世界が注目、変幻自在のミステリー「トレンケ・ラウケン」…姿を消した女性が開いた謎の扉

2025年5月3日(土)11時0分 読売新聞

「トレンケ・ラウケン」から。エセキエル(エセキエル・ピエリ、左)とラファエル(ラファエル・スプレゲルブル)

 変幻自在。世界の批評家や映画ファンから支持を集めるアルゼンチン映画「トレンケ・ラウケン」(ラウラ・シタレラ監督、公開中)は、行方不明になった一人の女性をめぐるミステリー。全2部、合計4時間20分あるが、とにかく面白い。その女性はなぜ姿を消したのか。物語は、ジャンルを横断しながらどんどん転がって、追う者の予想を気持ち良く裏切っていく。(編集委員 恩田泰子)

 トレンケ・ラウケンは、アルゼンチン中東部ブエノスアイレス州の街で、その名の意味は丸い湖。この街に派遣されていた植物学者の女性ラウラ(ラウラ・パレーデス)の行方を、2人の男性が一緒に捜し回っている。一人は恋人ラファエル(ラファエル・スプレゲルブル)、もう一人はラウラの送迎の仕事をしていた地元男性エセキエル(エセキエル・ピエリ)だ。

 恋人主導での捜索はどこか的外れ。そんな中、エセキエルはラウラが残したメモを見つける。書かれていたのは、「さよなら さよなら じゃあね じゃあね」という言葉。それが何を意味するのか。映画は、トレンケ・ラウケンでの彼女の軌跡を映し出していく。

 映画は「Part1」と「Part2」に分かれていて、合計12章。男性たちによる捜索活動によって幕を開けた物語は、ジャンルを横断しながら転がっていく。謎解き、恋愛、政治、フェミニズム、SFと、さまざまな要素をまとって厚みを増していく。雪だるま式に。

 やがて明らかになっていくのは、捜索されているラウラもまた、謎を追っていたこと。トレンケ・ラウケンで彼女はさまざまな謎の扉を開いていた。図書館で見つけた本に隠されていたラブレター。希少種の植物。そして湖で見つかった謎の生物、そして……。

 彼女が姿を消した理由について、短絡的な見方をする登場人物もいる。最初のうちは、それに引っ張られる観客も多いだろう。だが、次第に明らかになってくる。そんなことではないのだと。彼女は、追い詰められたわけでもなければ、正気を失ったわけでもないのだと。

 ラウラの物語は、奇妙だが、現代の日常に風穴を開けるような不思議な爽快感も感じさせる。一種の冒険(たん)でもある。終盤、眠る彼女がいる空間に、そっと誰かの手が伸びてくる。それは、もっと歩いていくための助け舟。この映画と、その手はなんだか似ている。この世界は広くて、謎に満ちている。そのことを忘れてしまっている多くの人を覚醒させる映画だ。

 監督のラウラ・シタレラは、「ラ・フロール」(マリアノ・ジナス監督)など、世界的な注目作を世に送り出している、アルゼンチンの映画製作集団「エル・パンペロ・シネ」の一員。「トレンケ・ラウケン」では、フランスの著名な映画雑誌カイエ・デュ・シネマの2023年ベストテン第1位にも輝いた。

ラウラ・シタレラ監督の特集も

 「トレンケ・ラウケン」公開に合わせて、シタレラがこれまで手がけた長編3作品の特集上映も行われている。特集タイトルは「響き合う秘密」。

 いずれの作品も、「トレンケ・ラウケン」と何らかのつながり、重なりを持っている。

 デビュー作「オステンデ」(2011年)の主人公は、ラウラ・パレーデスが演じる「ラウラ」で、謎めいた人物を観察し想像を膨らませている。そのラウラが、時を経て、単なる観察者でいることをやめた後の物語が、「トレンケ・ラウケン」と言えるかもしれない。

 郊外の空き地に10匹の犬とともに暮らす女の四季を描いた「ドッグ・レディ」(2015年)は、最後の最後まで見逃せない一本。また、ある詩人の「遺品」に向き合う「詩人たちはフアナ・ビニョッシに会いに行く」(2019年)には、「トレンケ・ラウケン」と共通するエピソードが登場。見れば見るほど面白い。

 ◇「トレンケ・ラウケン」(原題:Trenque Lauquen)=2022年/アルゼンチン、ドイツ/スペイン語/「Part1」128分、「Part2」132分/配給:トーデスフィルム、ユーロスペース=東京・渋谷のユーロスペース、下高井戸シネマほか全国公開

 ※公式サイト=trenquelauquen.eurospace.co.jp

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