北大路欣也、若き役者に受けた刺激「負けてたまるか!」 藤岡真威人&大友花恋は「勉強」「吸収」の日々
2025年2月28日(金)10時0分 マイナビニュース
●一度は辞退した役
北大路欣也が主演する、藤沢周平原作のオリジナル時代劇シリーズの最新作『三屋清左衛門残日録 春を待つこころ』が、時代劇専門チャンネルで放送される(3月8日19:00〜ほか)。
東北の小藩で前藩主用人の職を退き、隠居した三屋清左衛門(北大路)の第二の人生を、身の回りに起こる様々な出来事とともに描く同シリーズ。第8作となる今回は、清左衛門と青年剣士・信次郎(藤岡真威人)や、2人が巻き込まれる事件の鍵を握る巫女・照日(大友花恋)との交流を軸に物語が展開される。
このほど、北大路、藤岡、大友が取材に応じ、北大路からは同シリーズの魅力や若い俳優たちからの刺激、藤岡と大友からは北大路との共演で学んだことなどが語られた——。
○伊東四朗と現場で作り出される雰囲気
——『三屋清左衛門残日録』も8作目になりましたが、最初にオファーを受けられた際の心境はいかがでしたか?
北大路:初めてこの作品に触れたのは仲代達矢さんがやっていた時でした(93年、NHK)。それから何年か経って、この役をやらないかというお話を頂いたのが、60代の半ばぐらいだったかな。それで改めて原作を読んだのですが、まだ自分には早いんじゃないかと思ったんです。清左衛門についていけないのではないかという不安があって、「申し訳ないけど少し待っていただけますか」と言ったら、5年くらい後にもう一度お話を頂いたんですよ。これはご縁ですよね! なので、もう絶対にやらせていただこうと思って、70代に入って第1作が始まったんです。ですから、今までの自分の経験を清左衛門の中にどう反映できるか、同化していけるか。そういうちょっとした挑戦にワクワクするような気持ちで第1作を撮影させていただきました。
——そして実際に演じられてみて、いかがでしたか?
北大路:時代物はいろいろやりましたし、いろんな先輩方の仕事も見てきましたが、今までやらせていただいた時代劇とはちょっと雰囲気が違った。それは藤沢先生の作り出された世界だと思うんですよ。脚本を読んだら、昔の物語をやるという感覚が全くなくて、むしろこれからの物語をやるという新鮮な感覚を覚えたんです。これは自分の体さえ元気であれば、清左衛門についていけるなと思って、1作、2作、3作とつながっていったんだと思います。
それは私だけじゃなくて、同じ思いを持っている監督をはじめスタッフやキャストの皆さんに支えられて、この作品から命をもらっているような気がする。ですから、共演者の皆さんと会うと、すごくほっこりするんですよ。そしてお互いの間でその場の雰囲気が新しく生まれてくる。私も81歳(取材時)になりましたけど、(伊東)四朗さんは87歳ですよ! そんな四朗さんが持っていらっしゃる一つの人生観がバーンと来るんですよ。それで、「ここはこういうリズムでやるんだな」と納得すれば私はそれについていくし、逆に私なりに投げかけると四朗さんも「お?」っていう感じで受けてくださる。そうやってみんなで雰囲気を作っていけるんです。
——若いおふたりとの共演はいかがでしたか?
北大路:緊張感がありますよね。若い方々はやはり新鮮だし、鋭さを持っていらっしゃるし、美しいし、脚は強い、リズムもある。だから「負けてたまるか!」っていう気持ちもどこかにありますね(笑)
今回おふたりにお会いして、初めて役として対面した時の感情は、私が想像していたものとは違ったんです。彼女(大友)はふっと寂しそうな顔をして、「大丈夫?」って声をかけたくなるような雰囲気がある。彼(藤岡)は剣術の練習の場面を見て、ふっと思ったのはお父さん(藤岡弘、)ですね。なかなかできない間合いや鋭さをちゃんと持っていらっしゃって、その血をちゃんと引いているなと思いました。なので、「絶対うまくいく」という安心感をもらいました。
●「清左衛門そのままだったんです」
——藤岡さんと大友さんは、そんな大先輩と共演されてどんなことを感じられましたか?
藤岡:僕にとっては初めての本格的な時代劇ですし、シリーズ8作目まで北大路さんをはじめ皆さんが作られてきた世界観の中にどう信次郎として入っていけるのかというのは、自分の中でも一つの課題でした。でも撮影に入った時に、北大路さんや監督をはじめスタッフの皆さんがすごく温かく迎えてくださったんです。
常に皆さんが作品をより良くするために毎シーン毎シーン話し合って、心を一つにして作っているのが初日から分かったので、自分の中でも「こうじゃないか」と考えてやっていくと、一緒に芝居する皆さんがちゃんと受け取ってくださる。それに対して僕もまたぶつけてキャッチボールができるように体制を整えてくれました。だから、想像していたよりも葛藤することなく自由に表現させていただけたと思います。本当にかけがえのない時間で、自分が出ていない他の方の掛け合いのシーンもすごく勉強になって、素晴らしい作品に入らせていただいたことに感謝しています。
大友:第8作まで続くシリーズなので、皆さんに愛されている世界に飛び込むということで、うれしさもあり背筋が伸びる思いもありました。分からないことがたくさんあるので、全部吸収して帰ろうという気持ちで、大先輩の皆さま、京都のスタッフの皆さまと向き合う日々になりました。
私も藤岡さんと同じように緊張していたんですけど、この取材が始まる前にも北大路さんが椅子を引いてくださったり、ずっと周りを見てくださっているんです。向き合って正座で話しているシーンで、私がちょっと足先を組み替えたら、それに気づいて「椅子を彼女に持ってきてあげてください」ってスタッフさんに声をかけてくださったり。そういう優しさに加えて力強さもあって、北大路さんが清左衛門そのままだったんです。だから私自身、照日が清左衛門に助けてもらうように撮影中ずっと助けていただき、落ち着いて役に集中することができました。
○北大路欣也が少年時代に打たれていた滝
——時代劇といえば、撮影所育ちの監督さんをはじめ美術さん、照明さんといった受け継がれていく職人の技があると思います。『三屋清左衛門残日録』を撮影される中で、やはりそういうものは実感されますか?
北大路:私はデビューしたのが13歳でしたが、どこの撮影所に行ってもスタッフの方々に長年伝授されている技術は変わらないですね。でも私たちは全部に接することができるわけではないんです。出来上がったものを見て初めて「すごい」と気づくんですよ。
大友:全てのスタッフの皆さんと近い距離でやり取りするというのはなかなか難しいのですが、完成した作品を見て「あの時されていたことがこうなるんだ!」と思います。
北大路:それだけ陰で、本当に縁の下の力持ちとしてみんなが支えてくださる上に我々がいる。それはすごく幸せなことです。私たちがスタジオに入る前からセットを掃除して磨き上げる小道具や大道具の方から、照明など器具を操作している方々。昔はインカムがなかったのですごく大きな声が現場で飛び交っていたんですけど、変化したのはそれくらい。指示が出て若いスタッフが素早く動いているのを見ると、昔と全然変わらないですね。そういうのを見ながら、我々はこの出来上がった世界でどう役を生きていくか。ああいう姿を見ていたら、誰だって燃えますよね。
大友:応えたいと思いますね。
藤岡:そうですね。
大友:普段は観光客の方がいらっしゃる滝(京都府京丹波町の琴滝)の近くに祠(ほこら)やお社が建っていて、本物だと思って何げなく触ってると美術さんが用意したものだったんです。とてもリアルでその空間が本当に私たちが生きやすい世界になっていることに、いつも感動していました。
藤岡:「鳥居は本物なんですか?」と聞いてみたら、「建てた」と言われてびっくりしました。
北大路:私はあの滝に、少年時代から行っていたんですよ。滝に当たったこともあるし。
大友・藤岡:えー!!
北大路:京都という土地には、1時間ぐらい車で走れば時代劇の理想とする場所があるんですよ。滝もあるし川もあるし。だから京都によって時代劇が全盛になって、時代劇を守ってくれた。私はそんな京都で生まれて京都で育ったので、時々関西弁が出るんです。そしたら、(藤岡に)標準語に直されちゃって(笑)
藤岡:そんな……(笑)
北大路:もちろん標準語で一生懸命やるんだけど、スタッフの方の京都弁を聞くと、ふと戻ってしまうんですよ。それであなた(藤岡)の顔を見て、「ああ直さなきゃ」って。
藤岡:違うんです!北大路さんに「これで(標準語)合ってる?」と聞かれて、「これが正しいと思います」って言ったんです! その直後に、自分のセリフでなぜかなまってしまって、北大路さんに指摘されてしまいました(笑)
北大路:あれは仕返し(笑)