【ドラキュラ映画で主演】「ジョニー・デップの娘」リリー=ローズ・デップは、霊にとりつかれた演技に日本の舞踏を参考にした【『ノスフェラトゥ』公開直前インタビュー】

2025年5月10日(土)7時10分 文春オンライン

 ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘リリー=ローズ・デップ(25)は、着実に俳優としてのキャリアを積み上げてきた。彼女の最新主演作『ノスフェラトゥ』(5月16日公開)は、タイトル通りのドラキュラ映画。『ライトハウス』などのロバート・エガース監督作とあって話題だ。公開にさきがけてインタビューした。



© 2024 Focus Features LLC. All rights reserved.


◆◆◆


エガース監督の映画に出るのは夢だった


 米国北東部、ニューイングランド地方で育ったというロバート・エガース監督。感受性の強い少年時代に神話や伝説などに魅了され、それが現在の映像作家としての独創的な作風の基盤になっているようだ。『ライトハウス』や『ノースマン 導かれし復讐者』などで熱いファンの支持を獲得した彼の最新作は、『ノスフェラトゥ』。子供の頃に衝撃をうけたという1922年の白黒ドイツ映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(F・W・ムルナウ監督)に触発されたオリジナル作品だ。


 ここで主人公のエレンを演じるのが、リリー=ローズ・デップ(25)。ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディを両親に持ち、10代のころから俳優やモデルとして活躍してきた。すでに10年近い経験を持ち、これまでの出演作はどれも個性的かつ感情的に訴えかける作品ばかり。彼女のアーティスティックな感性が反映されている。本作の出演を熱望したという理由について、リリー=ローズはこう語る。


「エガース監督は、一緒に仕事をしてみたい監督のリストのナンバーワンだった。彼の映画に出演するのは、私の夢だったの。おまけに作品が『ノスフェラトゥ』となれば、なおさらやりたいと感じた。ドラキュラのテーマにはすごく興味があったので、この映画のこの役を逃したくないと必死になった。オーディションの機会がもらえた時は感激した」


 彼女のオーディションでの演技にエガース監督は圧倒されたという。


「オーディションがあることもあれば、そのまま役をもらえることもあり、その時々の状況によって違う。今回はオーディションがあってよかったと思う。監督にとって、キャストがどんな演技を披露してくれるかを垣間見る機会になるし、私はこの役を自力で勝ち取ったという気持ちになったから。いろんな点で満足感を感じることができた」


心に闇を抱えた複雑な主人公を演じて


 ドラキュラ映画、特に本作のインスピレーションとなった1922年の『吸血鬼ノスフェラトゥ』に馴染みはあった?


「実は本作の準備のために初めて見たの。今回の映画は監督の独創的な視点で描かれているけれど、22年版の映画には好奇心をくすぐられたし、また歴史的な意味で勉強にもなると思った。ブラム・ストーカーの原作よりも時代を先取りしていると感じた」


 彼女が演じるのは、不動産業に就く夫トーマス(ニコラス・ホルト)を持つ新妻エレン。深く愛する夫が、オルロック伯爵(ビル・スカルスガルド)との物件契約でトランスシルヴァニアの伯爵の古城まで出向く。彼の安否を気遣うなか、彼女は繰り返し悪夢にさいなまれる。幼い頃から、自分が心の闇の中で何かとつながっているという意識を拭いされない彼女は、夫や愛する町を救うためその闇と対峙し、大きな決断を下すことになる……。


 エレンという心の闇と夫への愛を抱えた複雑な主人公の心理を演じることについてはこう語った。


「監督は非常に面白い資料を数多く提供してくれた。彼には映画のビジョン、キャラクター像が明確に固まっていて、私はそれを基盤に役を作り上げていけた。もちろん自分の内部での役づくりというのは重要だし、それは自分にしかできない作業。特にエレンは感情豊かな役なので、自分の内部の感情の井戸を手探りで掘り進むようなパーソナルな作業だった。特に悪魔にとりつかれた若い女性についての文書などの資料がとても助けになった」


