テレビ解説者・木村隆志のヨミトキ 第92回 『千鳥かまいたちゴールデンアワー』土曜深夜から水曜ゴールデンに昇格…あえて挑む理由と低くないリスク
2025年4月23日(水)11時0分 マイナビニュース
●「最もマーケティングに長けている」日テレの戦略
きょう23日、『千鳥かまいたちゴールデンアワー』(日本テレビ系、毎週水曜20:00〜)がスタートする。同番組は、これまで土曜23時30分から放送されていた『千鳥かまいたちアワー』のゴールデン昇格版。「千鳥とかまいたちが、まだあまり知られていない有名人の“面白い”を発掘。絶対盛り上がる“テッパンネタ”を披露していく」というコンセプトが明かされている。
千鳥、かまいたちという人気者の組み合わせであり、日曜昼の『千鳥vsかまいたち』時代も含めると、すでに4年以上と放送実績も十分。しかし、「満を持してゴールデン昇格」という期待の声ばかりではなく、「今回は危ういかもしれない」という声も聞こえてくる。
「民放各局の中で最もマーケティングに長けている」と言われる日テレがどんな狙いを持って編成したのか。その一方でどんなリスクが考えられるのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
○日曜から千鳥・かまいたちが連続
日テレは2025年春の改編説明会で、千鳥、かまいたちに加えて新番組『Golden SixTONES』(毎週日曜21:00〜)のSixTONESも含めた3組の名前を挙げて、「今も10年先も輝くスターの力を生かしながら魅力的なタイムテーブルを目指す」などとコメントしていた。
さらに定例社長会見でも、「今、テレビで一番勢いのある千鳥・かまいたちさんによる誰もが楽しめるバラエティを放送する」「水曜は『有吉の壁』『千鳥かまいたちゴールデンアワー』『上田と女が吠える夜』、そして枠移動して戻した「水曜ドラマ」でコア層メインの流れを作っていきたい」などと語っていた。
千鳥とかまいたちが現在テレビのトップタレントであることに異論の余地はないが、起用すれば数字がとれるほど簡単ではないだろう。今回のゴールデン昇格には「放送順の悪さ」「起用過多」という2つのリスクがある。
まず千鳥とかまいたちのゴールデン・プライム帯における出演番組を挙げていこう。
休日夜で最も視聴者の多い日曜は、すでに「千鳥とかまいたちの番組が放送される」という認識の視聴者が多い。しかも『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ系、19:00〜)は今春から放送頻度を上げたことで、そのイメージは濃くなっている。
続く月曜には、かまいたちがMCを務める新番組『JAPANをスーツケースにつめ込んで!〜世界に日本を持ってった〜』(テレビ東京系、20:00〜)がスタート。翌火曜には、千鳥とかまいたちが出演する『火曜は全力!華大さんと千鳥くん』(カンテレ・フジ系、22:00〜)が定着している。
そして日曜から4日目となる水曜のゴールデン・プライム帯で放送されるのが『千鳥かまいたちゴールデンアワー』。今春の編成によって同番組が放送される水曜夜には「すでに千鳥とかまいたちはお腹いっぱい」と感じる視聴者がいても不思議ではない。
●水曜と土曜をめぐる日テレの思惑
ちなみにゴールデン昇格前の『千鳥かまいたちアワー』は土曜深夜の放送だっただけに、そのまま土曜20時台に移動していたら、他番組に先陣を切って放送することができた(土曜に『千鳥かまいたちゴールデンアワー』、日曜に『千鳥の鬼レンチャン』、月曜に『JAPANをスーツケースに』、火曜に『華大さんと千鳥くん』)。
日テレがそれをしなかったのは、「『千鳥かまいたちゴールデンアワー』は土曜20時台より『有吉の壁』と『上田と女が吠える夜』に挟まれた水曜20時台のほうがフィットする」「『1億人の大質問!?笑ってコラえて』(今春に水曜20時台から移動)のほうが『嗚呼!!みんなの動物園』(19:00〜)の次に放送する土曜20時台にフィットする」という判断なのだろう。
