ。営業はその順番に気を付けること。ひょっとしたらレストランや喫茶店じゃないのかもしれん。新規開拓はいままでの延長線上でものを考えないことだ」

 それはその通りと思いつつ、こちらの商品を求めているところ、そこまでいかなくてもあったら嬉しいところってどこだろう。顎に手を当て考えながら部長の顔を見上げますが、答えは見つかりません。

 小林部長はそれだけ言うとさっさとどこかに行ってしまいました。私はなんだか答えが見つからない宿題をもらった気分でした。しばらくたってから、ルート営業時代の同僚の徳田からの連絡です。

「マナベインテリアハーツという大きな家具屋さんがあるんだが、お客さんとゆっくり話ができるよう店の中央にちょっとしたスペースを設けるというので、自販機コーナーを提案しようと思うんだ。暇だったら一緒に行かないか」

 暇だったらという言い方に少し反発を感じながらも、知り合いのお店でも紹介してくれるかもしれないと思い「じゃあ、場所を教えてくれ」と返事をしました。

 指定の時間にマナベインテリアハーツに向かうと徳田が駐車場で待っています。

「おう、悪いな。ルート営業時代に戻るのも気分転換になるぞ」

 こちらの状況を知ってか知らずか相変わらずの口調ですが、悪い気はしません。マナベインテリアハーツは県内でも屈指の大型家具店で見渡すほどの店内には大型家具から学習机、ランドセルまで陳列されています。店員さんに案内されて店の中央まで進むとまるで喫茶店のようにテーブルが置かれている少し広めのスペースが設けられています。

 店員さんが「この店はご結婚をされる際の家具セットも取り揃えているんだけど、ご両親と同伴で来る方も多くいるんですよ。ましてや子供さんの入学シーズンともなればご家族連れで来店されて、学習机だ、ランドセルだと店内は結構にぎわうんです。そんな時に大人数でもゆっくりとどの家具にするのかといった話をする場所がいるので、このスペースをつくったんです」とのいきさつを話してくれました。その時ふと小林部長の言葉を思い出しました。

「まず相手の都合からものを考えるということ。レストラン、喫茶店といった従来の延長線上から新規開拓を考えないこと」

 案内してくれた店員さんが去った後、店長が来るまでのちょっとした時間に徳田に相談します。

「ここをお客さんが自由に飲料を飲めるスペースにしたらどうだろうか。店内だから機材の管理も楽だし、紙コップを使ってもらったら後片づけも簡単だろう。サービスで飲料を提供してくれて、ゆっくりと品定めができる家具店というだけで、他の店を大きく引き離すことができるんじゃないか。大勢のお客さんも喜んでくれると思うし、この店にとっても悪い話じゃない。ウチにとっても新しい売り場をつくることができる。どうだろう」

 横を向いて考える徳田。そのすぐ後に「よし。ダメ元で話をしてみるか」と。

 しばらくして店長がやってきました。手持ちのフードサービスの機材カタログを彼の前に広げ、急ごしらえの提案です。

 突然の商談の場になりましたが、私たちの話をうなずきながら聴いてくれる店長にこれからの道が開けたような気持ちになりました。結局「お客さんが喜ぶなら、やってみよう」という店長の一言で機材を置いてもらえることになりました。

 飲料ビジネスとはまったく関係がないと思われる家具店の店内の真ん中にファミリーレストランさながらのドリンクバー。これまでの感覚では考えられません。

 そこにはゆっくりと話をしたい、大きな買い物の合間に少し休みたいという多くのお客さんの存在があります。お店としてはお客さんと落ち着いて商談ができる場にもなります。そこによく冷えた飲料があるとお互いが嬉しくなります。部長から言われたことを思い出します。

「商品を買ってくれる、機材を置いてくれることが先じゃなくて、我々の売りモノを欲しい、あったら嬉しい、我々の機材を置いたら便利になる。そういうところはどこか。まず相手の都合から考える。新規開拓はいままでの延長線上でものを考えないことだ」

 宿題でもらった問いの答えの1つを思いもかけない現場で見つけることができたのです。

<連載ラインアップ>
■第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?(本稿)
■第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは(10月16日公開)
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?(10月23日公開)
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?(10月30日公開)
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(11月6日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

筆者:山岡 彰彦

JBpress

「コカ・コーラ」をもっと詳しく

「コカ・コーラ」のニュース

「コカ・コーラ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