霊にとりつかれた演技は日本の舞踏を参考にした


 確かに、エレンがスピリット(霊)にとりつかれる様を、全身全霊で演じるシーンは強烈な説得力を放っている。そこで参考にしたのが日本の舞踏だという。


「監督が日本の舞踏について教えてくれた。彼自身非常に興味をそそられ、エレンがとりつかれたシーンに取り込みたいと言った。自分でない他の何かが肉体を支配しているような、魂が肉体から離れてしまうような感覚を出すために舞踏がとても役に立った。自分の内部に空間を作り、そこに何かが入り込むというのか、その感覚を理解するのは演技の上で非常に役に立った」


 前述したニコラス・ホルトやビル・スカルスガルドに加え、ウィレム・デフォー、アーロン・テイラー=ジョンソン、エマ・コリンなど、強力な共演者の存在も重要だったという。


「自由かつ大胆に演技することが大切だと感じた。周囲にはチームといえる仲間がいて、全員が意気投合していたので、それが可能だった。ロバート・エガースの映画の撮影現場で何が特別かと言えば、全員がチームの一員と感じ連帯している点よ。特に私にとって身体的に難しかったシーンなどは、それを実現するために共演者ばかりでなくスタッフ全員が一丸となって支えてくれた。お互いがお互いを頼りにした。そんな環境だから、自意識を捨てて大胆に演技することができた」


 映画の設定は1838年のドイツとなっており、オルロックが海を越え自分の住む町へやってくる恐怖を、当時ヨーロッパに長く続いていた黒死病(ペスト)への恐怖に重ね、本物のネズミを使ったシーンが観る者を震撼させる。美男子スカルスガルドが、全く別人のような邪悪なオルロックに変身した演技も見ものだ。


社会への違和感は現代にも通じる


 19世紀の華麗な衣装に身を包みつつも、本作は時代劇というわけではなく、自らの運命を選ぶエレンは女性の自立という観点から見れば、現代的な女性にも映る。


「だからこそエレンという役に惹かれたの。内部で様々な葛藤が起こっている複雑な人格が魅力だった。光が差しているときもあれば、闇を抱えているときもある。当時の社会的な空間や歴史的な状況が彼女を複雑な存在にしていた。社会に受け入れられるために女性がしなければならなかったことも多く、エレンにとってそれらの状況からくる心の闇は大きかった。だからこそ、エレンを理解し、闇に囲まれた彼女を良い方向へと導いてくれたウィレム(・デフォー)の演じるフォン・フランツとの関係が特別だったと思う」


 そして、エレンの生きる19世紀の女性の社会的な状況には、現代に通じるものがあると、リリー=ローズは言う。


「1838年と現代では女性の環境は全く違うけれど同時に共通点もある。エレンの感じている社会に対する違和感などは現代社会にも存在すると思う。だからこそ、私はエレンに興味を惹かれた」


 恋人に性別を問わないことを公言し、自身の自由なセクシュアリティについても堂々と発信してきた彼女らしい発言と言えるだろう。


 最後に、俳優一家に生まれ育った環境から、現在の道を選ぶのは自然な成り行きだったのか、彼女自身の生き方について尋ねた。


「演技をすること、俳優になることは幼い頃からの夢だったから、夢がかなったと感じている。演技に情熱を感じるし俳優として成長できることに感謝している。様々な異なる役をもらい、いろんな監督から様々なことを学べて嬉しい。1本1本をこなすごとに、多くの貴重なことを学んだと感じる。現在の自分が俳優としてここにいるのは、これまでの役を積み重ねてきた結果。今、初めてやった役を見直せば、『もっと違った演技ができたのに』と感じるのは事実だけど、それは他の役を演じて学び、成長してきたからだと思う。これからも学び続けていきたい」



『ノスフェラトゥ』
​監督:ロバート・エガース/出演:リリー=ローズ・デップ、ビル・スカルスガルド、ニコラス・ホルト、アーロン・テイラー=ジョンソン、ウィレム・デフォー/2024年/アメリカ・イギリス・ハンガリー/133分/配給:パルコ ユニバーサル映画/5月16日(金) TOHOシネマズ シャンテほかにて公開/© 2024 Focus Features LLC. All rights reserved.



(高野 裕子/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

文春オンライン

「公開」をもっと詳しく

「公開」のニュース

「公開」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