まひろとまぐわる最中も、なぜか道長の頭に「烏帽子」が…平安時代の貴族が<もっとも恥ずかしかったこと>とは?【2024年下半期ベスト】
2025年3月22日(土)10時0分 婦人公論.jp
(写真提供:イラストAC)
2024年下半期(7月〜12月)に配信したものから、いま読み直したい「ベスト記事」をお届けします。(初公開日:2024年7月18日)
*****大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるシーンをプレイバックした連載より、反響のあった記事を再配信いたします。この記事を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!
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烏帽子を付けたまままひろを口説く道長
ドラマ内で思い出話に花を咲かせるうち、「やけぼっくいに火が付いた」道長とまひろ。
こともあろうに石山寺でそのまま肌を重ね、しかもそれで妊娠してしまう(それがのちの賢子に)という筋書きに、石山寺もXで「参籠所で添い寝しないで」と投稿していました。
さてその添い寝シーンでお気づきになった方もいたかもしれませんが、「今一度俺のそばで生きることを考えぬか」と横になりながらまひろを口説いた道長の頭には、烏帽子がついたまま。
「こんな時くらい烏帽子を取ればいいのに」と思った視聴者の方がいたかもしれませんが……今回はそれについてお話ししたいと思います。
「恥ずかしい」という感覚・観念
藤子・F・不二雄先生の作だったと記憶しているのですが、現代とは似て非なる社会をテーマとするSF小品がありました。
本郷和人先生が監修を務める大人気の平安クライム・サスペンス!『応天の門』(作:灰原薬/新潮社)
そこでは「性」は恥ずかしがるようなものではありません。
そのため、たとえば絵本の『シンデレラ』にも、王子とシンデレラが性交をしている描写が含まれたりしている。
その代わり「食事」はとても恥ずかしい。他人に見られぬよう、みんな閉ざされた空間でご飯を食べる。
つまり「恥ずかしい」という感覚・観念は、社会によって異なるのだ、という訳ですね。
ふんどしを取られても…
さて、そこで平安時代の人々にとって恥ずかしいこと、です。
いろいろあるのでしょうけれど、先ずは私たちには、どうにもよく理解できないことを挙げておきましょう。それは「人前で冠・烏帽子をとる」ことです。
インターネットの『e国宝』というページに画像があるのでぜひ見てほしいのですが、東京国立博物館が所蔵する『東北院職人歌合絵巻』(成立は14世紀、重要文化財)に「ばくち打ち」の姿が描かれている。
彼はどうやら大負けし、身ぐるみ剥がされたらしい。ふんどしまで取られてしまい、大事な玉は丸出し。
それなのに、烏帽子だけはかぶっているのです。
アソコを見られるより恥ずかしい!?
もちろんこれは、決して妙なプレイなどではありません。
当時の成人男性にとっては、烏帽子をとって髻(もとどり。頭髪を束ねた「まげ」)を見られることは、アソコを見られるより(少なくとも、同じくらい)恥ずかしかったのだ、ということなのです。
その証拠に他の絵巻物を見てみると、彼らは寝ているときも、あるいは女性と交わっているときも、烏帽子をつけたままなのが分かります。
ですから、平安時代に現代のような週刊誌があれば、「スクープ! ***さま、麗しのお姿」と銘打って、烏帽子を取った貴族の姿が袋とじになっていたに違いない?
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