今や「老眼」は治す時代に?眼科専門医・平松類「アメリカでは目薬も認可。ただし期待するほどのものでは…」
2024年3月21日(木)6時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
環境省が公開している「花粉症環境保健マニュアル2022」によると、約3人に1人がスギ花粉症と推定されるそう。そんな花粉症の症状の一つに目の痒みがありますが、「目を掻いてしまうと網膜剥離になりやすい」と話すのは、眼科専門医・医学博士の平松類先生。今回は平松先生に「目のトリセツ」について解説していただきました。先生いわく、「白内障の手術でも老眼を治すことができる」そうですが——。
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老眼は目薬で治せる?
若い頃、メガネなしで過ごしていた人は、老眼鏡をつけるのを嫌がるようです。近視のメガネをしている人でも、老眼になっているのに遠近両用メガネにしないで、メガネをつけたり外したりしてがんばっている人もいます。
そういう人は、老眼を治す薬があったらいいなと思うのではないでしょうか。
実はアメリカでは老眼治療薬(点眼薬)が、FDA(米国食品医薬品局)で認可されています。
日本でも同じ薬が眼科で処方されているのですが、「老眼に効く目薬をください」といっても出してもらえません。
この目薬は、もともと緑内障の薬です。ですから日本人でも緑内障と診断されれば出してもらえる可能性があります。
ピンホール効果
実は緑内障の目薬を使うと、老眼が改善するのです。そのメカニズムは次のようになります。
眼科で検査を受けるとき、瞳を開く目薬を点された経験があると思います。強い光を当てても瞳が閉じないようにするためです。
これとは逆に、瞳を閉じる目薬もあります。すると角膜(黒目)と虹彩(茶目)の根元が交わる部分(隅角)から目の中を循環している水(房水)が流れるようになり、眼圧が下がります。
緑内障の治療薬は基本的に眼圧を下げる薬ですが、このタイプの目薬は瞳を閉じることによって、眼圧を下げるわけです。
針で開けた小さい穴をのぞいて見ると、焦点が広がるため、老眼の人は見やすくなります。これをピンホール効果といいます。
このタイプの緑内障の目薬を点すと、ピンホール効果が得られるため、老眼も改善するというわけです。
おそらく日本でも、将来的には老眼に処方されるようになるでしょう。ただしそれほど期待するほどのものではありません。現時点では、老眼の症状が今より少しよくなるといった程度です。根本的な解決にはならないのです。
手術でも老眼は治せる?
目薬に期待できないとすれば、手術で治すことはできないでしょうか。実は老眼を治す手術は日本でも受けられます。
その1つがレーシックです。一般的には近視の治療法として知られていますが、乱視や老眼のレーシックもあります。
実は老眼を治す手術は日本でも受けられます(写真提供:Photo AC)
レーシックの基本原理は、目の表面の角膜と呼ばれる部分を削って、屈折率を変えるというものなので、老眼にも応用できるのです。
角膜を削らなくてもすむ眼内コンタクトレンズ(ICL)の手術もあります。これは目の中に人工のレンズを入れるので、角膜を削る必要はありません。
ただしレーシックもICLも保険がきかないので、けっこう治療費がかかります。
白内障の手術でも老眼が改善できる
白内障の手術でも老眼を治すことができます。
白内障の手術では、にごったレンズを取り出して、代わりに人工レンズを入れますが、そのときに多焦点レンズを選べば、近くも遠くも裸眼で見られるようになります。
ただしこれも一部自費診療になります。
保険でできる白内障の手術は単焦点レンズなので、人工レンズを遠くに合わせるか、手元に合わせるかを選択することになります。
その場合、遠くに合わせたときは手元を見るメガネが必要になりますし、手元に合わせたときは車の運転など遠くを見るときのメガネが必要になります。
※本稿は、『名医が教える 新しい目のトリセツ』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。