『買物ブギー』には歌詞が頭に入らないシヅ子が漏らした言葉も取り入れた?初年度だけで売り上げ45万枚<ブギウギ路線代表作>誕生秘話

2024年3月21日(木)18時18分 婦人公論.jp


笠置さんにとって『買物ブギー』は『東京ブギウギ』と並ぶ代表作に(写真提供:Photo AC)

まもなく最終回を迎える朝の連続テレビ小説『ブギウギ』。24年03月21日には『ブギウギ〜時を越える服部良一メロディー〜スペシャルコンサート』が放送となり『東京ブギウギ』などが演奏される予定です。そこで今回、笠木シヅ子さんの代表曲『買い物ブギー』誕生秘話について娯楽映画研究家でオトナの歌謡曲プロデューサーの佐藤利明さんが記した記事を配信いたします。佐藤さんいわく「『買い物ブギー』は、特に関西ことばに触れる機会のなかったエリアの人々に強烈なインパクトをもたらした」そうで——。

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買物ブギー


服部良一と笠置シヅ子のブギウギ路線のなかで、最もインパクトのあるノヴェルティ・ソングの傑作「買物ブギー」(作詞・村雨まさを)の誕生にはこんなエピソードがある。

1949(昭和24)年、服部がひょう疽で入院した。

見舞いにきたシヅ子に「センセ、何か新曲を」と頼まれ、思いついたのが、上方落語の「無い物買い」だった。

それが「買物ブギー」として1950(昭和25)年6月15日に発売された。

「無い物買い」はこういう噺である。

退屈を持て余している喜六と清八が、金物屋で「茄子か胡瓜のつけもんないか?」と尋ねる。

いぶかしがる店主。

看板に「なものるいくき(菜物類・茎)とあるがな」と清八。

「かなものるいくき(金物類・釘)」の看板の「か」の字が隠れていたのを笑ったというもの。

二人は次第にエスカレートして、和菓子屋、魚屋で次々と「無い物買い」をしてゆく。

服部は、この落語をベースに、歌の主人公が公設市場へ行って、様々な店の主人と「おっさん、これナンボ?」とやりとりしながら、買い物していく姿を、コミカルかつスピーディーに描いた。

「無い物買い」の世界


作詞の村雨まさをは、服部のペンネーム。

魚屋の親父が取れ立ての魚をすすめても「オッサン買うのと違います」と、刺身にしたならナンボかおいしかろうと思っただけ、と切り返す。


『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(著:佐藤利明/興陽館)

まさに「無い物買い」の世界。

関西弁ネイティブのシヅ子の歌唱もおかしく、大阪の言葉を知らない地域の子どもたちが「オッサン、オッサン、これなんぼ」を連発。

歌のレッスン中、なかなか歌詞が頭に入らないシヅ子が「ややこし、ややこし」とつい漏らした言葉を「それ、いただくね」と服部は歌詞に取り入れた。

オチの「わて、ホンマによう言わんわ」のフレーズは、関西ことばに触れる機会のなかったエリアの人々に強烈なインパクトをもたらしたが、これは1949年末公開の『エノケン・笠置のお染久松』のなかで、あきれたぼういずの山茶花究、益田喜頓、坊屋三郎が「ああ、知らなんだ」と歌う劇中歌のオチとして「わて、ホンマによう言わんわ」と唄ったのをリフレイン。

パフォーマンス


1950年2月、レコーディング直後に、大阪梅田劇場「ラッキー・サンデー」公演で唄って、観客に大ウケした。

この初演の時は、ミュージカル仕立てで6分もあったという。

服部が指示するまでもなく、ステージでは、シヅ子はエプロン姿に下駄履きスタイルを考案、下駄でタップを踏むというユニークなダンスを披露。

根っからの舞台人であり、芸人でもあるシヅ子は、「東京ブギウギ」の振り付けも自分で考えたが、この時のコミカルなダンスは、喜劇王エノケンの薫陶を受けたことも大きいだろう。

その笠置のパフォーマンスが映像で堪能できる。


服部が指示するまでもなく、ステージでは、シヅ子はエプロン姿に下駄履きスタイルを考案、下駄でタップを踏むというユニークなダンスを披露(写真提供:Photo AC)

レコード発売直前、5月21日公開の松竹映画『ぺ子ちゃんとデン助』(瑞穂春海)のなかでは、マーケットの二階建てのセットを縦横無尽にリズミカルに動き回りながら、パワフルに歌って、まさにショウ・ストッパーとなった。

歌詞の通りのシチュエーションで、買物かごを下げたぺ子(笠置)が、マーケットの魚屋のおっさんに「これなんぼ」とさんざん聞いたあげく「シャケの缶詰おまへんか」とクサらせる。

現在ではコンプライアンスの関係から、CDではカットされている歌詞も、ヴィジュアル込みで描かれていて、サゲにあたる部分まで、映像化されている。

『ぺ子ちゃんとデン助』


この『ぺ子ちゃんとデン助』は、前年の『脱線情熱娘』同様、服部&笠置のソングブック映画となっているのが楽しい。

横山隆一が毎日新聞に連載した漫画の映画化で、売れないカストリ雑誌「フラウ」の編集者のペ子と、給仕のデン助(堺駿二)があの手この手で、ヒット企画をものにしようとするコメディ。

上映機会の少ない作品だが、2013年の第六回「したまちコメディ映画祭」で上映された。

コロムビアの歌手・高倉敏が、覆面歌手に転身する警官役で出演。

横山隆一画のタイトルバックに流れる主題歌「ペ子ちゃんセレナーデ」(作詞・東美伊、藤浦洸)は、劇中でもリフレインされる。

銀座のビルの屋上で、ストレス発散でぺ子がシャウトする「ラッパと娘」、同名舞台の主題歌「ラッキー・サンデー」は未レコード化の傑作ソング。

さて「買物ブギー」の4分に及ぶミュージカル・シークエンスは、なんと映画のラストで、もう一度リフレインされる。

同じ曲がリフレインされることがあっても、同じテイクの映像をリプライズで使用することは前代未聞。

それほどインパクトのある映像で、観客には強烈な印象を与えたことだろう。

この「買物ブギー」は、レコードの初回出荷で20万枚がすぐに完売して、コロムビアの記録では初年度だけで45万枚売り上げ、笠置シヅ子にとっては「東京ブギウギ」と並ぶ代表作となった。

1951(昭和26)年10月4日公開の大映京都『女次郎長ワクワク道中』(加戸敏)のラストシークエンスでも歌うが、時代劇なのに、笠置だけでなく、コーラス・ガール演じるおかみさんたちが買物かごをぶらさげて、下駄でリズムを踏んで踊るシーンが圧巻である。

※本稿は、『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(興陽館)の一部を再編集したものです。

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