また、これら以外の番組でも、かまいたちが木曜ゴールデン帯の『街グルメをマジ探索!かまいガチ』(フジ系、20:00〜)、千鳥が金曜プライム帯の『酒のツマミになる話』(フジ系、21:58〜)に出演している。
『千鳥かまいたちゴールデンアワー』が水曜20時台に編成されたことで、日曜から金曜まで切れ目なくゴールデン・プライム帯に千鳥とかまいたちの番組が続くことになったことが分かるのではないか。
これは同番組が「先行放送されていた他番組よりも面白くなければいけない」ということであり、裏を返せばそこに自信があるからこそのゴールデン昇格に見える。日テレには『月曜から夜ふかし』のBPO審議入りという危機が訪れているだけに、その自信を貫けるのか、スタッフの力量と胆力が問われるのかもしれない。
日テレの編成意図は『有吉の壁』『千鳥かまいたちアワー』というお笑い要素の濃い番組を連続させることだったが、「お笑いフリークですら19・20時台に2時間連続でテレビを見るか」と言えば簡単ではないだろう。
やはりネット上で話題になるなど「リアルタイムで見たい」と思わせるための構成・演出が重要であり、一方で「ゴールデン仕様の構成・演出が深夜時代の千鳥とかまいたちの良さを消すことにならないか」などの不安もある。
○水曜ゴールデン起用は日テレの都合
さらにゴールデン・プライムタイム以外でも、千鳥が『テレビ千鳥』(テレビ朝日系、毎週木曜24:15〜)、『すっかり にちようチャップリン』(テレビ東京系、毎週土曜24:25〜)、『すぽると!』(フジ系、毎週日曜23:45〜)。かまいたちも『かまいガチ』(テレ朝日系、毎週水曜23:15〜)、『一茂×かまいたち ゲンバ』(日テレ、毎週日曜10:25〜)。加えて特番などの単発や関西ローカルなどの出演もあり、「テレビは千鳥とかまいたちだらけ」と言っていいのではないか。
そもそも今回のゴールデン昇格と水曜20時台への編成を懐疑的な目で見る業界人は少なくない。その根拠にあるのは、土曜20時台に編成した『with MUSIC』、21時台・22時台に連続させたドラマ枠をそろって低迷させた昨春の改編。だからこそ日テレは今春、その重要な土曜ゴールデン・プライム帯を立て直すために、長寿番組の『笑ってコラえて!』を20時台に編成し、22時台のドラマ枠を水曜22時に移動させ、そこに『with MUSIC』を20時台からスライドさせた。
つまり、日テレにとって最優先課題の土曜を再建するために『笑ってコラえて!』に白羽の矢が立てられたのだが、それによって空いた水曜20時台を埋めるべく『千鳥かまいたちアワー』が選ばれたことになる。他局のテレビマンにしてみれば、「それは日テレの都合であり、頼られた千鳥とかまいたちにとっては、必ずしも歓迎すべきゴールデン昇格ではない」ように見えるのかもしれない。
その他局のテレビマンたちは、「日テレは最も数字にシビア」で「視聴率がとれていないと判断したらすぐに改編する」という目で見る人が多い。実際、昨春の新番組では、前述した『with MUSIC』が移動し、『世界頂グルメ』(水曜22時台)は終了と、わずか1年で見切られている。
お笑いはもちろんトーク、ロケ、グルメ、音楽、スポーツと何でもこなす「テレビの申し子」のような千鳥と、テレビに加えて芸人最高峰のYouTubeチャンネルを持ちネットからの流入や配信再生も期待できるかまいたち。頭1つ抜けた存在感と技術があるとは言え、好みの多様化や細分化が進むこの時代に、これほど頼った起用をすることが正しいのか。次の改編となる秋までの半年間で、早くも成否が突きつけられてしまうのではないか。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら