TBSのヒット作を手掛ける新井順子P、原点は“中学の文化祭” テレビドラマにかける思い「知らない世界を知ってほしい」

2024年3月3日(日)10時0分 マイナビニュース

●中学時代の文化祭でプロデューサー的な役割を
注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、TBSスパークルの新井順子氏だ。
『Nのために』『アンナチュラル』『MIU404』『最愛』など、数々の人気ドラマを生み出してきた新井氏。昨年放送された日曜劇場『下剋上球児』が記憶に新しいが、次なる作品として、川口春奈が主演を務める4月期の金曜ドラマ『9ボーダー』が発表されたばかり。新ドラマも注目を集めている新井氏が制作において心がけていることとは。また、テレビの力やドラマを取り巻く環境について感じていることなど話を聞いた。
——当連載に前回登場した、カンテレでドラマ制作を手がける岡光寛子プロデューサーが、新井さんについて「気概があって、ポジティブな空気をまとっていらっしゃって、確固たる軸があって、明るくて、フットワークが軽くて、とにかくかっこいい。憧れのプロデューサーです。社会問題をエンタメとして昇華させドラマにする手腕に感銘を受けており、いち視聴者として新井さんが手がける新作をいつも心待ちにしています」とおっしゃっていました。
ありがとうございます。べた褒めですね(笑)。今放送されている岡光さんの『春になったら』も見ています。余命3カ月の父が出てくるお話で重めなのかなと思ったら明るいテイストで、奈緒さんと木梨憲武さん親子のキャスティングも素晴らしいなと。いろいろと設定が面白いなと思ったので、どうやって企画を立ち上げたのか、今度飲みながら教えてください!
——岡光さんとは何度かお会いしたこともあるそうですね。
2回ぐらい一緒に飲んだことがあります。交流会みたいな感じで、お互いの局について「うちはこうだよ」みたいな話をしました。
——ここから新井さんのお話を聞いていきたいと思います。まず、テレビの世界を目指したきっかけから教えてください。
子供の頃からドラマをよく好きで見ていました。そして、中3の時の文化祭で舞台をやらないといけなくて、投票で8クラスのうちの上位3クラスか4クラスが市民会館みたいなところで披露できるという感じだったんです。そこに残るためにはどうしたらいいかというところで、「イケメンを主役にしよう」「みんなが知っている『金田一少年の事件簿』を取り入れよう」などとプロデューサーみたいなことをして、自分で台本も書いて、これを仕事にしたら面白そうだなと思いました。
——中3の時にすでにプロデューサーのようなことを。
そうなんです。中学で舞台をやったから、高校1年の文化祭でもそういうことができるらしいということで、また舞台をやってほしいとお願いされて。2年生の時は断りましたが、3年生の時もまた舞台をやって、「あなた主役をやりなさい」「あなたはピアノを演奏しなさい」とか、今と同じようなことをしていました(笑)
○「自分が本当に面白いと思うものを作る」 わかりやすさも大切に
——実際にテレビの世界に入って数々の作品を生み出されていますが、作品作りにおいて大切にしていることをお聞かせください。
自分が本当に面白いと思うものを作る。あと、わかった気にならないというのも意識しています。難しい台本で理解できないところがあった場合など、恥ずかしがることなく「どういう意味ですか?」とちゃんと聞くように。テレビは幅広い年齢の人たちに見せるものだと思うので、小学生でもわかるようにするというのは意識しています。
——わかりやすさは初期の頃から意識していたのでしょうか。
特に意識するようになったのは『アンナチュラル』からな気がします。事件モノは難しくなりがちですが、どの世代にもわかるようにしたいなと。
——『アンナチュラル』や『MIU404』など社会問題を取り入れたドラマを手掛けられている印象もありますが、社会問題を物語として発信する面白さなど感じていますか?
