脳出血での緊急出産から奇跡の生還、後遺症の困難に直面も…取材者が学んだ「常に前を向く姿勢」

2024年2月18日(日)14時55分 マイナビニュース

●愛する妻とまだ見ぬ我が子を失う不安
フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)で、18日に放送された『僕を産んでくれたお母さん 〜言葉を失ったママと家族の4年〜 前編』。脳出血で意識を失ったまま出産し、後遺症を抱えながら生活することになった金山あさ奈さんと家族の4年を追った作品で、25日には「後編」が放送される。
数々の医療ドキュメンタリーを手がけてきた中でも、今回、患者とその家族に密着するのは初めての経験だったという、演出・プロデューサーの荒井裕晶氏(オンセ)。奇跡の生還を果たしながら、様々な困難に直面するあさ奈さんに、“常に前を向く姿勢”を教えてもらったという——。
○緊急事態も密着取材快諾、その理由は…
4年前、職場で意識を失い、病院に運び込まれたあさ奈さん。原因は脳出血で、すぐにでも手術をする必要があったが、おなかには3人目となる男の子を宿していた。病院に駆けつけた夫の文哉さんは、無事を祈る一方で、「愛する妻を失うのか、まだ見ぬ我が子を失うのか、もしかしたら2人とも…」と、不安と闘っていたという。
医師たちは2つの命を救うため、帝王切開で赤ちゃんを取り出すと同時に、あさ奈さんの開頭手術に挑む。懸命な処置により手術は無事成功し、1794gの男の子は新生児集中治療室に運ばれ、あさ奈さんは一命を取り留めた。しかし、脳に負ったダメージは大きく、右半身のまひに加え、会話や読み書きが思うようにできなくなる障害が出ていた…。
当時、フジテレビのドキュメンタリー特番『命の最前線!!救命救急24時』で、北里大学病院を取材していた荒井氏ら。そこに救急搬送されてきたのが、あさ奈さんだった。緊急事態の中で、あさ奈さんの家族は密着取材を受けてくれないだろうと思いながら、後日ダメ元で申し込むと、意外にも迷うことなく快諾してくれたという。
「僕らが毎日病院に通ってあさ奈さんたちを見て、ご家族と打ち解けていったというのがありました。また、ご家族があさ奈さんのことを見られない時間も、僕らが映像で彼女の姿を記録することになるので、取材を受けてくれたのではないかと思います」
あさ奈さんにとっても、後に映像で入院当初の自分の姿を見ることが、欠落していた記憶をよみがえらせる機会になっていたようだ。
その後リハビリの期間に入ると、撮影されることがリハビリのモチベーションを保つ刺激になることも期待され、取材を継続。165日の入院生活を経て退院する際、見守り続けてきたスタッフは、その回復ぶりに思わず「あ〜良かったですね! 本当に」と、家族のように喜びの声をかけていた。
○金山家や病院と築いた信頼関係
こうして、金山家と信頼関係を築いてきた取材陣。家の中の撮影は、おおむね朝から晩までという時間帯だったが、「一度だけ、カメラマンが1泊させてもらったんです。寝袋を用意していったら布団まで敷いてくれて。“なんで泊まらせてくれるんですか?”と聞いたら、“私たちをずっと見てくれている人だから”と言ってくれて。入院中は、あさ奈さんのほうも、取材に動き回る番組スタッフをベッドの上からずっと見ていたという、不思議な関係なんです」と語る。
一方で、前編ではあさ奈さんの手術シーンをはじめ、他の病院密着ドキュメンタリーでもなかなか見ることのできない映像が次々に流れた。「なかなかあそこまで、協力していただける病院はないと思います」というが、こちらも、北里大学病院の教授と長年にわたり交流を続けて築いた信頼関係が反映されたものだった。
また、北里大学病院の救命救急・災害医療センターは、重篤な患者を受け入れる第三次救急医療機関で、病院のスタッフは亡くなった患者の家族の泣き声を毎日聞くような環境にあるだけに、あさ奈さんが回復していくことは、医師や看護師たちの喜びもひとしおだったようだ。
●180度人生が変わっても「しょうがない」
今回の取材を通して改めて感じたというのは、「ある日突然、180度人生が変わってしまうという人が本当にいるんだ」ということ。そして、あさ奈さんという人の前向きな姿だ。
「救急搬送される1週間前に夫婦で三代目J SOUL BROTHERSのライブに行って、3日前には北里大学病院の産科で出産に向けての診察を受けていたんです。倒れた日の朝には、息子さんを保育園に送っていったのに、気がついたら右半身が麻痺してしまった。そんな状態になったら、“どうして私なの…”とつらい気持ちになると思うんです。でも、あさ奈さんは“(悔やんでも)しょうがない”と言う。その常に前を向く姿勢というのを、彼女から教えてもらった気がします」
そして、「大学を卒業して、保険会社に勤めて28歳で退職し、そこから職業訓練学校に行って、自動車整備士になったという方ですから、もともと持っていたバイタリティで乗り越えられた部分もあったのだと思います」と分析する。
そんな彼女を一番に支える夫・文哉さん。彼の印象を聞くと、「とにかく優しい人です。仕事の関係で朝6時に家を出るので、朝4時に起きて5時に洗濯物を干して1人でご飯を作って、帰宅するのも夜8時くらい。子どもたちが野球とドッジボールをやっているので、土日は車で送り迎えしてあげていて、本当に大変だと思います」と明かしてくれた。
○印象に残る「クリスマスパーティー」の場面
「後編」では、退院したあさ奈さんが失語症と闘いながら、文哉さんとともに子育てや日常生活に奮闘する姿が描かれる。その中で、荒井氏が見どころとして挙げるのは、文哉さんの母宅で行われるクリスマスパーティーの場面だ。
「文哉さんのお母さんは、車の中で夫婦が仲良くしゃべるのを聞いているのが、自分にとってとても幸せな瞬間だったとおっしゃっていたので、病に日常を奪われたということに関して、すごくショックが大きかったはずなんです。だからこそ、クリスマスパーティーでは本当にうれしそうで、みんなの幸せそうな表情にグッときます」
今後も、金山さん一家と交流を続けながら、タイミングを見て取材していく意向。「何とか無事出産した三男をはじめ、子どもたちがどう成長していくかというのは見ていきたいですね。障害を持った母に育てられて、優しくなっていくのか、そのままなのか分かりませんが、年に4回くらい遊びに行きがてら、追っていきたいと思います」と話している。
●荒井裕晶1983年、日本テレビ開局35周年特別番組『北南米大陸:地球縦断30000キロ』の制作を起点にテレビドキュメンタリー番組を中心に活動。NHK『南米大陸ラリー紀行』、ABCテレビ『素敵にドキュメント』、フジテレビ『今夜は好奇心』、日本テレビ『スーパーテレビ情報最前線』のほか、『ニッポンのお母ちゃん』『石田さんチの大家族』などの家族ドキュメンタリーや事件・医療・街を題材にした特別番組を手がけた。2013年に制作会社「ワンズワン」の代表取締役を退任後、現場でドキュメンタリーのディレクタションとプロデュースを行っている。

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