そうですね。最近どんなニュースがあるのか見てヒントを得たりしますが、そういうものから引っ張ってこないと事件の動機などが似通ってくるんです。自分の発想だけだと限界がありますが、ニュースはネタの宝庫で、ドキュメンタリーもそうです。あと、友達が言っていたことや家族で起こったことなども使い放題。そういうものはリアリティがありますし、移動中に女子高生が話していた会話から引っ張ってくることもあります。
●『夜行観覧車』が大きな転機に テレビの強みも語る
——ご自身が手掛けられた作品の中で、特に大きな転機になったと感じているものは?
『夜行観覧車』だと思います。失敗したら次はなかったと思いますし、この作品をやってから企画が通りやすくなりました。俳優さんにも出演してもらいやすくなった気がします。
——『夜行観覧車』をはじめ、『Nのために』『アンナチュラル』『最愛』『下剋上球児』など数多くの作品でタッグを組んでいる塚原あゆ子監督と組むようになった経緯も教えてください。
私がAPで塚原さんが3番手のディレクターだった頃に初めて一緒の作品をやったのですが、『夜行観覧車』をやると決まって監督をどうしようかとなった時に、原作が湊かなえさん、脚本が奥寺佐渡子さん、Pが私で、監督を女性にしたら“女性で作る作品”と打ち出せるかなと思い、女性がいいんじゃないかという話に。塚原さんは当時まだTBSプライム帯でチーフをやったことがありませんでしたが、NHKで1本チーフで撮っていて、主演の鈴木京香さんも快諾してくれたので塚原さんがチーフ監督に決まりました。
——当時から塚原さんの演出に光るものを感じていたのでしょうか。
NHKの『ラストマネー -愛の値段-』などのサスペンス感が好きで、『夜行観覧車』もサスペンスだったのでいいなと思いました。
——その後、さまざまな作品で塚原さんとタッグを組んできましたが、一緒に作品を作る面白さをどのように感じていますか?
発想が豊かですよね。いろんなことを考えていて、何か新しいことをしようとするチャレンジャーですし、探求心がすごいなと思います。
○出演俳優のブレイクでテレビの力を実感 “新しい発見ができる”強みも
——近年はネット配信が盛り上がっていますが、そんな中でテレビの役割をどのように考えていますか?
配信作品や映画は好んで見ようとしないと出会えませんが、テレビはタダで見られて、たまたまつけたらやっていた、などと偶然作品に出会うこともある、新しい発見ができるというのが強みだと思います。いろんな世界を知ることができ、世界が広がる。例えば『下剋上球児』は、野球が好きだからなんとなく見てドラマって面白いんだと思ったり、ドラマが好きだから見た人が野球に興味を持ったり。知らない世界を知ってほしいという思いがあります。
——新井さん自身もテレビを見て視野を広げて。
そうですね。4月クールの金曜ドラマを担当していますが、それはなんとなく見たドキュメンタリーがすごく印象に残っていて、そこから着想を得ました。あと、ドラマが話題になって出演していた俳優がいきなり売れることがあり、そういう時にもテレビの力を感じます。『最愛』の高橋文哉くんも主演をやったりCMに出演したり、『中学聖日記』でデビューした岡田健史(現・水上恒司)くんも、映画の主演をやられていて、初めて会ったときの頃を思い出したりして、親のような気持ちになるときがあります(笑)。マネージャーさんはいつもこんな気持ちになっているのかなとも。
○連ドラ枠が増え「スタッフもキャストも取り合いになっている」
——連ドラ枠が増えている状況についてはどのように感じていますか?
スタッフもキャストも取り合いになっているのが現状です。すべての作品を追いきれないことで、登場人物の名前がそっくりとか、ストーリーが似ているとか、そういうことが出てくる……いや、もう出ているのかもしれませんね。
——作り手としては、そのあたりのドラマの状況がどうなっていくといいなと考えていますか?
もっとドラマ枠を減らして1作品あたりの予算を増やし、時間をかけてクオリティの高い作品が作れるようになるといいなと思っています。今は次から次に作らないといけないですし、枠に対して人が少ないから忙しい。次の作品のためにインプットする時間もなく、脚本家さんも取り合う状況になっているので。
●影響を受けた2作品「自分もそういうドラマを…」
——ご自身が影響を受けた番組を教えてください。
『東京ラブストーリー』と『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』です。『東京ラブストーリー』は、見ていないと次の日の会話についていけないんです。学校でみんなその話をしているから。そして、赤名リカが今まで見ていたドラマのヒロイン像からかけ離れていて、不倫はしているし、「セックスしよ」って言うし、ぶっ飛んでいるなと(笑)。『人間・失格』は大人気のKinKi Kidsさんが出ていて、キラキラした作品かと思ったら、主人公が復讐するという衝撃的な作品で驚いたのを覚えています。桜井幸子さんのモノローグが奥深く、その内容を書き留めるぐらい入り込んで見ていました。この2つは毎週早く見たいと思うくらいハマっていて、自分もそういうドラマを作りたいという思いがあります。
——衝撃を受けた役者さんも教えてください。
原田美枝子さん。『愛を乞うひと』という映画で2役演じられていたのですが、本当に別人みたいで、「同じ人なの!?」と驚き、すごいなと思いました。その時からいつかご一緒したいと思っていて、『結婚式の前日に』で実現し、とても明るくて本当に素敵な方でした。またご一緒したいです。あと、山口智子さんも『ロンバケ』(『ロングバケーション』)などを見てかっこいいなと。お会いしたいと思っていますが、いまだに会えていません。
○映画にも挑戦「どんな反応があるのかワクワクしています」
——今夏公開の『ラストマイル』で映画にも挑戦されました。塚原あゆ子監督と脚本の野木亜紀子さんという、『アンナチュラル』と『MIU404』のチームということで注目を集めていますが、いかがでしたか?
顔なじみのスタッフが集まっていましたし、現場で作っている時はいつもとそんなに変わらない印象でした。このあと公開が近づくに連れて、どんな反応があるのか、どんな気持ちになるかとワクワクしています。
——公開されてから映画ならではのやりがいなど感じられるのでしょうか。
そうだと思います。あと、ドラマは視聴者と一緒に見ませんが、映画は映画館に行けば一緒に見てリアクションがわかるので、それが楽しみです。「ここで笑うんだ!」とか。
○宇宙サスペンスやオール海外ロケのドラマに意欲
——今後はどんな作品を作っていきたいと考えていますか?
宇宙サスペンス! 地上に飽きたので(笑)。あといつかオール海外ロケのドラマをやれたらいいなと。予算的に絶対無理だと思いますが、1話1カ国で描くバックパッカーの旅みたいな。いろんな国を訪れてそこに住んでいる日本人と出会い、おいしいものを食べさせてもらうという、旅番組のようなドラマをやってみたいです。
——宇宙も海外も、今までにないものを作りたいという思いでしょうか。
そうですね。あと、海外については、海外に住んでいる日本人がなぜそこに住んでいるのか興味があって。なぜその土地を選んだのか知りたいので、それをドキュメンタリーっぽいドラマにしたら面白そうだなと。やはり自分が面白いと思う作品を作ることが大事だと思うので、これからも自分の興味あるものをドラマにしていけたら。自分が昔ハマって見ていたドラマのように、ハマってもらえるドラマを作りたいです。
——最後に、気になっている“テレビ屋”を教えてください。
小田玲奈さん。1回対談したことがあって面白い方だなと。『家売るオンナ』をやるために実際に家を買ったとか、ぶっ飛んでいるなと思って(笑)。『ブラッシュアップライフ』もとても面白かったので、どうやって作ったのか聞いてみたいです。
次回の“テレビ屋”は…
日本テレビ・小田玲奈プロデューサー

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